空立つ”飛”の独器と男   作:阿久間嬉嬉

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飛ぶ力VS煙の力による戦い、勝者となるは果たしてどちらか?


それでは本編をどうぞ。




飛翔する怒り、煙に紛れる愛

オスティア終戦記念祭、本格開催一日前ということもあって、老若男女に人獣魔、善悪の区別なく大勢の人々が集まってきており、出店なども大勢出ている為より一層賑やかとなっている。

 

 その浮遊都市オスティアの、珍しく人気のないテラスで、ネギ達は再度再会を喜び合っていた。

 

 

「せっちゃん、ホントに無事で良かった……」

「お嬢様も、よくぞご無事で」

「ふむ、より一層強くなったようでござるな、古菲」

「な~に、まだまだアルよ」

「全く、本当に無茶ばっかりして!」

「すすすすみません~!?」

 

 すっかり何時も通りのネギ達を、千雨や茶々丸に和美は少し離れてみやり、ラカンはそれよりも少しばかり後方に引いて見守っている。

 

 つかの間ながら、暖かな時間が流れてゆく。

 これからまた荒波にもまれるのだから、例えコレに少々の悪ふざけが混じろうと、寧ろ看過すべきだろう。

 

 絶体絶命の窮地を乗り越えた、白き翼。冗談ではなく、《本当に二度と会えないかも》という不安を、そして死と隣り合わせのサバイバルを乗り越えたが故。

 笑顔と、朗らかな声を絶やさない彼女達。

 

 そのまま再会の喜びの分かち合いに、ひと段落を付けて、夕飯の調達やそれぞれの宿へと向かおうとした。

 

 

 

 

 ―――――まさにその時だった。

 皆の顔から一瞬で笑顔が消えたのは。

 

 

「ね、ねぇせっちゃん……!」

「ええ、お嬢様」

「なんでござるか、これは」

「悪寒がするアル……!?」

「なんなのよ、コレ……」

 

 

 突如として辺りの気温が氷点下まで下がったように、皆震え始めたのだ。

 ガタガタ、ガタガタと次から次へ冷汗が湧き出、動けない位に悪寒が止まらない。

 

 地も震え空気すら振動し、言い知れぬ恐怖をたたえた『圧力』を絶えず伝え続けているようにも感じた。

 

 この場の誰にも断じれぬが、おそらくは錯覚。

 しかし、それでも尚『周りすら変化している』感覚はやまない。

 言い知れぬ『圧力』それ自体は、まぎれもない現実なのだから。

 

 よく見ると―――ネギは愚か、ラカンでさえ口元は笑んだまま若干ながら震えている。

 

 

「おっさん……何だよ、これは」

「すまんなチサメ嬢ちゃん。こんな気味の悪い空気なんざ、今まで感じ取ったことがねぇ」

「……あいつが現れた時でも、こんな雰囲気は……」

 

 

 警戒して辺りを見回せど、何の影も目に入らない。

 常に空気が振動しているかのような違和感が走り、空間に“恐怖”が蔓延していれど、何の影も見えはしない。

 

 時折微かに、日常にはありえない不可解な音が聞こえるものの、映像自体は頑として現れない。

 

 

 

「一体何が、起こっているんでしょうか……?」

 

 

 

 ネギは不安を浮かべたまま、雲海の広がる彼方を見やった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 オスティアよりはるか東。

 

 

 かつては大国として名を馳せ、しかし国の大きさばかりで大した力も持っていなかった故に、滅びてしまった国の跡地。

 現在は最大級の大きさを誇る遺跡として、また旧オスティア王都跡に次ぐ観光名所として期待されている土地。

 

 その土地にて、なにやらツルハシとホウキを片手に歩いている者たちがいた。どうやら、この遺跡に隠された宝を狙っているようだ。

 

 

「なぁ……ホントやめにしねぇか? 何か雰囲気がすっごい怖えんだよ」

「……おれも、ちょっと後悔してる……悪寒や震えが止まらねぇ」

「さっきから妙な音が幾つも遠くから聞こえてくるしさぁ……でっかいのか近ぇのか、分からんけど……」

 

 

 かつての大国の名は伊達ではなかったらしく、高さも幅もかなりの規模を誇る建物は群をなし、オスティアのような規模の元・浮島もあったようで落下した状態で幾つも残っている。

 

 

