「フンッ、フンッ!」
早朝、俺はいつものように屋敷の庭で剣の素振りをしていた。キールを浄化し、時期的にやつが来る頃だ、鍛錬をするに越したことはない。
などと、考えていると屋敷につながる一本道の先から見覚えのある剣を携えた、人影がこっちに向かって走ってきた。
「師匠ぉぉぉぉ!!!」
「うるっせぇぇぇぇ!!」
「げぶらっ!!?」
朝っぱら(五時)にいきなり大声を上げながら、俺の家にやってきた魔剣の勇者君、えっと、なんつったっけ?
あぁ、そうそうミララギだ!
そのミララギにジャンピングキックをかまし、ふっ飛ばす。
そして、吹っ飛んだ先のミララギの胸ぐらを掴み、グイッと俺の眼前に顔を近づける。
「テメェ!今何時だと思ってんだ!?うちのパーティには成長期のお子様だっているんだぞ!朝っぱらから大声出して人んち駆け込んできやがって、めぐみんの成長がここで止まったらどうして……」
「あなたが一番うるさいです」
ポカッ!
いつの間にか後ろにいためぐみんに頭を杖で小突かれた。
「ほら見ろ、めぐみんが起きちまったじゃねぇか」
「いえ、私が起きたのはカズマの怒鳴り声が原因です」
「……………。」
…………………。
「それで、ミララギ君?本日はどんな御用かな?」
「あっ、なかったことにした……」
めぐみんさん、ここは言わない約束でしょう?
「いてて、実は師匠達が前に探索したという、キールのダンジョンから妙なモンスターが湧いてるそうなんです。それと僕の名前はミララギではなく、ミツルギです」
「なに?」
キールのダンジョンから湧いて出る妙なモンスター?
そんなフレーズに合う奴つったら……。
「ミルルギ、そのモンスターってのはどんな奴だ?」
「ミツルギです、次はミレレギですか?……なんでも、仮面をつけたタキシード姿の小さな人形のようなモンスターだと」
やっぱ、あいつかぁ……。
思ってたより早かったが、奴を丸め込む作戦は既に何重にも考えている。
我に勝機ありッ!
「ありがとう、そのモンスターは俺達のパーティで対処すると、ギルドに報告してくれ、それとこの礼に今度修行に付き合ってやろう」
「本当ですか!?」
「あぁ、だから今日はもう帰ってくれ。アクア達が起きちまう」
「わかりました、それではまたっ!」
そう言って日が昇り始めた街に戻っていく、えっと、なんだっけ?ミ、ミ、ミ……。
「あぁ、お前も頑張れよ〜、ミロロギ」
「ミツルギです!」
あ〜、そうだった。
「ワンモアこのすば!」ミツルギ
というわけで再びやって参りました、キールのダンジョン!
……うん、やっぱりダンジョンの入り口から湧いて出ているのは、見通す悪魔バニル特製、笑って自爆のバニル人形だった。
「確かに妙なモンスターですね……」
「でも、ちょっと可愛いかも……」
「ゔぇ?」
おいおい、ゆんゆんあれが可愛いってちょっと君の美的センスを疑ってしまいますよ?
「……なぜかしら、私あの仮面が生理的に受け付けられない、見ててムカムカしてくるんですけど」
前回と同じようなことを言うアクア。
「あっ、そうそう、あのモンスター人にくっついて自爆するそうだから近づくなよ」
「自爆だとっ!?なんだそのご褒美は!?」
……ホント、この変態は何度人生やり直しても修正不可能だな。
「ワンモアこのすば!」ダクネス
「当たるっ!当たるぞっ!見てくれ、カズマ、アクア、私の剣でもコイツラには当たるぞっ!」
珍しく剣の狙いが定まり、バニル人形を片っ端から剣で叩き、爆発させるダクネス。
「いつもは当たらないだけに、イキイキしてるわね〜」
「言ってやるな、人生で二度あるかわからないチャンスだ、楽しませてやろう」
「カズマ、あんた私よりひどいこと言ってるからね?」
アクアの呟きに自然に答えたつもりだったが、ジト目でそう言われてしまった。
今回、ダンジョンに潜ったのは対悪魔のスペシャリストであるアクアと、露払いを買って出たダクネス、そして俺だ。
めぐみんとゆんゆんには外で待機、もしものことがあったら、いつでも逃げられるようにしておけと伝えてある。
さて、そろそろ最奥の一歩手前なんだが……。
……いたよ、仮面をつけたタキシード姿の大男が、粘土で人形作ってたよ。
