・・・その結果、蹂躙系にも程があるしようになるかもしれませんが・・・
それではどうぞ。
時刻は11時。
空中逆さまの格好で、仁は携帯を耳にあてていた。
『加減ぐらいはせいと言うたはずじゃぞ!? なのになぜ屋上がボロボロになっとるんじゃ!』
「めんどーせぇよ……それに”人に対しての加減”だろ? 物に対しては―――」
『なんで人には手加減できて物には出来んのじゃ!?』
「ストレス発散」
『分かってはおったが、タチ悪いのお主は!?』
携帯から学園長の声が響く。どうやら仁と口喧嘩……もとい、暖簾に腕押しの会話を繰り広げているようだ。この携帯は学園長が持たせたものである。
『それに! 目立たずに行動しろと言ったはずじゃろが!』
「行動してんぞ」
『目立っとらんかったら噂になっとらんわ! ”怪奇!? 空中に逆さまに立つ男!” と校内新聞にお主が載っているのを見たときは、思わず飲んでいたお茶を噴いたんじゃぞ!』
見えにくい上空とはいえ、昼間から逆さま状態で空中を歩いていれば、いずれ見つかるのは当たり前だろう。ちなみに写真を撮ったのは”朝倉和美”という、スクープが大好きな報道部の女子生徒で、仁を見かけるまで上を見続けていたそうだ。
「汚ねぇ、茶ぁ噴くなよ」
『そこは突っ込むところではないわ! まぁ、殆どぼやけて分からなかったのが幸いじゃが……』
「良かーたな」
『他人事か! 良くないわ!? ……というか仁。お主テキトーに返事しとらんか?』
「めんどーせぇしな」
『分かってはおったが、やはりそれか!? ……とにかく! これからは少しくらい自制するのじゃぞ! では、引き続き ”お願い” をよろしくの!』
「あぁよ」
『良いか!? 本当に自制するんじゃz―――』 ピッ
仁は最後まで聞かずに電話を切る。そして、この後の台詞はもちろん、
「…めんど-せぇ…」
これであった。
■
・午後の屋上・
仁は人の目があまりなく、それでいて建物の影となっている場所に、いつも通りの逆さま状態で座っていた。
面倒くさいと言いながらも、ちゃんと言いつけは守っているらしい。
(更にめんどーせぇ事になったら、嫌だしな…)
そして、少し遅めの昼飯である”ラ―ソン”で買ったおにぎりを口に頬張る。
……言われるまでもないと思うが、逆さま状態で物を食うのは止めておいたほうがいい。単純に食いにくいし、食ったものが逆流してくることもあるからだ。
「へぶうっ!」
と、二個目のおにぎりを頬張っていた仁の耳に、蛙が潰れたような声が入った。
(どーかで聞いたことある声だな…)
気になったのか、仁は耳をすませ会話を聞きとる。
「うぐぐぅ……! 人間は不便だ……空も飛べぬとは!」
(当たり前だろ…アホくさ…)
どうやら声の主は、数日前に現れた吸血鬼・エヴァンジェリンのようだ。もっとも、
(確か―――エ○ンゲ○オン・@・マ○ドナ○ド……だったか?)