 お宝もわんさかあるであろうそんな中を、しかし希望など見えぬ表情のままで震えながら、男ふたりは歩いていく。

 

 

「このままだと、恐怖で魂が抜けて浮かびあがっちまいそうだぜ」

「そうだな。あの浮島みてぇにな」

「そう、あの浮島……」

 

 言いかけた男も、先にそちらを見ていた男も、唐突に言葉を区切った。いや、区切らざるを得なかった。

 

 何故ならば―――

 

 

 

 ―――沈んだはずの旧王国がくり抜かれ、次々と浮かび上がっている(・・・・・・・・・)という、信じられない光景が広がっていたのだから。

 

「は?」

「へ?」

 

 だが、度肝を抜く光景はそれだけにはとどまらない。

 

 ぴたっと止まったかと思うと、何とジャイロ回転を始め、一気に音速すらも超えたらしく爆音と共に射出されたのだ。

 現代風に言うならば、ハワイやインドネシアの島々が次々と浮かび上がり、猛回転して打ち放たれたといえば想像しやすいだろうか。

 

 視線上に滞空する、集落規模の《飛行陸弾》。

 魔法使いとて成し得ないはずのその離れ業は、しかし毒々しい色をした大量の煙によって小さいものは幾つか止められ、直後に耳が壊れそうなほどの大音量で爆ぜてものの見事に爆砕される。

 

 

 ジャイロ回転によって生まれた猛風と、大爆発による爆風が合わさり、まるで嵐の如き暴風を、そこより遠くに居るはずの彼らへ叩きつけてくる。

 

 

「うおおおおっ!?」

「のわあああっ!?」

 

 

 これで終わり―――かと思いきや。

 生き残っていた大きな島やくり抜かれ浮いた大地が、今度はコマのように回転しながら何かを挟み、すり潰すように回転数を上げる。

 ……その後挟撃の威力を強めたらしく、おのずから圧砕された。

 

 

 まだ大きな破片を残す浮遊岩石は再び動こうとするも、煙を吹き散らす何かが横一線に流れたと思うと、次いで連鎖するように爆発。

 瞬く間もなく粉々の砂状になってしまう。

 

 次いで、煙は『人間の手』のような形をとり、何者かへ掴みかかり始める。

 ソコへ鈍く群青色に光る “モノ” が砲弾のように突っ込んで煙を吹き散らし、煙を纏っていた “モノ” を真下に打ち下ろす。

 が、煙を纏っていた “モノ” もタダでは終わらず、散らせれていた煙を無理やり爆破して、無茶苦茶に破片や衝撃波を飛ばした。

 

 

「……んだ、よ、これ……?」

「…………」

 

 民間人の間でも語り継がれている、サウザンドマスター・ナギと千の刃・ラカンの、辺りを焦土にしながら十三時間も戦い続けた、という話をその派にいた男達は思い出したが、はっきりいって今行われているのは、その比ではない。

 

 彼らが十三時間戦い続けて焦土と化した地よりも大きな島々や、それらが乗っている大地を、今争っている者たちはたった一回の打ち合いで粉々にしてしまったのだから。

 

 

 逃げながら少し高い所へ登り、男達が高台からよくよく見ると、辺りの景色がその浮かび上がった大地のある場所を中心に、新たな谷が作られていたり、自然が消し飛び焦土と化していたりと、昨日までの落ち着いた雰囲気がまるごと消え去っている。

 しかもそれは数メートル規模ではなく、数キロ(・・)メートル規模なのだから、もはや笑えない。

 

 

 

「なんだよ、何なんだよあれは!?」

「お、オイオイ!? つつっ、突っ込んで来るぞ!」

 

 

 叫びに釣られて見ると、爆発と同時に群青色の光が此方に向かって、すっ飛んでくる光景が目に入る。

 あわや激突の寸前で、光はなんとか建物近くの空中へとどまった。

 

 

「「に、人間!?」」

 

 光の正体はなんと人―――しかもまだ若い『青年』。

 魔法世界でも体型にしては珍しい、高身長。

 鎧の如き足枷をつけて空中に立っている。

 

 

「チィ……!」

 

 

 彼は男達の方向にチラリと目線を向けると舌打ちをし、腰を落として飛び出そうとする。

 ・・・が、何かに感づいたように腰を落とした格好のまま(・・・・・・)、消えたと見紛う高速で移動すると、

 

