空立つ”飛”の独器と男   作:阿久間嬉嬉

76 / 90
前回書いたとおり、今話から少しの間、仁の過去の話となっていきます。

仁と紬、そして “爺さん” との出会いの経緯は? 独器はどこで手に入れたのか? 何故彼の第一の故郷が無くなっているのか? 性格を偽っていた理由は? 第二の故郷となった場所へはどうやってたどり着いたのか? ・・・全て明らかになります 



それでは本編をどうぞ。


※2014・9・22、余りにも長くなりそうなので、纏められそうな話はまとめる事にしました、よって、仁の故郷の話、老人の話、少女の話をそれぞれ分けて5,6話に纏めます。ご了承ください


『飛翔への道程』
過去話・否定する故郷


 地球とも、また魔法世界とも違う、別世界の別の星。

 

 

 その星は地球よりもはるかに大きく、しかし物理法則は非常に似通っており、そこには非科学的だという考えを飛び抜ける程驚異的な力を持つ武具があり、現代でいう文明の利器に相当する術式があり、もちろん文明の利器そのものもあり・・・太古の化物により残った異形の地があった。

 

 

 ある土地は蒸発しそうなほど熱く・・・延々と燃え盛る剛火と灼熱の岩漿に包まれ、ある土地は一面荒波立つ・・・陸上等なく天高い位置まで存在する巨大水球が鎮座し、またある土地は・・・一面雪塗れの氷漬けで・・・吹雪は止まず陽が覗くことなどない白銀の土地。

 

 

 

 太古より続くその土地は、未だ姿を変えることなく、世界の各地に点在している。

 

 

 

 そんな土地から離れた、とある小さな国。その国で、新しい生命が誕生していた。

 

 

 

「おお・・・ついに、私達の子供が・・・!?」

「ええ、生まれましたよ、あなた」

「おめでとう御座います・・・男の子ですよ」

 

 

 

 国の規模からすれば大きめなその病院で、青い髪を持つ女性と黒い髪を持つ男性が、新たな命の誕生に歓喜している。

 

 その子供の髪の色は両親の色を半分ずつ受け継いだのか藍色であり、両親の穏やかな垂れ目とは違いちょっと目付きが悪かった。

 

 

 

「ねぇあなた、この子の名前は決めているの?」

「もちろんさ! この子の名前は―――――ジアルーザス。ジアルーザス・ハールマンだ」

 

 

 いい名前だと母親は喜び、父親もそれに同調して笑顔でいる中、赤ん坊は元気に産声を上げ、看護婦たちはもう慣れているのか、本当に慣れた手つきで赤ん坊を抱き、母親へと渡した。

 

 

 

「はい、どうぞ」

「ありがとございます・・・わかる? ジアルーザス、ママよ?」

「こっちに向けてくれ・・・パパだぞーっ?」

 

 

 

 それに答えているのかはわからないが、赤ん坊は産声は上げたまま、まるで手を振っているかのように腕を動かす。

 

 その様子が微笑ましくて、また嬉しくて、母親も父親も嬉し泣きしている。とくに母親は、映画の感動シーンでも見たかのごとくぼろぼろと涙を零していた。

 

 

 

 ベックベント・ハールマンと、リーナセイン・ハールマンの第一子、ジアルーザス・ハールマンの誕生。

 この子は将来どう育つのか? どんな夢を持つのか? どんな道を進み困難を乗り越えるのか? 両親は笑顔を絶やさずに、ただ我が子の将来を夢想するのだった。

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・彼がこれから歩む道が、そして彼がこれから受けるモノが、途轍もなく厳しいものになるという事など、全く予感できず、知りもしないまま。

 

 この国のある “教え” が、一人を追い詰め国を滅ぼし、人生を曲げてしまうことになるとも、解りえぬまま・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 ジアルーザス少年が生まれてから数年。彼はそれなりの自我を持つようになり、近所の子たちと遊びまわる年にまで成長していた。

 

 

 親の愛を一身に受け、特別な家柄ではなかったが、特に重い病気も怪我もすることもなく、成長していった。

 

 

 

『・・・いってきまーす』

『知らない人についてっちゃダメよ?』

『ちゃんとハンカチ持ったか? タオルもあるな?』

『あるって』

『それと! 何かあったらちゃんと言いなさい? 私達ができる限り(・・・・・・・・)、応対するから!』

『ドンと任せるんだぞ!』

『わかったよ』

『それから―――――』

 

 

 

 ・・・ちょっと親バカすぎかと、少年本人ですらそう思うほどの愛を受けているのだが。

 

 

 

 が、甘やかしすぎたせいなのか、目つき故かそれともまた別の要因か、ジアルーザス少年は少しばかりキレやすく、真正面から丁寧に聞かれてもぶっきらぼうに返すという、ちょっと弄れた性格をしていた。

 勉強などはちゃんとやるし、親の手伝いもそれなりにするのだが、どうもやんちゃを通り越して不良気味な性格なのは否めない。

 

 

 だがそんな不良男子なジアルーザス少年も子供は子供、誕生日やお祝いの日などは癇癪を起こさずに喜んでいた。

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・そしてまた数年たち、明日の誕生日にて齢11となろうとしていた。

 

 