仁は正確に名前を覚えてはいないのだが。
「マスター。鼻血が出ています」
茶々丸もいるようだ。さすがにこの名前は覚えやすい―――
(駄々草もいんのか)
これも間違えて覚えていた。というか、どう間違えたらそう覚えるというのだろうか。
図書館島ではあんなに頭の良さを披露したのに、なぜ人の名前ををぼ得られないのだろうか、謎である。
「見ていろ! 今宵の作戦で
「マスター。鼻血が出ています」
エヴァンジェリンは、言いきった勢いそのままに屋上から去って行った。茶々丸もそれに続く。
(……”今宵の作戦”か……めんどーせぇ事、聞いちまった…)
一人上空に残った仁は、今夜もまた面倒くさいことが起こるのかと思うと、ダルさとため息が止まらないのであった。
「…あ~…めんどーせぇ……」
■
―――時刻は夜の八時前。
この日は学園都市全体のメンテナンスの為、夜八時から深夜十二時まで停電するのだ。そのせいかいつもは部活や夜遊びなどに出る生徒も、今日は全くいない。
そして八時を回り、放送が流れる。
[放送部です。これより学園内は一時停電となります。学園生徒の皆さんは、極力外出を控えてください]
その言葉を最後にザザッという音がし、一斉に停電となった。
誰もいない、月明かりのみ照らす夜。人が登れるはずのない建物の上部に、金髪の女性が居た。
「ふふ……」
何処となくエヴァンジェリンに似ているその女性は、月明かりが雲で隠れ次に明かりが出たときには……消えていた。
■
(学園都市全体の停電か……)
停電で月明かりなどのわずかな明かりしかない中、仁は珍しく普通に空中に立っていた。
(……なんも起こらねぇといいが…)
そう考えた瞬間、
女の子の笑い声のような音と、木々を揺らすような音が聞こえてきた。後から微かに聞こえてきた驚愕の声を聞くに、どうやらじゃれあいが起きているわけではないらしい。
(んなこと、ありえねぇよな…めんどーせぇ…)
首をゴキリと回し、音がした方向へと仁は飛んだ。
・
・
・
・
・
・
「来るのでしょうか、ネギ先生は」
「来るさ。それも生徒の安否がかかっているなら尚更な」
茶々丸の声に反応し答えを返した、エヴァンジェリンの面影のある女性は、茶々丸以外にも四人の少女達を連れて、女子寮の大浴場にいた。
会話から察するに、どうやら彼女は魔法で変身したエヴァンジェリンらしいが、知っている者でも誰だかわからなくなってしまうほど、妖艶の雰囲気を漂わせている。
「・・・・」
「奴の息子だ、何かしらの策は用意してあるだろう・・・ま、私達に適うかどうかはまた別問題だな。そうだろう?」
「「「「その通りです」」」」
振り向くエヴァンジェリンに、肯定の意を返す四人の少女。彼女たちは先に挙げたとおりネギが担任として受け持っているクラスの生徒であり、エヴァンジェリンの吸血により下僕と化してしまったのだ。
責任感が強く生真面目なネギならば、彼女たちを見捨てず助けに来るのは当たり前と見えた。が、同時に関係者ならばまだしも、無関係な自分のクラスの生徒には手を出せないので、苦戦するのもまた見え見えである。
「さて、この事態にぼーやはどう対処するのやら」
ククク、と声を若干押し殺して笑うエヴァンジェリン。そんな彼女の背後で、茶々丸が何かに気がついたように扉の方を見た。
「どうした?」
「来ました、人体の反応があります・・・一人のようですね」
「そうか・・・・・準備でも整えてきたのか、すこし遅かったな・・・」
大浴場のドアがガラガラと開けられ、侵入者らしきものが水音を立てて此方に近づいてくる。エヴァンジェリンは不敵な笑み浮かべて侵入者を見やり、
「おやおやぼーや。一人で来るとは、大した勇気――――ってあれ?」
唖然とした。
「誰だ、貴様!?」
そこに居たのはぼーやではなく・・・フードを目深にかぶって、不気味な笑みの意匠を持つ仮面で顔すべて覆う、低く見積もっても身長190前半以上はある男だった。
彼はどうやっているのか、足枷をつけているのに沈むことなく、水面にアメンボのように立ち、ゆっくりゆっくりエヴァンジェリンへと近づいていく。
その足枷すら奇妙であり、鎖の長さや形はともかく、枷本体は脚鎧の如く大きく長い。それ自体が蹴る為の武器だと断じても、過言ではなかろう程に。
(何だこいつは・・・? 魔力も気も感じないだと・・・?)
