空立つ”飛”の独器と男   作:阿久間嬉嬉

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とある少女との物語、一話構成です。


それではどうぞ。


過去話・運命の出会い

 

 

 

どの様な価値観や技術や土地を持つ世界にだって、例外や稀有な例はあるものだ。

 

 

 人一人の身で例えるならば、生まれた子供が何も障害が無いのにオッドアイであったり、老人となってから才能が開花したり・・・今まで生まれてきた者達とどこか一点だけ、しかし明確に違ったり。

 

 

 それは地球のみならず、他の星や・・・他の世界にも存在する。それ自身が何かの災害や生物の影響であり、神格化されたり忌み嫌われたりと、反応も様々である。

 

 

 特に生物の影響でで異質は、超能力的な力を得る代わりに何か迫害すべき対象であったりと、何かと負の影響が付いて回る事が多い。

 しかし、とある少女は、実際の所そうでも無かった。

 

 ただ生まれた時は白く成長と共に真っ赤になって行く髪を持つ民の中で、幼い時は赤色を薄くしたような色の筈なのに、彼女だけ淡いピンク色なだけだった。傍から見れば大事ではないし、彼女自身も病気を持っている訳では無かったし、とある滅びた国の様に独器や偽器を嫌悪していた訳でも無いうえ、彼女自身も持ってはいないと思っている。

 

 

 

 ・・・しかし、少女は迫害された。

 ただ、髪の色が薄い赤ではなくピンクだったというだけで、大人には暴行を受け、子供達には苛められていた。

 彼等民族は大人子供に関わらず、自身の紅毛を誇りに思っている者も多い為、尚更迫害は増長したのだ。

 

 

 

 焦る事無かれ。

 

 

 

 何処にも希望はある物で、彼女の親だけは自分達の産んだ子供だからと、彼女を大切に大切に育てた。

 見た目が若い割に、もう大分年老いていた事も、大事にした要因の一つかもしれない。

 

 ・・・・・残酷なもので、そんなよりどころである彼等は、すぐに旅立ってしまった。

 年老いてなお彼等は元気であったが、見た目がいくら若く見えようと、体の免疫機能低下には抗えない。

 ―――そう、彼等は寿命では無く、病気で死んだのだ。

 

 

 彼女に対する偏見は、その数年で民たちが外の世界を見てきた事もあって少しばかりだが薄れてはいた。

 しかし、時を重ねて心の中に募らせてきた嫌悪の感情は、外面をともかく内面までそう簡単に変えられるものではない。

 

 

 忌子、呪われた子、不快な容姿を持つ少女・・・という負の感情。

 

 

 結局何処にも養子に受け入れてもらえず、少女はスラム街で暮らす事となる。

 

 

 

 

 幸かな、両親には兄弟がおらず年老いていた事から分かるように親も死んでおり、しかも子供は彼女一人・・・つまり、遺産相続権は彼女にあった。お金はそれなりに持っていたのだ。

 店側も、忌子に売る物はねぇという民族的主義よりも、外交がはじまった事により金銭面での方に趣向を切り替えた為か、物に不自由すると言う事も無かった。

 

 加えて奇妙な形のお守りを両親は形見として遺産の入っていた箱に残しており、それはどうやら偽器だったようで、爆破能力により遺産の亡者や暴漢も追い払う事が出来た。

 

 

 両親こそいなくなってしまったが、心の中に開いた穴を埋めるものは見つからないが・・・少女の生活は彼女から見ればそれなりに充実していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――とある一つの、『事件』が起こるまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・なんだ、これは・・・?」

 

 

 

 

 とある町に付いた、仁の第一声がそれだった。

 

 

 街には人の気配がかなりあるのだが、皆の顔は浮かない表情ばかりで、店も繁盛はしているが元気といった面では栄えていない様に見える。

 

 が、仁が気にしているのはそこでは無かった。

 

 

 

(何かピリッとした物が走った様な・・・まあいいか、これが初じゃねぇし、知らないなら考えるのはめんどーせぇ・・・)

 

 

 

 それはなにやら不快な現象が起こった為によるものであったらしい。それもすぐに面倒くさいと考えるのを止め、目の前の光景に付いて思考を巡らせる。

 

 

 

(・・・戦争か? いや、だとしたら店が栄えているようには見えない筈・・・内紛なんてめんどーせぇ事でも起きたか?)

 

 

 

 建物は所々がボロボロに砕けており、大火でも受けた様に煤けていた。

 

 

 

「ああ、旅人さんかい。ようこそ、山菜が名物の紅毛民族の町へ。・・・といっても、このように廃れているがね」

 

 

 

 掠れるような苦笑いで答えた町人は、笙狼老人の村に居た肉屋の中年男性の様に、恰幅が良く服もそれなりに良いモノだった。しかし、雰囲気はまるで貧乏人の様だ。

 

 ここ数カ月で様々な場所を見て回った仁だが、貧乏でもたくましく生きている所は知っていれど、建物はボロボロでも栄えているのに、まるで崩壊寸前の様な雰囲気を持つ街など知らない。

 

 

 聞くだけならば構わないだろうと、そして断られたなら諦めて三日ほどでこの街を去れば良かろうと(当たり前ながら、流石の独器でも不況までは直せない)、仁はそう思い今度は彼から声を掛けた。

 

 

 

「・・・儲かってんじゃーねぇのか? 何で雰囲気すたれてんだ……?」

 

 

 

 その質問は予期していたか。

 中年男性は恨みの籠った視線である一方を睨みつけてから、目線を仁へ戻して話し出す。

 

 

 

「ちょうど、一ヵ月半前ですかね。此処で化け物が暴れたんですよ」

「・・・化け物?」

「そして、そいつは当たり構わず爆破していき、食料どころか殺した人の体の一部まで持って行きやがった・・・幸いにして街そのものに影響はほとんどありませんでしたが、人々の心に刻まれた傷は深い」

 

 

 

 そこで言葉を切り、先程よりも恨み滴る目で、怨恨籠った声で続けた。

 

 

 

「私達はね、その爆破を起こした者こそ見えませんでしたが、正体は掴みました。この国には、手を出した物を毒々しい色の爆炎で木端微塵にする、忌子が居るのでね」

「・・・」

「あ、すみません・・・忌子は生まれた時から忌まれていましてね、呼ばれた理由は我が民族特有の物なので正義ぶって話す気はありませんが、とにかく迫害されてきました。・・・それでも子供は子供。童子の両親の事もあり、何とか親しくしようとした物もいたと言うのに・・・それを裏切ったんです。私もその一人なので、つい感情がこもってしまいましてね」

「・・・そう、ですか。何かすみません」

「いえ、百聞は一見にしかず・・・・・じゃ無かった、聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥。聞かずに理解した不利をするよりはマシですよ。それでは」

 

 

 

 気にはしていませんと手を振って対応する男の顔は、しかし遠目からも分かる程未だ歪んでいた。

 それは仁に対する物では無く、視線の先―――――恐らく忌子の居るであろう場所を睨んでおり、先程の話を間接的に聞いていたらしい何人かも、同じように睨みつけていた。

 

 

 信じていた “モノ” に裏切られる事。それは仁自身も経験した事であるが、今回は人数と状況が違う。

 