 

『恋心への狙い撃ち』(フューム・シュート)ォ♥」

 

 

 直後に甘ったるいがよく響く声が聞こえ、この位置でも分かる程の大きな弾丸が飛び出し、それを青年は思いっきり蹴り上げる。

 煙を纏っていた少女がトリガーを打ち鳴らすと弾丸は上空で大爆発を起こし、その余波で建物や周りの市街は原型をとどめないほどにボロボロとなり消し飛ばされた。

 

 少し離れてみていた男達もいっぺんに吹き飛び、余りの事態故か悲鳴も上げられない。

 思った以上に高く打ち上げられてしまったらしく、ホウキも手放したため空を飛べない。

 このままでは地面にぶつかって潰れてしまうだろう。

 

 

「クソッ!」

 

 

 青年は毒付いたあと、有らぬ方向を睨み鎖を揺らす。

 その途端―――なんと島の一つが、不意に浮かび上がって落ちていた彼らを助け、その島はやや乱暴に着陸させられた。

 

 

「………………」

「――――――」

 

 

 恐怖の余りか、それとも彼らの放つ異様な威圧感に当てられたからか、意識を失い倒れ伏す男達。

 

 

「っ―――ァアアァァっ!!」

 

 

 青年が叫び、一瞬で音速を超えたのか辺りに強烈な音を轟かせる。

 ほぼ同時に、何かがぶっ飛ぶような音がしたが―――その瞬きするかしないかの僅かな間だけで、青年の姿も少女の姿も消え去り何処にも居なかった。

 

 音が遠くなった直後に、男たちを載せた大地が再び浮かび上がり、其処から離れた場所へ飛んでいく。

 

 そしてそのまま、見えなくなったのだった。

 

 

 

 

 

 所は、最初の位置からは大きく変わり。

 彼らは何処へ行ったかというと―――先ほど離れて戦っていた地とはまた別方向にいた。

 

 どうやら、青年が突進技を少女へ繰り出して、無理やり元王国跡から遠ざけたようだ。

 視線を向けていた方向からするに、どうやら青年は自分から離れるだけでなく、彼らを乗せた大地をできる限り遠くへやっているらしい。

 

 青年は力そのもので飛びながら、少女は煙を足場にして下方向に噴出させて、宙に浮いている。

 やがて距離を放し終えたのか、青年は少女を睨みつけた。

 

「お前ェ……! 一歩間違えばアイツ等ぁ墜落死……いや爆発の余波で粉々だろが、何故ぶっぱなした紬ぃ!!」

「ダッテェ、アイツ等ナンテ仁ヤワタシト比ベレバ、其処ラヘンノ塵芥屑以下ジャン?」

「! ……あぁ……そういう奴だったなぁ! 『今の』お前は!!」

 

 

 お互いの疲弊具合が同じに見える彼らは恐らく実力も同程度。

 いや、もしかすると、そんな中で他人に構っていられる青年の方が上かもしれない。

 

 

 威力はまだ弱めだったらしく、先程の男たちは勿論、僅かに居たらしい旅人の中からも死者は一人も出ていない。

 広大な市街と連なる幾つもの大地を一辺に吹き飛ばす爆発や、人が充分に暮らせる広さを持つ島十数個を浮かばせる力がまだ“弱め”など、考えたくもないが。

 

 

『倒足(ガルヴカーギ)』!!!」

「ハバっ?」

 

 

 話を強引にぶった切って行き成り繰り出された、残像すら映させぬ蹴りに反応できなかったらしく、紬は奇妙な声を上げてクルクルと回転する。

 弧を描く余波により、地面が不規則な軌道でえぐり散らされ、砂煙や土石が多量に吹き上がる。

 

 必殺技扱いとは言え、またも“持続して”マッハ数十を叩きだす、豪速の横蹴り。

 これが……独器使い(かれら)にとってはまだ序の口なのか。

 

 

(!!)

 

 ……ここで追撃ができれば、仁は更に彼女を追い詰めることができたであろう。

 だが回っている最中に思いっきり撒いたのか、目視が困難なほど薄い煙が、しかし大量に漂っていた。

 

 これは『ステルス性の煙』の『爆発性の煙』を合わせたもので、同じ独器使いでなければうっすらとも見えず、また触っても感触すらない。

 

 尤も―――

 

 

(クソッタレが()()()()()()!?)

