空立つ”飛”の独器と男   作:阿久間嬉嬉

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 宣言したとおり、乱入者出現の82話です。

 それではどうぞ。


“赤” の襲来

歓声がアチラこちらからわき上がり、鳥も機嫌が良いかのように風をきって飛び、箒に乗った人間達が色取り取りの紙吹雪や、露店のビラを撒いていく。

 

 巨大な戦艦さえも一種のオブジェの様で、盛り上がる一般市民とは対極を行く筈の兵隊達も、気のせいかも知れないが若干ながら浮かれているかのように見える。

 

 

 

 終戦二十年を記念する祭り・・・オスティア終戦記念祭の開幕である。

 

 

 

 

 

 遠目からでも分かるくらいゴッツイ鎧を着こんでいるメガロメセンブリアの兵士とヘラスの兵士、そこから少し離れた場所に、女子・女性のみで構成されている隊が居た。

 

 

 彼女らはアリアドネー戦乙女騎士団と言い、中立国であるアリアドネーから派遣されてきた、華やかな見た目とは違いかなりの腕を持つ騎士達なのである。

 

 

 

「アリアドネー戦乙女騎士団、捧げ―――――――(アルマ)!!!」

 

 

 

 指揮官の声に合わせて、全員が特徴的な剣を垂直に掲げた。

 

 一見すると冷戦沈着な者達の集まりに見えるが・・・耳を澄ませば微かに、そんな雰囲気とはかけ離れた空気を持つ声が聞こえてくる。

 

 

 

「ねぇねぇユエ。何で私達が世界平和記念のお祭りの警備なんかやるの?」

 

 

 

 そう囁いているのは、コレットという名の少女。黒人の様な肌の色と、鎧兜に隠れて分かりにくいが犬の様な人では無い耳をもっている。

 

 コレットの囁きを受けた隣の少女は、此方も声を落として答え始める。

 

 

「南の古き帝国『ヘラス』と北の新しき国家『メガロメセンブリア』は、表向きこそ和平を結び平和の祭典に出向いているですが、実際裏では強烈なくらい火花が散てるです。そんな彼等の間を取り持つ役目を負っているのが我々、武装中立国アリアドネーだからです。そういった基本的な役目の他にも、アリアドネーの発言力を高める為にも・・・」

「へー?」

「・・・分かっていないようですね、コレット」

 

 

 

 丁寧語で話すその少女は・・・驚くなかれ、なんとネギの教え子である筈の『綾瀬夕映』その人であった。

 

 実は彼女、この世界にネギ達が来た際に起こった事件、フェイト一味に濡れ衣を着せられた事件の際に行われた、彼等を散々にさせる為に強制テレポートさせられた先で不幸にも事故にあってしまった。

 

 その所為でネギが来てからコレットに道端で出会うまでの記憶を失ってしまっており、事故の一旦・・・と言うより起こした張本人(・・・・・)であるコレットが、アリアドネーに住まう事を進め、学ぶ者拒まずと言うアリアドネーの姿勢もあって、記憶が戻るまでの間アリアドネーに住まう事にしたのである。

 

 そこの学校で紆余曲折あり、戦乙女騎士団所属をとある協議で勝ちとった彼女は、コレットを入れた友人ら五名と共に、此処で警備を行っているという訳なのだ。

 

 

 

 

 話を戻し・・・・・ユエの説明を受けても殆ど分かっていないらしいコレットに、次いで目の前にゆっくりと現れた戦艦に興奮し、軍隊には詳しいらしくウンチクを語りだした事も含めて、ユエは呆れの溜息を二度洩らした。

 

 その大型戦艦の下から現れ、地上に降りた巨人型の人工生物“鬼神兵”を見て、ユエの隣にいた少女二人が思わず言葉を漏らす。

 

「持ち出してもいいのでしょうか、お嬢様。・・・先日の事があったとはいえ、幾らなんでも鬼神兵は・・・」

「ビー、鬼神兵の装備を見なさい。彼等が持っているのは剣でもやりでも無く、杖。アレほど大きくてもまだ儀仗兵だと・・・つまり本戦闘用はあるのだと、そう言いたいのでしょう。・・・まあ、先日の事が無ければ、その自慢一色でしたでしょうがね」

