転生クックは人が好き   作:桜日紅葉雪

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お久しぶりです。


第13話

羽を失って飛び続けることも出来ず、俺は為す術なく地面に落下していく。

迫る地面。某TRPGでは最強の武器扱いのそれに、俺は一直線に突貫を行う。

ドスンっと大きな音を立てながら俺は地面に落下した。

 

(落下ダメージ2d+100どうぞ。…あ、回った。)

 

うん。馬鹿なことを考えるのはやめて現実をみよう。まずは状態確認。

右翼、無事。大きな傷はない。左翼、半ばから消えている。千切れているわけでもなく、消滅しているといった表現が正しいとさえ思える傷だ。痛みはもちろん感じているが、超高熱の電撃に晒されたためか傷口が一瞬で焼かれて、炭化しているので出血は無い。ひどい状況だが、まあ俺は死んではいない。最悪ではないな。次、胴体および足。胴体に大きな傷はなく問題ない。が、先ほどの落下で無理やり足から降りた…落ちたせいで激しい痛みが襲ってきている。どうなっているかはわからないが、軽く足踏みをした感じでは骨は無事なようだ。もちろん激痛は走るから全力で走ったりは相当厳しいだろう。次、頭と尻尾。両方とも無事だ。かすり傷しかない。そしてこれは体全体で言えることなんだが…体が赤く発光している。いや、俺の鱗が赤いのは今に始まった事じゃないんだ。そうではなくて、光を発しているというかなんというか…そう、トラン〇ムみたいなあれだ!別に早くなったりはしてなさそうだけど。

と、まあ状態確認はこんな所か。次、状況確認。近くに敵影…ってか金獅子の姿はなし。と言っても木々に遮られているから案外近くにいるかもしれないが。音が聞こえないのは意外と不便なものだ。あの猫人族はどうなったかはわからないが、だいぶ引き離してたしたぶん大丈夫なはず。となると、最善は俺も逃げることなのだけれど…

と、ここまで考えたところで、地面が微かに揺れた。嫌な予感しかしない。もし次戦闘になった場合、アドバンテージに数えていた制空権は消失。加えてこちらは傷を負い、攻撃された時の状況的にもう一体増えているのだろう。絶望しかねぇな。逃亡は…おそらく無理。能力もコンディションも向こうが上なんだ。よほどのことがなければ不可能だろう。

この状況下で使える情報はゲームだった時の行動パターンだ。とは言えすぐにいい案なんて浮かんでは来ない。何をするより先に身を隠そう。

派手な落下痕の残る場所から、痛みをこらえながら歩く。未だに地面の揺れが規則的に響いてくるのが恐ろしい。ゆっくりと、足を引きずりながら進んでいく。緊張の為か、少しずつ痛みは引いていった。3分ほど経っただろうか。規則的に響いてきていた振動が最後に一際大きな振動を俺に伝え消え去った。

 

(助かった…のか?)

 

後ろを振り向いた俺が見たのは、空から背の高い木々をへし折りながら落下してくる金獅子の姿だった。それを視認すると同時に俺は地面を蹴って横に跳ぶ。急激な動きに足が絡まりそのままこけてしまったが、金獅子の攻撃はなんとか回避することが出来た。というかマジで危なかった。この変に冴えた感覚じゃないいつもの状態なら確実に今ので死んでいた。

しかし、絶体絶命であることに変わりはない。さっき気がついたが、聴力がほんの少しだけ回復している。木の折れるバキバキという音が微かに聞こえていた。ほら、また木がバキバキという音が聞こえる。何とか立ちなおして直に再び地面を蹴り飛ばす。その先にあった木に倒れかかるようにして体勢が崩れかかるのを堪える。ほぼ同時に後ろに金獅子が着地する音が聞こえた。追い詰められた…な。体をゆっくりと木から離す。振り向けば金獅子がゆっくりと身を起こすところだった。

さて、追いつめられるところまで追いつめられてしまったが…この窮地に置いて、やはり俺には不思議な全能感があった。

極限状態まで張りつめられた俺の視界は異常なまでに映るすべてのものを細部まで脳につたえる。かすかに動かした体からはくすぶる熱が伝わってくるだけで、消飛ばされた羽からも痛みを感じることはなかった。ふと考えてみれば先ほど気に倒れ掛かった時も痛みを感じることはなかった。よく考えてみれば、あたりを警戒しているならば体から発せられる痛みの信号もしっかりと感じるはずで、歩いているときに痛みが消えて行った時からおかしかったのかもしれない。

ただ全能感があるからといって傷が回復したわけではないので空に上がることはできないだろうが、ここから先逃げるという選択肢を失った俺に許されるのは抗うことだけだ。おとなしく死ぬ?そんな選択肢、最初からあるはずもない。

さあ、種族の壁もこちらの傷も意味さえもすべて無視して始めよう。勝てば生き、負ければ死ぬ、殺し合いへ。

 

