空立つ”飛”の独器と男   作:阿久間嬉嬉

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再戦の吸血鬼 

 ネギたちのいる橋に向かう道を、一人の少女がオコジョを肩に乗せて走っていた。

 

 

「まったく! また一人で行っちゃうなんて!」

 

 

 ツインテールの少女 神楽坂明日菜は、一人でエヴァンジェリンに挑みに行ってしまったネギに文句を言っていた。

 

 

「そうっすよ! 何で意地なんか張るかな、兄貴!」

 

 

 それに答えたのは、何と肩に乗っている白いオコジョ アルベール・カモミール(通称・カモ)だった。

 

 

「この前の二の舞になっちゃうかもしれないのに……あのバカガキ!」

 

 

 悪態をつきながらも、明日菜はネギのいる橋へ向かう――――――が、歩みは途中で止められた。

 

 

 

 何故ならば、その目的としている人物であるネギが、少し離れた場所にあるガラスの割れた大浴場の中にいたからだ。

 

 

 

「ネギ! よかった、まだエヴァンジェリンさんとは戦ってなかったのね」

「兄貴、もう意地なんかはらずに俺っち達と一緒に戦いに・・・って、どうした兄貴?」

「あ、明日菜さん、カモくん」

 

 

 

 見ると、ネギは大浴場の床に寝かせてある少女を介抱している途中だったらしく、今しがた全員に回復の呪文をかけ終えたところらしかった。

 

 

 

「うわっ、まきちゃんにゆーな! それに和泉さんに大河内さんまで!? どうしたの!?」

「鑑定してみたんですが、どうやら彼女達はエヴァンジェリンさんに操られていたみたいなんです。口内に牙がありますし、魔力も感じます」

 

 

 

 心配そうに少女たちの頬を撫でるネギに、カモが訝しげな表情で問う。

 

 

 

「なぁ兄貴。その・・・問題のエヴァンジェリンの奴は何処に行ったんだ?」

「・・・ごめん、わからないんだ。向かおうとしてた時になんか大きな音がして、着いてみたらまき絵さん達が壁にめり込んでて・・・」

「か、壁にめり込むぅ!?」

「まきちゃん達大丈夫なの!?」

「はい、怪我は殆どありませんでした。半吸血鬼化していたこともあるでしょうけど、おそらくめり込ませた人の腕が良かったのだと・・・」

 

 

 

 ほっと一息つく明日菜だが、肝心のエヴァンジェリンがどこに行ったのかがわからない。恐らくはまき絵達をめり込ませたものと戦っているのだろうが、ヒントとなるものはネギが聞いたという轟音のみ。

 

 

 学園は広いため、探すのにも手間がかかる。途方にくれそうになるネギ達、だが・・・そこでネギとカモが弾かれた様に一方を向いた。

 

 

 

「カモ君! 今の・・・!」

「ああ、魔力の反応だ!」

「どうしたの?」

「多分エヴァンジェリンの奴が魔法を使ったんだろう、強力な魔力を感じたのさ」

「行ってみてくる! アスナさん達はここで待っててください!」

 

 

 

 答えを聞く前に、ネギは箒に乗って飛んでいってしまう。自動車並みの速度で空中を移動できる箒に、ただの足で追いつくのは無理があった。

 

 

 

「あ~もう! それじゃダメだって言ってるのに、バカネギ!!」

「追うっすよ、姉さん!」

「勿論よっ!!」

 

 

 

 が、いくら無理でも食らいついてやると、明日菜もカモを肩に乗せて走り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネギ達が魔力を感知する少し前、学園端の大きな橋の上では、謎の男VSエヴァンジェリン&茶々丸の戦いが繰り広げられていた。

 

 

 しかし、茶々丸は男の能力のせいかあっちこっちに飛ばされて役立たず状態。

 エヴァンジェリンの方も、無詠唱の呪文ならまだしも、始動キーを使うものは止めるために飛来する破片で顔を挟まれ、魔法障壁を貫く蹴りを受け、そこまで劣勢とは言えずとも優勢でもなかった。

 

 しかも・・・

 

 

 

「ええい貴様!! 何で魔力も無いのに飛べるんだ! おかしいだろ!?」

「・・・・」

 