 しかし、そんな子供心に楽しみな日を、彼も毎年喜んでいた日を控えているというのに、ジアルーザス少年は不機嫌と悩みを混ぜたような表情のまま、街を歩いている。

 

 なにか、機嫌を損ねることでもあったのだろうか。

 

 

 その原因は、本人の口から呟かれた。

 

 

 

「何なんだよ・・・『偽器』の何がダメだってんだよ」

 

 

 

 『偽器』、それは民間人の間でも知れ渡っている、強力な力を宿した武器のこと。

 何でも御伽噺の中にしかない『独器』と呼ばれる武器を模倣したものなのだという。

 そんな夢幻のような独器はともかく、偽器は実在する上途轍もない力を持った武器なのだから、男の子ならば一度は手にしてみたいと思うだろう。

 

 

 無論、ジアルーザス少年や周りの少年達もそれに憧れ、今より幼い頃には木の枝で知っている偽器の名前を出しながらチャンバラをしたこともあったのだ。

 

 

 しかしある日、それを見た大人は血相を変えた顔で止め、しつこいのではないかという程に忠告と叱咤を繰り返した。

 

 

 実はこの国の全員はある宗教に属しており、なにか特別な決まりなどはないが唯一絶対の教えとして、“独器、偽器を憎むべし、口にするなら止めるべし、振るう者あらば殺めるべし” というものがあるのだ。

 ――子供であろうとも教えられているものなのだが、教えられているだけでは理由もわからなかったのだろう。

 

 

 何故このような教えがあるのか? この国にある経典には次のように書いてある。

 

 

 

『かつて世界を混沌へと誘った化け物たち。それは憎悪すべき悪者(あくじゃ)以外の何者でもなく、それを封ぜられた武具達もまた、世界を混迷へと再び誘いかねない危険視すべきもの。それを模倣した存在なども、もはや言うまでもない。それを世にはびこらせぬため、それらの拒絶し、憎悪すべし』

 

 

 ・・・と。

 

 

 

 

 こんな小さな国のみに広まっているのを見てわかるとおり、そんな教えに馬鹿正直に従うものなどほとんどありえない。

 この国の人間はやたらと信心深いところもあるため、おそらく最初に広めた人物はそれを利用したのだとも考えられる。

 

 

 

 その教えを先々代より先から伝えられ、信心深さも受け継いできている大人達に、他の子達は表情があまりにも必死だったためか素直に従った。

 が、ジアルーザス少年だけはどうしても納得できず、その出来事を忘れた時を見計らって――――といっても、よほど深い驚きを受けたのか、何と数年も覚えていたが――――理由を聞いた。

 

 

 すると聞かれた母親だけでなく、それまで上機嫌で誕生会の準備をしていた者達が一斉に振り向き、ジアルーザス少年に詰め寄ってきたのだ。

 

 

 何を言っているんだ、

 まだそんな事を言っているのか考え直せ、

 おかーさん達から教わったのに何言っているの、

 その恐ろしさは独の傷跡への遠足で見たでしょ、

 滅多なことを口にするな、

 悪い子になっちゃダメ、

 ねぇお母さんを信じて・・・

 ・・・大人だけでなく子供達にまで詰め寄られたジアルーザス少年は、半ばキレ気味にその者らを殴るように押しのけて走り出すと、裏路地あたりまで逃げ込んだのである。

 

 

 そして・・・今に至る。

 

 

 子供達まで詰め寄っていったのは、先に混じっていた言葉のとおり『独の傷跡』と呼ばれる、異形の地近くへ遠足に行ったから。

 だが、親からしつこく教えられていた他の子達はともかく、不信感を抱いていだジアルーザス少年にとって、その光景は寧ろ感動を覚えさせるものであり、それゆえになぜここまで嫌悪するのかがわからなくなっていた。

 

 

 

「あれだけの力がありゃ・・・本当にあるんなら・・・戦争だって終わらせられんだろによ・・・なんでだよ・・・クソッ!」

 

 

 

 付け加えて言うなら、日本では戦争など無いが外国では小規模ながら戦争が勃発している地域もあるように、この世界でも一部地域では戦争が起こっているのだ。

 幸いと言っていいのか、この国は小さいためか標的にはされていないのだが、しかし戦争を起こしている国と国の戦場近くにちょうど位置する。

 その為、別の国の街がある方面のそこへ行けなくなっており、たまに来る乗り物だよりに大回りするか……自給自足をせねばならなくなっているのだ。

 

 

 反対側へ行っても街がかなり遠く、行けるとすれば遠足目的で “独の傷跡” へ向かえるぐらい。小国で人口も少ないため飢餓には陥っていないが、それでもたまに入ってくるご馳走や菓子などの味を思い浮かべる度に、ジアルーザス少年は戦争が早く終わって自由に買い物へ行けるようになって欲しいと、子供らしいその考えを願うのである。

 

 

 

「・・・ホットドッグ、食いてぇなぁ・・・あれ、滅茶苦茶美味かったもんなぁ・・・」

 

 

 

 一度口にしてはまったものを思い出し、小腹がすいてきたのか腹を抑えながら、路地をトボトボ歩いてゆく。

 

 納得がいかないとは言え、殴るようにして押しのけて出てきたのだから、ほとぼりが冷めるまで暫くは帰れないだろう。

 

