転生クックは人が好き   作:桜日紅葉雪

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わーにんぐ、わーにんぐ、残酷な描写あり。苦手な方は注意されるべし。

ということで次話です。いつも通り偶数話なので、いつか出てくる奴らの話を…

ではどうぞお楽しみください。


第6話

秘境と呼ばれる場所がある。

古塔の頂上、そこから飛び降りた先にあると言われている秘境に、一体の龍が現れた。

白く輝く鱗を煌めかせ、深紅の瞳が秘境を睥睨する。視線の先に、金色の月とそれに挑む歴戦のハンター達がいた。

金色の月を3人でその場に釘付けにし果敢に切りかかりながら、残る一人が遠距離より弓のつがえていた。

深紅の双眸が、戦場を射抜く。果たして、最初に気付いたのは金色の月だった。

自らに切りかかるハンターを無視して飛び上がる。ハンター達は未だに迫りくる絶望に気付かない。ただ自らの経験にない金の月の動きに戸惑うばかりだ。

金色の月が全速で逃げていく。それを後目に、ハンター達の前に絶望が降り立った。

響く咆哮、轟く雷鳴。

大きすぎる絶望に、歴戦のハンター達でさえ、逃げ惑うことしか許されはしなかった。

 

 

 

 

(祝!翼復活!!)

 

ポルナレフ’sのパーティーに回復薬をもらってから3日が経った。

未だに尻尾はまだ食べきれていないし、そろそろ水も乏しくなってきたが、これで獲物を採りに行ける。うん、虫が恋しいんだ。腹いっぱいに食べることはできないけど、ずっと硬い尻尾と水だけだったからあんなスナック感覚で食べれるものが本当に恋しい。…虫を食べたいだなんて人間だったときは考えられない考えだよな。

さて、現在の俺の状況だが、翼が全快ではないが飛ぶのに支障はなくなった。足の骨は…つながったのかな?痛みは無くなったけど違和感というかなんていうか…時々かみ合わない感じがある。そう、自転車の1ギアくらいのつもりで歩いたのに6ギアの速度が出てしまったみたいな?んで、爪は前ほどではないがぎりぎり武器に使えないこともないって程度まで伸びた。人間だったころの深爪から1週間経ったぐらいだと思ってほしい。喉はもうほとんど全快だ。あいつらにもらった回復薬が効いたんだと思う。嘴は一番最初に治った。これはもう完治と言っても問題ないだろう。

と、自己診断をしたが実際これは医療を欠片も知らない俺の勝手な診断ゆえに正確なところは知らない。動けりゃあいいんだよ。

んじゃあ、久しぶりの外を堪能しましょう。待ってろよ虫たちよ!!

 

 

というわけで久しぶりに巣を飛び出したわけなのだが…現在逃走中です。

どうせ、俺の生活穏便にはいきませんよーだ。

とりあえず遡る事時間位。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

と言うわけで、いつもの水辺。あ、アプトノスさんお久しぶりです。

最近俺を見ても警戒しなくなってきてる草食竜さんに挨拶。と言っても気分だけだが。

いつもの虫食いポイントで虫を食べる。雷光虫のビリビリも光蟲(ピカチュウ)の発光も久しぶりに食べると非常においしい。苦虫の苦みは未だに慣れないけど。

そうそう、苦虫を見つけるといったん虫を食べるのをやめてドクテングダケを食ってる。実際どうなるか知らないけど、ゲームだと毒状態になる代わりに体力の上限が上がってた気がするから。いくらこの体でもやっぱり食べるとたまに気持ちが悪くなる。苦虫を2~3匹食べると楽になるから虫を食べに来るときは持って来てる。…これのおかげでマ王様を乗り越えられたのだとしたら何がいつ役立つか分からないよな。

そうしてささやかながら幸福な食事を終え、川の水を飲んだ俺は散策に出ることにした。

久々の大空を楽しむ。久々に感じる風を切る感覚が気持ちがいい。

浮かれながら空を飛んでいると、遥か先に点が見えた。だんだん大きくなっているのを見ると近づいてきているのだろう。

多分厄介事だから、地上に降りる。だんだんと大きくなってきた点はついに正体を現し…真昼の森丘に金色の月が現れた。

 

(いやいやいやいや…なんで??)

