空立つ”飛”の独器と男   作:阿久間嬉嬉

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『因縁との出会い』
問答と緊急事態


 

 

「では、気ぃ付けて。近右衛門の友人に宜しくの」

「・・・・うっす」

 

 

 

 翌日の早朝。

 

 老人一人だけという寂しい見送りを受けながら、仁は朝霧の中へ躊躇なく向かっていく。

 手元にはなにやら箱のようなものがあるが、この中には魔法陣が刻まれており、本来手順通り儀式を行わなければたどり着けない “魔法世界”(ムンドゥス・マギクス)へのゲートの元へ、これを持って正しい道筋を辿るだけでたどり着けるという、超便利アイテムなのである。

 

 

 が、特別な使用許可がいるわ、魔力や気が極端に少ない者でないと使えないわと手のかかる代物でもあり、その点では異邦人なため魔力も気も持たず、バックに近右衛門のサポートを受けている仁は、かなり運が良いと言える。

 

 

 ネギ達はまだ寝ており、仁は彼らが起きる前にさっさとゲートへ付いてしまおうと、早く出たのである。・・・まあ、半分ほどしか寝れなかったという事情も、あるにはあるのだが。

 

 

 特別な経路を記した地図を頼りに、少々うねる様な機動で歩いた後、今までの深い霧が嘘のように晴れたかと思うと、ストーンヘンジが仁の前に姿を現す。

 

 早く来すぎたためか、人は仁を合わせても四・五人しかおらず、その全員が早起きに慣れているであろう中年男性や女性であった。

 

 

 彼らから少々離れた位置にある岩壁にすがり、無意味と分かっていながらも一応睡眠をとるべく目を閉じる。

 

 しかし仁の予想を裏切り、微動だにしないと言ってもいいくらいに彼らは音を立てず、加えて離れた位置のためか音はほとんど聞こえないため、意外と眠れそうだと仁は肩の力を抜いた。

 

 

 

 寝ているのと起きているのの中間のような状態で休憩を取り、それからどれぐらい時間が経っただろうか。

 キャッキャとはしゃぐような声で仁は本当に目を覚まし、誰かは分かっていたものの一応そちらに目線を向ける。

 

 

 そこには、やっと来たらしいネギとネギの生徒達が、何やら興奮して騒いでいる所だった。

 

 

 

 まだはしゃぐのかと呆れてため息をついた仁は・・・・・そこで、何かの圧迫感を感じて見回す。

 

 

 

(・・・・これぁ紬・・・じゃねぇ、な。紬の圧迫感はこんな無機質で弱くねぇ)

 

 

 

 弱い圧迫感だから別段ネギ達でもどうにかなるだろうと、仁は放っておくことにしたらしくまた目を閉じた。

 

 それから数分後、どこからともなく鐘の音が響き、徐々に地面が光をおびていく。

 

 

 ひときわ大きく鐘の音が鳴り響いた直後、薄く光るのみだった地面が爆発的に発光。上空に巨大な魔法陣がいくつも出現し、それを貫くかのように光が立ち上っていく。

 

 

 どうやらこれが、“魔法世界” への転移合図らしい。

 

 

 

(・・・・随分大げさなこったな)

 

 

 

 頭の中でぼやきながら仁は目を閉じ、時を待つ。

 

 

 やがて、僅かな光量しか感じなくなったのを見計らって目を開けると、ストーンヘンジが嫌というほどに合わない、最新技術の髄を集めたような場所に居た。

 

 

 又もやはしゃぎ出し、展望台へ向かったり辺りを見回すネギ達を仁は無視し、ほかの客より一足も二足も速く受付へ向かう。

 

 

 一般の入国手続きよりも眺めのやり取りを行ったあと、さして苦もなく(仁にとって面倒くさいことを除いて)通ることができた。

 

 

 

「行ってらっしゃいませ」

 

 

 

 

 ・・・ちなみに、メガロメセンブリア内では特殊な権限を持っているものを除き、刀剣や重火器等の武器類は携帯してはいけないのだが、仁な場合武器となるものは足枷なのでファッションとしか思われず、足枷という武器付きでもすんなり通してもらえたというわけだ。

 

 仁としても “空轍” を取られたくなかったし、そもそも適合していないものが独器を持ったら、本人も他人も冗談じゃ済まない程ひどい目にあうので、受付の人たちも受け取れなくて正解だったというべきであろう。

 

 

 

 まで残っているらしい眠気を感じさせるあくびをしながら、仁は観光地などにも目をくれずに近右衛門の友人の所へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メガロメセンブリアから数十キロ離れた岩肌の露出する土地。そこに近右衛門の友人はいるらしい。

