「へぇ、なるほど。思いのほか売上がよかったのか」
「そ! やっぱり才能は持つべき、そして努力はすべきだね! おかげで一儲けした金でこんな船買っちゃたしさぁ!」
「何か金魚みたいアルね」
「そこがまたいいのよ、かわいーじゃん!」
「・・・でも、船の名前が・・・」
「何よ? この『グレート・パル様号』になにか不満でも?」
「えっとぉ・・・」
「・・・・(ネーミングセンスゼロかよ・・・)」
まるで金魚のような飛空船のデッキの上。
そこには船の持ち主である早乙女ハルナを始め、茶々丸や少しはしゃぎ気味な和美に古菲、そしてハルナの肩に乗っているカモと、眠そうな顔で壁にもたれ掛かる仁がいた。
今朝方に出発しようと空を飛んでいたら、横を通りかかった金魚からドデカイ声が聞こえ、誘導されるまま仁が甲板へ着陸してみると、中から四人が出てきたのだ。
仁の飛ぶスピードよりは遅かったが、ちょっと面倒くさくなってきていた彼にとって、この船はまさに “渡りに船” な存在で、乗せてもらうことにしたのだ。
・・・というわけで御一行は、一路オスティアへ向かっているという訳である。
この船を手に入れた経緯をカモがハルナから聞き終えると、今度は微妙な表情でハルナが仁へと声をかけた。
「それにしても驚きだよ・・・初めは年齢詐称薬でおっきくなった仁くんがカモくんを肩に乗せてるんだと思ってたけれど・・・」
「真実を聞いてびっくり仰天、まさかのまさか年上だたアルからね」
「・・・ちなみに、茶々丸さんは知っていたんだよね?」
「はい。学園長室や別荘で何回か会っていましたから」
「依頼人が学園長だったっていうのも、これまた凄いよね~・・・」
もう隠す必要もなかろうと―――というかそもそも仁は、騙す気も隠す気も初めから持っていない―――仁は自分の正体を明かしたのだ。
混乱しか招かないだろう、異世界からの異邦人だという情報を除いて、だが。
その後、茶々丸の証言や魔力量の検査により、その発言が本当だとわかった。
「ネギ先生も驚くでしょうね」
「というかチョット後悔するんじゃないの? 年上にタメ口きいちゃったー!? って」
「無いとは言い切れないアル・・・」
「まぁ、仁くん・・・いや、仁さんは自分が子供だとは公言してなかったわけだし、もともと成り行きでそうなっちゃった部分もあるんだから、仕方ないんじゃないの?」
「でも兄貴、気にする時はトコトン気にするしなぁ」
「・・・・」
話が盛り上がる中で、話題の中心である人物は、ずっと沈黙を保っている。
半分はいつも通りの面倒臭さから、半分はこの先の不安からで、カモも加えて話をしている少女達を見るでもなくただ目を細めて甲板を見続けている。
ただ、考え続けている。
「それにしても、古老師が兄貴の杖を見つけといてくれたとはなぁ」
「なに、偶然見つかただけヨ」
「いつ見ても古そうで、でもどこかパワーの感じる杖よねぇ。流石はサウザンドマスターの杖、ってとこかしらね!」
もう別の話題へと変わったらしい。が、それでも尚、仁は一言も口にしない。
談笑の続く甲板の上だったが、その和みムードは微かな音よりかき消される。
「ん? さよちゃんからの緊急通信?」
「見みようよ」
和美はそう言うと、自身のアーティファクト『渡鴉の人見』という、スパイゴーレムであるそのアーティファクトの1機の移している映像を出す。
そして映像が映った途端、戸惑いは焦りへと変わった。
そこに映っていたのは、彼女達の仲間である『宮崎のどか』と、おそらく此方での彼女の仲間であろう人物たちだったのだ。
「嘘っ、本屋ちゃん!? 何かやばいんじゃないの!?」
「うんヤバイみたい・・・けど此処からじゃオスティアの方がずっと近いね・・・取り敢えず、ネギ君たちの方へ行こう」
「まってくれ! 何も兄貴のところへ向かうのだけが出来る事じゃないぜ!」
少し前に仁に言われたことを、ちょっともじってカモが発言する。