 仁は唯一人で憎悪を受けたが、その忌子と呼ばれた子供―――男か女かは分からない―――は、少なくとも両親や他少数の人間に理解されていたのである。

 しかし・・・その忌子は自分から裏切った。少数の人間の理解では足りない程の迫害を、彼らをも裏切ってしまう程の迫害を受けていたか。

 それとも町人である中年男性の話に出てきた『毒々しい色の爆炎』を放つ・・・恐らく偽器の力に幼いながらおぼれたか。

 

 

 

 どちらにせよ、この国に今日来たばかりの仁では判断しようも無く、判断できる訳も無い。

 判断したとしても、理由が後者ならともかく前者であった場合、仁としては非常に戦い辛いすぎる・・・彼風に言うならばとにかく「めんどーせぇ」相手となってしまう。

 

 

 

(・・・まずは、宿とるか)

 

 

 

 考えていても仕方が無いと、仁は何時も通り宿を探す。外観が廃れているように見えても、さすが実際は栄えている街と言うべきか、宿自体はすぐに見つかり、そこそこ設備の良い場所でもあった。

 

 特にベッドの触り心地と寝心地が最高で、撫でていて幸せになる程フワフワな敷き布団と掛け布団、ベッド本体は地球で言う低反発性よりも一段上の寝心地の良さがあった。

 

 

 ・・・まあ、独器と出会ってしまった所為で悪夢を見始め。

 そこから始まった『健康体なまま常時寝不足になる』という面倒臭い体質は消えていない。

 無論、像の濃さこそ浅く成れ、見る頻度こそ少なくなれど、悪夢を〝見ない”事はない。

 

 詰まるところ、眠りが極端に浅くなり、寝付きが極端に悪くなる仁にとって、どんなものであろうと絶対に殆ど寝れない事は確定なのだ。

 そのためいかに贅を凝らそうとも、質など本当に無意味となってしまうのだが。

 

 

 

「・・・取りあえず止まる所は確保した。後は・・・ッ」

 

 

 

 こいつか・・・と、仁は頭を押さえた。

 

 

 今再び、街の前で感じた “ピリッ” とした感覚がまた頭の中に走ったのだ。顔には出さなかったが微弱な物は時々出ており、実はこの街に来るまでの道でも近づくたびに走っているのである。

 

 独器使いは他の要因で死なないだけで、病気自体にはなるのかもなと、そう楽観的に考えようとする仁。

 ・・・しかし、例えるならば祭りに行きたくてうずうずしている子共の感情の様な、その方向へ行かせたいと思わせる “何か分からぬ衝動” が、仁をその感覚から逃げさせない。感覚を無視させてくれない。

 

 

 

「・・・クソ・・・めんどーせぇ」

 

 

 

 わーった、わーったよと誰にともなく言いながら、仁は立ち上がって久しぶりに外した独器である足枷を付け直し、少量の荷物を手に宿を出る。

 

 

 時折走るあの “ピリッ” とした感覚が強くなる方向へ、衝動の原因へ徐々に徐々に近づいて行く。近付いている最中に仁は、この街の門と傍にある店を見て、今行こうとしている場所は彼等が怨恨を抱く『忌子』が居る場所だと勘づいた。

 

 

 面倒臭い事になるかもしれないと思い・・・否、確信したにもかかわらず、仁は不思議と足を進めてしまう。

 迷路の様な細い道を歩き、頼りない橋の架かる僅かに濁った川を『飛んで』超え、近付いているであろう証に感覚は徐々にハッキリとした物になっていく。痛みが無い事を訝しく思う程に大きく、そして稲妻の如く鋭く。

 

 

 

 ようやく袋小路の様な場所に出た仁は辺りを見回し―――――それを見つけた。

 

 

 

 

 

「う・・・ア?」

 

 

 

 

 さして女好きでは無く、寧ろかなり鈍い方な仁でも一瞬見とれる程の容姿、少々奇妙なイントネーションが気にならない程の聴き惚れる声を持った、ボロボロのマントの様な服を着た少女を。

 

 

 忌子と聞いていた仁は、もう少し奇妙な容姿を想像していたので、所掌驚いても無理はないだろう。

 

 

 しかし・・・・・

 

 

 

「ダ・・・レ? キ・・・み、ハ?」

 

 

 

 若干の敵意の籠る言葉と同時に構えた、彼女が手に握っている・・・・三つもある奇妙な発射口を持つ、『異様な雰囲気』を持った、パームピストルを見て、さらなる驚愕が走る。

 

 

 

(あれは・・・偽器じゃーねぇ・・・この感覚は、まさか―――独器・・・なのか・・・!?)

 

「キみモ・・・ワタシを、苛メニ来たノ・・・?」

 

 

 

 想像とかけ離れた、儚げな美少女いみごが手にしてていた物は―――――己と同じ物だったのだから。

 その驚愕の事実、引き寄せられた感覚の正体に固まる仁と、余所者である彼を見た事が無い為か恐怖を持って構える少女。

 

 

 

 

と、仁が表情を険しくして飛び退る。

 

 

 

 何をしているのかと思う間もなく・・・・突如として仁の居た場所が地面や建物ごと、毒々しい桃色系統の爆発で木端微塵に砕けた。

 

 

 かなりの破壊力だと言うのに、音は殆ど響かない。

 

 

 

 一体何が起きたのかと、仁はこれまで学んだ独器の基礎・・・一文字で表わされる特徴的な力を持ち、異形な姿を持ち、偽器とは違って全体に同系統の色を持つと言う事を思い返して、彼女の独器の正体をまずは見破る事にした。

 

 

 彼女がこれまで相手してきたのが普通の人々ばかりで、戦い方が稚拙でも十分だった為なのか、爆発個所やタイミングは正体不明でも何とか図る事が出来ている。

 しかし、肝心の爆発の正体が、仁にはまだ分からない。

 

 

 

「速イ・・・!? 今まデのヒト達と違ウ・・・!?」

「・・・だー・・・めんどーせえなぁ・・・!」

 

 

 

 それぞれの思いを呟きながら、片や爆破による攻撃を続け、片や身体能力だけでなく超低空飛行を利用して避けまくる。

 何故攻撃しないのかは言わずもがな、彼女はただ自分の身を守ろうとしているだけだからだ。仁的にも、攻撃していらない誤解を生みたくない。

 

 

しかし、それは仁の都合であり少女の都合では無い。考えている間にも、地面が、壁が、空間が次々と爆ぜ、火薬の様でいて何処か違う独特の臭いと煙をまき散らす。

 右に左に上に、壁を使ったりフェイントを入れたり、このまま普通に爆破していても埒が明かないと見たか、少女は次なる行動に出た。

 

 

徐にパームピストルの・・・普通のパームピストルであればそこの身が重厚となるであろう部分を、拳を突き出すように仁へと向ける。

 

 そして―――――

 

 

 

「バァン!!」

「ぬおっ!?」

 

 

 

 その銃口を向けた動作は何なんだと言わんばかりに、カチン! と言うトリガー音の後、仁の数センチ先に銃弾が出現して有無を言わさずかっとんできた。

 予想もしていなかった攻撃に、仁は銃弾に当たってしまう。

 

 それでも、加速の必要なくどんな時でも望む速度を叩きだせる[(トバシ)]の―――名前が自然と浮かんできた―――力のお陰で、何とか掠り切り傷ぐらいで済ませる事が出来たものの、いきなり登場した弾丸の所為で未だ詳細不明なのに余計なほど混沌としてくる。

