空立つ”飛”の独器と男   作:阿久間嬉嬉

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天からの砲撃と吸血鬼

いつも通りの青空に、いつも通り逆さまに座っている男一人。よく人に見つからないものだ。

 

「爺の依頼通り、待機してーけど、めんどーせ………めんどーせぇ…」

 

いつも通り、”めんどーせぇ”を連呼する仁。

 

彼は、あの図書館島の一件の時に学園長よりある頼みごと(・・・・・)をされ、新学期になった今もそれを行っている。傍目的にはいつもと変わらないが。

 

(まぁ、ずっとこのままでは無いよな)

 

そして仁が思った通り、早速事件はこの日の夜に起きる。

 

 

 

 

静まり返った、夜の”桜通り”と呼ばれている、寮への道。

 

「ハァ…ハァ…ッ」

 

バカレンジャーのバカピンク・佐々木まき絵は、何かから逃げていた。

 

「う……ハァハァ」

 

表情はこわばり、何かは分からないが恐ろしいものから逃げているのは明白だった。

そして、ついに

 

「きゃあっ!?」

 

その”恐怖”に追いつかれてしまった。”恐怖”はゆっくりとまき絵に迫り、

 

「ひ…や……いや……いやああぁぁ!?」

 

襲いかかった―――その瞬間だった。

 

「ム?……オオォッ!?」

 

強烈な破砕音と共に何かが”恐怖”の傍に着弾した。一発だけでは済まさないとばかりに何発も着弾し破砕音が響き、桜通りの桜が暴風により散る。

 

「……クッ!」

 

”恐怖”は不利だと悟ったのか、その場から足早に立ち去った。

しばらく謎の砲撃による破砕音は”恐怖”を追うように響いていたが、やがて止んだ。

 

「はえ……? 助かったの?」

 

先ほどの破砕音が嘘のように静まり返った桜並木の通りで、まき絵は腰を抜かしその場に座り込んでしまった。

 

「何だったんだろ、アレ?」

 

疑問を呟くも、答えてくれるものは誰も居ない……そして―――

 

 

(…めんどーせぇ…)

 

 

砲撃を行っていた張本人は、これからのことで頭を悩ませるのだった。

 

 

 

 

・翌日・

 

「……ってなことがあってさ~! もうほんとに九死に一生!」

「噂の吸血鬼に謎の砲撃? なにそれ~?」

「何か信じられないな~」

 

場所は2-A。

 

身体測定の為、皆下着姿になっていた。―――もちろんネギ先生は外に居る。

しかしその顔は、中が気になるという顔ではなく、何かを考えている顔だった。

 

(謎の砲撃? 今朝、宮崎さんが教えてくれた”桜通りがボロボロになっていた”っていう事と関係があるのかな?)

 

魔法関係であることを捨てきれない以上、見逃す理由はあるまい。

そしていくつかの考えをまとめた後、ネギは拳を力強く握り、決心する。

 

(よし! 今夜桜通りを見張っていよう! 生徒が襲われないともかぎらないし!)

 

何時もの頼りなさなど何処へやら。

その顔は立派に生徒を守ろうとする、頼もしい先生の顔であった。

 

(でも吸血鬼かぁ……怖いなぁ……)

 

―――少し閉まりが悪かったのはご愛敬だ。

 

 

 

 

そしてその日の夜。

 

「怖くない~♪ こ、怖くないよ~♪」

 

奇妙な歌を歌いながら、前髪の長い少女・宮崎のどかは桜通りを歩いていく。先ほどまで神楽坂アスナ等といたので少しばかり恐怖が上乗せされているらしく、それを誤魔化すために歌を歌いながら歩いている。

 

「あ、まだ工事終わってないんだ……」

 

桜通りは工事中の札も作業員も居ない上、ボロボロなのは今朝のままであった。

 

桜通りを半分ほど進んだ。このまま何事もなく、宮崎は寮へと―――

 

「宮崎のどか……少しだけ血を分けてもらう。悪いな」

「え……?」

 

いけるはずもなかった。

 

「ひ…あ…」

 

宮崎は、外套の上に立った吸血鬼らしきものに怯え、竦み上がり動けなくなってしまう。

そして血を吸われてしまう――――直前、声が響く。

 

「待てぇ!」

 

杖に乗り空を飛ぶ、ネギ・スプリングフィールドだった。宮崎は恐怖のあまり気絶してしまう。

だが、ネギにとってはある意味気絶してもらって都合よかった。魔法を使ってもばれないからだ。

もっとも、今のネギは慌てている上、先生としてという心持があるため気絶していなくとも魔法を使っただろうが。

 

「ぼ、僕の生徒に手出しはさせません!