そして、壁にもたれかかっていた仁を、ビシッと勢いよく指さした。
「旦那! のどか嬢ちゃんとお仲間さんを頼むぜ!」
「・・・・あぁよ」
言うが早いか、仁はデッキの端により、迷う事無く跳び下りる。
そしてこの船の最高速度など軽く超えた速度で、指定された方向へとかっ飛んでいった。
「・・・なるほど、あんな速度で飛んだらカモくん耐えられないから」
「あぁ、ぶっちゃけ言って、遅れてんのは俺のせいだったりすんだよなぁ・・・」
「私のジェットなぞへでもないですね」
「卑下してるのか褒めてるのかちょっとわからないね、その言葉」
・
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・
・
・
オスティアより西五十キロ地点にて、宮崎のどかは雨あられと降り注ぐ魔法の矢から身を守るため、岩陰に隠れていた。
一人ではない。
されど、麻帆良の人間でもない。
彼女のそばに居るは、この世界で知り合い共に冒険者として過ごしてきた、剣士の男・クレイグ、反対側の岩に所謂シーフの青年・クリス。
賞金首と分かっても尚、匿いながら冒険を続けている者たちなのだ。
彼らもまた降り注ぐ魔法から身を隠している。
ただのトレジャーハンターがここまでド派手に狙われるわけもなく、恐らくはのどか狙いであろうに・・・文句も言わず寧ろ励ますように気丈な笑顔を向けている。
「無事だな、嬢ちゃん」
「あ、は、ハイ! 大丈夫です!」
「クリス! どうだ打開できそうか!?」
「今のままじゃ無理無理! 唯の乱射ならともかく超遠距離からだからね!」
「これまでかかってきた雑魚共とは格が違うってわけか・・・」
クレイグの言葉に返答したあと、クリスは耳辺りに手を当て念話による通信を開始した。
対象は、彼らよりは敵に近い位置の岩陰にいる、如何にも魔法使いといった格好の女性・アイシャ。
そばには、黒髪を短く切りそろえた女性・リンがいる。
『そっちはどう? アイシャ』
「千里眼で姿を捉えたけれど・・・逃げた方がいいかも知れないわ」
『そんなにヤバイの?』
「ええ。奴等はおそらく、シチルス亜大陸で名を挙げている賞金稼ぎ “黒い猟犬” ね。実力もさる事ながら、その非情さも有名よ。奇襲なんか考えないで―――」
「アイシャ! 不味い!」
「え?」
リンが叫び、アイシャを抱いて岩陰から飛び退ると、そこに魔法の矢が幾本も突き刺さり爆音を上げる。
逃げるタイミングがあと一秒でも遅ければ、餌食になっていただろう。
『どうしたのアイシャ!?』
「気づかれたわ! 何とかしてこっちも逃げるから、クリス達も早くノドカを連れて逃げて!」
クリスからの返答を待たず、通信を切ると杖を構えて賞金稼ぎ等のほうを向いた。
「さて、本当に何とかして逃げないとね」
「・・・勝てる勝てない以前の問題だし」
通信を切られたクリスは、顔に読心術など使わなくてもよい程の焦りと不安を浮かべるが、その通信内容を汲み取ったクレイグは軽く落としていた腰を上げる。
「助けに行きたい気持ちはわかるが・・・正面切って行ってもダメだぜクリス」
「でも!」
「嬢ちゃんのこともある、あいつらを信じて―――」
なんとかクリスを説得しようとするクレイグだったが、その直後にまたも通信が入った。
『クレイグ! 不味い事になったっ・・・!』
「! どうしたリン! 無事なのか!」
『超がつくほど大ピンチ・・・っ!』
「ア、アイシャはどうなったの!?」
『奴らに捕まった!』
「そんな・・・アイシャさん!」
時間稼ぎも目くらましも満足に出来なかったらしく、苦しそうな声を念話で返してくるリン。
彼女が捕まるのも時間の問題だろう。
「クソッ!」
「ク、クレイグさん、私に考えがあります!」
「本当か嬢ちゃん!?」
「はい! その為にも、まずは顔が見える距離まで近づかないと―――」