体の表面にやけどの跡のある金獅子に向かって走り出す。新しく表れた金獅子が俺を轢き殺そうと俺に向かいその体を弾き飛ばし、俺を正面から消し飛ばすつもりか火傷を負った金獅子が気功波を放つ。その予備動作を見た瞬間に俺は地面をけって宙に浮く。当然半ばから消飛んだ左翼が揚力を生み出せずに沈み込み、俺は突進の速度そのままに、俺の左後方から突っ込んできた金獅子の頭を踏みつけて少しの浮遊感ののち、地面に落下した。頭を踏みつけられた金獅子は急激な荷重に耐えられず前転するようにこけ、その金獅子に向け、気功波が放たれた。自身が扱う力だからであろう。背に生える金色の体毛にその大半が効果を表すことなく吹き散らされた。しかし、それでもその防護を抜いた僅かな力が、金獅子の皮膚を焼き切り傷をつけた。

気功波を放った金獅子は反動で動けず、指向性をもっているとはいえ唯のエネルギーの塊である気功波では、トップスピードに乗った金獅子を止めることなどできず、地面を転がった金獅子が硬直で動けない金獅子に激突。二体はもつれるように地面を転がり、その体に僅かな傷を負った。

 

…どっちがどっちかわからなくなりそうだから最初に現れた小さい方を金獅子(小)次に出てきた出かいほうを金獅子(大)と呼称しよう。

 

地面に落下した俺は幸いなことに前に進む力の大半を金獅子(大)との衝突で失っており落下したとはいえ体勢を大きく崩すことはない。しかし、全体重と慣性まで利用したとび蹴りでこかせることしかできないとは…やはり身体能力の差が大きすぎる。首の骨でも折ってくれればよかったのに。

っと、無駄なことを考えている時間なんてない。急いで移動しないと。逃げるんじゃあない。向かう場所はそう、金獅子たちが並んで攻撃できない場所。いくつか候補が上がるが、その中でも特におあつらえ向きな場所に行く。そう、細い道に切り立った崖。かつて黒狼鳥と戦った場所だ。ゲームでいうとエリア3だったかな。小さな違和感を放つ足を動かし、俺を一時的に見失っている金獅子から離れていった。

 

 

 

 

俺を初めとする大型モンスターは、ハンターとは違い場所を広く取らなければ動けない。ゲームでは見えない壁に阻まれていたが、現実ではこのエリアで突進しようものなら崖に飛び込んで行ってしまうのは当然と言えるだろう。そんな小さなエリアに生えている木の下で、俺は体を休めていた。すぐ近くにある薬草は食べつくしている。ペイントの実も混じっていたのか口の中がべた付くが、まあ仕方がない。このまま何事もなく時間が過ぎていけばいいとは思うが、そんなに上手くいく事はないだろう。あの悪夢のような二体がそう簡単に諦めるとは思えない。俺は動かずに、その時を待つ。

 

暫くして、俺のもとに規則正しい振動が響いてきた。考えるまでもなくあいつらだろう。

俺は目を開きその二体を視界に捉えた。さあ、ここが決戦の地だ。

翼を広げて声を上げる。地を踏みしめる。内容なんてかけらも知らないが、こんな時に言うのだろうなと思える一言がふと心の中に浮かんだ。

 

(覚 悟 完 了)

 

その心が、俺の中にあった僅かな怯えを押し流していく。

立ちふさがるのは圧倒的な強者が二体。対するこちらは傷を負い有効打すら持たない俺がたった一人いるだけだ。

沸々と湧き上がる感情。それは、恐怖でも絶望でもなく、不思議な高揚だった。心の中で思わず苦笑いをする。今日だけで俺はどれだけ戦意が上がるのかと。

猫人族に助けられ心機一転。

戦うことを決めて自らに活を入れる。

そして今、少しの間を置きできた心の余裕に闘志が満ち満ちている。

ああ、これはもう、不可能なんてものはないのではないだろうかと、先ほどよりも色濃い全能感が体を支配した。

こちらの戦意高揚に反応したのか、二体の体に光が走り、たちまち放電が開始された。

本気の表れか咆哮を上げる二体に復活していた聴覚を刺激された俺は当然のことに

 

ブチ切れた

 

(煩いって言ってんだっ!ゴルァァァァアアアアア!!!)

 

「GULUAAAAAA!!!」

 

俺の喉から出たとは思えないような莫大な音の奔流が、二体の出した咆哮を掻き消し、それだけでは飽き足らないと二体の体を叩いた。わずかに怯む金獅子達。

そんなさま等見ることもなく、自らの声に違和感さえ抱かず、俺は熱を喉に感じながら駆けだした。人間とは比べ物にならない大きさを持つ俺の全力ダッシュは瞬く間に金獅子達との間にあった距離を埋め尽くした。そのまま小さくジャンプして、金獅子(小)の顔面に何度も嘴を叩きつけた。嘴に高熱の液体を含めたまま。青白い炎が金獅子(小)の顔で爆発し、俺と金獅子達は、爆風によって大きく距離を取り、俺に殴りかかろうとしていた金獅子(大)の剛腕が、金獅子(小)の顔面をぶん殴った。眼前を火に覆われ視界を遮られていた金獅子(小)は当然それを避けられず、もろに攻撃を受けて吹き飛んだ。ただでさえ目を高熱の炎に焼かれていたのにそこに追撃に入った金獅子(大)の拳を受け、その目は、完全に機能を失った。さて、ゲームをプレイしたことのある人ならわかると思うが、金獅子は閃光玉等で視界を失うとこれでもかというほど暴れまわる。当然、今視力を失った金獅子も同じだった。