 

 

 爆発と銃弾なんて何の関連性もないし、あるとすればどちらも本物は爆破を利用している事だが、銃は言いかえれば爆破なだけでしかも攻撃には利用していない為、全く持って関連性に検討が付かない。

 

 

「コレも避けタっ・・・コノぉっ!!」

「どわっち!?」

 

 

 もう一度目と鼻の先に現れた弾丸を避けたかと思うと、今度は四方八方から銃弾が飛んでくる。

 仁は避けながら何度も何度も[飛]の力を発動させてはいるのだが、独器をまだ完ぺきに使いこなせていないのかそれとも独器使い相手だからか、飛ばして流しきれずに結局避ける方に徹してしまう。

 

 だが、少女の方にも何も制限がある訳ではないらしく、トリガーを鳴らして発射していない弾丸の威力はさほど脅威でも無い―――飽くまで独器使いや武人にとってはだが―――ので、焦る必要性は無いようであった。

 

 虚空から弾丸を出現させる技はたしかに脅威。

 ・・・でもスピードと威力が足りなかったりと、欠点が無い訳ではないのだ。そして、伴う弱点はそれだけでは無かった。

 

 

(・・・何だ・・・? この靄みたいなのは・・・?)

 

 

 

 奇妙な靄に触れた事に気が付いた仁はふと辺りを見回す。すると、靄が薄くなった場所から弾丸が飛び、そこからは暫く弾丸が出て来ない事に気が付く。

 

 

 

(この弾丸は・・・まさか何かで形作られてーのか?)

 

 

 

 仁が何かに気付いた事を少女も感知したらしく、焦った様に虚空だけでは無く自分の傍や銃口からも、次々と弾丸を射出してきた。

 反応がやや鈍い拳銃を持った敵に囲まれて居た様な先程の状況に、真正面からのマシンガンばりの乱射が付属するが、ようやく慣れてきたか仁は弾丸に弾丸をぶつけて反射し、回避行動を重ねていく。

 

 

 恐らく少女は、その銃弾を形作る前の靄を仁から離れた場所に待機させ、銃弾へ形を変えて射出していたらしい。この場所は日の光がささず暗いので見えなかったのだ。だが、彼があまりにも動くので靄の配置をかえられず、触れられてしまったのだろう。

 

 つまり、仁の予想は当たりだったらしい。

 

 

 爆破現象も、粉塵爆発の原理か爆破性を持っているかのどちらか・・・いや、独器の反則性からするに少女の持つ独器は『靄もしくは煙に、それらに関する性質も付属できる』独器なのかもしれない。

 

 

 

(どちらにせよ・・・あの靄に気をつけりゃいー訳だ)

 

 

 

 カラクリが分かればもう遠慮は必要ないとばかりに、仁は空中に飛び上がって壁に足を付く。そのままそこを足場としてミサイルの如く飛び出したのを少女が逃す筈もなく、空中では身動きはとれまいと連鎖的な爆破と弾丸を繰り出した。

 

 

 しかし・・・知っての通り、仁の力は飛ぶ力。

 空中であろうと地上であろうと、彼の機動力が落ちる場所など存在し得ない。

 

 

 

「・・・残念しょー、ってか」

「フえッ?」

 

 

 

 翼もないのに人が飛ぶ。

 ワイヤーアクションの比では無い程の滑らかさと機敏さで飛んでくる。

 この現象を初めて目にして呆気にとられない人間が居たのならば、その者はすでに常識の外にいるに違いない。

 

 仁は誤解だと説明する為に、少女のすぐ目の前に着地した。仁からは攻撃していないし罵倒もしていないし、余所者だし事情も先ほど聞いたばかりなので、誤解を解くのはさほど難しくは無いだろう。

 

 

 

「あ~・・・色々言いたいだろう・・・が?」

 

 

 

 ・・・が、「色々言いたいだろうがまずは落ち着け」と言う言葉は、仁が少女の顔を見たことで強制的に止まってしまう。

 少女の顔には確かに驚愕の色があった、しかしそれと同時に何かを期待する様な物も見えたのだ。

 

 

 非常に面倒くさい展開になりそうな、いや~な予感を感じた仁は、謝るだけ謝って去ろうとする。

 

 

 

「驚かせてすまんかった、じゃ、そー言うこ―――――」

「キみ! ワタシと・・・ワタシと同ジもの感じル! ワタシと・・・同じ力ヲ感ジる!」

「いや違ぇだろ。お前は煙の力、俺ぁ飛ぶ力、全くちげーから、ぜんぜ――――」

「オ願い! ワタシに協力シて! しテ欲シイの!」

「・・・こんなろ・・・」

 

 

 

 ほら見ろこうなった、何か知らんが面倒臭い事になった、如何してくれーんだ、馬鹿野郎この野郎。

 ・・・頭の中でも口でも愚痴ると言う器用な真似をしながら、此処へ向かっていた先刻の自分を呪っていたが―――――

 

 

 

 

 

「ワタシは・・・この街を爆破なンテしてナイ! ヤッタノは、アの鳥なノニ・・・なノに!」

「・・・爆破していない・・・? ・・・鳥?」

 

 

 

 彼女の口から出た言葉で、後ろ向きな考えと帰りかけていた脚を止める事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 取りあえず説明してもらおうと、長引いた時の為に一旦街中に戻って食事を買ってきた仁は、まず自分の分を手前に置き、そして少女の分を浮遊させて目の前に置いた。

 

 フライドチキンとポテト、黒パンの入ったパックと、それをくれた人の間で、少女は目線を行ったり来たりさせた後、不思議そうな声で呟いた。

 

 

 

「コレ・・・貰ッテもいいノ?」

「・・・その為に買ってきたんだろーが」

 

 

 

 独器に馴染んできた代償か、面倒臭さがまして時折伸ばして発言するようになった仁の言葉を、しかし少女は気にも留めず未だ視線を行ったり来たりさせている。

 

 彼女の様子がちょっとおかしいと感じたのか、念のためと仁は問いかけた。

 

 

 

「・・・おいお前、何時も飯はどーしてる?」

「エット・・・木貨を置イテ、リンゴとかとっテク。お金出して買おウトしてモ、昔は勿論最近はもット買わせてモラエないから・・・」

「・・・」

 

 

 

 イントネーションの奇妙さで分かりづらいが、悲しそうな表情とイントネーションを頭の中で、標準に直して反芻した言葉から、彼女が差し出してくれた食べ物にすぐ手を付けない理由を悟った。

 

 今まで碌に食事が取れなかったのに、見ず知らずの男にまともな食事を差し出されれば、そりゃ誰でも戸惑う。

 

 先ずは緊張でも解れさせようと(やっぱり面倒臭いからか行動に移るまでのテンポがだいぶ遅れたが)仁は笙狼老人がら教わった、人と距離を縮める簡単な方法を実行した。

 

 

「・・・お前、名前は?」

 

 

 それは名前を聞くと言う事。

 名を知れば少なくとも知り合いとなり、様々な言い分(または屁理屈)で言いくるめる事も出来るから、という理屈だ。

 

 ・・・尤も、仁にとっては何時までも『お前』扱いでは、指摘された時面倒くさいからという意味合いもあったが。

 

 

