空立つ”飛”の独器と男   作:阿久間嬉嬉

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化物と傷跡

 これは夢なのだろうか? 目の前に大量の岩が浮かび、地面が見えないほど上空に居り、岩に紛れて(岩もそうだが)浮くはずのない物も浮いている光景、そんなものを見たら誰だったそう思うだろう。

 

 それは、この光景を見ている仁にしても、同じような事だった。・・・しかし、仁が夢なのかと思ったのは別の理由があった。

 

 

 実はこの光景、仁の元居た世界に存在している光景(・・・・・・・・)なのだ。

 異世界に来てしまっているからこの光景は見られない、だから仁は夢ではないかと思ったのだ。

 

 

 

(・・・・だが、何故関係の薄い土地の記憶が・・・)

 

 

 

 この超常現象のような光景が見られる土地は『独の傷跡』と呼ばれ、かつては此処を支配していた、今は独器に封印された化物が住んでいた土地である。

 

 しかもこの光景は、半径五十キロも広がっているだの、以後二十年にわたって続いているだの、そんなチャチなものではなく、現在も『半径数千㎞』まで広がり、『数百年』続いている光景なのだ。

 

そこまでの範囲、そこまでの時間未だ消えぬ力として、現代に未だ残っているのを見ると、彼らの力がどれほどの物かを改めて思い知らされる。

 

 

 

 が、今大事なのは何故こんな土地にいるか・・・もしくは何故こんな土地の夢を見ているか、だ。

 

 

 仁が言った通り、先の光景は[飛](トバシ)の力を持つ仁の独器に封印されている化物が作り出したものなのだから、関係がないわけではないがはっきり言って薄い。

 

 

 引き出す修行をしている途中にいきなりこうなったので、もしかすると化物の力を引き出したことにより遠い昔の記憶がよみがえったのかもしれないが、修行開始から今の今までこの夢を見たことはない。

 

 加えて仁の第一、第二の故郷。この光景のある場所はそのどちらもから離れた場所にあるため、物心着いた時に見たという可能性もない。

 

 

 

(・・・なんだよ、本当に・・・)

 

 

 

 宙に浮いて目の前の岩石群を見つめたまま、仁は考え続けるも、いい答えなど浮かびそうもないのに変わりなく、ため息をついた。

 

 

 

「・・・・めんどーせぇ」

 

 

 

 何時も通り、面倒くさそうな雰囲気を隠そうともせずに呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『相も変わらず・・・・』

 

 

 

 

 その時だった。

 

 

 彼の頭上から、腹の底から響くような声が聞こえ、一瞬で辺りを陰でおおったのだ。思わず見上げるとそこには――――――

 

 

 

『物ぐさなり・・・・か』

 

 

 

 東洋龍と蝙蝠と人間を足して、

 顔は龍、

 翼は蝙蝠、

 脚は人間の特徴を濃く表し、

 そして翼に膜や羽毛が無く左足が特徴的な形になっている、巨大すぎる化物がそこに居た。

 

 

 

「うおっ・・・!?」

 

 

 

 一目でわかる異質さと、抑えきれていない力の強大さを感じ、仁は距離を取ろうとする。だが、そこで違和感に気がついた。

 

 

 

「あ、足枷が・・・[空轍]がねぇ・・・!?」

 

 

 

 ずっと付けっ放しだった自身の独器が、自身の足からいつの間にやら無くなっていたのだ。

だから移動できなかったのだろうが、それなのに宙に浮いているという事が混乱に拍車をかける。

 

化物の方も……翼に膜や羽毛がなく、羽ばたいてもいないのにどうして飛べるのだろうか。

 

 夢だと認識していても、余りにも荒唐無稽な夢なため、落ち着こうにも上手くいかない。

 

 

 彼の焦りとは対照的に、化物はゆっくりと口を開き、再び響くような声を発する。

 

 

 

『使い手か。それもまた良し。だがそればかりではいかぬ』

 

