A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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これにてひと段落、サラッとまとめていきます。

他作品の要素を大量に織り込んでいきますが、続きを描く予定は当分ありません。単なるネタです。ご了承ください。

ちなみに、8話前辺りからサブタイにアニソン、特撮ソングの曲名を引用していましたが、お気づきになられた方はおりましたでしょうか?
個人的にその話の主役のイメージに合わせて選びました。想像の一助にしていただければ。どれも名曲です。



青空になる

 輝ける九色の魂。再び神霊に至った伍代陸人と、彼の眷属──テオスにとってのエルロードのようなもの──に昇華した8人の少女達。彼らは無明の空間を当てどなく漂っていたが、やがて目的地を見つけることができた。

 

「──おっ、見えてきたな。次の世界だ」

 

 罪爐の影響で境界線が曖昧になってしまった、世界と世界の間。伍代陸人と仲間達はその狭間にいた。そんな何もない場所にポツンと浮かぶ青い星。神樹が陸人達に救援を頼んだ別世界の地球だ。

 

「罪爐の暗躍、ジェネシスの降誕と消滅。これだけの異常事態が起きてしまった以上、この世界にも何かしらの影響が及んでいても不思議ではありません」

 

「それを調べようってことか。でもタマ達は部外者だぞ? どこか変になってたとして、それに気づいてどうにかできるのか?」

 

「ああ。神樹様が言うには、俺達の世界におけるバーテックスやアンノウンのような、明確に世界の在り方を歪めるような異変が起きている可能性があるんだって。そうなればどれだけの命が失われるか……それを阻止するための一助になってほしいって頼まれたんだ」

 

「……一助に、ということは……私達以外にも対抗戦力があるのかしら?」

 

「うん。そもそも世界には負の働きが活性化したらそれを抑えるための正の動き……自浄作用みたいなものが備わってるの。私達で言う陸人さんや勇者と同じ。基本的にはその人達と協力するのがいいと思う」

 

「リアリィ? それじゃ新しい仲間に出会えるかもしれないってことね。俄然楽しみになってきたわ」

 

「もしかしたら、この前会った士さんみたいな例外の戦士もいるかもしれないし」

 

「あの男か……正直私は好きになれそうにないが、陸人とは意外と話が合うようだったな?」

 

「少し気難しいところはあったけど、同じ仮面ライダーだからね」

 

 陸人は少し前、立ち寄った別世界で出会った青年を思い出す。"通りすがり"を名乗り、憎まれ口を叩きながらも目の前で苦しむ誰かを見捨てない。他者に疎まれても自分の信念を貫く仮面ライダーとしての在り方に、陸人は尊敬に近い感情を抱いた。

 

「とにかく、やることは変わらない。命を守って笑顔を咲かせる……いつも通りだよ。今度はみんなと一緒だしね」

 

「うんうん! 私達はみんなでひとつ、9人揃えば何があっても大丈夫だよ」

 

「それじゃ陸人さん、いつものやつお願いします。アレ、元気が出るので」

 

「了解、それじゃリクエストにお応えして……」

 

 若葉が鋭い眼で前を見据える。

 ひなたが穏やかに微笑む。

 球子が右手を高く突き上げる。

 杏が両頬を叩いて気合を入れる。

 友奈が両拳を打ち鳴らす。

 千景が髪をかき上げて小さく笑う。

 歌野が襟元を正して首を鳴らす。

 水都が柏手を打って深く息を吐く。

 

「次の世界はカストディアンが興した奇跡と因縁渦巻く混沌の時空……だけどそれは、今を懸命に生きている人達が脅かされていい理由にはならない。だから……!」

 

 伍代陸人は変わらない。助けを求める声あらば、距離も時間も飛び越えてその手を掴む。

 雑音(ノイズ)を止めろ。

 歌女(うため)を救え。

 少女の歌に血が流れているというのなら、その血ごと掬い取って歌を守ってみせろ。

 