ラス・テル・マ・スキル マギステル……魔法の射手・戒めの風矢(サギタ・マギカ アエール・カプトゥーラエ)!」

 

呪文を唱えたネギの手から、十一本の風の矢が放たれる―――!

 

「気付いたのか……氷盾(レフレクシオー)

(魔法を使った!? やっぱり魔法使い!?)

 

その矢を遮るように氷の盾が出現し、矢を完璧に防いだ。ぶつかったときに起きた風で、吸血鬼の帽子が飛び、素顔があらわになる。

 

「君はエヴァンジェリンさん!?」

「ふふ……さすが奴の息子なだけはあるな、ネギ・スプリングフィールド」

「な、何者なんですか!? 何故同じ魔法使いなのにこんな事を!?」

 

ネギの問いに、エヴァンジェリンは魔法を準備しながら答える。

 

「ネギ先生。この世にはな……いい魔法使いと悪い魔法使いがいるんだよ!」

 

そして試験管のようなものを投げつけ、呪文を唱える―――!

 

氷結 武装解除(フリーゲランス エクサルマティオー)!」

 

武装解除という名の氷が、ネギと宮崎に襲いかかった。

 

「うわあっ!」

「ほう、抵抗(レジスト)したのか」

 

とっさに対抗したようだが、防げていたのはネギ本人のみで、宮崎の服はほんの一部分を残し、ものの見事に消え去ってしまっていた。

 

「わ! あわ…あわわっ」

 

ネギは、慌てて何とかしようとするが自分の着ている服では、小さすぎて上下のどちらかを隠すので精いっぱいだった。と、そこへ

 

「今の音は何や!?」

「あ、ネギ!」

「あうっ!?」

 

神楽坂と近衛が、先ほどの魔法のぶつかり会いによる音を聞きつけてきた。そして目に入ったものは―――当然ほぼ全裸の宮崎とそれを抱えるネギだ。

 

「うひゃぁ……」

「あんた、それっ!」

「これは、あの、その!」

「ネギ君が……ネギ君が噂の吸血鬼やったんかぁ~!?」

「誤解ですぅ~!?」

 

てんやわんやになってしまったが、この状況を利用しエヴァンジェリンは姿をくらませようとする。

勿論、それを見逃すネギではない。

 

「あっ待て! ……アスナさんこのかさん! 宮崎さんを頼みます!」

「頼みますって……ネギ君どないする―――」

「これから噂の吸血鬼を追いますので、じゃあ!」

 

近衛の言葉を最後まで聞かず、ネギは魔法を使い猛スピードで走りだす。

 

「うわ、速い!?」

「ちょ、ネギー!?」

 

 

 

sideネギ

 

この世には、いい魔法使いと悪い魔法使いがいる……!? 世のため人のために働く。それが魔法使いのはずだろ……!? それにしても―――――

 

『ふふ……さすが奴の息子なだけはあるな』

 

奴の息子……もしかして、エヴァンジェリンさんは父さんを知っている? そのことも含めてエヴァンジェリンさんには聞くことは山ほどあるぞ……あ!

 

「いた!」

「お、早いな。風の魔法が坊やの得意分野だったな、そういえば」

 

よし、追い詰めて―――

 

「ついてこれるか、坊や!」

 

な、杖も箒もなしに飛んだ!? ただの魔法使いじゃない……でも凄腕にしては、魔法の威力は弱いし呪文の発動に魔法薬を触媒にしているし、なんか変だ! 

 

僕は、エヴァンジェリンさんを追いかけるため杖にまたがり、飛ぶ。

 

「どうしてこんな事をするんですか、エヴァンジェリンさん! 先生としても許しません!」

「先生は奴のことを知りたくはないのか? 話を聞きたくはないのか!?」

 

!? 父さんの話……!?