 そこらのダンボールに腰をかけ、路地から覗く細長い空を滑るように鳥が渡ってくのを眺めながら、ジアルーザス少年は溜息を吐く。

 

 

 

「あの鳥みてぇに、空飛べたら・・・戦争避けながら買い物できるし、何より色んなとこ行けて退屈しねぇだろうになぁ・・・」

 

 

 

 何もないのにそんな無理難題など通るはずもなく、再度溜息を吐いて空を眺め続けるジアルーザス少年。

 

 彼の子の願いは、何も今に始まった事ではない。

 寧ろかなり前から、そして周りが考える以上に、彼の《空へのあこがれ》は、深く大きく―――重いのだ。

 

 願わぬ日はあり得ない。

 ただ願わずにはいられない。

 『地』に目をやりソコで意欲は途絶え、未知への『否定』ばかりが渦巻くこの国で……彼だけが天空の “向こう” へ憧れをはせ、執着し続けていた。

 

 

「・・・ん?」

 

 

 

 

 と、そんな彼の視界の端に、陽光を反射して鈍く群青色に光る何かが目に入った。ちょっと高い位置にあるが、そばの家に雨よけや窓枠を利用すれば、到達できそうである。

 

 本来ならちょっと位置を変えて正体を見れば良かっただけだったのだが・・・・・ジアルーザス少年は、何故だかそれに惹かれた。それを手にしてみたいと思っていた。

 

 

 

「・・・よっ!」

 

 

 

 考える前に体が動き、持ち前の運動神経で猿のごとく軽快に登っていく。見かけよりも上にあったらしい “それ” のある場所へたどり着いたとき、ジアルーザス少年は思わずポカンとなった。

 

 

 

「何だ・・・これ?」

 

 

 

 そこにあったのは、霧骨な形状と僅かにくっついている鎖から足枷と思われる・・・のだが、その幅と大きさが枷の役割を持つに十分なものを超えており、これを見た半分の者はさながら “足鎧” だと言うだろう形状と大きさをしていた。足枷にしては奇妙な形で、しかし鎧にしてはつなぎ目が不自然・・・最早どちらなのか分からない。分かりづらい。

 

 

 

「なんでこんなもんが・・・」

 

 

 

 誰に問うでもなく自然と言葉を漏らしたジアルーザス少年は、そっとその足枷擬き兼足鎧擬きに触れてみる。

 

 その途端、自分の体の隅々を何かが駆け抜けていくような、そんな感覚を少年は感じ、しかし驚きとは裏腹に触れた手を放そうとしない。

 

 

 その手を今度は両手とも横に回して、不安定な足場の上で片足立ちというハラハラするような格好を取ったかと思うと、片方を自分の右足にはめ同じ要領で左足にも装着した。

 

 そのまま立ち上がると、少年は再び何かが駆け抜けていくような感覚を感じる。

 

 

 

「・・・何、やってんだ、俺?」

 

 

 

 はめてからようやく何でこんな事をしたのかと疑問が浮かんだようだが、かと言って外す気もないらしく、棒立ちのまま窓枠の上に佇む。

 

 

 

 

 ――――――その時だった。

 

 

 

 

「うぷっ? ・・・いてっ!?」

 

 

 

 

 細い路地だからか高さもあったためか、何時も以上に強烈な風がジアルーザス少年を襲い、その風に乗って運ばれたゴミを目に入れてしまった。

 

 その為よろつき・・・細い窓枠の上から足を踏み外してしまったのだ。

 

 

 

「う・・・わああああっ!?」

 

 

 

 手を伸ばすも取っ手や足場など当然なく、そのまま少年は落下していく。見かけよりも予想以上の高さに登っていたため、良くて重傷。悪ければ・・・・・・。

 

 

 

「あああああああっ!!」

 

 

 

 叫べど喚けど、ここらは人が居ないのか誰も来ない、窓を開ける家の住人すら居ない。せめて死なないためにと、叫びながらも両手を頭に回して来るべき衝撃に耐えるため目を閉じて体を縮こませる。

 

 そして・・・落下は止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――何の衝撃も来ず、ピタッと止まって次にフワフワ浮かんでいるような、そんな奇妙な止まり方で。

 

 

 

「・・・・は?」

 

 

 

 ジアルーザス少年が恐る恐る目を開けて見回してみると・・・なんと自分の体が、地面の10cm程手前で浮いている(・・・・・・)ことに気がついた。

 

 

 

「なっ、ちょっ、ってゴッ!?」

 

 

 

 結局地面にぶつかることになったものの、十センチほど手前でしかも起きていたのでそこまで怪我をすることもなく、尻を打つのみで事なきを得た。

 

 

 

「痛ぇ・・・け、けど、もしかしてコイツは・・・!」

 

 

 

 未だ信じられないような心持ちでいながらも、ジアルーザス少年は僅かに笑みながら空を睨みつけた。

 

 それと同時にそれなりの速度で、少年は空中へ飛び出していく。足を曲げて地面を蹴らず、翼もないのに。

 

 

 

「お、おおおっ・・・!?」

 

 

 

 少しばかりバランスを崩しながらも、今度はちゃんと自分の意志で浮いた。・・・いや、飛んだ。

 

 少し前につぶやいた冗談が本当になってしまったことにも驚きだが、少年は感動の面持ちで厳然にて腕を組む。

 

 そして後ろに振り抜くと同時に・・・飛び上がった時と同じ速度で空を駆けてゆく。

 

 

 

「ひゃっほーっ! いやっほーっ!」

 

 

 

 興奮しながらも高度をそれなりに高めに且つ人の居ない地区を選んで飛びながら、ジアルーザス少年は思う。

 

 

 

(この力があれば・・・買い物にだって行ける、遊びにも出れる・・・・・もしかしたら、戦争だって・・・!)

