転生クックは人が好き   作:桜日紅葉雪

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お久しぶりです。
え~、書いてたら2部構成となりました。申し訳ありませんorz
ではどうぞ。


第12話

赤色が咲いた。しかしそれは、無残に砕かれるはずだった俺の頭部からではない。

ではどこか。振りかぶられていた金色の模様を宿らせた黒い腕からだ。

突然起きた爆発が、俺の頭に振り下ろされるはずだったその剛腕をその爆風で逸らし、俺のすぐ脇に拳型のクレーターを作った。地面が砕かれたときにおこった空気の悲鳴が俺の耳を蹂躙。あっけなく俺の世界から音が消えた。地面の穴を見るに俺の頭など薄氷のようにあっけなく崩壊していたであろう。まあ、ただ単にそうなるまでの時間が増えただけのようだが。

俺の眼の前で再び剛腕が持ち上がる。数瞬後には俺の頭に振り下ろされて難なく俺の頭を砕くのだろう。あまりの事に動くことなどできない。ただ茫然と、眼前の死を見上げるばかりだ。やがてその剛腕が頂点に達し、

 

バァン!

 

と、再び赤色が咲いた。振り下ろされようとしていた腕が止まる。その腕を持つ強者…金獅子が、その爆発の元凶を見据えた。俺の視線もそれを追うように動き…

 

(!?)

 

恐怖からではなく、驚愕から、再び硬直した。俺と金獅子の視線の先にいたのは足をガタガタと震えさせながら小さな樽を構えた一匹の猫人族だった。

なぜここにいるのか、なぜ俺を助けたのか…何よりもなぜ今逃げ出さないのか。俺の思考がぐるぐると回る。眼前の死そのものに体は完全に動きを止めてしまったが、唯一といっていいまともに動く脳を、その一点に回す。そうしている間にも金獅子はゆっくりと歩を進めて、猫人族に向け無造作に腕を薙ぎ払った。猫人族はそれだけで簡単に吹き飛び、地面を転がる。自身の軽さのおかげか、死は免れたようだが、やはり痛撃だったのだろう、地面でもがいている。そんな猫人族に向けて、金獅子がゆっくりと歩いて行った。いっそ自身に怯える猫人族の姿を楽しむように、嬲るように。その足取りは本当にゆっくりだ。

このままでは、あの猫人族は簡単に殺されてしまうだろう。

こんな自分の周りでわいわい騒いでいたあの猫人族は、いなくなってしまうだろう。

子供たちに会わせてくれた、さっきは助けてくれた。そんな恩を返す機会は、もうすぐ無くなってしまうのだろう。

目の前でまた、猫人族が吹き飛ばされる。やはり手加減をしているらしく死んではいない。しかし、先ほどよりも確実に動きが小さくなっている。

 

このまま見ているだけなのか?  行っても無駄だろう。

何もできないまま終わるのか?  何をしても意味ないだろう。

何かをする力があるんだろう?  自惚れだった、馬鹿だろう。

無力を噛締めて動かないのか?  俺は弱いんだ。今さらだろう。

 

俺の頭の中を、諦観が支配する。そんな中で、何時か考えた言葉が浮かんでくる。

 

 

 

 

 

目の前の友人位は守りたいね

 

 

 

 

(何が守るだ…無駄だろう。意味ないだろう。馬鹿だろう。今さらだろう。本当に、わかりきってることだ。)

 

けれど、あの時にそう思った気持ちは本当だ。どこのだれにも否定はさせない。

萎えていた体に再び火が灯る。決して消えない、淡くも強い火が。

 

(…でも、やるんだよ!)