 

 別に人目についても構わんだろうと[飛](トバシ)の力で、ジェット機もかくやというスピードでかっ飛びいざたどり着いてみると、予想以上に人里離れた場所であった。

 

 

 

「・・・・家とかあるのかよ、何処に居んだよ」

 

 

 

 辺りを見回すが、荒屋ですら目に入らない。

 

 

 と、地図を何度も見る仁の背後から、人の声がかかった。

 

 

 

「おい兄ちゃん、こっから先に行くのかい?」

「・・・・あ?」

 

 

 

 振り向いてみると、褐色に焼けた中年男性が居り、彼の背後にはさしずめ鰹のようだと言っても過言ではないような、妙な乗り物が鎮座している。

 

 ツルハシを持ち鉱石が入った袋を担いでいるという様子を見るに、男性はここの近くで商売のための品物を掘り出していたようだ。

 

 

 

「見たとこ魔法使いじゃないようだが・・・気の使い手だったとしても止めときな。こっから先は魔力も気も、あの闇の福音(ダークエヴァンジェル)並で無けりゃ微弱なまでに落とされちまううえに、馬鹿強い魔物がわんさか出る地帯だからな」

「・・・・」

「悪いことは言わねぇ、迂回していきな。何もなしの素の力が岩を粉々にできるぐらい強いんだったら進めるが、サウザンドマスターや千の刃レベルでもなけりゃ力が入らなくて無理だし、抑もそんな奴有り得ねぇしな」

「・・・・」

 

 

 

 そんな事を軽くやってのける “奴” が男性の目の前に居るのだが、仁は何も言わずに歩く頷いて男性が通り過ぎ去っていくのを待つ。

 

 

 完全に姿が見えなくなったのを見計らって、魔力が無くなる地帯まで進み、

 

 

 

「・・・・邪魔だっつの!」

「グゲェ!!?」

 

 

 

 岩に擬態して仁を食おうとしていた魔物を蹴っ飛ばし、岩を蹴り砕いた。

 ・・・誰もいないのに自慢でもしたかったのだろうか?

 

 

 

「・・・・やーぱり、隠し通路かよ」

 

 

 

 いや、単に隠し通路を見つけるための行為だったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・爺が俺じゃねぇと行けねぇと言っていたが・・・ああいう事か」

 

 

 

 明らかに人の手により舗装された通路を進みながら、近右衛門が今回自分に手紙を託した訳を仁は汲み取った。

 

 

 恐らく、旧友以外は開け方を知らないか決まった時にしか開かないのだろう。しかし近右衛門はすぐに手紙を届けたかったため、元から魔力も気も関係のない仁を派遣したのだ。

 

 魔法世界と繋がるゲートが開くのは一週間に一度なら良い方で、一年に一度の時もあれば、十年経ってやっと開いた時もあるらしい。

 届けられるときに届けておきたかったのだろう。

 

 

 

「・・・・ここか」

 

 

 

 

 やがて、不自然に色合いの違う岩塊を見つけ、扉らしき場所を叩く。数秒経った後、ゆっくりと戸は開いた。

 

 

 

「おや、珍しい客人だのう。旧友でも無しに此処に来れるという事はカラクリを見破ったのか、それとも・・・本当に魔力も気も無しで強い人物が現れたのか」

「・・・・あーただな、じじ―――近右衛門の友人は」

「ほう、近右衛門の言伝か」

 

 

 

 立ち話もなんだ入れ、とそう言われた仁は、数瞬躊躇ったあと足を踏み入れる。

 

 トラップなどはなかったが、代わりに広がっているのは外と全く繋がりのない緑一色の庭園という、奇想天外な場所だった。

 

 

 

 

「まあ座れ」

「・・・・」

 

 

 

 椅子・・・というより苔生した岩に二人は腰をかけ、明らかに苦そうな濃い緑の緑茶の入った大きい湯呑を、老人はテーブルのような岩に二つ置く。

 

 

 

「して、だ。要はなんだ?」

「・・・・届けもんだ」

「ほう、手紙か」

 

 

 

 ゆっくりと受け取った老人は手紙を封筒から出して、又もやゆっくり開くとじっくり読み進める。

 

 

 

「全く・・・心配症なのか能天気なのか分かりづらいのは相変わらずだの」

「・・・・(やーぱり苦いな)」

 

 

 

 仁が半分ほど緑茶を飲んだ頃にようやく読み終え、手紙を畳むと仁に眼鏡越しの視線を向けた。

 

 

 

