淡い桃色を持ち少しハネ気味の、透き通るような長髪……それは、美しいと言えるだろう。
垂れ目気味の碧眼、形の良い眉、柔らかそうな唇、顔のパーツのバランス……普通に、可愛いと言えるだろう。
甘ったるい雰囲気が漂う、鈴の音のような声色……まず、聞き惚れるだろう。
少し華奢だが、線の出にくいはずの着物風ドレスの上からでもわかる、モデルのような肢体……虜となる者も、現れるだろう。
左目に巻いている包帯、銃口三つのパームピストル、和風の黒ドレス……十人中十人、特徴的だと言うだろう。
彼女は美少女だと、出会った皆まず口をそろえるだろう。
「―――――っ!」
だが、白髪交じりの黒がかった藍色の髪を持つ、ジト目とツリ目の中間的な眼をした、長身の三白眼の青年だけは―――彼女に『戸惑い』と『怒り』しか抱けない。
「……会いたかーたという割にゃ、随分探し回らせてくれたじゃねぇか」
「ソッカァ♥ 仁モ私ニィ、会イタカッタンダネェ♥ 相思相愛、ナンダネッ♥♥」
「…………」
これまであった経験から、紬を前にしても仁は歯を食いしばるに留まっているが、独器の化物や老人との会話がなければ、話す間もなく突っ込んでいっただろう。
……否。
もし会話がなくとも、以前の紬との違いが
「……何企んでる? 紬」
「何ヲッテェ、ソンナァ♥ 私ノ最終目標知ッテル癖ニィ☆」
「……それと合わねぇから、聞いてんだろーがよ」
少々イライラしてきたのか、仁は僅かに眉を寄せる。そんな彼に、紬はどこか嬉しそうな声と表情で言葉を発した。
「ソノ面倒臭ソウナ雰囲気ト、間ヲ伸バシタリシタ喋リ方……ナ~ンダ、ビックリシタヨ? 仁。
「……教えろってんだ紬。何企んでやがる」
「ア! チョット元ニ戻ッタ!」
「教えろ」
「キャッ☆ ソンナ風ニ凄マレタラァ、ワタシ濡レテキチャ――――」
「教えなってんだろうが!!!」
何時もの仁のダルそうな雰囲気や話し方は完璧に消え去り、怒りに満ちた表情は三白眼も相まって恐ろしげな形相を作り出している。
少し猫背気味の立ち姿から、しっかり地を踏みしめた立方に変わったあたりで、紬は恍惚とした表情を浮かべた。
「ソレダヨォ仁、アナタノ本当ノ姿。無理ナンテシナクテイイヨ? 有リノ侭デ、イッパイ、イッパァイ……私ト一緒ニ……♥」
「最後だ紬ィ。てめぇの “考え” を教えな」
「ウンイイヨ! キット仁モ気ニ入ルト思ウカラッ☆」
指を立ててクルクル回し、ピョンピョン跳ねながら陽気に話し出す紬。
それとは裏腹に、『本当の』様相や喋り方に戻ったらしい仁からは、怒りが止めど無くにじみ出ている。
「前回ハネ、ワタシモ反省シタノ! 仁ガ怒ッタ理由分カルヨ? 目ノ前デ居ナクナッタリ、相思相愛デ大切ナ人ガ人殺シニナンテ手ヲ染メタラァ……誰ダッテ怒リタクナルヨネ、“君の手は汚すべきではない!” ッテ」
「ほざきな」
「ンモウ♥ 照れレ屋サン♥ ―――ア、ゴメン話反レチャッタ。デモネェ、私ハソノ可能性モ頭ニ入レテイタンダヨ? ……ダカラ、“プランB” ニ移ル事ニシタノ」
「Bだと?」
「実ハネェ、仁ト村デ会ウ約一週間ホド前ニネ、ワタシハ凄イ物ヲ手ニ入レタンダァ。ソレハネ、一番最初ニ生ミ出サレタ “偽器” ニシテ、御伽噺ダトシカ言ワレテコナカッタ存在…………『原初の偽器』ヲ手ニ入レチャッタンダ☆ ワタシッテ、ラッキーガール☆」
「原初の偽器……だぁ……!?」
偽器関係に疎い仁でも、その噂は知っていた。
曰く世の中には一番最初に生み出され、且つ最高傑作の、所謂『原初の偽器』がある。
それはやはり独器の模倣でしかなく、何故だか戦闘にも役に立たないと言われているが、空間を超える力と、人ならざる “何か” を従えることのできる力を持つ、偽物とは思えない力を秘めた偽器らしい、と。
噂を思い出しながら、仁はある事実にたどり着いていた。
もしそれが本当ならば、今まで起きた二つの事柄が、いっぺんに解決することになる。即ち――――
「まさかお前、俺がこの世界に跳んだのも、[偽器兵]が現れたのも……!」
「ソウダヨ、ワタシガヤッタンダァ。色々イレギュラー合ッタケド? マアデモ成功サセテクレマシタ! コノ」
言葉を一旦区切り、胸元から飾りが大きすぎて紐との比率が合っていないペンダントをつまみ出す。