 戦場に歌が響く時、救世の英雄が降臨する。

 

「次も必ず、守り抜いてみせる──出し惜しみはナシだっ‼︎」

 

 ────おうっ‼︎────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界を手中に収めんとした罪爐と人類による、生き残りを賭けた一大戦争『天地戦役』から5年の月日が経った。土壇場まで蚊帳の外だった一般市民にも事実の大部分が開示され、四国400万の人民はそれぞれあの日に学んだことを胸に刻みながら生きている。どす黒い闇の恐ろしさも、自分達の力で起こした奇跡の光の眩しさも忘れないように。

 

 それでもこの5年、全人類が無自覚に抱えていた外界への恐怖。真実を知らないが故の恐ろしさを払拭することができた今は、以前よりも前向きになれる動きが増えてきた。

 例えば娯楽。四国内だけでは保ちきれない多種多様な文化やスポーツ、エンターテインメントが埋没しつつあったが、大社が解体されて情報操作がなくなったことで過去の資料から様々なアクティビティが息を吹き返しつつある。

 

 

 

『それじゃ次はいよいよ、このイベントの目玉が登場だ! とびきり派手なの一発頼むぜっ!──カモン、"Beat(ビート) Riders(ライダーズ)"‼︎」

 

「──っしゃあ、行くぜ銀!」

 

「おう、トチるなよ鋼也!」

 

 とあるストリートダンスのイベント。陽気なアナウンスに呼ばれてステージに現れた一組の男女。3年前唐突にダンス動画を投稿して若者の間に一大ムーブメントを巻き起こした超人気ダンスチーム『Beat Riders』──高校を出てパフォーマーとして活動している篠原鋼也と三ノ輪銀の二人組。

 

 2人の登場、そしてパフォーマンスに観客の熱気は最高潮。鋼也の重力を感じさせないド派手なアクロバットと、その間を繋ぎつつ時には前にも出る銀の力強いスキル。今や中高生にその名を知らぬ者ナシという、若者のカリスマとなった2人のダンスは、生で見ればより強く観客を引き込み、その熱気の内側に取り込んでしまう。

 

「いくぞ、みんな‼︎」

 

「ビートに乗るぜ──ライダーズッ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃ──、おっつかれぃ!」

「おう、お疲れさん!……いいステージだったな。みんなノリ良くて」

 

 大好評の内に幕は閉じて、2人は車内で軽い打ち上げをしていた。ノンアルの缶を打ち合わせて乾杯。変にカッコつけない、この健全で青春らしさあふれるスタイルも彼らの魅力だ。

 

「しっかし、こうやってイベント繰り返してると、久々にアイツとも踊りたくなってくるな」

 

「だなぁ、今どこにいるって言ってたっけか……海の向こうなんだよな? アタシその辺の授業ちゃんと聞いてなかったから分かんないや」

 

 2人が思い出すのは、不定期に『Beat Riders』に合流してはまたバタバタといなくなる非常勤のメンバー"masked Rider"のこと。ある一件で四国中に顔を知られてしまった彼は、仮面ライダーのフルフェイスマスクを着用してステージに上がる。視界も呼吸状況も悪い中で2人に負けないパフォーマンスをやってのける辺りは流石としか言いようがない。

 

「ちょっとみんなに聞いてみるか──おっ? 園子からだ、なになに……?」

 

「どうした? すっかり作家先生として大活躍の園子から連絡とは、珍しいな」

 

「──っ! ヤバいぞ鋼也、すぐ車出して!」

 

「あん? なんだって──」

 

「樹の3周年ライブ! 今日だったの忘れてた!」

 

「え?……うわっ、マジじゃねーかよ! 今からで間に合うか⁉︎」

 

「飛ばせばなんとか開演前に会場入れるはずだ、急げ鋼也!」

 

「しゃーねーなぁ……法定速度ギリギリでぶっ飛ばして行くぜ!」

 