起き上がった金獅子(小)は、先ほどまで俺がいた場所に向かおうと大きく飛び出し、拳を振り切った状態の金獅子(大)に激突。訳も分からぬままに横っ飛びに跳ね…崖下へと落下していった。まあ、あれで死んだとは思えないが、これで一体を戦闘不能に持ち込めた。まずまずの結果だろう。落ちて行った金獅子(小)に目もくれず、俺は再び駆けだした。

背後から予期せぬ突撃を受け体勢を崩していた金獅子(大)は、突っ込んでくる俺を視認すると、すぐさま顔を腕で覆った。先ほどの目つぶしを警戒しているのだろう。さあ、ここからはぶっつけ本番の大博打だ。失敗すれば絶好の好機を失いほとんど勝ち目のない戦いを続けることになる。だが、成功すれば…これでこの戦いが終わるかもしれない。

どちらにしても俺は戦闘不能になりそうだが…まあ、やるしかないことに変わりはない。俺は既に覚悟完了しているのだから。

お互いの距離がまだほんの少しあるうちから嘴の中に熱を溜める。そのままジャンプし

 

体を左に傾けながら右に飛んだ。

 

暫く前の鋭角カーブの再現のように俺の体は急激に地面に近づきながら相手の背後に滑り込むように回り込み、俺は目の前にある金獅子(大)の尾に喰らいついた。金獅子(大)が絶叫を上げる。俺の体は尾を加えたまま地面に落下し、それでも勢いを殺し切れず地面を滑る。金獅子(大)の尾が限界まで伸び切り、張り詰める。俺の嘴の中では尚も溜まり続ける熱が金獅子(大)の尾を徐々に焼切っていく。

とはいえ、俺の方も無事では済まない。放電をし続ける金獅子に常に密着しているため俺の体には常に電気が流れ続けている。それも、現在進行中でどんどん強くなっていっているのだ。正直かなりきつい。が、ここで離してしまえば満足に動けない今の俺の負けは確定するだろう。

お互いにどうしようもない状況の中、金獅子(大)は絶叫を上げ続け、俺の嘴の中の熱もどんどん高まっていく。

ふと金獅子(大)の方を向けば、不思議なことに、金の鬣が長くなっていた。よくわからんがサイ○人っぽさがさらに上昇している。これ、本当に版権大丈夫なのか?

暫くこの状態が続き、ついに金獅子の尾が焼切れた。同時に俺は電気から解放され、その場に倒れ込む。一方の金獅子は狂ったように吠え続け、暫くののちに、その体を地に横たえた。

そのまま時間は過ぎ去り俺の体のしびれが取れ立ち上がっても、金獅子がその体を再び起こすことはなかった。

ふと吹いた風がその鬣を靡かせ、戦いの終わりを俺に告げた気がした。

 

(……勝ったんだよな)

 

そんな考えが俺の頭の中に浮かんだ。次に浮かんできたのは何とも俺らしいともいえることだったが、戦いの終わりを告げるにはいい考えだったのだろう。

 

(ああ、今日の晩飯は豪華になったなぁ…)

 

…そもそも、食えるのかどうかも分からないが。

 

 

古龍観測隊隊員

 

病院を退院してから初めての仕事に、儂は胸を躍らせておった。

病院の退屈な生活がやっと終わった。やっと仕事に戻れると。

…今思えば、浅はかだったとしか思えない。ああ、儂は目の前で起こったことを本部に報告しなければいけないという当たり前のことさえ恨みがましく思えてしまう。またあの現場を見ない狸どもに頭が大丈夫かと心配されてしまうのだろうと思うと…うっ、胃がっ!

…ふう、儂の穴を埋めてくれていた若造にもらった薬と言葉がなければ即死しておった。

「激流(げんじつ)に身を任せ同化しろ(ながされろ)」

など、誇り高き古龍観測隊が何を言うのかと起ったものだが、今にして思えば至言じゃな。

ああ、あの善性イャンクックにはほとほと呆れるわい。どこの世界にG級個体しか確認されていない金獅子の激昂種を二体相手取り生き残るどころか撃退、しかも一体は討伐ときた。

もう嫌じゃ…儂、この仕事が終わったら辞表を出す。だからもう少しだけ耐えてくれ儂の胃よ。ああ、病院が恋しい。

 

ギルド本部への通達

…本日の善性イャンクックの生活。

 金獅子(激昂種) 討伐1

         撃退1

報告を終了します。病院行きたいので短いですが切り上げさせてもらいますね。

 

ギルドポッケ支部への通達

…いろいろ言いたいことはありますが、明日言わせてもらいます。

とりあえず、有給出しときますね。

 

 




自分も病院行きたいです。
全体会議で盛大にミスった…orz
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