 

 ビーと呼ばれた少女・・・本名ベアトリクスは、コレットと同じ肌の色と耳をもつツリ目の少女・エミリィーの返答を受けて静かに頷いている。

 

 彼女等の会話が耳に入ったか、ユエとコレットも緊張した顔で呟いた。

 

「先日の事件て・・・アレ、だよね? 広範囲で観測されたおぞましい程の殺気と、その殺気の発生源の二百数十km以上を通り越した特大規模の自然破壊跡の事・・・」

「驚愕すべきは、アレがほんの数十分足らずで行われたという事と、元の光景が思い出せない程の傷跡であった事・・・」

「そして、『魔力反応も気の反応も全く無かった』、と言う事ですよね、委員長」

「ええ」

「・・・上層部の見解から、アレほどの力を持つ者が少なくとも二人いると判断されましたからね・・・」

 

 

 彼女等の会話に出てきている謎の大崩壊事件。

 

 その実態は言わずもがな仁と紬の戦闘跡なのだが、実際に戦闘を見ていた者達は殆どいない。

 居たとしても余りに強大な圧力を受けた為か、記憶があいまいで全くと言っていい程現状は不明。

 おまけに付近に戦艦などは見られなく、機械的な破片なども見つからず―――もしかしたらコレは個人間の戦闘の結果では? とも言われた。

 

 しかも魔力も何も使わずに立った数十分で地形を全くの別物に変えてしまったという事もあって、政府や軍隊のみならず一般市民にも噂程度は広まっており、一時期は終戦記念祭の中断さえささやかれたほど。

 

 どう見積もっても国家一つ分の戦闘力を持つ個人の存在。

 ・・・ソレがあるからこそ鬼神兵の登場も、単なる自慢だと受け流せないのである。

 

 

 対抗するかのように、ヘラス帝国のほこる帝都守護聖獣の一体、古龍・龍樹が出てきても、それは単なる自慢などでは無く、見えない巨大な脅威に対抗する為かのようにも見えた。

 

「戦争でも始める気でしょうか・・・」

「う~ん、あながちそうじゃ無いとは言い切れないのが怖い所ニャ・・・」

「超破壊の所為で、殿方がどっちのアレが大きいかの自慢じゃ無くなってきてるしね~」

「アレ? アレって何?」

「?」

「「・・・」」

 

 アレの意味が分からないのか首を傾げるコレットとベアトリクスだが、ユエとエミリィーは感づいているらしく僅かにほほを染める。

 

 

「いい加減にしなさいあなた達! 静かになさい!」

 

「「「「「「は、はいー!」」」」」」

 

 

 そんな会話も、指揮官か上級生かの言葉でようやく途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、そんな大破壊を起こした張本人の内一人である仁は、オスティアから少し離れた位置で浮いており、独器や偽器を感知する為に術式を展開していた。

 

 様子からするに、未だに何もかかってはいないようだ。

 

 

(・・・準備に時間がかかるとは言ってたが、どれだけ掛かーか見当つかねぇぞ・・・クソッタレが・・・)

 

 

 紬の言っていた『偽器兵を利用した魔法世界(ムンドゥス・マギクス)での皆殺し』。

 

 

 当然の事ながら下級のみならず上級の物も投入してくるであろう事は容易に予想でき、仮に最上級が幾多も混じっていたのならば、被害は避けられない事も考えられた。

 

 この世界で上級以上の偽器兵・・・そして紬に対抗できるのは、独偽使いである仁一人のみ。

 それに、ネギ達には中級までは相手出来るだろうと言っていたが、相手出来るのは『少数』の場合だけ。

 

 それ以上の数が来ると、押し返す事もままならない。

 もし偽器使いのように使い手が居るなら、レベルにもよるが身体能力が上がり少々特殊性が付いただけの人間を倒す事など、ネギ達にだって可能な事だったであろう。

 

 

 だが相手は劣化版とはいえ、特性をそのまま受け継いだ全身兵器の“偽器兵”。

 細胞のカスとはいえ、独器から成り立っている彼等を独器以外で破壊するのはとても簡単な事では無い。

 