 

 これでもかと大量に撒かれていたため、見えたところでよけられない。

 そのまま、ニトロをどれほど使っても到底届かないような規模と威力の爆発が、カチン! とトリガーが鳴らせれて巻き起こった。

 

 

「が、あああっ!!」

 

 

 仁は回転こそさせられかったものの、焼かれて思いっきり吹っ飛ばされる。

 

「ちいっ……!」

 

 それでも尚。

 爆煙の外側に近い位置から出てきた為、一応回避の為に移動はしたようだ。

 これで紬が万能型ではなく、爆破重視の攻撃型であれば……硬さに乏しい仁ではどうなるか、語るべくもない。

 

「……」

「……二ィ……♡」

 

 そのままお互いセリフを交わしたり、睨み合ったりするのがお馴染みなのかもしれない。

 が…………彼らにそんな余裕など存在せず、仁は再び島を十数個持ち上げ、紬は煙をおぞましいほどに噴出させる。

 

 

 

『弾足』(ブルレタートルムス)!!」

『爆ぜる愛憎』(スモーク・デトネイション)♥」

 

 

 煙がまたもや爆ぜ、放たれた岩弾―――否、『岩山弾』と島弾をいくつも爆砕する。

 砕ききれないものは避け、紬は次々に弾丸を仁へと打ち込んでゆく。

 それを仁も避けながら、紬を確りと睨みつけた。

 

 

『砲足』(リクムス)!!!」

 

 

 砕かれ撃たれることを見越していたのか、スムーズに脚力砲撃へと移る。

 

 蹴り足が音を抜き去る目視すら不可に近い砲撃は、それもジェット噴射や煙壁により避けられ、代わりにぶつかった城塞が瓦礫と化す。

 更に地面へも巨人の足跡の如きくぼみを穿つ。

 

 それでも避けきれずに1、2発命中したが、当たったのはそれだけであり―――。

 

「ンン~♥ 『届かない愛』(ミスト・プロテクト)、ダヨッ☆ ソシテェ『恋心への狙い撃ち』!!」

 

 回転を煙の噴出によりとどめて、紬も弾丸を打ち返してきた。

 仁は何とか[(トバシ)]の力をフル活用した奇怪な軌道で飛翔し、爆発だけは回避。

 

 

 ……ここで紬は失態を犯す。

 

「アルェ? 仁、何処?」

 

 あまりに連続で爆発させすぎたのか、“視界が悪くなって”しまっていたのだ。

 キョロキョロと状況に似合わないカワイイ仕草で紬は辺りを見回す。

 

 彼女へ帰ってきた答えは、盾を構えた真上からの衝撃だった。

 

『踏脚』(ヴィエナードサーヌ)!!!」

「ニュオッ……!?」

「潰れろぉっ!!」

 

 

 落下速度に重力、脚力と『飛の足場』の補助、脚技強化までのった一撃は、速度に見合った理不尽なまで重さをほこり……不安定な足場がたよりの紬は拮抗すら出来ず地に叩きつけられる。

 

 魔法使いでさえ、障壁があっても潰れかねない高さから落下させられたというのに、

 

「オ痛ハ “ダメ” ヨッ?」

「チ……煙か」

 

 意外にも紬は、他所の汚れのみでピンピンしていた。

 

 仁の言うとおり、紬は煙を噴出させて勢いを殺し、さらにクッションにして衝撃を最大限緩和させたらしい。

 

 

「ンモウ仁タラ、何ヲソンナニ怒ッテル―――」

「てめぇが原因だろうがあっ!!」

 

 

 振り上げるタイプの『斬脚』(ノアライディーユムス)を放ち、地面を隕石でも通ったかのように鋭利かつ深く大きく抉り、射線上にあった雲間まで貫くのっぽの岩塊が、雲ごと真っ二つにされた。

 今は地面にいるので脚力強化は使えない。

 つまり単なる素の脚力でこれを放ったことになるが、それが信じられない程の威力だ。

 

「ッ!」

 

 しかしそれすらも牽制であり、本命を叩きいれるべく飛び上がって自ら猛回転。

 己が飛んでいるからこそ、そして爆速で飛翔できるからこそ行使可能な……異次元の急降下回転かかと落とし。

 それはそのまま紬へと瞬間的に音速を超えて肉迫する。

 

