結論から言ってしまえば、結局仁は取り込む修行も『本当の希望』とは何かを考える事もほとんど進展せず、イギリスはウェールズに発つ日が来てしまった。
「・・・・」
だからであろう、傍から見れば恐ろしいほど目を吊り上げているのは。肉体面でも精神面でも問題を課せられたのだから、面倒くさがりにとってこれほど嫌なモノも、他に無いだろう。
仁は空港のロビーで席に座り、時間が来るのを待っている。
本当は自分で飛んでいったほうが、いろんな人に見られるがGも空気抵抗も少なくて速いのだが、ロビーにいるのを見る限り流石にそこまで太い神経はしていなかったようだ。
席に座りながら、仁は何やら地図を広げている。地図といってもイギリスの地図ではなく、メガロメセンブリアのある
地表面積は地球の約三分の一弱と地球より小さく、仁の元居た世界の元居た星では、約何分の一になるかも分からない。
だが、三分の一とは言えど人間からすれば広大なことに変わりはないので、地図を見直しているのだ。
「・・・・チッ」
地図を終い時刻表を見やると、ウェールズ行きの便が出る時間が迫っており、仁は僅かに舌打ちをした後、少ない荷物を手にロビーの席を立つ。
・・・舌打ちをしたのは、恐らく修行のことに対してだろう。
ワイワイと騒がしくネギ達がやってきたのは、その少し後だった。
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「あ~・・・・クソったれ・・・クソ眠ぃ」
本来ならば時差ボケを軽くするために、飛行機の中で出来る限り寝た方がいいのだが・・・やっぱりと言うべきか、眠りに関してはダメダメな仁はごらんの有様である。
ダリぃ、眠ぃ、めんどーせぇと文句を言いながら、仁はネギ達と鉢合わせをしないように土産屋にも観光地にも寄らず、一直線に鉄道へと向かう。
(ペンブルック州だーたなぁ・・・確か)
今回2回目の時刻表を確認した仁は、列車が来るまで寝ようと座り、けども全く寝れずに歯ぎしりをしていた。
心地よく列車に揺られても、眠気のねの字も起きなかった仁はさらに人相悪げになりながら列車を降り、メルディアナ魔法学校へと足を進める。
理由は近右衛門の友人である、メルディアナ魔法学校の校長にも手紙を届けるためで、くしゃくしゃになっていないかを一応確認したあと、歩く速度を速めた。
やがて立派な石造りの建物が見え、その門の前に立派な髭を蓄えた老人の姿が見えてくる。雰囲気、構え方からして、どうやら彼がメルディアナ魔法学校の校長らしい。
「ふむ、君が仁君か」
「・・・・俺を知っていると?」
「ああ、近右衛門から話を聞いておるよ。異世界から来た異邦人で、特殊な武具と桁外れの実力を持っている若者だ、とな」
「・・・・そうですか」
仁を上から下まで軽く眺めたあと、校長は苦笑いしながら肩をすくめる。
「近右衛門から眠りが浅すぎるという欠点は聞いておったが・・・よもや人相が悪くなるほどだとはなぁ・・・」
「・・・・もう、なれてますよ、この体質にゃ」
「しかし、観光してきてもよっかたのじゃぞ? 別に時間通りに来なくても―――」
「時間通りに待っていた人がそれをいいますか」
「おっと、言われてしもうたな」
彼も少し仁に対して警戒していたらしいが、面倒くさがりな雰囲気を感じ取ったのだろう、生来の少々おどけた雰囲気をさらけ出していた。
仁はそれに取り合うように、頭をボリボリと掻く。
「それはそうと・・・お主も“魔法世界”へ行くそうじゃな」
「・・・・ええ。知人へ手紙を届けに行ってくれ、と言われてね」
「“魔法世界”への扉が開くのは明日じゃ。今日はゆっくりしていきなさい」
「・・・・そうします」
仁は校長に近右衛門の手紙を渡すと、石造りの校舎を迂回するように歩き、森の中に入って木の幹に対して
まだ彼は知らない。
今回のイギリス兼“魔法世界”行き 『旅行』 は、 手紙を届けるだけでは済まないと言う事を。
この 『旅行』 で、彼自身の過去に、因縁に、迫る事となることを。
■
――――某国某所、巨大森林――――
まるで御伽話の中のような植物の生える、巨大樹に囲まれた森林の中、一人の人間が大した武装もせずに、草をかき分けて歩いている。
「ココハ何処カナ? 本当ニ居ナクナッチャッタ?」
「グルルル・・・」
その人物の背後に、龍のような頭部を持った化物が近づいているが、当の本人に気づいている様子など伺えない。
「知ッテル人、居ナイカナ? 会~イタイナァ~♥」
「グルルルルウウアアアアア!!!」
「ガルルルルラアア!!!」
「ゴオオオアアアアアア!!!」
唸り声を上げて、火炎をまといながら竜頭の化物は飛びかかる。周りにも数頭いたらしく、連携を取りながら、一切の遠慮無く肉薄し、大爆発を起こした。
そして、爆発から数
「デモ~スグ見ツケテアゲルカラァ」
意気揚々と歩くその人物の背後には、隕石でも衝突したのか巨大なクレーターが形作られ、木々や植物など一本も生えておらず――――
「ダカラァ、待ッテテネ♫ 仁♥」
―――罅割れた角の欠片が一つ転がっているのみだった。