 

 

 男は魔力や気も無いのに、自由自在に空中を飛び回っている。加えて言うなら、男の飛ぶ力の優秀さは浮遊術を極めたものよりも上であった事が、よりエヴァンジェリンを困惑させている。

 

 が、男は当然無言のまま答えない。満面の笑みが浮かべられた仮面のせいで表情もわからない。

 

 

 

「無視するなっ! ・・・リク・ラク・ラ・ラック・ライラック――――来れ、氷精、闇のせ」

「・・・・ッ!!」

「むぐっ、邪魔だっむぶぅ!?」

「・・・・」

「ぷはっ! ・・・またこれか!」

 

 

 男の脚がスイッと、体勢を入れ替える様な所作で少し揺すられたかと思えば、飛来したコンクリートで顔を打たれてまたもや失敗。

 

 苛立ったエヴァンジェリンが何か言い切る前に、男は連続で足を突き出し、爆音と共に砲撃をいくつもぶっ放ってくる。

 これを弾くのに集中すると左右から破片が来るし、無理に唱えきっても男によけられるわ、威力が弱いと蹴り散らされるわと散々なのである。

 

 

 更に、近右衛門が掛けて置いたらしい緊急時の結界の効果により、エヴァンジェリンは未だに力を抑え付けられている状態になってしまっていた。

 

 

(じじいめ、保険の為に微弱な結界を残していたとは・・・全力が出せん!)

 

 

 

 エヴァンジェリンを苛立たせている要因は他にもある。

 

 

 ずっと言い続けているように、男の体内には魔力は愚か気すら存在していない。

 つまり、今まで障壁を破る、砲撃を撃つという芸当は全て、何の干渉もない素の力(・・・・・・・・・)で行っているということに他ならず、この世界の常識では有り得ないにも程があるその力に、彼女は苛立っているのだ。

 

 

 

(素の力で障壁を貫いたり、橋を砕くほどの砲撃を撃つとは・・・コイツ本当に人間か!?)

 

「・・・」

「チィ、しょうがない!」

 

 

 魔法は諦めたらしく、体に魔力を集中してエヴァンジェリンは肉弾戦を仕掛ける。男はそれに応じ、彼女の拳を膝で流すとハイキックを打ち込んでくる。

 エヴァンジェリンはそれを受け止め・・・ようとしてガードごと吹き飛ばされるが構わず、氷の無詠唱呪文を足元で爆発させて勢いを止めた。

 

 しかし、体勢を立て直して目を向けたその先に男の姿はない。

 

 

 一体どこか・・・? 見回すエヴァンジェリンの耳が、微かな風切り音を捉える。

 

 

 

「上か!!」

「・・・・」

 

 

 

 男は既に攻撃態勢に入っており、彼女に向かって落下し始めている状態だった。それを見たエヴァンジェリンはニヤリと笑い、手に魔力を溜めて男の方を向く。

 

 もう勢いは止められないのか、明らかに何かを準備しているエヴァンジェリンにそのまま突っ込んでいく仮面の男。

 

 

 

「今までのお返しだっ!!!」

 

 

 

 エヴァンジェリンは身を翻して軌道から外れると、傍を通り過ぎる寸前に手に貯めた魔力を増幅させ思いっきり打ち込んだ。

 物凄い威力を伺わせる魔力が爆ぜ、絶凍の暴風が橋のロープ部分を揺らす。

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、肝心の男は吹き飛んだ先にも彼女のそばにもいなかった。

 

 

「うそ、だろ・・・?」

 

 確かに、降下したはずなのだ。

 筈なのに……通り過ぎたはずの男は、何とエヴァンジェリンのすぐ上に(・・・・・・・・・)既に待機しており、技後硬直と驚愕で固まった彼女に狙いを定めると――――

 

 

「―――(ヴィエ)・・・――――!」

 

 

 僅かな声の後、落下速度と飛行と脚力の三つを合わせた蹴りを打ち込み、エヴァンジェリンを橋に叩きつけた。

 

 

「あ・・・があっ!!?」

「マスタ―――ああ~、あぁあっ」

 

 

