空立つ”飛”の独器と男   作:阿久間嬉嬉

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石像と頭脳と空立つ男

・翌日・

 

―――麻帆良学園本校女子中等部―――

 

ここは2-A組。

 

変わり者や変人が特に多いクラスで、留学生や中学生と思えぬ体型のものは当たり前。中にはロボットのような者までいる。見かけが普通でも要らん能力が高かったり、特殊な趣味を持っていたりと普通と呼べる生徒のほうが少ないクラスである。

 

さて、このクラスで今一番話題になっていることと言えば、

 

「2-A最下位脱出ができなければ、ネ、ネギ先生がクビですって!?」

 

 

”子供先生・ネギのクビ”である。尤も、この噂は今朝伝わったものなのだが。

 

「何で言わなかったんですの、桜子さん! こんな大事なことを!」

「ご、ごめんいいちょ、先生に口止めされてたからさ~!」

 

物凄い勢いで、桜子と呼ばれた女子に近づいていく彼女は”雪広あやか”といい、ネギを弟のように溺愛している。最近では弟へのスキンシップどころではないものも混じっているが……いわゆるショタコンである。こんな者が委員長で大丈夫なのだろうか。

 

「(今、失礼なことを言われたような……)とにかく! 普段真面目にやってない方々もちゃんと勉強して! 最下位脱出ですわよ!」

「うえ……」

「はいはーい」

 

嫌がっている者もいたが、何とか勉強にはこじつけられそうだ。

 

「後はアスナさん達五人衆(バカレンジャー)だけですわね……とりあえずテストには出ていただいて―――」

 

と、そこにへ息を切らせて宮崎と早乙女が入ってくる。

 

「みんなぁ! 大変だ、バカレンジャーとネギ先生が行方不明になっちゃったよ!?」

「あ、あと背の高い足枷を付けた人も……」

 

「「「え………?」」」

 

このときみんなの心の声は一つになった。

 

((やっぱり駄目かも………!? っていうか、背の高い足枷付けた人って誰……!?))

 

そっちにも律儀に拾うとは、結構余裕があるのかも―――いや、ないだろう。

 

 

 

 

ところ変わって、ここは地底図書室。

 

件の”背の高い足かせを付けた人”である仁はというと、

 

(…なんか、探すのめんどーせぇ……)

 

なんと、この学園都市に来てから三回目の迷子となっていた。空中にいるにも拘らずこの人は何故迷うのだろうか。逆さまで空中に立って歩いているせいか……そもそも何故、地上に降りたとき以外ずっと逆さまなのだろうか?

 

(…めんどーせぇなぁ…………ん? なんだあれ?)

 

当てもなく歩いていると、偶然滝の裏に扉のようなものがあるのを見つけた。扉にはなにやら文字が書いてある。

 

「……『問1 readの過去分詞の発音は?』……read(レッド)だろ……?」

 

と、仁が答えたその瞬間、

 

『ピンポーン!』 ゴゴゴッ

 

扉が開いた。余りの(仁的には)くだらない仕掛けに唖然としてしまう。

 

「……くだーね…」

 

思わず呟かずにはいられなかったようだ。そしてその扉を潜り、先に進むと―――

 

「螺旋階段かよ……めんどーせ―――あ、俺飛べるんだった…」

 

仁は螺旋階段は上らず、中央を歩くように上がっていく。”仰向けで歩いて”上っていく。……飛ぶことに関しては何でもアリなのだろうか、こいつは。

 

「…『問9 ”探す”の英訳となる熟語は?』…”look for”」

 

『ピンポーン』ゴゴゴッ

 

暇だったのか、途中途中で問題を解いているようだ。

 

「……『問15 ”はべり”の已然形は?』…”はべれ”…」

 

『ピンポーン』ゴゴゴッ

 

「…『問23 次の漢字の読みを答えよ”慮る”』…”おもんぱかる”だろ……」

 

『ピンポーン』ゴゴゴッ

 

ちなみにここまで全問正解。しかも一発。仁は以外と頭がいいのかもしれない。まぁ、問題自体が中学生のレベルなのでそう難しくないというのもあるが。

 

そして暇つぶしに問題を解きながら歩いて行く内に、エレベーターのようなものがある場所に着いた。

 

「……やっと、頂上か……だるかった…」

 

そう言いながら、頂上地点よりも高い天井に逆さまに座った。逆さまが好きなのだろうか? こいつは。

 

「なーにせよ、これで………ちっ…」

 

一息つこうとした仁だが、そこに一息つく暇もなく騒がしい声がやってくる。というか舌打ちするほど休憩したかったのか。

 

『かえすのじゃ~!?』

 

「わわ…来たよ石像!」

「地上はまだなん!?」

「あっ……携帯の電波がつながりました! もうすぐです!」

「みんな! あれを見てください! 地上へのエレベーターがありますよっ!」

「こ、これで地上へ帰れる……!」

 

その騒がしい声の正体は、まさしく仁が探していた女子中学生の団体さんだった。

 

(…出て行き難い時に出て来んなよ……あ~…でも、俺がすぐ見つけなかったのもあるか……めんどーせぇ…)

 

今さらではあるが、やっぱり面倒くさいと言いすぎである。

 

(まぁ、これで地上に帰るならあいつ等が上がった後に俺も―――)

 

ブブーッ![―――重量OVERデス]

 

「「「いっ、いやああぁぁぁーっ!!?」」」

 

「二日間、あまり動かず飲み食いしすぎたアルかーっ!?」

「まき絵さん、まき絵さん! 今何キロですか!?」

「な、何!? 私のせい!? それを言うなら長瀬さんのほうだって!」

「とばっちりでござる……」

「根性無しやなー、このエレベーター。まだスペース余っとるのにー」

「ああ~…!! 勉強ばっかりしてたから~…!!」

 

(…めんどーせぇ!)