 

 

 

 あとは期を見て話すだけ、そう考えながら、ジアルーザス少年は興奮を体現するように空をカッ飛んでゆく。

 

 

 

「(この力を見りゃぁ・・・役に立つって証明すりゃぁ、あいつらだって、きっと・・・!)・・・もっと行くぜーっ!!」

 

 

 

 

 ・・・彼の感情と想いは、後に起こる事変を微塵も思い起こさせない、清々しく楽しそうで、未来への希望と、友への信頼にあふれた表情であり・・・飛行する姿はどこか力強く、痛ましさなど微塵も感じさせないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空を自由自在に飛び回る力。

 

 

 それを手に入れたジアルーザス少年は一通り飛び回っていたのだが、余りにも手に入れた力の凄さに感動していたのか今日は自分の誕生日だったという事と、半ば暴力的に飛び出してきたことをを今更ながらに思い出し、そ〜っと自宅に戻ってみた。

 

 

 幸いと言っていいのか否か、皆は自分が飛び出していったのを、ちょっと強引に詰め寄りすぎたのだと自覚して反省しており、でも危険なものだから二度と憧れたりしないようにと少年に言いつけた。

 ジアルーザス少年は別段渋る事なく素直に上機嫌で頷いた。空を飛ぶという特性上、ヘマをしなければバレないし、常識はずれの力が現実となったのだから、上機嫌など当たり前だろう。

 

 

 自宅に戻る前に隠しておいた足枷のこと少年はを思い出し、パーティーを楽しむと同時にまた別の日にあれで空を飛ぶということを想像して、より一層嬉しくなるのだった。

 

 

 

 

 

 そして、数日後。

 

 

 

「う~ん・・・」

 

 

 

 

 空き地にてジアルーザス少年は頭を悩ませている。といっても、それは特殊な武具を発表し倦ねているからではない。いつ皆に発表するかは期を見るしかなく先延ばしにするしかない為、悩んでも仕方ないと子供ながらに決めていたのだが、実は別の問題が浮上してきたのだ。

 

 

 

 それは・・・ズバリ “体力” である。

 

 

 

 飛び続けていて気付いたのだが、気温変化や風圧によるものだけでなく、能力仕様でも若干ながら筋力を使っているらしく、少しばかりの痛みと共に意外と体力を消耗することに気が付いたのだ。

 

 

 これでは買い物にいって帰ってくるので体力を大幅に消耗してしまい、怪しさからと気づかれてしまう可能性がある。

 

 

 まあ、まさか魔法使いのような行為をして筋肉を痛めるとは思っていなかったのだろうが・・・。

 

 

 

 

「悩んでてもしょうがない、トレーニングだ」

 

 

 

 そう決めてからの行動は早いもの。足への負担の大きさを鑑みて、脚部を中心に鍛え始めた。走り込み、スクワット、定期的に飛ぶことも織り交ぜ、もちろん腕立てや腹筋も組み込み、長い連休に入ったのを利用して数日間ぶっ続けで特訓をし続けた。

 

 

 

 このまま休みが終わるまでに少しでも体力がついたなら・・・・そう思っていたジアルーザス少年だったが、しかしトレーニング開始七日で、少年はある違和感に気がつく。

 

 

 

 その日、試しに長距離飛行を行ってみたら、何時もよりもかなり体力の消耗が少ないことに気がついた。それだけではなく、パワーやスピードなども、普通の子供と・・・いや大人と比べても、桁外れに上がっていることに気が突く。

 

 

 つまり、筋力の増幅や体力の増強が、普通の人と比べて尋常ではなかったのだ。どこか鋭い所のあるジアルーザス少年は、この事態が異常だということに気がつき、同時にこれを引き起こしたのはこの足枷だと、子供ながらに確信を得た。

 

 

 普通なら戸惑うものなのだが、ジアルーザス少年は寧ろ大いに喜んだ。戦争を本当に終わらせられるほど、強くなれるかも知れないのだ。それに、短期間トレーニングで倍以上の成果が出るのならば、目的を早く達せられるということにもなり、焦れなくても良くなる。

 

 それも彼にとっては喜ばしいことだった。

 

 

 

「もっと頑張りゃ・・・もっと強くなれるよな・・・! よーっし!!」

 

 

 

 自分の声で気合いを入れ直し、足に装着した “偽器” であろう足枷を叩くと、再び空へと飛び出していく。

 

 

 メニューを順々に増やして行きながら、ジアルーザス少年は連休中特訓をし続けた。たった一日のみだが、国から飛び出て戦場近くまで行ったこともあった。

 

 眼下に広がる戦場は、距離もあってか直に見ても少年に恐怖は無く、逆に響き渡る声から止めるべきものだと再度認識を強くした。

 