 そんな半分ほど私情の混ざった仁の言葉に、

 

 

 

 

「名前・・・名前、ハ・・・ナい」

 

 

 少女は予想外の返答を返して来た。

 

 

「は?」

「ワタシ、忌み嫌わレシ子供。パパとママ、愛してクレたけど、此処の最後ノ決まりダカラ譲れナイって、族長サンに名前付ける事、ダメって言わレたから」

「・・・はぁ・・・!?」

 

 

 

 続けて語られた彼女の話で、忌み嫌われし子供に、此処ではその個人をその個人たらしめる誇りでもあるとされる、個人の名前を付ける事は如何あっても許されないと・・・つまり忌子なんかに誇りを持たせてたまるかと、名前を付けさせなかったのだ。

 

 もしくは排他的に扱われて当然と思っている少女に、名前が付く事が単に気に食わなかっただけか。どちらにせよ、一族間の事なので、仁に深く察するのは無理だった。

 

 

 と、何かを思いついたらしく、仁は少女に話しかける。

 

 

 

「・・・一ついーか?」

「何?」

「・・・名前を付ける行為が駄目なのか? 名前を持つ事が駄目なのか?」

「・・・エット・・・」

 

 

 

 仁の発言に込められた意図を一瞬理解しかねたが、ちょっと考えて答えが出たらしく、少女は彼の問いに答えを返した。

 

 

 

「パパとママ、ダメだっタ。私も・・・気に入らナイけど一応一族だカラ、自分で名前を付ケテ一族を貶める行為は許さない! ・・・ッテ・・・」

「・・・つまり、名前を持つ事は禁止じゃーないのか」

「ウン・・・族長は、この状況で付けラレルなら付けてみロ!って言ってタシネ・・・」

 

 

 

 

 成る程、と頷く仁。

 名前を両親が付けることも許されず、自分で付ける事も許さない。名前を名乗ってもいいが、名乗れる名前があるなら名乗ってみろ、と言う事なのだろう。

 

 だが、族長は大事な事を見落としていた―――恐らく、外交が発達して道が舗装される前に出した禁則だったので、頭の中に入っていなかったのだろう。

 

 

 

 この禁則事項には・・・・・ “旅人が名前を付ける事” は入っていないのだ。

 

 

 

 

「・・・だったら、俺が付けてやる」

「エ?」

「・・・大体俺、一族じゃねーし・・・それに、アレだ。

 これから一時的に行動を共にする奴を、何時までもお前扱いってーのは色々面倒だ」

 

 

 一時的に行動を共にする、その言葉に少女は目を輝かせた。

 

 

「じゃ、ジャあ一緒ニ鳥退治に行ってクレルの!?」

「・・・おう」

 

 

 

 何故協力する気になったか。

 ・・・簡単な話、仁は少女を放っておけなかったのだ。

 

 一人になり出て行ったその日に国が崩壊した者と、恐らく冤罪で追い詰められ一人になった者。状況こそ圧倒的に違う筈なのに、仁には彼女の姿がかつて一人になって飛び出した自分と重なったのだ。

 

 

 それに・・・・・世界を見て周る事の他に、可能であれば人を助けて行きたいとも、仁はそう目的を持って旅に出た。

 此処で助けなくて、何のための目標であろうか。

 

 

 

「アリ・・・ガとウ」

「・・・あぁよ・・・まぁ、そんな訳だ。お前呼ばわりじゃ無くする為に、名前付けーぞ」

「ウン!」

 

 

 

 が、いざ名前を付けるとなると難航するのは必死であった。自分の名前でさえ、覚えががあった物に偶々目に入った物を合わせただけ。

 

 それでも、実行すると自分が言った手前、簡単に取り下げる訳にはいかないし、この街の人達には勿論頼れない。下手をすれば、面倒臭い事に巻き込まれてしまう。ただでさえ、名前があると分かった際に一族が怒鳴り出しそうだという不安があるのに、だ。

 

 

 

(何焦ってーだってーの、落ち着いて言葉を紡ぎ出せ・・・・・・や、まてよ?)

 

 

 

 自信を落ち着かせる為の言葉で名前を思いついたらしく、少女をはっきり見据えて仁は口を開いた。

 

 

 

「お前の名前は・・・」

「ワタシの、名前ハ・・・・?」

「此処から、お前が人生を新たに “紡いで” 行けるようにって事で――――」

 

 

 一つ間を置き、よく聞こえる様に言葉に重みを込めて、名前を言う。

 なんという安直さかと、己れで自嘲しながらに。

 

 

「『(つむぎ)』・・・お前の名前は、紬だ」

「ツムギ・・・紬・・・ワタシ、の、名前・・・」

 

 

 

 宝物をもらったかのように、彼女は自分の体を抱きしめた。華奢な見た目に似合わない程豊満な胸が思い切り潰れる程、彼女は深く強く抱擁する。

 

 ふと彼女の眼もとを見た仁は、薄ら光る物が流れて行くのが目に入った。

 嬉しいのだろう・・・やはり、本当は欲しかったのだろう。

 自分だけの名前が。

 

 ほんの少しでも心許せるものが居たのなら、ソレは尚更に。

 

 

「・・・さてと・・・そんじゃー紬、鳥退治の前に飯食っちまおーや」

「ウン! あ~ん・・・ハグッ!」

 

 

 

 泣きながら嬉しそうにフライドチキンに被り着く少女・紬は、初めて会った時の絶望的な顔は何だったのかと思えるぐらい、明るい顔をしていた。それは、彼女本来の表情のようにも見えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食事が終わり、高揚した気分が一通り落ち着いたのを見計らって、仁は紬に爆破事件を招いた鳥の詳細を聞いた。

 

 

 何でもその事件の当日、余りにもお腹が減った為、紬は森に出かけて果物を取っていたらしい。たくさん取れたのでお腹いっぱい食べられると嬉しくなってスキップしながら町へ帰ると・・・何とも奇妙な化け物が、街へ入って行く所を見たのだと言う。

 

 その人型は、猛禽と鶏を合わせた様な頭部を持ち、上半身は筋骨隆々な人間でしかし手には大穴が開いており、足は水で出来た様な不完全な一本の脚で、腰の横には両方に飛行機の翼に大穴をあけた様な物があったとか。

 

 

 明らかにおかしな人型を不審に思っていた紬は、何を思ったか左手を持ち上げてそこの穴に向かって息を吹き込んだのを見た・・・・・途端、自分が何時も出している靄の色違いな球体が幾つも出てきて、多くの建物に激突。

 

 

 直後に爆発して町民たちを阿鼻叫喚へと誘ったのだ。

 

 

 何とか対抗しようと弾丸や爆発を猛禽頭の化け物に命中させて、その時は何とか追い払ったものの、爆発の所為で見えなかったのか、町民たちは見たまま紬のせいにしてしまい・・・・・今に至ると言う訳だ。

 

 

 

「ワタシ、頑張っタんだヨ、パパとママの居た、大切な町ヲ守りタイって・・・デモ、ダメだった。今でも、アレカラ何度も鳥が来ルけど・・・これ以上はやらせなイッテ追い払ッテる」

「・・・つまり、一か月以上前以来事件は無いって分けか」

「ソう。でモ駄目、誰も信じテくれナイし、ケレド鳥は何度も来るシ・・・疲れてきチャった・・・」

 

 