水面に立っているにも関わらず、彼からはそれに使っているような魔力の機動も感じず、足元には浮遊のための陣すら見えない。
なにより、彼から感じる謎の 〝圧力# が、より得体の知れぬ不気味さを増幅させていた。
「どうしますか、マスター」
「・・・まずは小手調べだ、行け」
下僕となった少女四人を向かわせ、男に襲いかからせる。
吸血鬼の操り人形となった影響かその身体能力は人間を超えており、動作の未熟さに合わない速度と合わせて、困惑させるにも十分だ。
が、男は足を後ろに下げて若干腰を下ろすと――――
「・・・・」
「がふっ!」
「あがっ!?」
「ぎゃっ!!」
「へばぁっ!」
四人をなんの躊躇もなく蹴飛ばし、壁にめり込むほどの速度でぶつけてきたではないか。
悲鳴を上げた四人に構わず・・・男は依然としてエヴァンジェリンの方に顔を向け続けていた。
「!(・・・無関係のものを蹴飛ばしても知らんぷりか。となると、この学園のものではないのか・・・?)」
考えるエヴァンジェリンの足元に、カードのような物が突き刺さる。
そのカードには、『学園からの依頼状』と書かれており、カードには男のイニシャルらしきJという文字が刻まれていた。
真実かどうかは定かではないが、一先ずその通りに受けてっておくことにしたらしく。
「・・・ほう。つまりお前は、この学園にいる人物から依頼を受けたと」
投げかけたエヴァンジェリンのその問いに、男は頷いて答えた。
それと同時に、もう説明や余興は終わりだと言うかのように、猛烈な速度でエヴァンジェリンまで接近してくる。
「ふっ、ぼーやじゃないのが残念だが・・・ならばお前を片付けてぼーやの元へ行くまでだ! 行け茶々丸、ここからが本番――――」
言いかけたエヴァンジェリンは・・・『足元がいきなりぶっ飛び天井にぶつかる』事で強制的に黙らされる。
「はぐあっ!?」
「うぐっ」
見ると、下にあった屋根付きの洗い場の柱がちぎれており、男が何かをしてこの洗い場を上に持ち上げたことがわかった。
開戦の合図にいきなり不意打ちを食らったエヴァンジェリンは、頭を押さえながらもてを前に突き出して呪文を唱え始める。
「このっ・・・リク・ラク・ラ・ラッぼむっ!?」
始動キーを唱えきる前に柱の破片らしきものが飛来し、彼女の魔法障壁を貫いて頬を両側から平手打ちするように思いっきり挟む。
一瞬エヴァンジェリンの方を見た茶々丸は、しかし命令通りに男へと向かっていく。・・・が。
「え? な、何故・・・?」
何故か途中で足が止まる――――と言うよりも足を動かしても前に進まなくなり、終いにはジェット噴射を使っても前に一ミリも動かないという状況に陥ってしまった。
「い、痛い・・・おい茶々丸! 何をしているさっさと―――――って、うわわわわわ!?」
そしてそのまま、茶々丸は猛スピードでエヴァンジェリンの方へとバックしていく。
「待て待て待て!? こっちに来るなぁ!?」
「すいませんマスター! でも何故か身動きが・・・」
「へばらぁん!?」
「マスター!?」
エヴァンジェリンは茶々丸に思いっきり激突され、二人はもつれ合いながらガラスを突き破り外へと放り出される。
ゴロゴロと転げさせられた二人がヨロヨロと立ち上がると、男は既に浴場から出てきており、二人のもとへ歩み寄ってきていた。
「ぐ・・・くそ、なんだお前は!」
「確認。―――微弱な魔力や、気すら捉えられません」
「それぐらい分かってはいるさ。だが、不可解にも程がある・・・!」
本来戦うはずのものとは違う、イレギュラー中のイレギュラーを、エヴァンジェリンはただ睨むのみ。
と、男は急に空中へと跳びだし、足を折り曲げて彼女達に向ける。
「何を・・・?」
間髪入れずに突き出すと、空気が破裂したような轟音が響き、まるで『蹴られた』かのような衝撃がエヴァンジェリンに伝わりぶっ飛ばされる。
「おごぉっ!?」
「これは・・・ネギ先生と初めて戦った時に降り注いだ、謎の砲撃にに酷似しています!」
「まっまさか、こいつが!?」
驚く彼女達をよそに、男は地上に降り立つとそのままダッシュしてくる。
戦いは、まだ終わらない。