 

 そして長い連休が終わり、もっと休みが欲しかったような顔をする子達や、友達に会う日数が少なかったのか楽しみにしている表情を浮かべている子供達と同様に、ジアルーザス少年も学校へと向かった・・・のだが。

 

 

 

「お、おまっ・・・ジアルーザスっ・・・お前!?」

「でっか・・・!」

「あぁ? ・・・・あ」

 

 

 

 そう、休み中ずっと特訓に没頭していたせいか、親以外の人と合わなかったため、また特訓に夢中になるあまり、バレないようにという事以外周りを気にしていなかったため、身長がめちゃくちゃ伸びた事に気がつかなかったのだ。

 

 恐らくトレーニングの副産物なのだろうが、それにしたって11歳男子の平均身長である140cm代を大きく飛び抜け、160cm代近くとなっているのだから、副産物が大きく現れすぎである。

 

 

 この件に関しては成長期だろうという事で方がついたが、もしかしたらバレるのではないかと思っていたジアルーザス少年にとってはドキドキものであった。

 

 

 

 時折バレそうになることがあったものの、確固たる証拠もないのでやり過ごすことができ、そんな毎日を続けながら、また一年が巡って再びジアルーザス少年の誕生日が訪れようとしていた。

 

 

 皆がパーティーの準備をする中で、ジアルーザス少年はまた外を歩いていた。

 

 

 とは言っても、また何か喧嘩をして飛び出た訳ではなく、かといってお誕生日のパターンの一つの、“主役は準備中退場” でもない。

 

 

 外に出た目的とは、ズバリ “不思議な武具の披露” である。

 

 

 いつか明かすというその目標は、トレーニング中もいつ明かすのかを必死に考えており、タイミングを間違えばえらい騒ぎ用となるだろうから、迂闊に行動できないでいた。

 

 しかし、誕生日というパーティームード且つ自分が主役という立場でしかも “偽器” が恐怖だけの物ではないと示すことのできる証拠があるのだから、まさに今日が絶好のチャンスではないか? と、少年は考えついたのだ。

 

 

 早速とばかりに足かせの隠し場所へ付き取り出す少年だったが、空を飛ぶだけでは納得しないのではないかという考えが、足に付けた途端に浮かび上がってきた。

 

 

 確かに、ただ飛ぶだけでは何の役に立つのかと言われてしまうかもしれないし、この国の宗教から考えて受け入れてもらえない確率のほうが高い。

 なら役に立つことを見せつければいいのだが、ピンチなど早々転がっているわけでもなく、足かせをつけたまましばらく頭を悩ませる。

 

 

 

「・・・って、街まで一直線に飛んでいって菓子買えばいいだけだろ・・・」

 

 

 

 結構簡単に答えが出た。

 

 

 思い立った時が吉日・・・というか決行日が今日なのだから早くしようと、ジアルーザス少年は今出るマックスのスピードで街まで飛び、今まで使うことがなく溜め込んでいた御小遣いを惜しげもなく使って歌詞を買い漁った。

 

 流石に猛スピードで飛んで菓子をボロボロにする訳にも行かず帰りはスピードが落ちたが、まだ日が落ちきっていないのを見るにそれでもどうにか誕生会には間に合うようだ。

 

 これで皆も少しは考えを改めてくれるだろう。

 そう考えながら、漸く自国の空域へ入った・・・

 

 

 まさにその時だった。

 

 

 

「まずい・・・早く逃げろおっ!!」

「やばいぞーっ!」

「きゃーっ!!?」

 

(なんだ!?)

 

 

 

 

 眼下からの悲鳴に目を向けてみると、腐っていたのであろう家屋が倒壊し、今まさに人へと倒れ込もうとしているのが目に入った。

 

 破片も飛び散り容易には逃げられず、しかも男の子とその母親が逃げても間に合わない位置にいる。

 

 

 

 それを見たジアルーザス少年は、まずい!? と思うとともに、チャンスだ! とも思っていた。

 

 

 

 ここで助けに入れば、自分の身につけている “偽器” であろう者がどれだけ役立つかを、それこそ家族や友達だけでなく他の人達にも知らしめることができる。おまけに人助けもできて一石二鳥だ。

 

 

 菓子の入った袋はしっかり握ったまま、ジアルーザス少年は急降下して子供と母親を掻っ攫い、後ろで家屋が地面に叩きつけられる音に冷や汗をかきながらも、無事親子を着陸させる。

 

 

 

「大丈夫か?」

「へ・・・?」

「・・・?」

 

 

 

 呆けた顔で自分の顔を見やる親子に、もう一度声をかけ用としたとき、聴き慣れた声が耳に入ってきた。

 

 

 

「ジア、ルーザス・・・?」

「お前、今・・・」

「さっきのって・・・?」

「・・・あぁ・・・」

 

 

 

 その方向に視線を向けると、どうやら誕生会準備を終えて騒ぎを聞きつけ出てきたらしい、自身の両親と友人たちが居た。彼らもまた目の前で起こった事について行けていないのか、アクションを見せずに突っ立っている。

 

 そんな彼らを見て、ジアルーザス少年はやれやれと肩をすくめながら、チョットばかし崩れた菓子の入った袋を掲げた。

 