 ラカンレベルのつわものも、そうそう多くは居ない。

 

「苦戦必至・・・めんどーせぇ、事を・・・っ」

 

 

 思わず言葉が漏れるほどに、紬の計画に相対するのは困難であった。仁で無くとも、面倒臭いと思ってしまうだろう。

 それだけで片づけられる事態では無いからこそ、口に出してしまう。

 

 何より、今の内に出来る事が多く無いというのが、面倒臭さに拍車を掛けている。

 せめて、仁の世界とネギ達の世界を繋いでいる空間の邪魔が出来るなら、幾つか対抗策もあったのだろうが、願っても出て来ないそれを望むのは無駄である。

 

(アレを、あんなもんを繰り返すってぇのか? ・・・なんで、何故俺んとこにばかり・・・!)

 

 逃げるしかなかった一度、何もできなかった二度―――そして打つ手が見つからない『三度』―――これは最早、呪いの域だった。

 

(阿呆が・・・)

 

 空を見上げ、ただ歯を噛み鳴らすのは、自分にも苛立ちを覚えているからか。

 眠気の気だるさが完全には取れてくれない、靄の掛った脳裏の中で毒を吐きつけながら・・・仁は胸中の焦燥を逆に抑えていった。

 

 

 

 

 

「―――!」

 

 ふと、腹が鳴ったのに気が付いた仁は、腕に付いていた時計を見る。

 時刻は昼近くで、ちょうどネギ達の試合も終わった頃でもあった。

 

 

「続きは・・・一息入れてからにするか・・・」

 

 

 掴めないモノに対し、焦りイラつき急いていても仕方が無い。

 重要なモノを見逃す失態にも、つながりかねないのだから

 

 競る心にその言葉を投げかけて宙に浮かぶと―――【飛の足場】の応用による障壁と独器の特殊性が無ければ、普通なら衝撃破で周りに被害が及ぶほどの速度を叩き出す。

 そのまま警備の網を力技で抜けて行った。ここに来る際もソレをやっていたのだろう。

 

 

 

 何時も通り、ホットドッグとコーヒーでも・・・。

 と、出店でそれらを買ってホットドッグを齧った―――その瞬間、表情が凍りつく。

 

 

 

(コイツは、この感覚は・・・紬、じゃねー・・・だが・・・っ!?)

 

 

 折角の注文品も、そんなもん知るかとばかりに傍のテーブルに乱暴に置き、仁は即座に封印の術式を解放。

 低空飛行で飛び出して行く。

 

 

「クソッ!」

 

 

 【間に合え・・・!】

 その言葉を心の中で呟き続けながら、周りの驚愕の声も意に返さずに、仁は飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 再び場面は変わり、とあるカフェのテラステーブル。

 

 

 

 

「・・・さて、幾つか聞かせてもらおう、ネギ君」

「・・・っ」

 

 

 

 そこには、ミルクティーを手元に固まるネギと、後ろに剣を持ったまま待機するアスナと刹那。そして・・・ネギ達を散々にし、ナギの代からの因縁を持っていた白髪の少年・・・フェイトが、テーブル越しに向かい合っていた。

 

 

 ネギはのこカフェテラス近くで昼食を取って居たのだが、そこにいきなりフェイトが現れ、交渉しないかと言いだして来たのだ。アスナと刹那が応援として駆けつけるも、終戦記念祭に来ている一般人達を半ば人質に取っているのと同じ状況だというフェイトの言葉で、半ば無理やり彼の交渉に応じる事となり、カフェにいるという訳だ。

 

 

 

「まず一つ目・・・何故君は僕達を敵だと認識するのか?」

「そんなの簡単だ。君は、いや君達は僕の父さん達がかつて戦っていた敵の生き残りで・・・ラカンさんから聞いたけど、その目的は世界を滅ぼす事だって言うじゃないか! しかも僕達をバラバラの場所に転移させた挙句賞金首にまでした! 敵意を持つには十分だ!」

「・・・フ」

 

 

 ネギの言い分を聞いたフェイトは、無表情を崩さないままに馬鹿にしたように鼻で笑う。

 