 

「私を捕まえられたら教えてやる!」

「……本当ですね。 では、いきます!

ラス・テル・マ・スキル マギステル……風精召喚(エウオカーティオ・ウアルキュリアールム)!! 剣を執る戦友(コントウベルナーリア・グラディアーリア)!!」

 

いけ、精霊たち!!

 

捕まえて(アゲ・カピアント)!!」

 

sideout

 

 

 

ネギが呪文を唱え終えた瞬間、計八体のネギそっくりの分身が……いや、風の精霊による複製(コピー)が現れ、エヴァンジェリンを捕らえるべく、向かう。

 

精霊召喚(サモン・エレメンタル)か。 八体同時召喚とは……十歳児とは思えない魔力だな)

 

エヴァンジェリンは感心しながらも魔法薬をまき、風の精霊五体を消した。その光景を見て、ネギは確信する

 

(やっぱりだ、この人は魔力が弱い! 勝てるぞ!)

 

そして風の精霊が作ってくれたすきを逃さず、

 

「これで終わりです! 風花 武装解除(フランス・エクサルマティオー)!」

 

魔法により、エヴァンジェリンの武装を引っぺがす。それにより、エヴァンジェリンはほぼ下着姿となってしまい、ネギは慌てて顔を少し手で隠す。そしてお互い、近くの建物の屋上に着地した。

 

「僕の勝ちですね約束通り、全て教えてもらいますよ」

「全て……つまり、何故こんな事をしたのかということと……お前の親父”サウザンド マスター”の事か」

 

”サウザンド マスター” その単語を聞き、ネギはさらに驚く。

 

(――――!? 何故エヴァンジェリンさんがそれを……!?)

「と、とにかく! 今度こそ追い詰めました! もう何もないようですし、素直に負けを―――」

「ははっ、これで勝ったつもりか?」

 

エヴァンジェリンが不敵に笑うのと同時に、上から仲間と思わしき女が現れた。

新手の登場に驚きながらも、ネギは呪文を唱える。

 

「こうなれば二人同時に―――

ラス・テル・マ・スキル マギステル…風の精霊11人(ウンデギム・スピリトゥス・アエリアーレス) 縛鎖なりて(ウィンクルム・ファクティ)―――」

「やれ」

「イミニあたっ!?」

 

ネギの呪文は、新手の攻撃により途中で妨害されてしまう。そこでネギは新手の正体に気付く。

 

「き、君は内のクラスの!?」

「そう、出席番号十番 絡操茶々丸。私の”魔法使いの従者(ミニステル・マギ)”だ」

「茶々丸さんがエヴァンジェリンさんのパートナーぁ!?」

「あと、ついでに言っておく。……パートナーのいないお前では私には勝てんぞ」

 

その言葉を受け、ネギはすこしむきになる。

 

「そんなの、やってみなくちゃ分からない! 風の精霊11人(ウンデギム・スピリトゥス・アエリアーレス)あゔゔゔぅ!?」

 

呪文を唱えようとした瞬間に茶々丸に頬を引っ張られ、不発に終わってしまう。それでもあきらめずネギは呪文を唱える。

 

風の(ウンデギム)…あいたぁ!?」

 

が、またも茶々丸に阻止されてしまった。

 

「な、ななな……」

 

驚くネギの顔を見て、エヴァンジェリンは満足そうな顔で話し始める。

 

「はは、驚いたか? ”魔法使いの従者(ミニステル・マギ)”とは、今でこそ恋人探しの口実となってしまっているが元々は戦いのための道具。そして、我々魔法使いは呪文詠唱中の無防備になる上、妨害を受けると呪文を完成できなくなってしまう……それを防ぐ為の魔法使いの盾でもあるのだだ。剣となり盾となる、これこそ”魔法使いの従者(ミニステル・マギ)”の本来の役割だ」

 

そしてわざとらしく一呼吸置き、事実を告げる。

 

「つまり! パートナーのいないお前は私たち二人に敗北するんだよ!」

「(そんなぁ~~~!? 知らなかったよそんな事~!?)……うぐっ!?」

 

驚愕するネギの首に茶々丸が腕を回し、動けないよう拘束する。

 

「ネギ先生。申し訳ありません、マスターの命令ですので……」

 

そして来ていたパーカーを脱がされてしまい、急所部分があらわになってしまう。

 