 かつて大人達の思惑と世界の呪いに乗せられて悲痛な別離を強いられた鋼也と銀。

 そんな2人は今、自分達で生み出した未来へ高鳴る鼓動に乗って、前へ前へと進んでいる。

 

ビートに(Beat)乗る者達(Riders)

 仮面ライダーギルス──篠原鋼也

 牡丹の勇者──三ノ輪銀

 

 ── 今は無理でも、敵を全部倒して、お役目が終わったら、普通の子供に戻るわけじゃん?──

 

 ── そしたら絶対、毎日がもっと楽しくなる!──

 

 ── まあ、退屈だけはせずに済みそうだな──

 

 2人はようやく、あの日の夢想を形にすることができたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同じ頃、ゴールドタワーには元防人──現『Gユニット』所属の面々が集まっていた。大社の解体と同時に役目を終えた防人達だったが、33人全員がこれまでの経験と培ってきた見地を活かすことを選んだ。

 神樹の離脱と共に使えなくなった戦衣に代わって小沢真澄と沢野雪美が設計した簡易量産型パワードスーツ"GENERATION 5"。災害救助や作業補助といった戦闘以外での活用も視野に入れた新システムの実践データ収集と万一の防衛戦力としての訓練が彼女達の主な仕事となっている。

 

「小沢さん、第一小隊揃いました。話というのは……」

 

「久しぶりね、みんな。この前着手した"MATHING"システムの件なんだけど、面白い事実が分かってね」

 

「面白い……私達はあなたの娯楽に付き合うほど暇じゃないのですが」

 

 開発室のトップである真澄に呼び出されたのはかつて防人部隊でトップチームとして活躍した第一小隊の面々。組織再編前からワンオフの機体を持っており、アップデートを繰り返して愛機を使い続けている国土志雄と楠芽吹を擁する5人組。

 

「一応大事な話よ? 今後のシステムの展望にも関わるわ……結論から言うと、国土くんと楠さんは今後お互い以外の相手とはリンクできないことが分かったの」

 

「……はい?」

 

「最初にリンクを結んだ2人の相性がシステムの限界を超えて抜群すぎたのね。波形が2人で合わせるパターンで固定されてて、他の人と組んでも変化がない。言ってしまえば、他人を相棒とは認めていないのよ。あなた達の脳がね」

 

 脳波をリンクさせて完全な思考同調を実現するシステムMATHING。それを唯一実戦で使用したコンビ、国土志雄と楠芽吹。この2人の相性が極めて良かったために、GのAIが他者と合わせることを非効率と判断して拒絶している。そのせいで2人は別の仲間と組んでもシステムが発動しなかった。

 

「なるほど〜、つまり……"私の背中を預けられるのはアンタだけなんだからねっ!"ってことでいいのかな?」

 

「っ! い、良いわけないでしょ⁉︎ ただのシステムトラブルであって、私たちが意図したことじゃ──」

 

「わあっ、そう聞くとなんだかロマンチックですね。お2人だけの絆、ですか。それがシステムを凌駕するほどの強い力を発揮して……」

 

「亜耶ちゃんまで……やめてよ、そういうの」

 

 研究室の手伝いとして働いている国土亜耶が目を輝かせてうっとりしている。実の兄と、姉のように慕う先輩の間に特別な絆がある、と科学的に証明された事実が嬉しくて堪らないらしい。

 当人達はと言うと、芽吹の方は口では否定しているが顔は赤く、視線を彷徨わせてはチラチラと志雄の方を伺っている。本人は認めないが、彼女が相棒にどんな想いを抱いているかは仲間全員が理解していた──肝心の相手を除いて。

 

「ふむ、まあいいんじゃないか? 僕と芽吹が一番コンビとして慣れているわけだし。他は他でベストな相方を見つけてもらうのが効率的だ」

 

「志雄……あなたねぇ……」

 