 

心の中でだが、仁は怒鳴ってしまった。確かに面倒くさい状況だ。

 

「あっ、片足を出すとブザーが止まる!」

「あとちょっとなのね!」

「よし、脱いで軽くするアル!」

 

そう言って徐に服を脱ぎ始める。一人だけ男の子のネギは目を隠して見ないようにしていた。

 

(―――多分、無理だろ…)

 

仁もそっぽを向きながら、予想する。そして素っ裸に近い格好になったが、仁の予想通り―――

 

「駄目アル~っ!?」

「あとちょっとなのにーっ!」

「も、もう捨てるものないよぅ」

 

こうなった。

と、仁はそばにある分厚い本が目に入る。

 

(…本捨てりゃいいだろ、本捨てりゃ……)

 

彼女たちが後生大事に持ってきた本は確かに重そうだ。これを捨てるという選択肢もあるはずなのだが、大事に持ってきたということは捨てられない物なのだろう。

 

『フォフォフォー! ついに追い詰めた……覚悟するのじゃぁー!』

 

「来たぁ!?」

「キャーッ!!」

 

そして健闘むなしく、ついに石像が追いついてしまった。

 

(…めんどーせぇなぁ……)

 

仁は面倒くさいと言いながらも、彼女たちを助けるため動こうとする。………その時だった。

 

「僕が降ります!」 

「ちょ、ネギ!?」

「皆さんは期末試験のため早く学校へ!」

 

魔法は使えないのに、それでも先生として生徒を守るため……ネギは動く石像(ゴーレム)に立ち向かう。

 

「僕が相手だ!! 動く石像(ゴーレム)!」

 

『いい度胸じゃ! では、くらえ………え?』

 

そしてゴーレムが手を伸ばそうとした瞬間、

 

なんとその体が宙に浮いたのだ。

 

『わたたっ な、何じゃこれは!? ま、まさか!』

 

「ネギ! あんた魔法が―――」

「いえ、僕は使ってません!」

「じゃぁ、いったい誰が……」

 

そしてネギはあることを思い出す。宮崎を助けるのと石像相手という違いはあるが、

 

(この状況、初めて赴任した時と同じ…?)

 

そして宙に浮いた石像は、

 

『フォ!? フォオォォーーー………』

 

何者かの手によって、最下層へと叩き落されていった。

 

「た……助かった…?」

「肝を冷やしました……」

「でも、どうするでござるか? いまだにエレベーターは、重量OEVRのままでござるよ?」

「……となると、やっぱりアルか」

「うん。本を捨てるしかないわね」

「え、ちょ、待ってくださ―――」

「惜しいけど……しょうがないかな」

「では失礼して―――やぁっ!」

 

そして、女子中学生の一人が、石像の落ちて行った最下層へと本を投げた。

 

「あぁっ! 魔法の本が!」

「もういいのよ、ネギ。それよりほら、エレベーター動くから危ないわよ」

「で、でも……」

 

納得いかないネギの言葉を遮るように、エレベーターの戸が閉まる。そして上へと向かっていった。

 

 

 

 

残されたのは、天井に座っていた仁一人。

 

(…頭いいだけの泣き虫かと思ったが……勇気あるな―――さて)

 

仁は天井から離れ、最下層に向かって飛ぶ。そこには砕けた動く石像(ゴーレム)と―――

 

「う~ん……」

(……何やってんだ爺)

 

投げ出されたように転がる学園長・近右衛門であった。 

 

 

「生きてーか? 爺」

「うむ……ぬ!? お主仁ではないか! まさかとは思ったが、宙に浮かせたのはやはりお主か!」

「あぁ」

「あぁ、ではない! 今までどこをほっつき歩いておったんじゃ! おかげでネギ君への課題も一つ取り消しになってしもうたし……」

「その課題って、何だ?」

「お主とネギ君とが戦う―――」

「めんどーせぇ」

「言うと思ったわ!! それにお主、途中途中で問題を解いて扉を開けおったな! そのせいで彼女達への試練が簡単になってしもうたではないか!」

「暇だった」

「そんなもん、理由にならんわ!!」

 

そして、片方怒鳴り、片方めんどくさがりの口喧嘩をした後、近右衛門は真面目な顔で話し出した。

 

「……お主に頼みがある。よいか?―――」

 

重要な頼みらしく、先ほどまでとは明らかに雰囲気が違う。そして話し終え、その頼みを聞いた仁は―――

 

「わーった。めんどーせぇけど受けてやる。 あんた達への(・・・)の為にな」

 

面倒くさがりながらも承諾した。

 

「良いのか? お主ならば用意した妥協点まで引かぬと思ったのだが」

 

すると仁は、僅かに口角を挙げつつ答えた。

 

「興味が出てきたってぇ奴だ。あのガキと、これから起こりそーなことに。めんどーせぇけど、面白そうだ……」

 

 

近右衛門は、その答えを聞き、大いに笑った。

 

 

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