 

体の奥で何かが弾けるのを感じる。これまでも何度か起きた不思議な現象。けれど今回は少し違う。今までは何かに体をコントロールされていたような感じだったが、今はそんな枷は無い。拓けた世界の中で、地面を思い切り蹴りつけて走り出す。再び猫人族を殴りつけようとしていた金獅子がこちらに気づくが、構わずに飛びかかる。相手は強者とはいえ、こちらは飛竜だ。大きさでは大きくは劣っていない。超重量同士のぶつかった大きな音が響き渡り、勢いの強かった俺が金獅子を猫人族の近くから弾き飛ばした。吹き飛んだ先でのっそりと起き上った金獅子に向かって自らを、友人を守り抜くことを決めた自らを誇るように、翼を広げる。大きく、尊大に、見せつけるように。金獅子は、そんな俺を見て小さく後ろに飛ぶと、大きな咆哮をあげた。離れた場所にいる俺にまで、空気が震えるのがわかった。それと同時に、背中を覆っていた金毛に光が走った。それは瞬く間に広がり、体中の金色の模様から光が発せられる。ちょっと見ただけでわかるほど、金獅子の体は放電を起こしていた。

しかし、そんな奴の姿を見ても、俺は欠片も動揺しない。冴え渡った頭で、奴の一挙一動をも見逃すまいと観察を続けていた。そうして一瞬ののち、奴の後ろ脚の筋肉が、一気に収縮した。同時に俺も足に力を込める。

同時に走り出し、お互いの間に会った距離が、一気に食い尽くされた。お互いに駆け出した勢いのままゼロ距離で接触する。奴は左の拳を振りかぶり、勢いのままに叩きつけてくる。その一瞬の間に、振りかぶられた左腕の下をくぐるように、突進の勢いを崩さぬままに地面を蹴って跳ぶ。もちろん体勢は限界まで低くしてだ。俺の後ろで拳が地面をたたき、再びクレーターを作っていた。しかし、そんなことはわかりきっていたことだ。走り抜けた勢いそのままに、空へと飛び立つ。そのまま十八番といっていいバレルロールで反転。落下の勢いをつけて奴の背中に爪を振り下ろす。綺麗に入ったが、筋肉の鎧に阻まれて傷を与えることはできなかった。まあ想定の内だ。そのまま縦に180度回転し、バレルロール状態から元の体制に戻る。いわゆるアウトサイドループと云う奴だ。そのまま右旋回で金獅子を視界に入れる。

背中を蹴られた金獅子がこちらに向き直る。空を飛び、抗戦の構えを崩さない俺を見止めた金獅子は、前足をしっかりと地面に突き刺して首をもたげた。おそらくビーム攻撃だろう。少し動けば普通にかわせる。時計回りに金獅子の射線上からずれる。同時に放たれたビームが先ほどまで俺のいた空間を焼き払い、そのまま避けた俺を追尾してきた。再び時計周りに動きビームから逃げる。何が起こったのかと金獅子のほうを見ると、首をまげて、俺を見ていた。その動きに合わせてビームは俺を追ってくる。思えば当然だ。ただ一直線にしかとばない攻撃を持続させるなんて隙以外の何物でもない。射線を動かせることなど、不思議でもなんでもなかった。

やがて、ビームが途切れ、再び相対する。先ほどと違うのは俺が空に上がっていることか。

先ほど交錯する中でわかったことが幾つか。

まず第一に、圧倒的に火力が足りない。

そして第二に、地上での機動力は向こうが段違いで上。

次、第三。至近距離でずっといると金獅子の纏う電気で麻痺する。

第四、今視界に映っているのだが、あの猫人族は未だに動けない。

…結果、俺はこの絶望的な戦いを続けなければならないということだ。唯一の希望は、相手の対空技が少ないということだろうか。俺の知っているゲーム内での金獅子の対空になりえる技は、高空から回転しながら突撃してくる技、通称「飛鳥文化アタック」。先ほど放ってきたビーム、通称「気功波」。そして電気の球を飛ばしてくる技、通称「電気玉」の3つだ。…そうそう、エリア移動のときにやってた大ジャンプも気をつけないといけないな。あれで跳びかかられる可能性もある。

しかし、地上にいれば先ほどあげた3つ以外にも、あの剛腕を使ったいくつもの攻撃がある。やはり、勝機は空にあり…か。

この思考を一瞬で終わらせ、眼下の金獅子に意識を向ける。こうしてできた奇妙な膠着状況を、今度は俺から破った。飛行高度を落とさずに金獅子の真上へと飛び、上空からブレスを落とした。