 肝心の志雄はこんなザマだ。彼の朴念仁っぷりは改善するどころか年々酷くなっていった。おかげでこの5年2人の関係に進展らしいものはほとんどない。仲間達が分かりやすく雰囲気を作っても、芽吹が意を決して踏み込んでもサラリと受け流す。ワザとでなければ最早病気の域だ。

 

「君とのコンビは継続できそうで何よりだ。嬉しいよ芽吹、やはり僕には君が一番だ。今後ともよろしくな」

 

 かと思えば唐突に思わせぶりな台詞を吐いたりもする。芽吹の想いを知っている仲間達は、色々な意味で心臓に悪い相棒を持ってしまった彼女の心労を察するしかない。

 

 

 

 

 

 

「あっ、あー! そうだ、今日樹ちゃんのライブ呼ばれてたじゃない? そのチケットもらってたんだよ」

 

 微妙な空気のまま退室した一行。空気を払拭するべく、雀が意図して明るい声を出す。仲間達に配ったチケットは、そのうち2枚だけが明確に他と装丁が異なっていた。

 

「ん? ねえ雀。私のチケット、ペア席って書いてあるけど」

 

「あーそれ! 樹ちゃんがどうしてもその形でしか人数分確保できなかったんだって。だから悪いんだけど、メブと志雄さんだけ3階のペア席で観てくれない?」

 

 もちろんこれも雀達の仕込みだ。樹に頼んでわざわざペアチケットを用意してもらった。今更どれだけ効果があるかは微妙だが、ライブという特殊な環境で2人だけが特別に近い空間に置いてみれば何か変わるかもしれない。

 

「あ、あなた達、何のつもりで──」

 

「良いではないですか! せっかく用意してもらった席、使わなければ失礼ですわ」

 

「こっちは呼んでもらう立場……文句を言うのは筋違い」

 

「ご一緒できないのは残念ですが、お二人はお二人でぜひ楽しんでください」

 

 畳み掛ける第一小隊の連携口撃。律儀な芽吹と真面目な志雄に効果的な文言の数々で、なんとしても2人の空間を作ろうと必死だ。

 何しろ5年進展ナシなのだ。かつて14だった子供達も今年で20歳、大人の仲間入りをする年齢になる。このままでは冗談抜きでアラサーアラフォーになっても付かず離れずの関係が続いてしまう。

 自慢のリーダーと頼れる仲間のそんな有様は見たくないと、防人第一小隊+@は今日も懸命に2人の背中を押している。

 

「僕は構わないが、芽吹は嫌なのか?」

 

「……いえ、別に嫌ってわけじゃ」

 

「ならいいじゃないか。特別席なら一般チケットよりもよく見えるかもしれないぞ」

 

「〜〜っ、分かったわよ。それじゃ着替えてくるから、寮の前で待ってて」

 

「ん? いつも私服出勤じゃないか。着替えが必要なのか?」

 

「これでも女ですから、色々準備があるのよ。いいから黙って車出して」

 

「はは、それは失礼した。それじゃ今から──」

 

 後ろの仲間をほったらかして話を進める2人。恋とか愛とかの気配は微塵もない癖に、彼らは度々2人だけの世界を作り上げるから始末が悪い。

 

「ふふ、お兄様と芽吹先輩、いつも通りですね。収まるところに収まるには、あと何年かかるでしょうか」

 

「オレはあと3年はかかると見たぜ。しずくはどうだ?」

 

「……んー、なら私は5年かな」

 

「いえいえ、この私が仲を取り持つのですから、あと1年! それまでになんとかしてみせますわ!」

 

「弥勒さん、去年も一昨年もそう言ってなかった?」

 

 

 

 

 彼らは変わらない。運命が選ばれずとも役目は果たせると、その身で証明した人類の可能性の体現者。

 自ら運命を切り開いた戦士達。その恋の運命もまた、神さえ知らない無限の可能性が広がっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「園子ちゃ〜ん、みなさ〜ん!」

 

「あっ、かーやん、来れたんだね〜!」

 