 

 目の前で戦闘でも起こさない限りは確かに信じてもらえないのだろうが、紬の言い分からするに追い払うだけの実力しかもっていない彼女では、街の近くで戦闘なぞとても出来ないのだろう。

 

 加えて、正体が分かってもまだ納得いかないと思う人や、こいつ等はグルだったんだと思う人たちも出てくるに違いない。

 

 

 

 だが、町民は頼りに出来ないし、偶に来た旅人達も商人や中途半端な者ばかりで、役に立たない。

 もうそろそろ限界だ・・・―――と、そんな時に仁が来たのである。

 

 

 

「ワタシと仁の二人デなら、追い払うダケでも町の傍で出来ルシ、倒してシマウ事も出来るかモ・・・ウウン、キットできるから!」

「・・・・・」

「・・・仁?」

 

 

 

 返事を返さない仁に紬はどうかしたのかと顔を覗き込む。

 

 実は、仁にはその鳥が何なのか心当たりがあった。といっても、鳥の化け物そのものに心当たりがあるのではなく、その奇妙な造形の化け物達の総称を知っているのだ。

 

 

 

(・・・多分、そいつは独器の劣化コピー、偽器でもあり生物でもある兵器・・・偽器兵か)

 

 

 

 生きた細胞群の集まりであるらしい独器は、真っ芯があるからこそ扱えるのだと言う。では、普通の偽器の様に代用品を使わず、その芯を抜いて完成させたらどうなるか・・・? その結果が雑食の生物機械・偽器兵らしい。

 

 実力は勿論、武器そのものである為か独器と偽器でないと壊せない厄介さと、外見の奇妙さも相まって、この世界では一番恐れられている化け物である。

 弱点としては殆どの種が小食であり、刺激しなければ出会っても無視される事が多いことと、しかも最低ランクなら餌付けが簡単に出来るぐらいか。

 

 

 しかし、一種の野生生物で且つ小食である偽器兵が、何故この街を何度も破壊する為に執拗に襲おうとするかなど、専門家ですらない人間には見当もつかない。

 

 

 

「仁?」

「・・・! ・・・すまねーアレだ、考え事をよぉ・・・してたもんでな」

「考えゴト?」

「個人的なこった・・・それよりも、どーする?」

「エ?」

「町の傍で防衛するか、アレだ直倒しに行くのかだ」

「う~ン・・・」

 

 

 

 仁としてはどちらでも構わないのだが、どうしたいかは始めからの当事者である紬が決めるべきだろう。自分に有利に働く様にするか、それとも面倒な作業を終わりにするか。

 

 如何するべきかと考えていた・・・・・刹那、紬は焦った様に顔を上げた。

 

 

 

「シマッタ! 今日は・・・!」

「今日は、どーした?」

「鳥ノ来る日ナの! 早く行かナイト町に着いチャう!」

「何!?」

 

 

 

 両者ともに焦って立ち上がった、正にその瞬間――――――

 

 

 

 

 

 

『《ゲエエエエエエアアアアアアア!!!!》』

 

 

 

 

 鳥の鳴き声をミックスさせて濁らせたような雄叫びと、大規模な爆発音が轟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 町は、あの事件の如き阿鼻叫喚だった、とでも言うべきか。

 

 首謀者らしき化け物は遠くに居る様でここからは見えないが、見えないだけで何度も何度も爆撃を行っており、破砕音と轟音は鳴り止まない。

 

 

 町の崩壊具合からして一応仁と紬はまにあった模様、しかし町がボロボロになっているという事実に変わりは無い。

 

 

 まずは空を飛んで上空から敵を姿を確認しようと、仁が僅かに地上から浮いたその時・・・彼は何かを感じ、紬へ叫んだ。

 

 

 

「伏せろ!」

「え―――ワっ!?」

 

 

 

 飛んできたのは爆破球体・・・ではなく、石つぶてであった。それが飛んできた後方を仁が睨むと、怒りの形相で石を振りかぶっている町人の姿があった。

 

 

 

「もう容赦しねえぞ化け物め!!」

「この! 町から出て行きなさいよ!!」

「チ、違ウ・・・!」

「喰らええッ!!」

 

 

 

 思いっきり投げられた石に反応できず、紬は硬直したまま石の直撃を待つのみ・・・・かと思いきや、直前で全ての石が見事なほど直角にそれて、地面や壁にぶつかって地に落ちた。

 

 それをやったのは、勿論仁だ。

 

 

 

「・・・あんたらな・・・この爆発事件を起こしている奴の区別もつかねーと?」

「そこに居る忌子がやっているに決まっているだろう!! よそ者の分際で口を出すな!!」

「・・・証拠は?」

「そいつが忌子だからよ!!」

「・・・そーかい」

 

 

 

 まあ、爆発を操り忌み嫌われている子供が居るのならば、真っ先に疑っても仕方が無い。

 ・・・と、不意に目を鋭く細めた仁が、弾力のある何かを遠くへ蹴り飛ばした。

 

 直後に空中で爆発。仁が蹴り飛ばしたのは化け物が飛ばして来た球体だったらしい。

 

 

 

 また、物体が飛んできたことで、化け物が居る位置も掴む事が出来た。そこまで空気を切り裂いて突撃した仁は、煙に隠れられない様にそこに居た化け物を蹴っ飛ばし、地面にめり込めとばかりに踏ん付ける。

 

 

 

『《ギョオオオオオオオ!??》』

 

 

 

 いきなり攻撃された化け物は、先程も聞こえた煩わしい程鳥の鳴き声をミックスさせた雄叫びを上げる。

 

 その姿は・・・何と紬が言った通り、鶏と猛禽類を足したような頭に穴のあいた手、腰にある穴のあいた飛行機の様な翼に、水で出来ている様な一本の脚であった。

 

 

 

「な、何だコイツ!?」

「鳥の化け物!?」

「き、気色悪いっ!!」

 

「コいツハ・・・アの鳥頭ノ化ケ物!」

「・・・みたいだな」

 

 

 

 町民たちは突如として姿を現した化け物に驚き、紬はやっぱり来ていたのだと鳥頭を指差して睨む。仁は大当たりだったと頷きながら、紬の方へ顔を向けた。

 

 

 

「・・・いーか紬、此処で戦ったらめんどーせぇ事になる。少しだけ場所を移す。行くぞ」

「OK! リョーカい!」

 

 

 

 言うが早いか仁は鳥頭の化け物を蹴っ飛ばし、紬を抱えて再び飛び出していく。方角からするに、森近くの出入り口へ向かっているようだ。

 

 紬は悪くないと教え、なおかつ化け物を退治する。面倒臭い事であろうが、仁は本気で実行するらしく、ダルそうな雰囲気は少し消えていた。

 

 

 

「紬! 弾丸に使ってーた性質の煙をそのまま広げる事は出来るか!?」

「デ、できるヨ! 壁みタイにすればイいンダヨね!」

「そうだ! 頼む!」

「分かっタ!」

 

 

 

紬は大きな声で答え、壁を作り出して後方を守った。

 

 しかし、紬の力を少し見ただけの仁が何故彼女の力をある程度理解しているのか? これは簡単な話で、弾丸に使った靄は “壁にめり込んだが爆発しなかった” のだ。つまり物理攻撃が出来る程の質量をもっているに違いない・・・そうやって考えて出した作戦が、見事に当たった訳だ。

