空立つ”飛”の独器と男   作:阿久間嬉嬉

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祝! 七十話!!


ここまで話数が来ました!!・・・・・まぁ、百話は恐らくいかないだろうけども。


では、本編をどうぞ。


思惑の開始

 

 

 何の成果もない事など、魔法世界に来てから幾度となく味わったというのに、それでも尚仁は今まで以上の不安を感じて飛び続けていた。

 

 オスティア終戦記念祭で警備が甘くなる所を狙って皆集合するため、オスティアカモと共に向かうという日になっても、紬は愚か偽器兵すら何の動きもない。

 これは誰であろうと、不安になるだろう。

 

 

 地球とはまた形の違う月を、仁は此処最近しかめっぱなしの表情のまま見上げる。

 かなり遠く離れた地なうえ出発が遅かったため、そしてカモが居るのでスピードが出せなかったため、雲の上まで突き出た岩の上で一夜明かすことにしたのだ。

 

 

 オスティアはまだ見えない。

 

 

 未だ月を見続ける仁に、カモが声をかけた。

 

 

 

「仁の旦那よお。ここ最近優れねえ顔ばっかしてるじゃねぇか、一体どうしたんでい?」

「・・・・お前に言っても仕方ねぇ事だ」

「そう言われると余計気になるなぁ。良い事尽くめだったから、沈む要因なんて思いつかねぇんだがよ」

「・・・・」

 

 

 

 カモの言う『良い事尽くめ』は、決して誇張ではない。

 そりゃ仲間が見つかり、集合場所への到達がへ迫り、テレビで時々見たネギは大活躍と、カモにとってはバラバラになったという不幸から一転良い事が巡ってきたようにしか感じていないだろう。

 クレーターのことはニュースで知ったようだが、実際に何が起こしたかは話してもいないので分かっていないのだから。

 

 

 だが、これは仁の問題、仁の世界の問題なのだから、話す必要もないと黙っているだけ。

 勿論話したところで彼自身どうにもならないが、気分を盛り上げることもできないので、黙りを決め込んで顔をしかめているのである。

 

 

 

「胃がいてぇならよ、薬買ってといたから飲んでおくといいぜ、旦那! そんじゃお休み!」

「・・・・あぁよ」

 

 

 

 胃が痛いと聞かれた仁は、多少ながら表情をゆがめた。

 そんな話なら何百倍良かっただろうか。わずかな表情の変化でも心配してくれる彼等を、理不尽へ叩き落すものでなければどれだけよかったか、と。

 仁は苛立ちを体現するかのように体を若干震わせ、次いで首を横に軽く振ると、カモから少し離れた場所で岩を背に胡座をかき、仮眠を取り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仁達よりははるかに近く、しかし距離そのもので見れば離れている浮遊岩の上。

 

 

 その上には、以前京都事変の時に千草と組んでいた、白髪の少年・フェイトと神鳴流剣士・月詠の姿があった。

 

 

 

「やー、お祭りおすかー・・・楽しそやわー」

「・・・そう言う割には、そうとは思っていないようだけれど? 月詠さん」

「フ・・・ウチが求めるは血と戦、ですえ」

「・・・」

 

 

 

 ニコリ笑いながら意外度物騒なことを言い放つ月詠に、しかしフェイトは何の反応も見せない。と、数秒間を置いた後、どこからともなく第三者の声が聞こえてきた。

 

 

 

『フェイト様、お待たせいたしました』

 

「お?」

「・・・来たね」

 

 

 

 言いながらフェイトはカードを取り出し、呪文を紡ぎ始める。

 

 

 

召喚(エフォウム・ウォース)・・・『栞』・『調』・『環』・『焰』・『暦』・・・」

 

 

 

 紡ぎ終えると同時に魔法陣が現れ、次々と少女達が転送されてくる。しかし、フェイトの底の知れなさや、ツクヨミの戦闘狂いに対し、少女達は普通の人間とは異なる部位こそあるものの、いたって普通の者達だった。

 

 しかし、それなりの訓練をこなしているのか、一般魔法使いよりは隙が少ない。流れるような動作で隊列し、片膝をついてフェイトへ頭を垂れた。

 

 

 

「予想よりも・・・随分と早かったね、五人共」

「いえ、こちらの準備が予定通り運んだのみです」

 

 

 

 何故だか、どことなく嬉しそうな声色で答える先頭の少女に目を向けたあと、改めてフェイトはオスティアへ視線を向けなおす。

 

 

 

「そう・・・それじゃあ明日、確認が終わり次第作戦を開始し――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チョット待ッテクレナイカナァ? ネ、僕チャン♥」

 

 

 

 

 開始しよう。そう言い切る前に、カタコトで甘ったるい雰囲気の漂う、しかし何処か耳に心地よいが聞こえた。

 

 

 

「にゃっ!? ど、何処から・・・」

「誰だ!? 何処にいる!」

 

 

 

 猫耳少女が驚き、ツインテールの少女が辺りを鋭い目つきで見回す。声はするのだが気配が全くない上、声の発信源すらわからないのだ。

 

 それはフェイトも同じらしく、無表情ながら辺りを随時見回している。

 

 

 

「ア~・・・ゴメンナサイ、一旦消サナキャネ」

 

 

 