「見たところ、お主には魔力も気も感じないが・・・まさか本当に素の力が強いとでも?」

「・・・・カラクリとか知りもしなかったしな」

「ほう。手紙に異邦人とは書いてあったが、まさに的を得ているな」

「・・・・」

 

 

 

 対して反応も見せず、残った緑茶を一気に飲み干す仁。そんな彼を老人は止めもせず、静かに見ている。

 

 

 

「それじゃこれで」

「うむ」

 

 

 

 そして仁が扉に手をかけようとしたまさにその時、老人は静かに、しかしよく通る声で言葉を発した。

 

 

 

「悩んでおるようだの、お主」

「・・・・」

「恐らくは・・・ “倒すべきと見定めた者が本当に倒すべき者か分からない” といったところかな?」

 

 

 

 的を射たような問に、仁は思わず振り向く。

 

 

 

「・・・・何?」

「おや、当たりかい」

 

 

 

 態とらしく驚いた老人を睨めつける様に仁は見るが、老人は怯えることも驚くこともなく言葉を続けた。

 

 

 

「なに、幾人も人を見てくれば自ずとわかってくるようになる。こういう技能に関してなら、童姿の吸血鬼でも、本物の老人には負けるのじゃぞ?」

「・・・・」

「表向きのみ見れば復讐心の塊に見えるだろうがな、実際は復讐の鬼になりきれない。極端に言えば、よく居る悩める若者と同義なのだよ、お主は」

「・・・・」

「復讐すべき相手が唯の悪人ではなく、長年連れ添った相手だったのか、それともその時ばかりは何処か不可解だったのか・・・あげようと思えばいくらでも可能性は挙げられるがな」

 

 

 

 老人が上げた二つの例は何方も “当たり” であり、仁は反論する事も無くする気も無く、ただ黙って老人の言葉に耳を傾けている。

 

 

 

「復讐すべき相手が・・・例えば現メガロメセンブリア元老院の一部勢力のような、馬鹿共ならば分かり易いのじゃが、そうでない時も多いからの」

「・・・・」

「納得する答えが出るまで悩むことだ。復讐は己が為のものじゃから、良いか悪いかわお主にしか分からんしの」

 

 

 

 

 化け物に言われたことを老人にも言われ、益々分からなくなってきた仁は、ともかく用は終えたのだからさっさと立ち去ろうと、扉を開ける。

 

 

 

「・・・・じゃあな」

「うむ、近右衛門によろしくな」

 

 

 

 

 魔力も気もなく、洞窟のような通路を低空で飛び去っていく仁を見て多少は驚いたようになった老人だが、直様表情を戻して静かに呟く。

 

 

 

「・・・決めたなら、迷うなよ青年。わしに出来るのは先の言葉を掛けた事くらいだ」

 

 

 

 

 小さくなっていく背中を見送り、老人は家の中に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メガロメセンブリアに戻ってきた仁は、手頃なカフェに入りコーヒーを頼むと、老人の言葉を聞いた所為か思考し始める。

 

 

 

(・・・・紬には独占欲はあったようにも感じた・・・だが、大量虐殺できるような異常さはなかった。なら、一体何があったんだっての・・・)

 

 

 

 紬がおかしくなったのは仁が彼女の元を離れた約一週間後の事。つまりその一週間近くの間に、何かがあったと考えるのが妥当だが、だとすれば一体何があったのだろうか。

 

 考えども、情報など皆無に等しいこの状況では、何も浮かびはしない。

 

 

 

「お待たせしました、オスティアン・ブレンドとホットドッグになります」

「・・・・あぁよ」

「ごゆっくりどうぞ」

 

 

 

 一先ずは軽食をとって、麻帆良に帰ってからまた修行すると共に考えようと、ホットドッグにかぶりついて咀嚼し、テレビに顔を向けた。

 

 

 

『本日早朝、ゲートポートにより “楔” が破壊されゲートポートの魔力が暴走し、すべてのゲートが閉じてしまうという大事件が発生しました。依然として魔力の流出は収まらず、回復の目処は立っていません』

「・・・・(チッ、帰れねぇのかよ)」

 

 

 

 しょうがないと思いつつも、紬はこの世界にいないのだから修行はできるかと、納得しようとしたその時、実行犯らしきものの顔が映ると同時に―――――仁は絶句する。

 

 

 

 

『この実行犯兼首謀者と思われる見た目十歳ほどの人族(ヒューマン)に、三十万ドラクマの国際指名手配がなされました』

「・・・・!?(ネギだと!?)」

 

 

 

 その首謀者らしき少年の顔、それは仁の知っている天才少年(・・・・・)、ネギ・スプリングフィールドだった。

 

 

 

 

 

 

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