空立つ”飛”の独器と男   作:阿久間嬉嬉

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怒りと憎しみ、そして昔の情景

「ぬ、ぐぐ・・・・・!」

 

 

 何時もの彼からは考えつかないような修羅の如き様相で、仁は力の塊を必死に抑えこもうとする。

 

 

 

「うっ―――ぐおおおおっ!?」

 

 

 

 しかし奮闘は及ばず、今までも散々あった数えられないほど起きた拒絶によって、弾き飛ばされ地を転がった。

 

 

 

「・・・チッ」

 

 

 

 寝ている間はないと飛び起きて、再び力の塊を作り出し、今度は無表情無気迫のまま、自然体で押さえ込む。

 

 

 

「・・・っ!」

 

 

 

 前よりはスムーズに行っているものの、やはり途中で止まり、最終的にはまた弾き飛ばされてしまう。

 何度と見たと知れぬ紫色の空。現実にはありえぬ魔法球内に広がるその空は、人の心を和らげることなどせず、寧ろうねりにより嘲笑っているかのようにも見えた。

 

 

 

「・・・クソが・・・!」

 

 

 

 多少方法を変えて挑んでみるも結果は同じ。拒絶により三度弾き飛ばされて、地に伏し無様に転がるのみ。

 

 

 焦っている訳ではない。煮詰まったときのように休憩もした。一旦何もかも忘れてみたこともあった。特訓の後にも注ぎ込んだ。最大限に引き出す修行の後にすぐさま行動に移した事もあった。

 

 

 なのに全くうまくいかない。

 

 しかも若干進歩したのは初日のみで、その後からはコンマ一ミリも進歩しない。そのうえ、コツすら掴めない。

 

 

 面倒くさがりでなくともイライラするこの出来事に、面倒くさがりであるこの男・仁は、最近若干怒り気味の日が増えるようになっていた。

 

 

 

 

 怒りの原因は、中々進まない修行の事・・・・・だけではない。

 

 

 

(・・・・あいつぁ・・・紬の奴ァ一体何時からこの修行を・・・いや、どうやーて成功させやがった?)

 

 

 

 それは紬のこと、何故彼女は奥の手の先に行けたのか、という事だ。

 

 

 そのせいで自分はボロボロにされたが、逆に言えばそのおかげで相打ちになったとも言える。だが、奥の手の先を出さなければ、自分は相打ちにもならず、彼女を仕留めていられたのも、また事実。

 

 つまりは、仁が奥の手の先に至ることができれば、紬を本当に葬り去ることが出来るという事であるのだが、これも逆に言うと、得られなければ最悪の場合殺されてしまうという事にほかならない。

 

 

 この事を考えた所為か仁の中に焦りが浮かぶ。が、頭を大きく振ってすぐさま否定し、また飛び起きた。

 

 

 

「・・・・クソッタレ」

 

 

 

 

 幾度となく力を集中する仁だが、この日も目立った成果など得られず、疲れきってそのまま瓦礫の中に倒れこむ。

 

 

 生来、寝付きが悪く眠りの浅い仁だが、誰もおらず疲れていたせいか、珍しくすぐ寝付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・ん?」

 

 

 

 

 やっぱ寝付きが悪いのな俺、そう考えながら目を開けた仁は、直ぐにその考えを否定することになる。

 

 

 なぜならば、目を開けた先にあったのは紫色の空ではなく―――――いつの日か訪れた、[飛]の力で刻まれた『独の傷跡』の地だったからだ。

 

 

 

「また・・・・ここかよ」

『そうだ』

 

 

 

 

 溜息とともに呟いた仁の頭上から、聞き覚えのある大きく響き渡る声が聞こえる。上を見てみれば、何時ぞやの化物が前回よりも離れた位置に滞空していた。

 

 

 化物と仁はしばらく黙っていたが、やがて根負けしたのかそれとも気が変わったのか、化物の方が口を開く。

 

 

 

『我が力を・・・取り込むか』

「・・・・悪いかよ」

『力量は良し、素質は良し、力の源も引き出せている。そして我自身、力を貸さないという悪足掻きをする気はない』

「・・・・」

『だが足りないものがある』

「・・・・なんだよ、そりゃ」

 

 

 

 若干奈良が目を細めた仁に、化物は相も変わらずそのままの声色で、『足りないもの』を告げた。

 

 

 