 犬吠埼樹アニバーサリーライブ。会場前で仲間達が続々と集う。かつて人類と世界を救うために各々の役目を十分以上に果たした英傑達だ。

 一流大学の史学科に進み、主席とミスの座を独占中の東郷美森。

 美森と同じ学校に一芸入試で見事合格を勝ち取った結城友奈。

 プロ作家として執筆作業とキャンパスライフを両立している乃木園子。

 高校3年間だけ仲間と青春を謳歌し、その後政府の復興省の協力者として動いている上里かぐや。

 

「政府の相談役、というのはやはりお忙しいのかしら?」

 

「ええ、最近は少し落ち着きましたけど。やることはいくらでもありますから……皆様は学校の方は如何ですか?」

 

「こちらもなかなか大変よ。そのっちは締め切りもあって出席日数が危ないし、友奈ちゃんは科目によって得手不得手がはっきりしすぎているし」

 

「えへへ、先週の期末でも東郷さんにお世話になっちゃって……」

 

「ごめんね〜わっしー。いつもありがと〜」

 

「なるほど……ちなみに皆さんは、()()()からご連絡はありましたか?」

 

 穏やかな空気流れる美女達の集まりに、唐突に爆弾が落とされた。それぞれタイプが異なる美人揃い。遠巻きにチラチラと彼女達を伺っている男性陣も、まさかこの4人が4人とも同じ人物に懸想しているとは思うまい。

 肝心の彼はちゃんと答えを出そうとした──1人を選び想いを告げるその直前、タイミング悪くトラブル発生。挙げ句やっとの思いで帰ってきた四国では新たな問題が勃発。市内にいられず今は遠く離れた地を一人で旅している始末。かれこれ半年近く会えていない。

 

「……いつも通りメールのやり取りはしているけれど、そちらは?」

 

「はい、ツテを辿ってあの方のご予定は把握しておりましたので、先日あちらが落ち着いた頃合いにお電話させていただきました」

 

「え〜、それはずるいよかーやん。私達だって声聞きたいの我慢してるのに〜」

 

「うーん、そういうことなら私も今度お願いしちゃおっかな。電話してほしいって」

 

 直接顔を合わせて話をしたい。そんな彼の誠実さ故に宙ぶらりんになってしまっている五角関係。事実として確定していない現状、諦め難い3人もそれぞれに彼との交流を図って心変わりを期待している。

 天運に見放されたような間の悪さのせいで、なんともカオスな関係が続いていた。

 

「……なるほど。とりあえず全員決定的な何かがあったわけではないようですね」

 

「あったらちゃんと教えてるよ〜、そういう約束だもん」

 

「じゃあこの話はここまで! 今日は樹ちゃんが主役なんだから」

 

「そうね。来られなかったあの子の分も、ちゃんと応援しなくちゃ」

 

 かと言って、それで彼女達の仲が険悪になるということもない。恋愛(ソレ)恋愛(ソレ)友情(コレ)友情(コレ)。口で言うほど簡単なことではないが、この4人は恋愛が絡んだ女性同士の友情、という極めて壊れやすい人間関係を5年以上維持し続けている。同じ志をもって死闘をくぐり抜けた仲というのは、それだけ強い絆となっている。

 

『──開場時間となりました──』

 

「それじゃ行こっか、みんな!」

 

「ええ」

「は〜い!」

「はい、参りましょう」

 

 彼女達の誰もが今日を笑顔で生きている。一時的に傍にいられずとも、英雄が最も大切に想っている者達の幸福は、確かに実現されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──アンコールありがとうございます! こんなにたくさんの方の声に包まれて、本当に幸せです!』

 

「樹、いい感じね。この規模の観客を前にしても笑顔でちゃんと歌えてる」

 

「当然よ! あの子は3年間誰より努力してきたもの。世界一のシンガー! マイシスターイズナンバーワーン‼︎」

 

「ちょ、裏で騒いでも樹には届かないわよ。落ち着きなさいシスコン」

 