「『原初の偽器』デネ☆」
「!!」
「大変ダッタヨ? 何デカ仁ガ我忘レチャッタカラ、ワタシ達ドッチモ死ニカケチャイソウニナッテ。ワタシハマダ大丈夫ダッテ言イ切レル根拠ガアッタケド、仁ハ死ンジャウ方ニ天秤ガ傾イテタカラ……予メ、セットシテオイテ大正解!」
「…………」
怒りからか事実からか、何も言わずに仁は黙る。
そんな彼に構わず、彼女は話を続ける。
「ソレデ、計画―――“プランB” ナンダケドネ? 実ノトコロ、異世界ニ転移サセルトコマデシカ考エテナカッタノ。マァ知ッテイル人ハ居ナイシ、ソレデモイイカナッテ思ッテタンダケド……デモ中々見ツカラズニィ、場所ガ分カラナカッタ所為デ、仁ノ苦シミヲ増ヤシチャッタ」
「今、絶賛苦しみ中だがなぁ……」
「アハッ、冗談上手イネ☆ ……ソコカラ考エテ、閃イタノ。ワタシガ手ヲ汚サズニスンデ、尚且ツ仁ノ目ノ前デ居ナクナラナイ! ソシテ、ワタシト一緒ニナレル方法ガ♥」
「そいつぁ、何だ?」
「ソレハネェ」
勿体ぶる様に軽やかに舞ったあと、仁の表情が険しくなったのを見計らったかのように、話し始めた。
「『原初の偽器』ノ力ハ “3ツ” アッテェ、内一ツハ未ダ分カッテナインダケド、ソノ二ツハ分カッテタノ。ダカラ使ウ事ニシタンダ。一ツ目ノ “空間超え” と、二ツ目ノ――――― “偽器兵完全操作” デネ☆」
「何!?」
偽器兵完全操作。
つまり学園祭に現れた偽器兵はただ暴れていたわけではなく、紬によって操作されていた事になる。なぜ傷ついていたかもこれで合点がいく。
大人しくさせる為に、紬が相手をしたのだろう。
「ソシテ! ココカラガ、壮大デ崇高ナル計画ノ、全貌ダヨ☆」
「……」
「コノ“魔法世界” トカユー、訳分カラナイ世界ニ飛バサレチャッタケド、運良ク狭イシ此処カラ始メルソノ計画ハネ……マズ、偽器兵ヲターックサン呼ンデ、
『強イ奴モ弱イ奴モ片ッ端カラ世界ニ放ッテ、
「!!??」
対抗できる者がほぼおらず、倒せるものと成ればもう仁しかいない。
そんな兵器群を送り込んだが最後―――どうなるかなど、語るべくもないだろう。
即ち彼女の言う『崇高な計画』は……実質、成功を約束されている事に外ならない。
防ぐことが出来なければ、あるいは彼の修業が実らなければ…………そして進行が半分でも進んでしまえば、後には絶望しか待っていないのだ。
そして話は終わらず。
一旦は収まったらしい体を再度火照らせ、ウットリとした表情のまま紬は言葉を紡いでゆく。
「デモ、仁ガ錯乱シチャッテ止メニ行ッチャウカモ知レナイカラァ…………私ノコノ手デ、チョットノ間オネンネサセテアゲルノ♥ ソノ間ニコロット逝カセチャイマス☆」
「…………」
「コッチノ世界モアッチノ世界モ全部終ワッテェ、ソシタラァ……ワタシト仁ハ “一ツ” ニナルノ♥ オ互イニ『生マレタママノ姿』デ抱キ合ッテ…………私ヲ忘レナクサセテェ、ア・ゲ・ル♥ キャウン♥」
恍惚とし、靄は何も目に入っていないかのように見える紬。
対象であるはずの、仁の姿さえも例外なく。
その言葉を聞く仁の顔は、下に向けられてできた影のせいで伺えない。
だが、彼女はそんな事など目に入っていないようで、自分の体を抱いたままくねらせている。
「アァ、仁。ワタシハ楽シミナンダヨ……アナタト1ツニ―――」
「黙れぇ!!」
ほぼ不意打ち気味に、予兆なく回り込み一撃をぶちこむ。
【飛】による豪速の迂回から、陰すら残さぬ神速の蹴撃。一瞬遅れ、群青のオーラが
強烈な衝撃波と轟音が響くものの……当てられた紬は直前に “煙” を纏ったようで、殆ど傷は付いていない。
「ソンナニ待チキレナカッタンダネ☆ 分カッタ、計画ヲ出来ル限リ早メテ―――」
「口ぃ閉じろ!!!」
岩石が飛び上がって煙の盾を吹き散らし、仁は砲弾と化したソレを紬へ打ち放つ。
そこへ彼女は煙で出来ているかのような弾を一発差し込む。
直後にトリガーを打ち鳴らすと、球は毒々しい桃色の爆発を起こして、岩をバラバラに砕き切った。
しかしそれでは終わらず、【足場】を次々と作って跳ね回る。
音によりわずかに視認が遅れた刹那、紬へと肉迫し―――
「『
「『
鈍く光る群青の足と、毒々しい桃色の煙が、ぶつかり合った。
[飛]の独器使い VS [煙]の独器使い、戦闘開始。