 

『潰脚』(アトベールトカーユ)!!」

 

 

 ワキャー! と奇妙な叫び声をあげて紬は爆発と煙噴出で行き過ぎなほど距離をとった。

 

 

「ウプッ……! ッ……プヘァ――――オッホォ! 凄ッゴイネェ~♡」

 

 ―――訂正しよう。

 隕石が落ちたと錯覚させるほどの振動と共に地面が大崩壊し、衝撃波によりまたもや抉られるという威力は、行き過ぎなほど距離をとって正解だっただろう。

 

 哀れにも、回転踵落しの直撃を受けた大地は大規模の地割れが起き、周辺の島や街は粉々になってしまっている。

 突き抜けた下にあったらしい水脈が、破裂したかのように大量の水を吹き出し、ある箇所は大きく窪んである箇所はありえないほど隆起していた。

 

 

「ジャ、イックヨ~☆ ―――『爆ぜる愛憎』ォン♥」

「!! ……ちぃ……!」

 

 紬もただ逃げていたわけではないらしく、咄嗟に撒いた煙をトリガーの合図により爆裂させる。巻かれた煙の質量とは全く合わない規模の爆発により、街並みや落ちていた島を巻き込んでクレーターを作ってしまう。

 

 その爆発を避けながらも、仁はきっちり『弾足』で返す。

 

 

「ぁあああぁ!!」

「キャハハハハ♫」

 

 空中で戦っている時も、浮遊している無人島や岩塊を瞬く間にいくつも滅ぼし、地面は旅人が渡れない―――どころかただ降り立つのすら困難ほどの壊滅状態。

 この魔法世界有数の観光名所が、今では単なる荒れ果て崩壊した土地になってしまっており、無事な場所など、半壊状態の元王国の王宮を入れて数える程しかなくなっている。

 

 

 お互いにまだ『奥ノ手』を出さず、仁は紬の約一週間の空白を聞く為、紬は恐らく目的の確実な遂行と仁を一応生かす為。

 ……互いが互いに理由があるが故に力をセーブしている諍いでこれなのだ。

 だから、彼らが奥ノ手込みで本気を、そしてその上で“全力”を出すなど、常人ならば考えたくもない。

 

 

「ドララララララァァッ!!!」

「ワタタッ☆ オットトトォ♥」

 

 不規則に移動しながらの連続蹴りである『連足(トゥーリート)』にも、紬は煙の腕を作り出して爆破とともに殴りつけることで対応。

 

 

「ォォオッ!!」

「アブネイ!?」

 

 

 焦れたのか今度は『連足』の、跳ね回りながらすれ違いざまに蹴るバージョンで打ち込んでゆく。今度は対応しきれずにいくつかかすらせているようだ。

 普通はすれ違いざまに蹴るなど困難を極める所業だが、どんな格好でもどんな状態でも飛べて、凡ゆる方向に土台を作れるのが[飛]の力。

 彼にとって、この攻撃はさほど難易度の高いものではない。

 

 

 技量や経験では仁の方が上であり、事実この戦いで僅かながらに押しているのは仁の方だった。

 

 

 それは紬も自覚している為に嬉しそうな顔へも冷や汗が度々滲む。

 大して仁は、今まで怒りの表情からほとんど変わっていない。

 ・・・その顔に、どこか迷いが見えるのは気のせいだろうか。

 

 

(なんで! ここまで変わってやがるんだ! 紬……ッ!)

「ハイ、スキアリダヨ?」

「!」

 

 

 一瞬考えたのがアダになったか、前方より襲い来る連鎖爆破を仁は後ろに猛スピードで下がりながら回避する。

 

 

「([飛]の力を知ってる奴にしちゃ、随分とお粗末な……!?)―――ぐぉあっ!」

『食欲にすり変わる恋情』(ヘイズ・イーター)☆ “カチン” トシテェ……」

 

 

 何かを察した仁だったが、一歩遅く煙で出来た嫌になるほど生々しい口に仁は挟まれ、紬はそれを見て一層嬉しそうに笑う。

 

 

「しまっ―――」

「ドッカーン!!」

 

 

 トリガーを口の動きと連動するように鳴らし、圧縮された爆撃を仁へと喰らわせた。

 周りの大地へも、まだ飽き足らないのか大規模のクレーターを刻む。

 