「・・・・? 何の話だ」

 

『人間は、人間。人が元となった者も、また人間から逃れられん・・・永く生きられようとも、変わらない』

 

「おい」

 

『それではだめだ、それでは足りない』

 

 

「・・・・話を聞きやがらねぇ」

 

 

 

 二回話しかけただけで諦めるのもどうかと思うが、化物の目が仁の方向に完全に向いていないため、仁は早々に諦めたのだ。

 

 

 

『人間は変わる事ができる、化物も同様に。ならば合わせるほかないのかもしれぬ』

 

「・・・・」

 

『・・・それが、道』

 

 

 

 まるで何かを憂うように、化物は遥か彼方を見つめた。仁も目線を向けるが、その先には水平線とも地平線とも取れない、どこまでも続く空が見えるのみ。

 

 ・・・・だが、ボーッとしていられるのも此処までだった。仁が目線を戻すと、化物はなんとこちらにしっかり目線を合わせてきていたのだ。

 

 

 

「!」

 

『封じられた身、この意思が偽りだとも、付き従わねばならん』

 

 

 

 目線を合わせたまま、化物は悲痛な目をやめ訴えかけるような眼へと変える。

 

 

 

『そこで止まる気か? 其処に何時まで居るつもりだ? 進もうとしないのは何故だ?』

 

「・・・・何の話だ!」

 

『時期尚早、かもしれん。だが、今その気になるのも早計ではない。進むほかない』

 

「・・・・話を聞く気になってんじゃねぇのかよ・・・!」

 

 

 

 化物はそこで一旦口を噤む。そして、全長が分かる程に距離をとると、仁を睨みつけて大音量で叫んだ。

 

 

 

『お前は・・・ここで止まるべきものか! 進める者か!!』

 

「・・・・何?」

 

『どちらだ!!』

 

 

 

 

 叫び終わるのとほぼ同時――――なんと化物は、空気を切り裂き轟音を立てながら突進してきたのだ。まだぶつかってもいないのに、攻撃が当たったと錯覚させてしまうほどの圧力は、仁が今まで感じてきたものの、どれをも圧倒している。

 

 

 

『オオオオオオオオ!!!』

 

「く・・・あああああ!!」

 

 

 

 

 しかし、仁は逃げなかった。なぜだか今は体の自由が利くようになっていたのにも関わらず、神家化物に真正面から突貫していったのだ。

 

 

 

「お・・・るあっ!!」

 

 

 

 が、化物に当たる寸前に仁は身を翻してかするスレスレでやり過ごすと、効くかどうかもわからない蹴りを全力でぶち込んだ。

 

 

 すると、化物はこちらを向き

 

 

 

『見事』

 

 

 

 それだけ言うと打撃音と共に、まるで夢幻かのようにゆらゆらと消えていった。

 

 

 

「・・・・な、に?」

 

 

 

 化物が消えると、景色も段々と霞んでいき、辺りは光に包まれ―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・?」

 

 

 

 次の瞬間には元の場所、エヴァンジェリンの特殊魔法球の中へと、いつの間にやら戻ってきていた。

 

 

 

「・・・・夢、だったのか?」

 

 

 

 つぶやくも、仁はすぐさま否定した。何故ならば、仁は夢から覚めたのではなく、眩く光ったあと、突っ立ったまままるで世界が反転するかのように(・・・・・・・・・・)、ここに戻ってきたのだ。

 

 

 つまりあの光景は夢でも幻でもない、また別の何かだということにほかならない。

 

 

 

 

(あれは・・・空轍の中にいる化物だった、のか?)

 

 

 

 

 引き出せる力は日に日に強くなってゆく。しかし、独器の謎は日に日に深まっていくばかり。

 

 

 

(いや・・・・今は分かることを、やれることをやるだけか)

 

 

 

 仁は面倒くさいと首を回し、また修行のために集中し始めるのだった。

 

 

 

 

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