 

 

「今の見たろ? 偽器ってのは使い方さえ間違えなきゃ人も助けられる、便利なものなんだって! それに、ほれ! お前らが前好きだって言ってた菓子も買ってこれたんだぜ?」

 

 

 

 ニッと笑いながら、ジアルーザスは友人の一人に歩み寄り、袋の中からチョコレートに似た菓子を取り出す。

 

 

 

「ほれ、これお前好きだったろ? これからは俺が毎日でも買ってきてやるからよ!」

 

 

 

 その言葉を言い終えた少年は、周りから歓声が上がるのを期待した。よしんば歓声など上がらずとも、認識を改めるようざわつく事を、期待した。

 

 

 だがしかし・・・彼の認識は甘かったと言わざるを得ない。宗教とはその土地その国で教えや神が違うように、信仰の深さや重さも違う。

 

 

 それに、人間とは自分と極端に違うものを恐れるもの。

 現代基準で行けばそうでもないのだろうが、彼らの住む星のように化け物的な力を持っているモノや、化物そのものが居るならば、それは如実に現れるだろう。

 

 加えて彼はまだ11歳。世間をあまり知らず、加えて人とは違う考えを持っていた為、そしてこれからの教育で教わる “歴史の裏” や後暗い歴史を知らなかった為、喜んでもらおうという子供心と、この力はすごいのだという男心から、“何故自ら力を捨てるような宗教が、今の今まで続いているのか” を知らずに行動してしまった。

 

 

 結果、人の心の難しさと、この国の重さを知らなかった少年は――――

 

 

 

 

 

「バッ・・・化け物だーっ!?」

 

「・・・は?」

 

「ち、違う! 教えに背いたんだ! 今彼は “例のあの武具” の名を口にしたんだぞ!」

「異端者だ!」

「異端者の化物だぁ!?」

「あんな化物に助けられるぐらいなら・・・・っ! いっそ死んでしまえば・・・!」

「そんな・・・なんで、なんでなの・・・ジアルーザス・・・!?」

「近寄んじゃねぇ! バケモノ!!」

「あっち・・・あっち行ってよぉ!?」

 

「な・・・ちょっ・・・!?」

 

 

 

 

 土地に根付いた宗教というものの恐ろしさを知らなかった少年は・・・唯その身に悪罵を受けながら、どうする事も出来ず菓子を握って立ち尽くす。

 

 

 彼が最後に感じたのは・・・・・

 

 

 

 

 

「死ねっ! 息子の皮かぶった化け物が!!」

 

 

 

 

 父親と思わしき、しかし今まで聞いたことのない殺意のこもった、男の言葉と衝撃だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 例えば・・・自分の成績がある時期から他の人よりも飛び抜けた。ただ其れだけだったのに周りに憎まれるようになった。

 

 例えば・・・ちょっと場のノリで悪口を言ってみただけだった。なのに返ってくる仕打ちは傷を負わさられるようなものだった。

 

 例えば・・・たった一回メールを返信しなかった。しかし、その次の日から親友と呼べるほど仲のいい友達から絶交されてしまった。

 

 

 上記の件は極端な例だが、受ければ心身ともに落ち込むのは必須。そこまでの事例と行かずとも、昨日まで仲が良かったものが余所余所しくなったりすれば、誰だってそれなりに不安になるだろうし、人によってはショックを受けるだろう。

 

 日常的に起こりうる、それらの出来事ですら、人の心にヒビを入れるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「消え失せろ!! 化物がァっ!!」

「人間のふりして紛れ込むなんて・・・卑劣だわ!!」

「禁ぜられし名を口にするなど、極刑にしても足りないぐらいだ!!」

「苦しませろ! 苦痛を与えろぉ!!」

「地獄に落ちなさい、化け物め!!」

 

「・・・・ちが・・・・俺、はっ・・・!」

 

 

 

 百を超えるだけの敵意と叫びを、昨日まで優しかった、親しかった者達から、殺気と罵声を一度に受ければ、どれだけの傷を負うかなど、想像もつかない。

 

 彼の持っていた希望と優しさを、どうしようもない現実が打ち砕いてゆく。

 

 

 

「息子を・・・ジアルーザスを返しなさいよ! この悪魔あっ!!」

「皮かぶって溶け込もうなんざ、知能ある生き物の風上にもおけねぇ!!」

「俺達の友達を返せ!!」

「返せぇっ! このクソ化物っ!!」

 

「・・・俺は・・・目の前に・・・!」

 

「黙れ!! 貴様が言うことなどすべて戯言だ!!」

「耳が汚れるわ! 喋らないで!!」

 

「・・・・っ!!」

 

 

 

 彼は・・・ジアルーザス少年は今、断頭台に繋がれていた。

 

 

 首の上には、罪人の苦しみを和らげるために試行錯誤された、一番新しい形のギロチンではなく、ノコギリにようなギザギザの刃に、少々錆びているという、“苦しめる”ことを目的とした刃がつながれており、それは首のみならず足や手や背中に腰部分にも、同様の仕掛けが置かれている。

 

 楽に死なせない、苦しんで死ね。

 そういう意図が、アリアリと見て取れる。

 

 

 