どうも、こっちには気づいてないらしい。
よし、
「アクア、やれ……」
「『セイクリッド・エクソシズム』!」
アクアから放たれた青色の光がバニルに向かって放たれる。
これで、終わってくれれば助かるんだが……。
「華麗に脱皮!」
ほらぁ、そう簡単に終わるわけなかった。
バニルは視線も挙げずに仮面だけを投げ捨てた。そして、光のあたった、体が土塊になって崩れる。
「フハハッ!気づかれていないとでもおもったかへなちょこ女神めっ!残念、ずっと前から気づいてました!」
「あっそ」
俺は仮面の状態のまま、悠長に喋るバニルをゲシゲシと踏みつける。
「こっ、こらっ、やめんかっ、まだ名のりすらしていないというのに!」
「はいはい、魔王軍の幹部にして、悪魔たちを率いる地獄の公爵バニルさんですよね?そういうのもういいんで、とっととくたばってもらえます?アクア、連続でエクソシズムだ、徹底的にやってやれ」
「わかったわ!」
「貴様は悪魔かっ!?」
「悪魔はお前だろうがっ!」
などという、茶番をやっていると。
「ええい、もはや止むをえん!」
バニルの仮面が飛び上がり、俺の顔に張り付いてきやがった。
「テッ、テメェ!」
「フハハッ!優勢だと思っていた相手に体を乗っ取られた気分はどうだ?ん〜、こいつの悪感情実に美味である!」
「カズマッ!」
「どうしましょう、カズマの身体が乗っ取られちゃった!」
本当にどうしたものか、俺の身体を奪われてしまってはコイツラに勝ち目はない。
……なんて言うと思いました?
(おい小僧、これでいいのか?)
(あぁ、ナイスだバニル。あいつらを騙すのは心苦しいが、仕方ないだろう……。)
はい、実はこれは俺が予めバニルと組んで計画していた、三文芝居です。
ここに来る前、前回隠れてこの部屋を『テレポート』の転移先にセットしておき、バニルに事情を説明、それなりの対価の代わりに俺の芝居に付き合ってくれることになった。
(おい、約束の品は準備できてるんだろうな?)
(大丈夫だ、俺の屋敷に俺が知ってる限りの地球でのアイテムの設計図やその他諸々の知的財産権を詰め込んだバッグがあるから今度ウィズの店に持っていく、お前こそ、約束忘れるなよ?ここで残機一つ失うことと、それと……)
(わかっている、悪徳貴族に飼われている悪魔を地獄に連れ戻せ、であろう?我輩とて、同胞があんな豚の元で使役されているなど気分が悪い)
と、言う約束の元俺たちは結託し、ひと芝居打っているわけだ。
あの豚領主、デストロイヤーの件でダクネスの弱みを握れなかったが、今度は一体どんな手を使ってくるかわからないからな。おまけに前の世界でお頭(クリス)が調べたところアイリスが持ってたあの身体を入れ替える神器もあいつが王子に渡したものらしい。あいつが王子とダクネスをくっつけようとしたことから考えると王子の体をのっとって、ダクネスを好きにするつもりだったのだろう。全く、とんでもねぇクズ野郎だ。
さて、あとは流れに身を任せるのみ。
「ワンモアこのすば!」バニル
「めぐみん、打てっ!」
「『エクプロージョン』!」
俺は仮面を放り投げ、『テレポート』を使い杖を構えているめぐみんの隣に飛ぶ。
突然話が飛んでしまい、申し訳ないが、あまりにも思い通りなってしまったので省略させてもらった。
では、簡単なテロップを見ていただきたい。
1、アクアを追い回すふりをして、外に出る
↓
2、必死に抵抗し、バニルを押さえつけているように見せ、めぐみんに爆裂魔法を打つ準備をさせる
↓
3、打たれる寸前になんとか仮面を外したふりをして『テレポート』で爆裂魔法から逃げる
↓
MISSIONCOMPLETE
そんなわけで、俺達は二人目の魔王幹部バニルの討伐に成功した。
その日から、ウィズの店で怒鳴り声と悲鳴がよく聞こえるようになったのは言うまでもない。
ふぅ、これで不安要素がまた一つ減ったな。
あとは……。
「ワンモアこのすば……」アダルトカズマ(殺)
アクセル郊外の屋敷、その地下室に俺は来ていた。
「よぉ、豚領主」
「なっ、貴様は最近ララティーナと一緒にいるぼうけん……ぐふっ!?」
「くちにすんじゃねぇ……」
俺は豚のセリフを腕でやつの顔を掴むことで喋れなくする。