恐らくのどかは、自身の心を読むアーティファクト『いどのえにっき』で思考を探り、彼女らを助け出すつもりなのだろう。
―――しかし、その考えは別の行動で否定されることになる。
「クレイグ行くよ! アイシャ達を助ける!!」
「ちょ、おいクリス! 待て!」
「待てないよっ!」
シツコく止める間もなくクリスは駆け出していってしまう。クレイグは歯ぎしりしながらも自分も剣を抜いて岩陰から出た。
「いいか嬢ちゃん、そこから出んじゃねぇぞ!!」
「あっ・・・クレイグさん! クリスさん!」
岩陰から出たことで、そして近づいていた距離のせいですぐに見つかり、太めの体格の人物は今まで放ってきたのであろう魔法の矢をこれでもかと撃ちまくる。
その矢の嵐の中を、クレイグとクリスは掠りながらも駆け抜けていく。
「何先走ってんだよクリス!」
「でも、でもアイシャが!」
「わからんでもないけどな! もっと他にやり方あったろうが!」
口喧嘩しながらも互いに補い合いながら走り続ける彼らの目の前に、羊の骨のような頭をした男が降り立つ。
そして一瞬溜めたかと思うと・・・何と六本も腕が現れ、中からは骨で出来た体が覗いた。
「な、魔族!」
「なんだこいつ・・・ぐおっ!?」
「クレイグ!?」
その骨の腕は肘先から伸び、クレイグの腹を捉えて岩に叩きつける。
それだけでなく片側三本を伸ばして殴打しつづけ、クレイグを完全に沈めてしまう。
「こいつっ・・・うおっ!?」
「グクク・・・!」
「しまっ」
六本の腕を巧みに避けるクリスだったが、バランスを崩したのが運の尽き。
「オオラアアッ!!」
「う、ぐああっ!」
六本腕での正拳突きを一度にくらい、彼もまた倒れ伏してしまう。
その様子を知らないのどかは、彼女へ送られていた念話が途切れたのを不審に思い、なにか打開策はないかと考え続けていた。
「なんとかしないと・・・諦めちゃダメなんだ、私のせいでこうなったんだから、だからなんとかしな―――」
「ふむ、お前がミヤザキノドカか」
「え・・・? ふぐっ!?」
だが決心しようと拳を握り締めたとたん、いつの間にか目の前に来ていたらしいスキンヘッドの男に、首を掴まれ捉えられてしまった。
彼のそばに、骨で出来た魔族の男とトカゲのような男も次いで現れる。
「おう、そいつがターゲットか、リーダー」
「ああ間違いない。それよりも、奴らはどうだった」
「はっ、相手にもならなかったぜ」
「こちらもだ・・・グククク」
言いながら、三人を地面に向けて放り投げた。
リンの方はまだ意識があるらしく、顔を上げて何かを言おうと必死になるが、体力が残っていないようで言葉になっていない。
「で、ミヤザキノドカは本命を釣るための餌なんだが・・・こいつらはどうすんだ?」
餌。その単語でのどかは訝しむも、状況は考えるまで待ってくれない。
「用はない。始末しておけ」
「!?」
「ほうほう、始末か」
嬉しそうに見た目と合わない高めの声を出した小太りの男は、アイシャを捉えていた砂蟲の触手でリンも捉えた。
(どうしよう・・・このままじゃっ・・・)
「なら、好きにしちまうか」
「うむうむ、戦利品とも捉えてもいいネ」
「良い訳あるか、阿呆ーダラが」
「は?」
「ム!?」
「あ?」
「ぬぅ!」
「・・・え?」
彼ら四人にとっては聞き覚えのない、しかしのどかにとってはどこか聞き覚えのある、面倒くさそうな雰囲気を隠そうともしない声が聞こえた。
その声の発信源、空中に目を向けるとそこには・・・
「仁・・・君・・・」
「・・・・アンタラも商売だろーがよ、こっちにも事情があるんでな。相手してもらーぞ」
空中にまるで当たり前かの様に立つ、白髪交じりの長身の男・仁の姿があった。
そして、彼らが反応しきるその前に――――
「モフウ!?」
「な、地面が・・・!」
「うおおっ!?」
「・・・・めんどーせぇけど、な」
彼らの踏みしめていた地面がくり抜かれ・・・ひっくり返った。