 一向に収まらぬ罵声と敵意を向けられながら、ジアルーザス少年はどうしようもなく震えていた。それは恐怖からでもあり、希望が破れたからでもあり、そして受け入れようともしない愚かさからの怒りでもあった。

 

 だが、いくら震えようといくら口を開こうとも、状況は好転などしない。するはずがない。

 

 

 敵意は収まらない。罵声は途絶えない。時は戻らない。心など理解しない。唯苦痛を与えろと異口同音で叫ぶのみ。

 

 

 余りに多く、余りにいっぺんに憎悪を向けられたからか、数分経たぬ内にジアルーザス少年は時折口を開閉させるのみで、もう何もできなくなっていた。

 

 

 やがて、司祭のような格好の老人が現れ、断頭・・・いや、断身台の横に立った。

 

 司祭は汚らわしいものを見るような視線でジアルーザス少年を見やり、自分から見たにも関わらず嫌なものを見てしまったといった顔で、仄かに薬の臭いのするタオルで顔を拭くと、側近らしき者に命じて傍にあった木の棒でジアルーザス少年を殴らせた。

 

 

 観衆から歓声が沸き起こるが、殴られた当の本人は痛みが殆ど無い(・・・・・・・)のにも気付かずに、ただ絶望している。

 

 

 司祭らしき老人はタオルを別の側近に渡すと、薄い本のようなものを開いて読み始めた。

 

 

 

「この化け物の罪状は皆も知ってのとおり。この神聖な国に生まれた、ある一人の将来有望な男児を葬り去り・・・」

 

(何でだよ・・・!?)

 

「その皮をかぶるどころか息子として演じ、その男児の両親を欺き続け・・・」

 

(何で・・・こんな事になってんだよ・・・!?)

 

「更には事件を演出して恩を売ろうとした挙句、汚らわしき手で子供の喜びを砕き・・・」

 

(俺は・・・俺はただ・・・)

 

「最大の罪である “憎むべき例の武具” の名を口にした罪により・・・」

 

(・・・皆に、喜んで欲しかった・・・)

 

「苦痛を与え、身体を切り刻み、苦悶と共に地獄へ送る、この地最大の極刑法を実行する事とする!!」

 

(・・・すごい力だから、考え直して欲しかっただけなのに・・・・!)

 

 

 

 ボルテージが最高潮となり、爆発したかのような歓声の中で、ジアルーザス少年は静かに、ただ静かに涙を流す。

 

 ただ自分は、人の喜ぶ顔が見たかっただけだったのに・・・力について考え直して欲しかっただけなのに、と。

 

 

 

「では・・・実行開始準備」

 

 

 

 まるでハッピーニューイヤー前かのように、国の者達は静まり返ってカウントダウンを待ち望む。ある程度ざわつく声も、時折聞こえるはしゃぎ声も、ジアルーザス少年にとってはもうどこか遠いものとなっていた。

 

 やがて準備が終わり、カチリという不気味なセット音が聞こえてなお、もうこの世界には自分一人しかいないのではないかという、孤独感は消え去らない。

 

 

 

「実行開始、五秒前」

 

 

 司祭らしき老人がそういうのと同時に、国民達はイベント開催前もかくやというボルテージで、カウントダウンを数えていく。

 

 

「「「「「5!!! 4!!!」」」」」

 

(やべぇっ・・・!!)

 

 

「「「「「3!!! 2!!!」」」」」

 

(でも、どうしようもねぇっ・・・!!)

 

「「「「「1!!!」」」」」

 

(死に・・・たくねぇっ・・・!)

 

 

 

 少年の思いなど伝わらず、無慈悲な刃は勢いよく体へと迫り、肉へ食い込み――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

「あれ?」

「ど、どうなった?」

「なぬ?」

 

「・・・・?」

 

 

 しかし、いっこうに血しぶきなど上がらない。いやそれどころか、刃が殆ど食い込んでいない。いくら錆びていてギザギザの刃とは言え、勢いよく落ちてくる刃に当てられて殆ど食い込まないなど、絶対にありえない。

 

 

 

「何故だ!? 何が起こった!?」

「悪足掻きするな化物!!」

「ちゃんと裁きを受けなさいっ!!」

 

「・・・・・?」

 

 

 

 再び驚愕と罵声に包まれる中で、寧ろ刃が通らなかった本人が一番驚いていた。何が起こっているのか? 何故あまり痛くないのか? なぜ死んでいないのかと。

 

 しかし、死んでいないことを受け入れると、今度は生きているという嬉しさがこみ上げ、同時にこの場から逃げねばという焦りも生まれる。

 

 必死に目線と僅かに動く顔で辺りを見回し、そこだけは丁寧に手入れをしていたらしい、首と手首を拘束している枷を止める、ボルトとナットが目に入った。

 

 

 

(あれが緩めば・・・緩められれば・・・っ!)

 

 

 

 奇跡を信じ、なにかの表紙で緩むのを期待するがごとく、その一点を睨みつける。・・・そして、起きた。

 

 だが、起きたのは奇跡などではない。

 

 

 

(・・・なんだ? 誰も触ってないのにだんだんネジが回されて・・・・・・・・・まさか!?)