 もう一度声が聞こえたと思った途端、浮遊岩の頂辺部分の、先程までは本当に何もなかった場所から、どこから来たのか大量の煙が現れ(・・・・・・・)、煙が晴れた時には今までそこにいなかった、淡い桃色の長髪を持ち、左目と右手辺りに血まみれの包帯を巻いた、着物をコート風にアレンジしたような黒衣の少女がいた。

 

 

 

「な・・・!? 気配すらなかったのに・・・」

「・・・いきなり出てきた・・・!?」

 

 

 

 姿は疎か気配すら皆無だった場所から現れた少女に、ツクヨミは面白いものを見つけたと言わんばかりににやけ、フェイトも若干眉を上げる。

 

 

 

「あなたは・・・一体何者だ?」

「ンア、悪イケド、僕チャンニハソレヲ答エテハ、アゲラレナイカナ」

「フェ、フェイト様を僕ちゃん扱いなんて!!」

 

 

 

 猫耳少女が驚愕から立直るやいなや怒りを見せるが、どこ吹く風で黒衣の少女はフェイトの方を見続けている。

 

 

 数秒沈黙が続き―――やがて包帯で隠れていない右目を嬉しそうに細めて、少女が言葉を続けた。

 

 

 

「君ニモ何カ為スベキ事ガアルミタイダケドォ、ゴメンネ一回ハ邪魔サセテモラウヨ♥ 少ナクトモ・・・明日ノ御予定ガ明後日ニナルクライニッ☆」

「邪魔をする?」

「何を馬鹿な事を! どうやって姿を隠していたかは知らないが、貴様一人で私たちに勝てると思っているのか!?」

「・・・慢心は身を滅ぼしますよ」

「フェイト様、月詠さん、やっちゃいましょう!」

 

 

 

 少女達がカードを構え臨戦態勢を取るが、刀を前に掲げている月詠はともかく、フェイトは命令どころか動く素振りすら見せない。

 

 

 

「フェ、フェイト様?」

「・・・」

 

 

 

 沈黙を貫くフェイトの顔には・・・心なしか《焦り》が見える。

 長い付き合いなのかそれを感じ取った少女たちが問う前に、黒衣の少女が先に口を開いた。

 

 

 

「僕チャンハ分カッテルンダヨネェ? ―――――『本気を出してもワタシには絶対勝てない』事ガ」

「え? 勝てない?」

「・・・絶対・・・!?」

「そんなはずはない! 出まかせを言うな!」

 

 

 

 少女たちが反論するも、当のフェイトは・・・・

 

 

 

「・・・っ」

 

 

 

 初対面の者でもわかるほどに、無表情を崩して苦い顔へと変えていた。

 ツクヨミは笑顔を崩してはいないが、明らかに冷や汗が大量に浮かんでいる。

 

 

 

「ホッ」

 

 

 

 岩から飛び降りた黒衣の少女は、まるであざ笑うかのように軽いステップで少女たちを避け、フェイトへと近づいてく。

 

 

 どうやって逃げるかと算段を立てているらしいフェイトが、若干後ずさったのを見て、堪えきれなくなったように黒衣の少女は笑い出す。

 

 

 

「ニハハハハ! ソウ身構エナクテイイッテバ! ・・・ワタシ “ハ” 君達ト戦ワナイカラ♥」

「・・・私 “は” だと?」

「戦ッテモラウノハァ、コノ子ダヨッ」

 

 

 

 黒衣の少女がピシッと指を上に向けると、鳥とも龍とも戦艦とも違う、奇妙な風切り音が聞こえ、一瞬影を映したと思った・・・刹那。

 

 

『――――《グルルル・・・オオォ・・・》』

 

 

 まるで “降下の時間をすっとばした” かのように、岩の上に奇妙な生き物が姿を現したのだ。

 

 

「・・・ふぇっ!?」

「・・・なんですか、この化物は・・・!?」

「不気味な・・・っ」

 

 

 

 ガッチリ組まれた妙な形の、夜では影の浮くほど真っ黒な骨の体に、肘膝首から先はダークグレーの色をもつ、鷹と狼を足して2で割ったような肉体がついている。

 人間のような造形ではあるものの、足の形や腕の長さなどは人間とは明らかに違っており、特に前述した骨などは、その骨だけで出来ていても、生物として成り立っていけるような、そんな感触を受けさせる。

 

 機械と生物が融合したような質感を持った、怪物がそこにいた。

 

 

 

「名前ハマダ決メテナイカラ~・・・僕チャン達ト戦い終ワッタラ決メチャウヨ♥」

 

 

 

 この怪物からも、奇妙な何かを感じ取ったフェイトは、無表情を崩したその表情のまま一歩下がる。

 

 

 

「ジャ、死ナナイヨウニィ・・・ガンバッ☆」

 

 

 

 それだけ言うと、黒衣の少女は姿を消してしまう。後に残された黒骨型の鷹狼の化物は、一瞬下を向いて溜め込み・・・一気に解き放つ。

 

 

 

 

『《オオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!》』

 

「くっ・・・!!」

 

 

 

 

 望んでもいない戦いだが、わかっている事は一つだけあった――――――それは、絶対に作戦開始が遅れること、即ち黒衣の少女の思惑通りのことが起きるという事であった。

 

 

 その後、オスティア周辺で一番大きく、且つ大量の魔力を持っていた岩は周りの多数の岩ごと消え、その下の大地すら派手に抉れていたという。

 

 

 

 




 
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