 アンコールを迎えて盛り上がりも最高潮を迎えている会場、そのバックステージ。スタッフとしてライブ準備をしていた風と夏凜が、今日の主役の勇姿を見守っていた。スポットライトを浴びて輝く自慢の妹の笑顔。目に焼き付けるように見入っていた。

 

「そういえば、次の曲って……」

 

「ええ。あの子がアイツのために選んだとっておきよ」

 

「配信は見れるように装備持ってるとは言ってたけど、ちゃんと見てるんでしょうね?」

 

「大丈夫でしょ、今日来れないこともメッチャ謝ってたくらいだし。それに、電波に乗せなくたって届くわよ。私達とアイツの縁があれば」

 

 

 

 

 

 

『次の曲は、私の大事な仲間に向けて作った曲です。今日はここにいないんですけど、その人にまで届くように歌いたいと思います!……いいですかー?』

 

 樹が客席にマイクを向けると、歓声と拍手で返事が来た。一つ息を吐いて、歌手としてのスイッチを切り替える。

 

『それでは聞いてください──"青空になる"!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四国から見て、地球のほぼ反対側。300年前に時間が止まったきり、変化がない荒廃した世界。ずっと人が足を踏み入れなかったその地に、御咲陸人は立っていた。

 

(かなり遠くまで来たな。まあ、今の四国はちょっと帰りづらいし仕方ないか)

 

 "タイムジャッカー"と呼ばれる異能者の陰謀により、歴史と共に人間関係を書き換えられた陸人。異界からタイムジャッカーを追って現れた仮面ライダー達と協力してなんとか事態を解決させることはできた。

 しかし陸人は、その件で再び人前で力を振るった。ある程度時勢も落ち着いた時期にその圧倒的な力を他者を守るために使う姿を示した結果、一部の市民に信仰されるようになってしまった。

 神樹の消滅で空いた心の穴を埋める対象として見られてしまった仮面の英雄──御咲陸人を奉る新興宗教、"アギト教"の誕生だ。若干過激で強引な勢力の動きが沈静化するまで、素顔を知られている陸人は四国を離れざるを得なかった。

 

 元大社の人員を多く擁する新政府の手引きで、遠隔地でも通信や物資提供が行き届くだけの用意を与えられ、名目上は四国外の調査──実際は厄介払い兼休暇──として外に放たれた陸人。

 最初は戸惑いや不満もあったが、初めて手に入れた誰にも気を遣わずにいられる自由を満喫するようになった。ずっと責任や義務感に縛られていた彼にとって、貴重で新鮮な時間。培ってきた価値観を変化させるだけの刺激と発見に満ちた今の生活を、陸人は意外と気に入っている。

 

(俺を王様にしようとかって話まで出てるらしいし、勘弁してほしいよ──そういえば、王様志望のあの人は自分の夢、叶えられたかな?)

 

 タイムジャッカー騒動で出会い、共闘した魔王候補の仮面ライダー。独特ながら善良な価値観と、王を名乗るにふさわしい大きな器。別世界も含めた世界の広さを教えてくれた、少し変わった友人を思い出す。

 

 

 

 

 

 

「──この音、まさか……?」

 

 誰もいないはずの地で、複数の破壊音。陸人は音が聞こえる方向にバイクを走らせ、気配の元──種族の異なる雑多な怪人集団を発見した。

 

「……ム、何者ダ⁉︎」

 

「こっちのセリフだよ。またタイムジャッカーの仕業か……それとも大ショッカーか? どちらにせよしつこい奴らだ、コレで──」

 

 数は少数、特別強者の気配もなし。陸人は懐に入れてある友人からの授かりもの──"ノヴァライドウォッチ"から手を離して悠然と構える。

 

(……いや、この程度の相手に伍代の力を借りる必要はないか)

 

「貴様、何者ダト訊イテイル!」

 