 助けに向かおうにも、男の謎の能力のせいで地上、空中、水面近くを行ったり来たりさせられ、全く動けていない茶々丸。

 戦闘しながら茶々丸を無力化しているのにこの力なのだから、茶々丸への意識を外して全力で戦ったらどれほどのものになるのだろうか。

 ・・・尤も、エヴァンジェリンは全力を出せず、他にもいくつか制約があるからこそ、彼に押されているという事実も、また拭えないのだが。

 

 

 男は地上に降り立ってエヴァンジェリンに近づいていく。対するエヴァンジェリンは、蹴られたい力よりも体内に響いた衝撃の方が深刻だったのか、フラフラしながらようやく立ち上がるところだった。

 

 

 

(私が本当の本気を出しても・・・この男は少しの間持たせることができるかもな。全く、何者なんだ、こいつ)

 

 

 

 頭の中で悪態を吐いたエヴァンジェリンは、こっそり呪文を唱えるために構えるような格好で口元を隠して、ゆっくり唱え始める。

 

 そこで、茶々丸の姿が消えていることに気がついた。

 

 

 

(ん? さっきまで遊ばれていた茶々丸はどこに―――)

 

「マ、マスターっ!!」

「は? ・・・・って、うおぶっ!?」

 

 

 

 声を聞いて振り向くと、浴場の時とは比べ物にならない速度で茶々丸が飛来し、エヴァンジェリンは反応する間も無くぶつかる。

 

 それを待ってましたとばかりに、男は足を振りかぶり・・・・その格好のまま(・・・・・・)自身も前へと飛び出す。

 

 

 

「―――・・(ガルヴ)―・・・―――!」

「ぐがあっ!!」

「うあっ!」

 

 

 交錯するその瞬間、男は思いっきり回し蹴りを叩き込み二人を橋の鉄柱に激突させた。

 蹴り足の残像も、影すらも捉えられない、まさに《豪速》の一撃。

 その威力から二人はめり込み、鉄柱には大きな罅が入ってゆく。

 

 やがて小さな破片をまき散らしながら、息を整えるかのようにゆっくり、エヴァンジェリン達は柱から離れ浮き上がってきた。

 

 

「・・・やりづらい、相手だな」

「同意します」

 

 

 目の前で戦っている仮面の男、彼はおそらく真正面からかかっていくよりは、空から砲撃を撃ってきたり、不可思議な動きや罠に掛かるふりをしたりといった、搦手や裏をかく戦法をとるタイプだろう。

 そのせいで、エヴァンジェリンも先ほどから散々攻撃をぶつけられているわけだが。

 

 

 しかもエヴァンジェリンは、学園都市の停電が終わり、結界が本格復帰するまでにネギの元へたどり着かねばならず、この戦いで時間をかけていられる余裕がなかった。

 

 どうすればいいか? どうやって退けるか? 幾百年生きてきた中で培ってきた戦略を持つ頭脳を、エヴァンジェリンはフル回転させる。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その時は唐突に訪れた。

 

 

 

 

「・・・・ぇ」

 

 

 

 小さな声で何かをつぶやいた仮面の男は、エヴァンジェリンに背を向けると足元へカードを投げ、そのまま飛び去って行ってしまったのだ。

 

 カードには“風の坊主が来る” と、それのみ書かれている。たったそれだけでも、エヴァンジェリンは理解した。

 

 

 

「なる程、ぼーやが来るか。・・・あの男はぼーやが勝ちやすいように私達を弱らせるために戦っていたというわけか」

 

 

 

 あと少しで学園の電源工事も終わるだろう。彼女達はある意味男の罠にはめられたというわけだ。

 

 

 

「マスター・・・」

「なに、大丈夫だ。確かにフルでは戦えんがそれでも何とかなるさ」

 

 

 

 エヴァンジェリンは不敵に笑い、学園の方向を向く。

 

 

 しかし、ぼーや・・・ネギが来るとわかっていても、気分は晴れない。

 

 

 

(あの男・・・一体何者だ・・・?)

 

 

 

 その疑問を胸に抱えたままエヴァンジェリンは、小さく姿が見えてきたネギを見て、再び不敵に笑うのだった。

 

 

 




以上、大幅に改変いたしましたが・・・なんか仮面の男(仁)の強さがとんでもない事に・・・
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