 

 

 

 もし想像が現実ならば―――――期待を込めて、ジアルーザス少年は睨むのではなく念じる。すると、先程までとは段違いの速度でネギが回されていき、外れたと思ったら中に浮かび上がっていた。

 

 どうやら、自分の足かせは他の物も浮かせられるのだと、彼はそう推測して実行したのだ。

 

 

 同じ要領で片方も外し、もめている為視野が狭くなっているのを利用してネジを手の中にしまい込む。

 

 

 

 

 彼らは知らなかった。

 

 

 ジアルーザス少年の付けている足枷は・・・ “偽器” などではない事を。

 

 偽器にはワンポイントに色がついているものばかりで、全体的に色は付いていないことを。

 

 そもそも、偽器はちゃんと役割毎にはっきりした姿を持っており、奇妙な造形などしていないことを。

 

 

 

 

 彼の付けている “それ” は、 “それ” に選ばれた者は・・・“それ” の同類か、劣化したものでなければ怪我を負わせることはできても『殺す事など “絶対” 出来無い』 事を。

 

 

 

 

 

「仕方がない・・・ならばもう一度」

「もう一度は――――」

 

 

 

 司祭が近づいいてくるのを待っていたのか、少年はハマっていた木の枷を飛ばして勢いよく外し、司祭にぶつけて、一気に空へと飛び上がった。

 

 

「ねぇよっ!!」

 

「ぶほおっ!?」

「また飛んで・・・!?」

「どうなってる! ネジはしっかり占めたはずだろう!!」

「な・・・外されています!」

「なんだと!?」

 

「どうなったんだ!?」

「あの化物、飛んで逃げる気だ!」

「落とせぇ! 石を投げつけろぉ!!」

 

「んなもの当たるか・・・!」

 

 

 

 無茶苦茶に投げつけられる石を、ジアルーザス少年は余裕を持って躱しながらぐんぐん上昇していく。

 

 

 

「痛っ!?」

 

 

 

 と、いきなり痛みが走り、石でも当たったのかと体を見るが、どうやら刃で切断されなかっただけできっちり怪我はおっていたらしく、血も段々と流れてきている。

 

 持ち出してきたらしい重火器の一撃を掠めながらも、この国にはいられない、この国なんかに居たくない・・・生き延びたい。その一心で飛び続ける。

 

 やがてMAXスピードまで達したジアルーザスを、止める事は愚か追う事などとてもできず、国民達は歯ぎしりをして彼の飛んでいった方向を見やるのみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・だが、まだ終わらない。

 

 

 

 

 必死で逃げる途上で、ジアルーザス少年はふとある物が目に入る。それは土煙を上げながら、次第に彼が逃げてきた方へと進んでゆく。

 

 何なのかと目を凝らし・・・アリの大群のようなその様相を見て、気付いた。

 

 

 

「あれは・・・外国の軍隊か・・・!?」

 

 

 

 何が目的なのかは知らないし、何故こんな小さな国に来たのかは分からない。だがそれでも、この状況でも分かる事は一つだけあった。

 

 

 

 自分の生まれ故郷(国だった場所)は、蹂躙されて滅ぼされる・・・という事を。

 

 

 

 それが分かった途端、一瞬戻りたくなる気持ちが浮かんだが、すぐに浮かんできた悪罵の羅列が、それを真っ向からくだいて否定する。

 

 それに・・・恐らく気持ちが浮かんだだけで、砕かれずとも戻ることはなかっただろうと、彼自身も感じていた。

 

 

 

「・・・あばよ」

 

 

 

 ただ一言それだけ呟いて・・・ジアルーザス少年は空の彼方へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 余談となるが―――――その日、ある一つの国が大国によって攻め滅ぼされた。その国はとても小さく、しかし地下に眠る資源はとても多かった。が、宗教のせいで融通が利かず、偽器を持っているだけで殺そうとする彼らに、そしてその日あろう事か人命を助けた子供すら屠ろうとしていた彼らに、生きる道などなかった。

 

 

 彼らは最後の瞬間にこぞって、「空を飛ぶ化物のせいだ、空を飛ぶ化物の・・・」と、そう口にしていたという。

 




○技紹介コーナー


 ・貴方の愛情は盲目(スモーキー・ハイド)

 ステルス性の煙を撒き、気配や姿を隠す技。音など隠せないものもあるが、爆破の煙と組み合わせれば、煙自体に音などないため絶対的なステルス性を誇る。
 また、ステルスには二種類あり、一つが濃い煙で視界を奪って気配すら断ち切るもの、もう一つがフェイト達と邂逅した際に使っていた、煙さえも薄い隠れ蓑術のようなものである。
 前者はともかく後者になると、視界の端っこに映ったりちょっと見たくらいじゃ分からなくなるぐらいで、ジックリ見つめられるとバレル可能性がある。
 ……がしかし、余程の達人でもただの靄と見間違えてしまう為、独器使いでなければ看破は難しい。

 ねぎま本編でトサカが使っていた『魔力感知妨害・追跡妨害の煙玉』を、より自由自在に、かつ高精度にした様な代物である。


 名前の元ネタは、ステルスやハイドと、盲目をかけたもの。




 ・・・以上が技の説明になります。


 仁の過去の話なのに、なぜ関係のない少年が出てきたのか? それは後々―――というかもう感づいてはいるでしょうけれども―――明らかになります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。