 

「ハ~イ、コレデワタシガ有利」

「―――な訳あるかアホンダラ」

 

 

 なんと仁はその爆発に抗って飛び込んできた。

 

 柔いからこその常識を、強引に打ち破る形での特攻。

 流石の彼女も驚き防御体制を取るが、直後に後ろから飛んできた岩塊により見事に体勢を崩される。

 

 

『斬脚』(ノアライディーユムス)!!」

 

 

 目視不可能な速度で振り抜かれた幾つもの蹴撃は、まるで巨大な刀剣のごとく地面を切り砕き、新たな峡谷とも見紛う傷跡を、大地へ深々刻み込む。

 

 

「ネボアッ!!?」

 

 当然、真正面から受けた紬は無事では済まず、面白いように回転しながら数百mはとんだ。

 その後直ぐに立ち上がったものの、事実上同じ負傷状態にさせられていたのは言うまでもない。

 

「ッ、ハハハハァ!!」

 

 一旦罠でも張る気か。

 紬はもうとっくに塵の山と化している眼下の遺跡跡地から、緊急脱出の如く仁から離れて行く。

 

 が、元来『飛ぶ』事こそが本領の力を持つ仁。

 追いつく事などは容易だった。

 

「モイッチョ、ドッカァ~ン!!」

「……! ―――ガアァッ!」

「ウオッ……?」

 

 爆発さえなければ、だが。

 そして紬もまた、仁が無理矢理に突っ込んできて突進蹴りを喰らわせなければ、罠ぐらいは張れたであろう。

 

 結局、散々追いかけっこをして、森林近くまで移動しただけ。

 状況自体は殆ど変わらないまま。

 

「ア~モウ…………拉致アカナイネ……?」

「コッチの台詞だ、コッチの」

 

 

 

 まだ戦闘は続行できるだろう。

 

 だがしかし仁にしても紬にしても、続行は望ましくない。

 仁はもう手遅れだとしても、周りの被害をこれ以上出さないため。

 紬は負ける可能性が高くなってくるため、戦い続けて持久戦にしたくはなかった。

 

 それに……互いの程は知れたのだ―――ならば、その範囲でぶつけ合うのみ。

 

 考えは同じだったのか、お互いに押し黙る。

 

 

 そして、風が吹いた、刹那―――――

 

 

 

「オ……―――オオオォォッ!!!」

「ア……―――アアァァァッ!!!」

 

 

 岩片が飛び交い瓦礫が飛翔し、陽の光が滞り暗がりと煙に包まれる。

 飛び交う物質の速度が落ち付き、煙の間から日が覗く。

 時の空白を作り出した、刹那。

 

 

「『奥掌武装(アルマート)』!」

 

 

 ――二人の持っていた[独器]は、別の姿へ変わっていた。

 

 

「―――“空轍”(そらわだち) ・黒龍爪翔(くろたつそうしょう)!」

“銃撃に変わる盲愛”(ブラインド・ラブ)一途な瞳(オンリー・アイ)♥」

 

 

 

 生物感と金属感の中間的な、最早着地や歩行すらも考えず、蹴る事しか考えていない歪な化物の脚そのもの。

 右腕を完璧に覆い先端に目玉のある、生きているかのような脈動しながらも煙を撒き散らす怪腕と、背の非対称な翼。

 

 それらを構えた刹那、仁の後方の地面が大規模でめくれ上がって脚爪のような形を作り、紬の周りに漂っていた煙が夥しいほどの膨張し真球を形作る。

 

 彼等の周辺の空間すら歪み、群青色の『大地のない天空』が、桃色の『煙しか見えない大地』が、朧気ながらに周りへ浸食し同化してゆく。

 

 それらが僅か放つ音以外何も聞こえない空気の中。

 唐突に両者の表情が消えた……次の瞬間。

 

「「ッッッ!!!」」

 

 仁は本当に歯を音が鳴る程食いしばって、紬は擬音が聞こえそうな程口角を吊り上げ、瞬く間に代り―――。

 

 

「つ、むぎぃいっ!!!」

「アハッ♥ アハハハッ!!」

 

 

 群青の脚爪と、濁桃の砲弾が、ぶつかり合った。




二人の戦闘で、しかも心理描写や作戦描写が殆どなく、擬音は皆無なのに、今までで最高の文字数となってしまいました。
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