 

 

 

「その壁を動かして、球体から建物を出来るだけ護れ! それだけでいい!」

「ウ、ウン! 仁も無理しナイでネ!」

「・・・した後がめんどーせえからしねーよ!」

 

『《ゴゲオオオオオォォォオオアアアアァァァァアアアアア!!!!》』

 

 

 

 3回も頭ごなしに蹴っ飛ばされたうえ目の前に居るのに無視して相談をされた為か、鶏頭の化け物は血管を浮き上がらせて憤怒の咆哮を高らかに上げて、爆破球体を乱射してきた。

 

 

 

「うおおっ!? クソったれ!」

 

 

 

 細かい物から大柄な物まで矢鱈滅多等に繰り出される球体を、偽器ですら不可能な精密かつ高速な飛行でかわし、仁は鶏頭の偽器兵へ着実に近づいて行く。球体はどうやら水に近い代物らしく、不定形に弱い飛ぶ力では碌に軌道をずらせないので、仁は避ける事に徹しているのだ。

 

 

 もし仁一人であったならば、爆破球体を警戒しながら戦うと言う面倒くさい羽目になったのだろうが・・・今の彼の後ろには、この戦いが初のコンビプレイで、着い数時間前に出会ったばかりながら、頼もしい仲間が居る。

 

 

 

「行かせナイよ・・・今度ハやらせナイ! パパとママの町ヲ!!」

 

 

 

 靄・・・否、煙の盾を縦横無尽に動かし、間に合わない場合は一部切り離して身軽にさせた煙質立方体を爆破させて、次々飛んでくる爆破球体を危うい所あれど、しかし紬は確実に落としていく。

 

 目と鼻の先に近付いた仁は、鶏頭の脳天を蹴り落として舌を向かせ、[飛]の力ですぐに下方へ移動して下へ向いた顔面にトーキックを思いっきり入れ、降り上げられた足をそのまま振り下ろして鶏頭のどてっぱらを蹴っ飛ばす。

 

 

 やられてばかりでたまるかと爆破球体が細かく、広範囲にすぐさま乱射されるものの、圧倒的スピードを誇る[飛]の力の前に、軽い浮遊しかできない鶏頭は成すすべなく背中から5、6発のフロントキックを喰らい、怒って振り向こうとした瞬間に二―キックで思いっきり、更に上空へすっ飛ばされる。

 

 

 

 回転しながら高速で鶏頭の偽器兵が吹き飛んでいく地点へ先回りし・・・・

 

 

 

「ドォラアぁああっ!!」

『《ゴモゲエエエエエェェエエッ!!?》』

 

 

 

 回転+飛行+脚力+飛の足場+飛んできた勢いが全て乗ったサマーソルトキックをぶち込んだ。面白いように回転しながら、鶏頭の偽器兵は地面を砕く程の熱烈な抱擁を交わす。が、攻撃はそれだけでは終わらない。

 

 

 

「いックよ! ガツンと掴ンで・・・ドッカーン!!」

「うおっ!?」

 

『《ゴハアアアアゲエエエエッ!!》』

 

 

 

 立ち上がろうとした鶏頭を、煙で出来た巨大な手が無理やり抑え込み、直後に毒々しい桃色の爆炎を巻き起こして大地に小さいながらもクレーターを刻んだ。

 

 悪足掻きとして放たれた爆破球体も、見当違いの方向に激突して空しい爆発音を立てるのみ。

 

 

 仁との接近戦で離れようとしたり、穴の開いた手を向けようとせず嘴を向けようとしたあたり、この偽器兵には格闘技能は摘まれていないのだろう。

 もしかすると水の様な脚にも何かの力がある可能性が高いが、それを行おうと足を構えても、仁へはスピード故に向ける事すらままならず、紬へ向ければ仁に蹴りを叩き込まれてしまうわで、全く役に立っていない。

 

 

 そして・・・先程から、安全地帯に居ると分かって、戦いの一部始終を見ていた町民たちが、先程の二種の爆発が起きた後に、疑問の声を上げ始めた。

 

 

 

「おい・・・あの爆発桃色・・・だったぞ? 俺らが見たのはくすんだ小豆色の爆発じゃ無かったか?」

「そういえば・・・確かにあの子は忌子だけれど、爆破したその時は見ていない・・・わよね」

「しかも、町を護る為に戦ってくれているし・・・爆破事件があった時にも、あの変な鳴き声は聞こえたよな?」

「良く考えれば、おかしいところが多々あるわ・・・姿を見たとか、爆発があっただけじゃ、決められないぐらいに」

 

 

 

 彼等が上げた疑問点、爆発の色に犯行現場そのものの目撃証言皆無、護ってくれているという事実。それに、紬が忌子だから決めつけていたのではないかという思いが、彼等の中に生れて来たのだ。

 

 掌を返すのが早いと思う人もいるかもしれないが、彼の中には未だ強い不信感はあるし、崩壊しかけていた町を守ってくれていたら、誰だって希望や期待は持つ物だろう。

 

 

 ・・・その感情の内、不信感を強く抱いているらしい物が、人垣をかき分けて正面に出てきた。

 

 

 

「騙されるでない! あの余所者の男を見よ! あの男と結託して化け物を連れてきて、あの事件を化け物へ押し付けようとする可能性も捨てきれんのだぞ!」

 

 

 

 族長らしき服装の・・・しかし何処にも重みが感じられない男が、剣を仁へと付き付け、声高らかに言い放った。その言葉でその通りだ・・・と思う物と、そうなのか? と思う物に分かれたようだったが、一分も経たぬうちに族長らしき男の意見に賛同する者が増えてきたのだ。

 

 

「そ、そうだ! 騙されるな!」

「ひきょう者め!」

「格好付けてんなよ! 旅人!」

 

「・・・・うむ、うむ・・・これでよい」

 

 

 

 明らかにおかしい速度で、しかもコノ戦いを音でしか認識していない後方の者まで賛同し始め、族長らしき男は顔を伏せ、何故か目が隠れた状態で僅かに笑むと、剣を掲げて宣言する。

 

 

 

「コレは古より伝えられし、 “独器” に最も近しいとされる偽器だ! これで、偽器使いたる余所者と忌子供、利用されし哀れなる化け物をも葬ってくれる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちっ・・・あんのヤロー・・・」

 

 

 

 耳の良い仁は、彼等の会話を遠巻きながら聞き取っていた。

 

 可能性はもあるとはいえ、余りに事実無根な事を、忌子と余所者だからで通してしまえる程、彼の信頼は厚い物なのであろうが・・・・仁は確かに見ていた。

 

 

 

 

 

 彼の顔に浮かんだ、歪んだ悦びを表す“醜悪な笑み”を。

 

 

 

 舌打ちと同時に、紬の戦い前の発言を思い出して接合しながら、ある可能性が彼の頭の中に浮かび上がった。勿論、“ソレ” も可能性でしかないし、単に頭が残念な族長なのかもしれないが、それでも試す価値はあるかもしれないと、仁は考える。

 

 

 

「アっ・・・! 族長・・・!?」

『《グゲア? ・・・・グエエエッ?》』

 

 

 

 紬がその族長らしき男・・・いや、本当に族長らしい男に驚いて目を見開くが、仁は彼が族長であろうとなかろうともう見てもいないし聞いてもいなかった。

 