「やっと……この時が来たか。待ちわびたぞ、私の呪いが解けるこの時を。今日まで危険を冒して血を吸い続けた甲斐があったというものだな」

「の……呪い?」

 

ネギの問いにエヴァンジェリンは体を震わせながら答える。

 

「そうだ。最強の魔法使いと闇の世界でも恐れられた、真祖のの吸血鬼である私がなめさせられた苦汁……それは―――」

 

そこで感情が爆発したようにネギにつかみかかり、怒鳴る。

 

「私はお前の父に……つまりサウザンド マスターに敗れ、魔力も極限まで封じられてしまった! 

その上、あんな女子中学生のガキ共と、もう十五年間も勉強させられているんだよぉ!!」

 

本当に嫌なのだろう、今までの落ち着きが嘘のように興奮している。

 

「ぼ、僕そんなの知らな―――」

「この呪いを解くには血縁者―――つまりお前の血が、それも大量に必要なんだ。……死ぬまで血を吸わせてもらうぞ!」

 

そして、首筋に顔を向け大きく口をあける。

 

(こ、こんな……)

 

「はむ……っ」

 

(こんなことになるんだったら、誰かパートナーを見つけておくんだったよ~~!?)

 

もう後悔しても後の祭り。助けなど来ず動けぬまま、ネギは血を吸われ―――

 

 

 

 

 

 

「へぶぁ!?」

「へ?」

 

突然の出来事だった。何故か、血を吸っていたはずのエヴァンジェリンが吹っ飛んだのだ。

 

「!? マスタ―――あっ!?」

 

エヴァンジェリンに声をかけようとした茶々丸も、エヴァンジェリンと同様にいきなり吹っ飛んだ。

 

「え? 何、何なの!? 誰なの!?」

 

救われたネギも、余りに突然すぎる出来事についていけず、慌てている。

 

 

「ま、まさかこれは昨日の……!?」

 

そしてエヴァンジェリンが呟くのとほぼ同時に――――

 

 

 

 

 

 機関銃の如き速射性と、大砲の如き破壊力を持った謎の砲撃が、天から轟音とともに降り注いできた。

 

 

「どわわわわぁ!?」

「うおおぉぉぉ!?」

 

 

まるで雨のごとく降り注ぐ謎の砲撃による空爆。屋上はもはやボロボロ過ぎて、屋根の役目を果たせるのか心配なほどだ。

 

 

「くっ、ここは撤退へばらっ!!」

「うわわぁ!? ぼ、僕にも当たるぅ~!?」

 

 

両者はもはや対決だの吸血だのと、言ってられる状況ではなくなってしまったようだ。一応、エヴァンジェリンが生きているところをみると、威力が弱いのか手加減しているかのどちらかだろう。

……なのに何故屋根はボロボロなのだろうか。

 

 

「ネギ、だいじょ……って何このボロボロの屋上!? っていうかあんた達、ウチのクラスのエヴァンジェリンと茶々丸!? どーゆーことよ、これ!?」

 

 

そこに神楽坂が乱入する。どうやらネギが心配で付いてきたようだ。いつの間にか、謎の砲撃による空爆はおさまっている。

 

 

「ぐぅ……今度こそ撤退だ茶々丸!」

「はい、マスター」

「あと屋上がこうなったのは私のせいではないからな!」

 

そういって、八階の高さがある建物から飛び降りた。

 

 

「ううぅ……」

「ここは8Fなのに……ん?ネギ、どうし―――」

「うわーん! アスナさーん!」

「ど、どうしたのよいったい!? それに、ここ屋上だから危ない―――」

「こ、ここ……怖かったですぅー!」

「あーもう。そんなにひっ付かないでよ。……よしよし、もうだいじょうぶだから」

「うわぁぁ~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

・ネギたちの地点より上空・

 

 

砲撃の主は、逆さま状態で頭をかきながら今回の事について考えていた。

 

(あれで泣くなんざ…やっぱガキか……いや、ガキだったな)

 

そして、学園長の言葉を思い出し、ため息をつく。

 

「でも、これで爺の言い分に納得できた。 だが…あ~……めんどーせぇ…」

 

いつも通りにぼやきながら、砲撃の主は去って行った。

 

 

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