 余裕の態度を崩さない陸人に、2人の怪人が襲いかかる。大仰な武器を振り回して迫る異形の攻撃を軽やかに避け、カウンターで蹴り飛ばした。

 

「知らないなら分かりやすく教えてやるから、よく見とけ」

 

 構えと共に現れるベルト。人間の可能性の光を宿した宝珠か光り、世界を照らす。

 

 

 

「俺は……そうだな、()()通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ────変身っ‼︎────」

 

 

 

 

 太陽の下、顕現するこの世界の守護者──仮面ライダーアギト。

 たとえどんな企みであれ、それが誰かの命を脅かすものであるならば、彼は何度でも立ち塞がって邪魔をする。

 

「お前達がどこから来たか知らないが、この世界で勝手は許さない──人間を、舐めるなよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一団を軽く蹴散らした陸人。拓けた草原に出た彼は、開放感のまま大地に寝そべった。重い荷物を枕にして、青空を眺める。彼が心の奥底で望んでも手に入らなかった自由と平穏。御咲陸人は、かつての恩人にして理想──伍代雄介の生き方にようやく追いつくことができた。

 

「──ああ。ライブの配信、リアルタイムで観てたよ。本当にすごかった。今度会えたら直接言うけど、樹ちゃんに素敵だったって伝えてくれる?」

 

 電話からは女性の声。呆れたような安心したような声色で、気安く暖かい会話が広がっている。

 

「次はいつ帰れるかな。予定が分かったらちゃんと連絡するよ……うん、うん……そうだね、帰ったらみんなで集まりたいな。食事会とかどうかな?」

 

 陸人の方も安心しきった態度で和やかに話す。仲の良い友人は多い陸人だが、電話の相手とは他とは違った特有の雰囲気が流れている。

 

「ん? 2人で過ごす時間、か……分かった、約束するよ──ちゃん。それじゃまたね」

 

 こうして陸人はまたひとつ約束を交わした。破っても誰も死なない、けれど絶対に破りたくない"平和な約束"を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さーて、そろそろ行こうかな」

 

 立ち上がり、身体を払い、バイクに跨る。目的地は特になし。誰の命も背負わず、何の責任も負わず、ただ自分が望むまま道無き道をひた走る。見たことのない何かを見つけるために。

 

(父さん、母さん、兄さん、姉さん──)

 

 天高くから常に地上を見守っている太陽。いつだって力をくれた偉大な天体に、別れた者達を思い描く。

 

(ガドル、ダグバ、罪爐、テオス、天の神、西暦のみんな、伍代──)

 

 無二の陽光に手を伸ばす。決して届かない天空の太陽に、それでもいつか到達するために。

 

「……見ててくれ……」

 

 旅立った者達に恥じない未来を掴み取る。陸人はもう一度、太陽に誓いを立てて走り出した。誰もいない世界を、いつか命溢れる地に戻すために。

 

 

 

 

 

 

 

 

『天』より授かりし力を振るうアギト。

『人』と繋がって力を増すクウガ。

 その二つを結び、ひとつとする『地』──"陸"人。

 

『天地人』──万物の要素を併せ持ち、全てを護るという過酷な運命を持って生まれた奇跡の英雄、伍代──御咲陸人。

 彼はその役目を果たし、力の半分を手放すことで、ようやく普通の人間として生きる自由を手に入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これにて完結。色々と続編や番外編に繋がりそうな要素をばらまきましたが、回収予定は特にありません。流石に少し疲れたのと、新生活が始まるのでこれまでのような更新は不可能と思われます。

それでも、このエピローグでは表現できていない部分もあるので、のわゆ編のような雑記、または追加エピローグ、後日談、番外編、ヒロイン別ルート等、思いつく展開自体はたくさんあります。気が向いた時、時間が空いた時にふと更新することもあるかもしれません。期待せずにお待ち下さい。

長らく応援ありがとうございました。感想、評価等大変心強く、執筆意欲に繋がりました。

(いつかの)次回もお楽しみに。

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