人間でいう、「フッ」というはき方ではなく、「ハァー」というはき方で。広範囲に広がった粘着質の赤いブレスは地表に落ちるや否や、ナパーム弾のように火を噴きあげた。それは当然金獅子を巻き込み…剛腕の一振りでかき消された。わかっていたことではあるが、俺の作る火では金獅子には効かない。おそらくだが、俺の最大火力である青い火も金獅子の体毛に守られた皮膚を焼くには力不足に過ぎるだろう。

 こちらに向き直った金獅子は俺から間合いを取るように後ろに、つまり俺の背後方向に飛び下がり、そのまま飛びあがった。俺よりも高い所まで。なんという脚力か。そうして、空中で回転、加速しながら俺のほうへと向かってくる。今さらだが、本当に物理法則仕事しろ。なんで空中で別方向に向かって加速できるんだよ!嘆きながらも真上に上昇する。俺の尻尾をかすめるように金獅子は落下していき…

 

バシュッ!!

 

同じ方向から放たれた金色の光が、俺の左の翼を消し飛ばした。

空中で完全に制御を失った俺は落下していく。そんな中見えたのは、着地した金獅子の横にゆっくりと歩いてきた、もう一匹の金獅子だった。俺の翼を消し飛ばした金獅子は、空高くまでどこまでもどこまでも響き渡るような咆哮をあげた。

 

 

 

 

猫人族side

 

痛む体を必死に動かそうともがく。

僕が助けようとした、僕が守ろうとしたあの優しい怪鳥は今、僕を守って戦っている。

守ろうとしたことは後悔していない。あそこで何もしなければあの怪鳥は確実に死んでいただろう。けれど、助けようとした怪鳥に守られて、結果的にとはいえあの怪鳥の退路を断ってしまっているのは、悔しすぎる。

先ほどの光景を思い出す。あの優しい怪鳥は、目の前に迫ってきていたあの金色の悪魔を吹き飛ばした。そうして僕の前に立ちはだかり、翼をゆっくりと広げた。その翼の先から赤い光が出てきて怪鳥を包み込んだ。赤く輝いた怪鳥は、綺麗で、大きくて、かっこよくて…昨日酒場で聞いた歌を思い出す。「赤い神鳥」、「来る禍」。きっとこの事だったのだろう。

少しだけ、体に力が戻るのを感じる。ゆっくりと起き上ると、少し離れたところで炎が立ち上った。きっと、「赤い神鳥」の仕業だろう。未だ消えていない「赤い神鳥」の命に安心して、逃げようと足に力を入れたそのとき、地上から金色の柱が空に消えていった。少しあとに、おぞましい咆哮が聞こえてくる。何が起こったのかは分からない。けれど、なにかまずいことが起きたに違いない。

ようやく動くようになった体に鞭打ち、僕は村へと駆け出した。

 

 

 

ギルドポッケ支部での会話

 

事務員「あの、シャーリーさん…」

シャーリー「…何かしら?」

事務員「暫く前からあった異常現象なんですけど…」

シャーリー「ええ」

事務員「沼地と火山って、離れてますよね。ということは、異常現象の原因って、1匹じゃないんじゃあ…」

シャーリー「…これ、見てみなさい。さっき、ギルマスから渡された依頼書」

事務員「………え?」

シャーリー「つまり…そういうことよ」

 

      討伐クエスト

      一対の金色悪魔

    依頼主:ハンターズギルド

    依頼内容:

    守秘義務が課せられている

    ため、公開不可。非常に危険

    な依頼のため一部の者に指

    名依頼とする。受注した者

    は、ギルドマスターの部屋

    に集合すること。

 

    報酬金 : 60000z

    契約金 : 10000Z

    指定地 : 森丘

 

    指定モンスター:

    ラージャン激昂種2頭

 

    特殊条件:

     特別指名依頼




元ネタが双獅激天ということに気づかれず大変ご満悦の俺であります。
えっと、伏線としては最初に起こった異常現象の場所が沼地と火山で、2Gのロード画面基準ですが離れているっていうところですね。まあ、その後の異常現象の動きが特に確認取らずにやって矛盾ができたせいで気づかれなかったのかもしれませんが。

それでは、失礼します。

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