『お前は、あの娘を敵と見ている・・・だが、敵と思い切れてはいない』

「はぁ?」

『恨みはあり、怒りを含み、憎しみを募らせる。・・・しかし殺意に振り切れず、裏切りきれていない』

「・・・・お前、巫山戯てるのか?」

 

 

 

 化物が仁に言った事を簡単に訳せば、 “お前は紬を恨んではいるが、殺す覚悟はない” と言っているも同義であり、仁が目をさらに細めて怒りの色強く発言したのも、無理からぬことだと言えた。

 

 

 

「・・・・あいつぁ、俺の第二の故郷を粉々にして、俺の恩師をぶっ殺した奴だ。そいつを殺す気がないだと?」

『然り。お前はやはり裏切りきれないでいる。あの娘を、どこかで――――』

 

「黙りやがれ!!!」

 

 

 

 怒号。

 

 滅多に出す事のないその感情のこもった大声を、仁は化物に対してぶつける。だがしかし、化物はお構いなしに話し続ける。

 

 

 

『信じている。狂いに狂ったその源を、何処かへ飛ばすことができないかと悩んでいる。・・・長きに渡り道連れとして付き添った、黒衣纏う[煙]の娘を、救い出せないかと惑っている』

「・・・・んだと・・・!?」

『無意識の中の有意識―――――お前が焦るのは負けるからではない、“救い出せないから” だ。強さを持たねば、元凶を暴けないからだ』

「・・・・!!」

 

 

 

 見透かしていると言わんばかりのセリフに、仁は歯ぎしりしながらも再び口を開いた。

 

 

 

「もしそれが本当だとして!! そんなくだらねぇ希望にかける意味はねぇだろうが!!」

 

『希望は、下らないものではない』

 

 

 

 怒りのままに叫んだ仁だったが、化物から出た言葉で再び口を閉じることになる。

 

 

 

『希望はそこに、ある。あの娘と共にいたお前は訝しみ、怪しみ惑い、しかし怒りから闘争へと向かった・・・・・だが、離れ怒りを薄めた今なら、惑いを生じるも致し方ない』

「・・・・」

『あの娘は、独占欲を持っていた、多少常人と異なる部分があった・・・だが、それは人としての個性であり、またそれ以外は常人と変わらぬ(・・・・・・・・・)のも、事実だ』

「・・・・」

『その事に、お前は気付いていたはずだ・・・あの晩、あの場所、あの事変での[煙]の娘は、お前の道連れと異なっていた事を』

「・・・・」

 

 

 

 化物の話が終わっても、仁は反論すらせず黙っている。分かっているからだ・・・化物が伝えたいことを。

 

 

 仁は思い出す。

 

 確かにあの夜の紬はおかしかったのだ。まるで・・・・何かを増幅させられたように、何かに呼ばれるかのように、何かに浮かされるように、彼女は仁の故郷に立っていた。

 

 恩師の老人を殺され、故郷を滅ぼされた怒りにより、周りも見ずに違和感も拭い捨てて突貫していった仁。しかし時を重ねた今は、違和感がより強く脳裏に浮かぶのだ。

 

 

 

(・・・・けど希望ってなんだよ。紬がおかしかったのは事実だが・・・楽観的に希望なんて考えてられるのかよ・・・!?)

 

 

 

 

 崩れ落ちた家屋の中、業火を背に高笑いする紬。

 

 違和感は覚えた、訝しみ怪しんだ。だがその光景の中の、どこに希望があるのだというのか。

 

 

 

『今はまだ悩むがよい。・・・時が来るまで、自身の力を模索せよ』

「なっ・・・・待てコラ!!」

 

 

 

 

 手を伸ばすもやはり化物は仁の言葉など聞かず、加えて仁の足には[空轍]はない為追いすがることもできない。

 化物が彼方に消えていくのと同時に、辺りの存在が薄くなり――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・!」

 

 

 

 

 気がつけば仁は、紫色の空の下で寝転がっていた。

 

 

 久しぶりに良く眠れたのだろう。身体の調子はいつもよりも良く、視界もはっきりしている。

 

 

 

 ・・・だが、心の中の暗雲は、全く晴れない。

 

 

 

「・・・・下らなくない、本当の希望って何だよ・・・紬の奴を殺す気になりきれないって、何言ってんだよ・・・」

 

 

 

 手のひらを見つめながら、仁は紫色の空をもう一度見上げ、

 

 

 

「俺は・・・・俺の心は、復讐心で埋め尽くされてんじゃねぇ、のかよ・・・」

 

 

 

 静かに、ただ静かに呟くのだった。

 

 

 

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