 

 彼が見ていたのは鶏頭の偽器兵・・・何故か偽器兵さえも、「何で入ってきたんだ?」と言わんばかりに首を傾げ、しかし仁達への敵意は未だ止んでいない。

 

 普通、怒りが頂点へ昇っている獣なら、『視界に入って全ての物を敵とみなす筈』なのに。

 

 

 

「汚らわしき者どもよ!! 族長であるこの私が、聖なる剣で葬ってくれようぞ!!」

「・・・」

「エ? ぞ、族チョ・・・」

 

「黙れ!! 汚らわしき忌子が!!」

 

「! ・・・ウ・・・ッ!」

『《グエ? アグエ?》』

 

 

 

 仁にとっては胸糞の悪くなる言葉を紬へ吐きつけた族長は、次にこの距離まで近づかれてもまだ首を傾げている偽器兵へ近づき、

 

 

 

「----な?」

『《グゲ》』

 

 

 

 何かを呟いたかと思うと・・・・・いきなり剣で切り付け、斬られた偽器兵は《不自然な吹き飛び方》で後方へ飛んで行った。

 

 

 

「どうだ! 化け物は私が退治したぞ!! 化け物よ! 汚らしきお前は二度と立ち上がってくれるな!」

 

 

「凄いぜ族長!!」

「あいつ等が苦戦した化け物をいとも簡単に!」

「そいつ等もやっちゃってください!!」

 

「ウ・・・つ、強い・・・!」

 

 

 

 [封印]の術式を解放した状態の仁の蹴りを受けてもまだ死ななかった偽器兵を、手負いとはいえ一発で片付けた族長の実力は『表向きなら』かなりの物と見えるだろう。

 町民達は、何かに浮かされた様に歓声を上げる・・・たった一人に一言言われただけでは、此処までの熱などもてないだろうと思えるぐらいに。

 

 

 しかし、何かを呟いたのを聞きとった上、彼の醜悪な笑みを見ていた仁は、『裏で』何が起こっているかを察し、同時に自分の考えが正しい事を悟った。

 

 

 

(・・・・頭が足りないうえ、自分の力を過信するお馬鹿だとはな)

 

 

 

 あの剣からも力を感じる為、恐らく偽器である事は間違いない。

 だが、ただ偽器を使うだけで優位に立てるのは、相手が普通の者たちであった時の場合。

 鍛えている者なら言わずもがな―――それを除いても、目の前の彼等の武具は偽器とは似て非なる物(・・・・・)なのだから。

 

 地上に降りていた仁は、紬へ近寄る。

 紬は震えており、族長の『表向き』を完全に信じていしまっているのが分かった。

 

 

 

「ど、どうしヨウ仁・・・!? か、勝てない所かコロ、殺さレて・・・!」

「・・・なーに、だいじょーぶだ。死にゃしねーし、怯える必要もない。それよりも・・・耳かせ」

「エ? ――――――エ!?」

「いーな? 実行しろよ?」

「デ、デも・・・・それが真実じゃなカッ―――」

「・・・悩んでる暇ー無い。早く実行しねーと、族長が走ってくんぞ」

「! ワ、分かッた!!」

 

 

 

 仁からある提案と作戦を聞いた紬は、一目散にある方向へと駆けていく。それは・・・先程斬り飛ばされた、偽器兵が横たわる場所であった。

 

 それをみた族長は、もう倒している相手に、そして一番距離が遠い敵めがけて、慌てた様に奪取し始めたのだ。

 

 

「ま、待て忌子!! 悪しき化け物の復活なぞさせ・・・ぬおっ!?」

「・・・こっから先には、行かせねーよ」

「っ!? ど、どかんか!!」

「・・・どかねーっての」

 

 

 

 素人とアマチュアの間の腕前という中途半端な技量で振り回される剣を、仁は別段苦労すること無くするすると避け、足枷で難なく弾く。

 

 その間に偽器兵に近付いた紬が何かを呟くと―――――死んでいる筈の偽器兵の体が、僅かに・・・本当に僅かに “ピクッ” と動いた。

 

 

 

「ゼアっ!!」

「くおっ!?」

 

 

 

 仁の蹴りで剣は高らかに弾き飛ばされ、そのまま何を思ったのだか数歩も下がってオーバーアクションでく蹴りを繰り出したのだ。

 

 中途半端者には容易に避けられる一撃でも無いが、しかしそんな一撃をこの場面で如何して用いたか。

 

 

 

 

 

 

『《グゲエッ!!》』

「ぬおっ? ・・・な、なにを!?」

 

 

 

 

 答えはすぐに出た。

 

 

 

 

「え? ば、化け物が生きて・・・!?」

「というか、族長をかばった!?」

「ちょっとまて、化け物をよく見ろ・・・打撲傷はあるけど、切り傷が何処にもない!」

「な、何がどうなっているんだ!?」

 

 

 

 

 斬られて死んだ筈の化け物が、何と族長を身を挺してかばったのだ。おまけに、剣で切り付けられたのに切創など無い。

 

 それと同時に町民達の熱も下がっていく。それは、庇ったのを見たと言うよりは、獲り着いていた何かが抜けたような感じだった。

 

 

 

(・・・片一方は予想外だが・・・もう一方は当たりだな)

 

 

 

 仁が紬に託した作戦はかなり簡単なものであった。それは、偽器兵の近くへ行き《あの人が倒されたら餌がもらえないよ》と言うだけ。

 

 たったそれだけか? と思いだろう。

 しかし先にも言われた通り、偽器兵はランクが低ければ容易に餌づけ出来るが、それは俗に言う飼い犬や豚と同じ状態となること。

 ・・・即ち自分で餌を取らなくなる事にもつながってしまうのだ。

 

 これを演出する為に、族長はこの気持ち悪い化け物をも可愛がったのだろう。

 偽器兵はもはや飼い犬同然となってしまっている。

 

 

 

「・・・なぁ、族長さんよ」

「・・・ッ!? な、なんだ?」

「何でそいつが懐いているんだ? まるでペットみてーに」

「そ、それは、あの剣が斬った者を味方にする剣で・・・」

「あんた、『悪しき化け物の復活なぞさせん』とか言ってたよな? なのに焦ってた本人が復活させるってどーゆーこった?」

「うっ・・・・!?」

「しかも味方にするなら、アイツが偽器兵に近寄った瞬間にでも発動させるべきだ。 何で自分に攻撃が当てられそーになった時に来たんだかね?」

 

 

 

 自分が行ったことで墓穴を掘ってしまっている上、後ろにはこの会話を聞いている町民達が居る。そして、そんな敵だらけの彼へ、紬がさらなる追撃を加えた。

 

 

 

「ジャ、じゃあ鳥ガ町を襲って来ていたノモ!?」

「・・・そーだ。多分コイツがやってたんだろ」

「ナラ・・・あの剣は唯ノ剣?」

「いや」

 

 

 

 それだけ呟くと、仁は剣を拾い上げてこんこんと剣の腹を叩く。

 

 

 

「これも立派な偽器だな。けど、効果が戦闘向きじゃあ無く・・・所謂洗脳向きの能力だってー事だ」

 

 

 

 これで、町民達の不自然な熱気や、誇りを主とした曖昧且つ子供じみた『名前関連』のおきてにも納得がいく。彼にカリスマがあったのではない、剣がカリスマを演出していたのだ。

