「・・・・引越しだぁ?」
「そうだ」
久方ぶりに特別性魔法球の中から出た仁は、エヴァンジェリンの言葉を聞きわずかに眉を動かして聞き返す。それに、エヴァンジェリンは肯定の意を持って大きく頷いた。
「まあ、お前の為ではなくぼーや達の修行のためだがな。今の塔でははっきり言って狭いし、やれることも少ない。ならばより厳しく、より多くの修行ができる場所へと居を移そうということだ」
「・・・・そうかいよ」
今から別の魔法球に移るということを仁に伝えたのは、大方この魔法球とその新しい魔法球を行き来するよりも、新しい魔法球から直接転移した方が、彼女が面倒くさくないといった理由のためであろう。
何でそんな事を・・・と反抗した仁に対し、この魔法球はもうすぐ閉じるため、また開けるまでは出られなくなってしまうと、エヴァンジェリンは不敵に言った。脅しにも近いその言葉を受けて、仁は渋々頷く。
出られなくなるうえ本来の時間においていかれるのは、面倒臭がりとはいえ、流石に無視できなかったようだ。
本当に久しぶりに魔法球の外まで移動した仁は、魔法球の外に置いてあった時計を見て、三週間程立っていることに気が付き、安心したような呆れたような、曖昧なため息を吐いた。
(・・・・何ヶ月もいた気がすんだが・・・魔法ってのぁやっぱり異常だな)
戦闘能力が異常なお前が言うな、と言われんばかりのことを思う仁に構わず、エヴァンジェリンは茶々丸に何やら色々運ばせている。
いくつかを運び終えたあと、まるでスイッチを入れるかのように魔力を込めた指でそっと魔法球の要所要所を叩くと、中に南極だの砂漠だの高山だのジャングルだのが移り、一番最後にそれらを四方に置いた真ん中の位置にある、城のような物を中に入れた魔法球を起動させると、エヴァンジェリンは指だけを動かしてついて来いとジェスチャーし、先に魔法級の中に入っていった。
「・・・・はぁ」
ケータイを見て何もメールが入っていないことを確認し、また溜息を吐いて仁もその後に続く。中に入ってみて初めに目に入った光景は、外から見たものと同じ、瀑布の中に佇む巨大な古城であった。
入ってきた時に踏んでいた魔法陣とは別に、四方にも少々色の違う魔法陣が敷いてある。これで、外に見えた砂漠や高山に転移するのだろうが、その他にも前方に一つ、はるか上空に一つあるのを見つけ、仁は右方に立っていたエヴァンジェリンの方に顔を向けた。
「・・・・この、前方の魔法陣と上の魔法陣は?」
「前方のものは城への近道だ。なにせ、ここから城までは五百メートル以上あるからな」
(・・・・なら歩いて行けー距離に作れや。めんどーせぇ・・・)
「上空のものは、いわばお前専用の魔法陣だな。ここまで言えばわかるだろう?」
「・・・・よーくわかった」
つまり上にある魔法陣から、あの特別魔法球へと転移できるというわけらしい。仁とエヴァンジェリン以外は使用上転移できないので、何処にあろうとも問題はないのだろう。
彼女ならば聞かれてもはぐらかせるし、万が一乗ったとしても転移できないのだから。
質問に答え終えたエヴァンジェリンは古城の方を数秒見たあと、仁へと視線を戻す。
「さて・・・これからお前は―――――って、あり? 何処いったんだ?」
が、そこに仁の姿はない。ゆっくり上を見上げてみれば、彼は既に魔法陣の上に乗っかり、次の瞬間には転移してしまった。
「やれやれ、全く・・・」
仁にとって、“引き出す” 修行・・・即ち紬を確実に仕留めるための修行というのは、ほかの何よりも優先して行いたいものなのだろう。それ程に
仁は一体どんな人生を送ってきたのだろうか? 彼の故郷は一体どんな場所だったのだろうか? 対立する前の彼と紬との関係は? 独器を持つに至った経緯は? ・・・仁については色々と不明な部分が多く、本人も語ろうとしないため、未だに彼の根っこの部分をエヴァンジェリンも見抜けないでいる。
上空に視線を向けたまま、エヴァンジェリンは呟く。
「・・・あいつは、過去に一体何を体験したのだろうな・・・」
どこか嬉しそうでいて、しかしやはり悲しそうな顔をした彼女は、出入り口となっている一回り大きな魔法陣が光るのを見て表情を一瞬で戻し、入ってきたものを出迎えた。
「ようこそ、ぼーや達。我が居城へ」