空立つ”飛”の独器と男   作:阿久間嬉嬉

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自らを賭けろ

 一週間近い休息をとり、再び修行へとはいった仁は、自身の判断が間違っていなかったことを確信する。

 やはり、煮詰まっていた状態では引き出せなかったのだ。その証拠に、力そのものはすべて引き出し終え、あとは質を上げて定着させるのみとなっている。

 

 

 

「・・・・」

 

 

 

 今にも暴れだしそうな、飛んで行きそうなそのエネルギーを、時に力づくで、時に精神を落ち着けて、自分の制御下へと徐々に徐々に置いてゆく。

 文献を読み、その才能が有り、実物を見たからこそできる芸当であろう。どれか一つだけだったならば、無理ではなかったろうが苦戦した筈からだ。

 

 

 そして一瞬、力が化物のような形に具現化したかと思うと、まるでオーラのように彼の体を覆い、百戦錬磨の闘将も裸足で逃げ出す・・・そう感じさせてもいい程の殺気と圧力が、辺りを覆い尽くして支配する。

 

 そしてそのオーラが大きく広がったかと思うと、一気に霧散した。

 

 まだ無茶だったのだろうか? ・・・そう思われるかもしれないが、霧散させた答えは仁の後ろに居た(・・・)

 

 

 

「その様子だと・・・どうやら、完璧に引き出せるようになったようだな」

「・・・・あぁよ」

 

 

 

 エヴァンジェリンは腕を組み口元に笑みを浮かべて佇んでいるが、強がっているらしく僅かに震えていた。おそらく、入ってきたタイミングが悪かったのだろう。

 

 

 

「そうなると、次のステップへ進むのか?」

「・・・・あぁ、奥ノ手の先に、な」

 

 

 

 そう、力を引き出していたのは単に基礎力をあげるためだけではない。というか、人はこの世界基準で異常なだけであって、年齢的には若いのでまだまだ伸び代があるし、基礎力を上げるためなら単なるトレーニングでもいい。

 この修行の本題、それは文献に載っていた4つ目の段階、『引き出した力を取り込む』事である。

 

 引き出した力を取り込み、化物と一体化し(・・・・・・・・)更なる高みへと、更なる強化へと繋げるのだ。

 

 ・・・が、言うは易く行うは難し。この修行のイメージを、仁はどうしても掴めないでいた。自身の体にまとったり力を使うならまだしも、取り込むとは一体どうすればいいのだろうか。

 口から飲み込むようにするか? 自信をスポンジだとイメージして水を吸収するようにするか? 

 

 実の所仁は、修業中にいくつかやってみたのだ。だがどれも自身の体にまとわりつくだけで全く上手くいっていない。

 

 

 

「・・・・けども・・・どうも上手くいきゃしねぇ」

 

 

 

 愚痴の様に呟く仁に、エヴァンジェリンが少々真剣な声色で話しけかてきた。

 

 

 

「その四段階目だがな、私に一つ案がある」

「・・・・何?」

 

 

 

 その言葉に思わず振り向き、そんな彼を見てエヴァンジェリンは静かに笑う。そのまま僅かに仁に近づき、自身の手のひらを上に向けた。

 

 

 

「前に私が見せた “闇の魔法”(マギア・エレベア)は知っているな?」

「・・・・あぁ、あのドーピングみてぇな・・・それを応用しろってか?」

「頭の回転早いなお前・・・まぁそういう事だが・・・今一度実演してみせる、いくぞ―――――

 

 

契約に従い我に従え氷の女王! 疾く来れ静謐なる千年氷原王国! 咲き誇れ終焉の白薔薇! ・・・千年氷華! 固定(スタグネット)――――掌握(コンプレクシオー)!!」

 

 

 

 魔力塊を生み出して固定し、自身の体に取り込んで急激なパワーアップを果たしたエヴァンジェリン。体は白く光っており、ただ立っているだけで徐々に薄い氷が張っていく。

 

 

 

「“闇の魔法” は、いわば術者の肉体と精神を、術を発動させるために使役する精霊に食わせ、大幅なドーピング効果を得るといった魔法だ。その為、今の私はいわば精霊と合体しているような状態と言っても過言ではない」

「・・・・何でそんなサラサラ教えーだ?」

「魔法など使えんお前に言ったところで、そっち方面で参考にもならんだろうが」

「・・・・」

 

 

 

 もし相手がネギであった場合なら、弟子という立場と魔法使いという立場のせいで、教えてもらうことすらできなかっただろう。その点、仁は魔法など使えないので、修行の参考にこそなるが、魔法関連に参考にはならない、という事なのだ。

 

 

 

「この魔法だがな・・・一番の決め手となるのは 『受け入れて飲み込む』事だ。何をとは言わんし、言った所でそれをこなすのはかなり難しい。・・・お前の力も、闇の魔法を参考になんとかならないか?」

「・・・・」

「ま、新しい方法を模索するもこの方法を試すもお前次第だがな。・・・この世界にはない、頂点の力を期待している」

 

 

 

 それだけ言い終えると、エヴァンジェリンは出ていく。

 

 

 

 一人魔法球に残された仁は一旦目を閉じ、次の瞬間には一気に力を引き出して放出する。その力は渦を巻き、徐々に中央へと集まっていく。

 

 その勢いはあまりに激しいものなのか、仁が力を使ってもいないのに周りの瓦礫が飛び上がり、縦横無尽の飛び回る。明らかに風に飛ばされたようなものではない、不規則な軌道で。

 

 

 やがて中央に、群青色に鈍く光る球体が形作られ、仁はそれに両手を伸ばして覆うように掴むと、

 

 

 

「ぬ、ぐぅっ・・・!!」

 

 

 

 まるで押しつぶして取り込むかのように、自信の胸の近くで思いっきり力を込める。

 

 その方法は当たりだったのか、段々と段々と取り込まれていく『力の塊』。・・・しかし、後一歩で全て取り込める、といったところで―――――

 

 

 

 

「うごおおおっ!?」

 

 

 

 思いっきり弾かれてしまった。

 

 恐らくは、エヴァンジェリンの言っていた『自身を喰らわせる』覚悟が足りないのか、それとも『受け入れて飲み込む』覚悟がないからか。

 

 

 

「・・・・模索してくしか、ねぇだろうな」

 

 

 

 ふぅーっ、と大きく息を吐き、仁は再び力を集中し始める。

 

 

 

 

――――――結局この日は、取り込める時間が最初よりも若干延びただけで、目立った成果など挙げられなかった。

 

 

 

 

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