空立つ”飛”の独器と男   作:阿久間嬉嬉

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仁の修行

魔法球内のエヴァンジェリンの別荘では、今日も今日とてネギの修行が行われていた。

 

 

 エヴァンジェリンの放つ、槍のような氷塊を出現させる凍結魔法で足を取られるネギだが、ずっと修行を続けてきたからか立て直しは実に鮮やか。箒さばきも巧みになってきている。

 

 追い打ちだと迫り来るチャチャゼロのナイフ投げを危なげながらも弾き飛ばし、地面に足をつけると同時に来た茶々丸のレーザーとチャチャゼロのナイフを魔法障壁で弾く。

 

 あたりにナイフが散らばるのに構わず、ネギは箒を加速させようとして・・・ハッと後ろを向く。そこには冷気を手に湛えたままナイフを握る、エヴァンジェリンがいた。

 

 

 

「チェックメイトだ」

「しまっ―――」

 

 

 

 一際大きな音と悲鳴が飛び、冷気が当たりに立ち込める。ネギはナイフの峰の一撃で沈んだようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく一分はもつようになってきたようだが・・・一人対多数戦では足を止めるなと常々言っているはずだぞ!」

「は、はいぃ・・・」

「足を止める状況まで追い込まれたら死が待っていると思え! いいな!」

「はいっ」

 

 

 

 若干上ずり気味に答えるネギに、エヴァンジェリンは背中を向けたまま苦笑する。その格好のまま彼女はピンと指を立てた。

 

 

 

「先程も言ったが、ようやく一分もつようになってきたのは成長した証でもある。よって、あすからは多少の応用に入るぞ」

「ほ、本当ですか!!」

 

 

 

 そこでエヴァンジェリンはようやく振り向く。が、その顔は威圧感と恐怖たっぷりの笑みが浮かべられていた。

 

 

 

「・・・勘違いするなよ、ここが本当のスタート地点だ。明日から地獄はさらに深くなると思え」

「は、はひゅっ」

(おっかねぇぇぇ・・・)

 

 

 

 ネギとカモはその場でブルブルと震えて動けなくなるが、再び顔を逸らしたエヴァンジェリンの言葉で引き戻される。

 

 

 

「それでも第一段階を突破したことに変わりはないからな、新しい修行相手を用意してやる・・・・・入れ!!」

 

 

 

 その言葉とともに入ってきたのは、犬耳のついた黒髪に学ランを着た少年、小太郎であった。

 

 

 

「よっ、ネギ!」

「コタロー君! 何でここに!?」

「お前だけ、一日が二日分あるなんてズルいやん! だから俺も強うなる為にここに来たんや!」

「その犬ならば修行相手にうってつけだろう、ウォームアップ替わりに手合わせしてみろ」

「はいっ!」

「へっ、ええんかネギ? 休まんで。もうヘロヘロやろ?」

 

 

 

 小太郎の言葉にネギは笑みで答え、離れたところに転がっていた杖を自分のもとへと呼び寄せる。

 

 

 

「大丈夫だよ、やれる時に精一杯やるだけさ」

「言うたな? ならいくでぇ!」

 

 

 

 後ろにネギと小太郎の攻撃がぶつかる音を聞きながら、エヴァンジェリンは塔の中へとは言っていく。

 やがて地下とも呼べるぐらい深い場所までたどり着き、厳重に閉ざされた門を開くと、そこにはいつぞやの最高傑作の魔法球へと飛ぶ魔法陣が設置されていた。

 

 

 彼女はその上に立ち、呪文を唱えようと手を前に出して・・・・・・躊躇ったように止める。ためらった理由は、この転移先にある魔法球に居る人物が放つ “強烈な圧力” を思い出して気圧されたからだが、その数秒後に否定するように頭を軽く振ると、ラテン語と古代ギリシャ語を混ぜた呪文を唱えて転移した。

 

 

 

 数秒とかからず最高傑作の魔法球へ転移し終えた―――――その途端、

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぐっ・・・・・!?」

 

 

 

 前に感じた『死』を見せる圧力を受け、エヴァンジェリンは思わず膝をついてしまう。その圧力の発信地・・・中心地点には、元の青年姿に戻った(・・・・・・・・・)仁が、暗い群青色を微かに知覚させる圧力を、まるで噴水のごとく放出している。

 

 

 

(いつ受けても慣れる物じゃないなこれは・・・・これが、独器の表面ではなく《奥底の力》をひきだした状態、だというわけか)

 

 

 

 仁は今現在封印を解いているうえ、あの後クウネルからもらった薬により元の姿に戻ったことも合わさり、圧力は以前感じたものよりも数段増しているのだ。しかもこの圧力は知を持つ生物にとっての最大の恐怖である個々の自我の消滅・・・即ち死ぬ事を直に感じさせる代物。

 自分に向いていないから何とかなっているものの、慣れろという方が難しい。

 

 

 しかも仁が言うには、まだこれでも奥底の力を四分の一も、とは言わないが半分程も引き出しきれてないという。一般人どころか、そこらの魔法使いが浴びたら恐怖で最悪、狂ってしまうほどの圧力を放っているにも関わらず、だ。

 

 

 

(異世界・・・、魔法も何もない、特殊な『武具』をもった、『素の力』のみで戦う者達の世界か・・・)

 

 

 

 今でこそ仁の力を目の前にし、話を深く聞いたからその異世界を認識し受け入れているが、少し前に自分であればナギ以上の力を持った者などいないと鼻で笑い、異世界など馬鹿らしいと一蹴しただろう。

 

 が、独器使いの特殊性、圧力の恐ろしさ、本人の実力、これだけ揃えられると、最早目を逸らす事はできない。

 

 

 勿論、飽くまで筋力やスピード、タフネス云々がこの世界の常識を飛び越えているのであって、本当にナギやラカンと戦った場合にはどうなるかなど分からない。

 だが彼らでも苦戦し、負ける可能性がある事、それだけはハッキリとしていた。

 

 

 

(ナギやラカンの性格上こいつとは相性が悪いだろうなぁ)

 

 

 

 ナギやラカンは敵の攻撃に答えて真っ向勝負を望むタイプであるが、仁はどちらかというと敵の攻撃に答えずに重い一撃を急所へと叩き込むタイプだ。

 ネギの時の真っ向勝負もおそらく気まぐれ。本当に戦おうとするとき、仁は相手の都合など知ったこっちゃないと、ただ沈める策のみを練るだろう。

 

 

 

(見てみたい気もするがな・・・この世界の最強クラスと異世界の独器使いの戦いを)

 

 

 

 未だ重い圧力を放出する仁の背中を見ながら、エヴァンジェリンは己を鎮めるために深呼吸をし、改めて声をかけた。

 

 

 

「どうだ仁? 順調にいっているか?」

「・・・・まぁな」

「引き出すことが完遂すれば・・・一体化の修行だったな」

「・・・・そっちぁ、イマイチよう分からねぇけどな」

 

 

 実は、エヴァンジェリンは一体化についてある策を持っている。それは、彼が力を引き出し終えたらそれとなく教えるつもりでいる。

 

 

 エヴァンジェリンはただならぬ程の興味を持っていた。この世界には無い力が、一体どこまで行くのかを、知りたくなっていた。

 

 

 そのために彼女は、仁に魔法球を貸したのだから。

 

 

 恐怖に勝る好奇心を胸に秘めたまま、エヴァンジェリンは再び集中し始める仁の背を見つめるのだった。

 

 

 




ちょいとグダグダに・・・・戦闘シーンなら、簡単にポンポン浮かんでくるんですけどね・・・。
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