 

 

「賞金首の件は食ってかからなければすんだ事だし、前半二つは理解が浅いにも程があるよ、ネギ君。そして・・・僕達に敵対する意味を、君は分かっているのかい?」

「なに・・・?」

 

 

 

 いったん言葉を区切ったフェイトは、ネギの表情を観察するかのように眺めてから、再び紡ぎ出した。

 

 

 

「僕達に敵対するという事は即ち、世界の英雄たる君の父親の意思を継ぐという事だ。しかし、それはあくまで偉大なる魔法使いに相応しき物がやるべき事・・・ニ十人の生徒の安全を預かるべき学園の教師がやるべきことかな?」

「そんなの関係無い! それに、君が僕達の帰還を邪魔するなら―――」

「それも誤解だよ。ゲートの件はそもそも不幸な事故みたいなものだし、君達にはむしろ僕も無事に旧世界へと帰って欲しいと思っているぐらいさ」

 

 

 

 フェイトのその言葉で、ネギは勿論後ろにいたアスナや刹那の表情も驚愕に彩られる。彼らには構わずフェイトはコーヒーを啜り、味わうかのように数秒目を閉じて、カップをテーブルへ戻した。

 

 目をつぶるという隙だらけの行動は、彼等に対する余裕の表れであろうか。

 

 

 

「だからこその交渉だよネギ君。君達が無事帰還することを約束し、エスコートも付けさせる」

「・・・」

「その見返りに―――『お姫様』を渡すか、僕達のする事を唯黙って見ていてくれ」

「な・・・!?」

 

 

 

 フェイトの言葉に再び戸惑うネギだが、すぐに取り直して反論した。

 

 

 

「出来る訳が無いだろう! 『彼女』を渡す事は当然無理だし、この世界の人々を見捨てるのも無理だ!」

 

 

 

 ネギの言葉に、フェイトは何故かアスナを見ながら口を開く。

 

 

 

 

「・・・片や君達とは元々関係の無い世界。片や、身寄りも無く、八年間の偽りの記憶に偽りの人生を持つ者。確かにある一方から見れば僕達の起こそうとしているのは世界の破滅。だけど理由あっての事だから、黙って見ていてくれ・・・出来ないなら何時でも誘拐できた筈のお姫様を、交渉事でもらおうか・・・と言っているんだ。どちらを選ぼうと、君には特しかないと―――」

「その口を―――」

 

 

 

 

 ・・・と、フェイトが言葉を言い終える前にネギが拳を叩きつけようとして――――

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

「え?」

「ん?」

 

 

 

 何時の間にか傍にたたずむ、ローブを着て顔も体型も分からない、謎の人物に気が付いた。余りに長身すぎるので、一目で種族がヒューマンで無い事が分かる・・・どころか、中に二人程入っているのではないかと思えるぐらいだ。

 

 

 

「・・・へ? ちょっ、こ、この人何時の間に!?」

「あ、危ないですよ!」

 

 

 

 慌ててそこから離れさせようとするアスナと刹那だが、ローブの人物は全く動く気配を見せない。何時までも居てもらっては困るのはフェイトも同じらしく、ローブの人物を睨み威圧する。

 

 

 

「・・・大事な交渉ごとの途中なんだ、悪いけれど・・・?」

 

 

 

 しかしフェイトの言葉は、そのローブが風で剥がれた事によって止まった。

 

 

 そこにいたのは人では無く・・・真っ赤な機械的な甲殻を付け、薄赤い肌と蛇よりのハ虫類の様な頭をもつ、首が長い異形の生物だった。

 予想外の生物の登場で、流石のフェイトも驚いたようだ。

 

 

 

「この人って・・・魔族?」

「の、ようですが・・・」

 

 

 

 ローブを着た赤い生物は、徐にしゃがみ込むと、左手を地面に向けてローブの袖端を付けた。

 

 

 一体何がしたいのかと、ネギ達もフェイトも疑問に思っていた・・・刹那、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『《コォハァアアァァァ――――ゴオォバァアアアァァァッ!!!!》』

 

 

 

 

 異質な雄叫びと共に、テラスが木端微塵に崩壊した。

 

 

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