 

 

 

「・・・さて、ここまで証拠ー揃えたんだ、弁解はあるか? 族長よ」

「う、うそだ! 信じる出ないぞ皆の者!! 私の言う事は・・・」

 

 

 

「あの族長・・・確か前族長も手を焼くドラ息子だったような・・・?」

 

 

 

 名をもあがこうとする族長だったが、誰とも分からない一つの呟きで、波が広がって行く。

 

 

 

「そうだ! ドラ息子で族長候補から落とされていた筈の!」

「考えてみれば、オカシイ掟がいくつもあるじゃねぇか!!」

「事件の原因追及も・・・ドラ息子! お前からだったよな!!」

 

 

 

 称える歓声が一転、あっという間に罵倒の嵐となったのを見た族長は、蒼白の表情で髪を不気味なほどゆっくり、しかし大きくかきむしっている。

 

 絶望真っただ中となっている彼は・・・・・直後に不気味な笑みを浮かべて町民達を指差した。

 

 

 

「い、いけ偽器兵!! あいつ等を爆破して滅ぼしてしまええッ!!」

 

『《ゴグエエエエエエッ!!!》』

 

 

 

 彼の中で何かがキレたらしい。取り返しのつかない事となろうとも知るかとばかりに偽器兵へ殲滅の命令を出し、偽器兵もそれを嬉しそうな顔で承諾。掌と翼の穴を、町民達へ向けた。

 

 

 

「う、うわあああああっ!?」

「にげろおおおっ!?」

 

「逃がすものか!! こうなれば全員町もろとも消えろおっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・お前よー・・・とことんドアホだな」

「やらセナイよ・・・ワタシの町だモン!」

 

 

 

 

 直後に上と後ろから声が聞こえたかと思うと、偽器兵が大爆発を受けて上空へ舞い上がる。そして、一陣の突風が吹いた刹那――――――

 

 

 

「オオオおぉぉっ!!!」

 

 

 

 音速を超えて急降下してきた仁に思いっきり蹴りを叩き込まれ、何も無い筈の空中で轟音を立てて壁にぶつかる。潰れろとばかりにもう片方の足も加えて頭を壁に押し付けられた偽器兵は、一瞬力を抜いてからの踏みつけを受けて悲鳴の一つも上げられずに頭を砕かれ、体も荒い破片状へと帰えっていった。

 

 

 

「な・・・なな・・・・」

「・・・じゃー・・・次はお前、だな」

「ひいいいっ!?」

 

 

 

 みっともなく、情けなく、威厳なく、どれもが似合うざまで逃げだそうとする族長だったが、目の前に紬が立ちはだかったことで逃げ口を塞がれる。

 

 そんな紬に向かって、族長は狂ったか命乞いでは無く罵倒の言葉を叫び始めた。

 

 

「元はと言えばてめぇが悪いんだ!! 競争相手の一人に、忌子が生まれた時は嬉しかったぜ・・・だがなぁ! あの野郎はお前を迫害せず優しくした! その所為で親父が、分け隔てなくいる者が良いとか言い出しやがったんだぞ! お前が! 生まれなければ偽器で思い通りに出来たんだよおおおっ!!」

「・・・お父サン・・・」

 

 

 

 たった一言、それだけ優しい眼で空を見て呟いた紬を、族長は今がチャンスと見たか偽器を手に斬りかかる。

 

 

 

「死ねぇえええ――――えええっ?」

 

 

 しかし、いきなり手から偽器がすっぽ抜けたことで、勢いが止まってしまう。

 

 ―――すっぽ抜けさせたのは、仁。

 彼は、一言紬に言い放った。

 

 

 

「ぶっ放せ」

「了解」

 

 

 

 その、無慈悲なトリガー音が当たりに響き・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 悲鳴をも掻き消す桃色の爆炎が、当たりをより明るく照らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「モウ、行っちゃウノ?」

「・・・あぁよ」

 

 

 

 襲撃事件の、翌々日。

 

 村の出入り口で荷物を背おった仁が、紬と対話していた。彼女の服装はマントの様なボロボロの布切れでは無く、着物を模した和風ドレスである。

 

 

 あれから捕まった族長は当然のことながら族長をおろされて投獄され、投票で決まる筈だった物が族長に就任したという。

 その族長は意外にも、なんと仁が町に来てから初めて出会った、あの恰幅の良い中年男性であった。

 

 

 紬は未だ忌子として見られてはいるものの理解者も以前より増え、何より自由に買い物できるようになった事と、名前を読んでもらえる事が彼女にとっては何より嬉しいのだという。

 

 

 

 仁も族長の悪事暴きを手伝った者として称賛されたが、一番称賛されるべきなのは人知れず鶏頭の偽器兵と戦ってきた紬だと主役を彼女に譲り、さっさと中心地から離れたらしい。・・・面倒臭いという感情が混じっていたのは余談だ。

 

 

 そして・・・現在。

 

 元々、引き寄せられるように立ち寄った町であるし、事件も解決して物資も買ったのでもう用が無く、仁はすぐにでも此処を立つ予定であった。

 自己満足だけ済ませて旅に戻るのも如何かとも考えはしたが、族長変更やこれまでの粗を埋める為にこれから忙しくなる町に、関係ない者が何時までもいる訳にはいかない・・・そう考えて、仁は旅へ戻る事を選んだのだ。

 

 

 そして、荷物を纏めて出入り口へと向かい、門の前で伸びをしていたら、紬がやってきたという訳だ。

 

 

 

「・・・もっと他にも見て回りてーし、何時までも此処に居る訳にもいかねーしな」

「ソウ、だよネ・・・」

 

 

 

 俯いた紬は少しの間そのままの体勢でいたが、やがて決心したように顔を上げる。そして、包帯に包まれていない右目にこれ以上ない程の真剣味を宿し、仁へ言い放った。

 

 

 

「ジン、お願イ、聞いてモラッテもいい?」

「・・・お願いだ?」

 

「ワタシ、自分見たいナ人が居るかもシレナイって、出来ルナら手を差し伸べたいッテ事件の後ニ考えタノ・・・同時にニ、ワタシみたイナ忌子でも、単なる旅人としてミテくれる・・・そんな国をイッパイ見てミタイって!」

「・・・」

「だから、仁――――――私ガ旅ヘ出る時ニ・・・一緒に付いてキテもらっテモ、良いかナ・・・?」

「・・・」

 

 

 

 何分経っただろうか、それとも数秒と経っていないのだろうか・・・曖昧に取れる時が流れ、仁が出した答えは―――――

 

 

 

 

 

「・・・あぁよ、連れてってやらぁ……」

「!」

 

 

 

 『肯定』 だった。

 

 

 

 

「・・・それまでの時の為に、俺が教えた事も含めて準備しとけ。紬」

「ウン!」

「・・・じゃー、またな」

「ウン、マタね」

 

 

 

 元気良く頷いた紬は、仁の別れのあいさつに笑顔で答え、飛び去って行く彼を見えなくなってもずっと見続けていた。

 

 

 

 

 

 それから一年後、仁と紬は如何なったかなど・・・・・言うまでもない事であろう。

 

 

 




次回で、仁の過去編は終わりとなります。後一話だけ、どうか過去話に付きあってくださいませ。
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