「そのうすぎたねぇ口で、あいつの名をくちにすんじゃねぇ……」
俺は放り投げるようにそいつを離す。
「きっ、貴様っ、わしにこんなことをしてただで済むとっ!」
「悪魔を飼ってる腐れ領主にだけは言われたくないねぇ」
「マッ、マクス!こいつをこの無礼者を殺せっ!!」
切羽詰まったように檻に入れられた異形、歪める悪魔、マクスウェルに叫ぶ。
「ヒュー、ヒュー、無理だよアルダープ、そいつから同胞の匂いがするよ」
「なにっ!?」
「フハハッ!久しいな我が友、マクスウェルよ!」
なんともいいタイミングでバニルが姿を表す。
「なっ、何だ貴様はっ!?」
「フハハッ、お初にお目にかかる豚領主よ!我輩は見通す悪魔にして地獄の公爵バニルである」
「バニルッ、バニルッ、なぜだろう!君から懐かしい感じがするよっ!」
「当然である、我が友マクスウェルよ!貴様は我輩と同じ地獄の公爵なのだから!さぁ、ともに地獄に帰ろうではないか」
「まっ、まて!」
そこで当然の如く騒ぐ豚がいる。
「そいつは儂の下僕だぞ、勝手に連れて行くことは許さん!」
まだ、状況を理解してないバカがバカみたいに騒ぐ。
「何を言っているのだ悪運が強いだけの傲慢で強欲、そして矮小な男よ!貴様が今まで好き勝手できたのはマクスウェルの捻じ曲げる力があったがため、地獄の公爵であるマクスウェルがそんな小物のような男の下僕なわけがなかろう」
「そして、お前はそいつの力を使いすぎた、悪魔との契約は絶対、お前はその対価を払わなければならない」
「なっ、なに!?」
バカの顔が青ざめていく。
そして、それに檻から出たマクスウェルが近づき、
豚の腕をへし折った。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
声にならない絶叫をあげるアルダープ。
「ヒュー、ヒュー、いい悲鳴だよアルダープ!」
子供のように喜びの声をあげるマクスウェル。
これが悪魔の力を考えなしに使った代償か……。なるほど、こいつが欲しがる悪感情ってのは苦痛か。
「ざまぁないな……」
「ほうほう、貴様かなりマクスウェルの力を酷使したようだな、これは生きてる間にすべての代償を、払うのは不可能であるな!仕方がないマクスウェルよこやつを地獄に連れ帰って、続きをやるとしようではないか」
「わかったよ、バニル!」
「そっ、そんな!?おいっ、貴様儂を助けろっ!」
「はぁ?」
俺に向かって叫ぶ、豚。こいつは何を言ってるんだ?
俺は豚の前まで歩き胸ぐらを掴んで持ち上げて、
「いつまでもふざけたことぬかしてんじゃねぇぞ!」
殴り飛ばす。
「ガハッ!」
吹っ飛んだ先にいる豚の胸ぐらをもう一度掴む。
こいつのせいで何人の人間が不幸になった?こいつのせいで何人、苦しんだ?
こんなやつのせいでアイリスは危険な神器を手にした。
そしてなにより……。
こんなやつのせいでダクネスは涙を流した……。
「テメェは、今まで助けをこうた奴を助けたことがあったのか?テメェは今まで誰かのために自分の欲を抑えたことがあったのか?そんなやつに手を差し伸べるやつがこの世界のどこにいる?これは、テメェが行ってきたことの報い、こうなることは必然だろう?わかったら……」
「ひっ!!」
アルダープが俺の顔を見て、小さな悲鳴をあげる。
「とっとと地獄に堕ちろよ、虫けら……」
その言葉で希望がないことを悟ったのかアルダープは力なく項垂れた。
「フハハッ!小僧、この状況では貴様も悪魔にしか見えんぞ?」
「……上等だよ」
背を向け、その場をあとにする。
だが、その前に一言呟いた。
「あいつら守れるんだったら悪魔にだろうが魔王にだろうが喜んでなってやろうじゃねぇか」
そう告げて、『テレポート』を使って、屋敷に戻った。
数日後、今まで明るみに出ていなかった領主の悪事が発覚しアクセルの領主はダスティネス家当主、ダクネスの親父さんがその任を受けた。
しかし、問題をおこした前領主は行方をくらまして現在捜索されている。
しかし、決して見つかることはないだろう。
やつは今頃地獄で報いを受けているのだから。
はい、今回も十件来たら次投稿します。
出来れば評価の方もお願いします。