 

マ王様に引き続きあり得ないモンスターの来訪に驚く俺。

リオレイア希少種。通常種に比べ、圧倒的な攻撃性と業物の刃さえ弾き返す強固な鱗。何よりも、金色に輝くその美しさから金色の月(ゴールドルナ)の二つ名を得ている化け物。

その化け物の双眸がしっかりと俺を捉えていた。

 

(なんでいつもこうなるんだよぉ…)

 

死にたくない俺は、病み上がりの体に鞭打ち脱兎の如く逃げ出した。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

こうして、さっきの状況に戻るのである。

リオレウス通常種よりも段違いに速い飛行速度に全力で飛行するもグイグイと差が縮まっていく。急旋回やリオレウスにやった生身バレルロールもやってみたけど、引き離すことができない。難易度がベリーハードを通り越してcrazyに突入してしまっている気がする。ていうか、マ王様に引き続き金色の月とか、俺の運がここ最近地を這っている気がする。どうにかせねば…

捕まりかける度に体に負担の多い生身バレルロールや急上昇・急下降を繰り返しているので体力の消耗が激しい。このままではジリ貧だ。このまま続けても遠くないうちに捕まるだろう。

焦りながら周りを見渡す。何か使えそうなもの…

大きな木、ランポスが1・2頭、キノコやそれを食べるモス、虫のたまり場、水飲み場、自分の巣…いつの間にか自分の巣の付近まで飛んできていたようだ。が、打てる手が見つからない。どうする?どうする??

後ろで、いつまでも捕まらない俺に業を煮やしたのか、金色の月が俺より高い位置へ上昇して火球を吐きかけてきた。急旋回でよけた俺の下で火球が爆発する。爆風にあおられながら、俺は一つの手を思いついた。

金色の月が襲い掛かってくる。その強襲に背を向け俺は地上へと向けて飛翔した。

どんどんと近づいてくる地面。俺はその一角に向けてブレスを吐きかけさらに加速する。

結果的に俺は自分のブレスを追い抜いて地上すれすれで水平飛行に移り、超低空飛行を行う。

その間にも金色の月はどんどんと俺に追いつき、地面すれすれで…眼前で起きた爆発の爆風を受けて墜落した。

俺のブレスで過剰な爆発が起こることはない。ただ超高熱の粘液を相手に張り付けるものだ。では今回何が起きたのか。それは、ブレスの着弾地点にある。俺がブレスを放ったのはキノコの群生地。その群生地に、一種類のキノコがある。

 

その名も…「ニトロダケ」。

 

ゲームをやったことのある奴なら知っていると思うが、発火作用のある火炎草と組み合わせれば爆薬ができるのだ。

つまり「ニトロダケ」には火をつければ爆発するという効果があるのだ。一つあれば大樽爆弾を一つ作れるほどの爆発力を持つニトロダケがいくつも生えている場所に、着弾と同時に爆発してそこにあるものをむやみに吹き飛ばしたりしない、純粋な火種が落ちるとどうなるか?それこそが今回金色の月を堕としたトリックである。

まあ、爆発したときに黄金の月がその煽りを受ける位置にいるかや、ただの爆発で相手の体勢を崩せるか、そもそも加工前のニトロダケはきちんと爆発するのか。と言った賭けの要素が非常に多かったのでうまくいって本当に良かったと思う。

地面に着地し、一息つく。さて、奴が元気に起き上がる前にさっさと退散しようかね。

そう思い、再び飛び始めた俺の耳に、

 

Gugyyyya!!

 

という、非常に聞きたくない音が聞こえてきた。恐る恐る振り返る。

そこには、足を不自然にブランとさせながら空を飛ぶ金色の月がいた。…復活速すぎませんかね。

口から黒煙を吐き出しながらたいそうご立腹らしい奴は、空から俺に向かって火球を吐き出してきた。

あわてて逃げ出す。木々の間を走りながら敵の攻撃の第一波をかわし、その助走も使ってジャンプ。そのまま飛翔に移る。再び高空へと舞い上がり、ひたすらに金色の月の追撃をかわし続ける。ブレスを吐きかけ、時には直接かみつきに来る。怒りで我を忘れたのか先ほどよりもよほど速いスピードで俺に追いすがる奴は、ついには俺を追い抜き、そのまま高速で反転。

自分に放たれた火球をよけたばかりの俺は進路を変えることができず奴とぶつかり、もつれあいながら落ちていった。

お互いに落下しながら、奴は俺の翼にのしかかり俺の首にかみつこうとしてくる。

首をひねってよけ、そのまま頭に嘴を叩きつける。あまりの硬さに頭に衝撃が走りふらつく。それはさすがに向こうも同じだったらしく、お互いに一瞬動きが止まった。

地面がすぐそこまで迫っていることに気付いた俺はふらつく頭を押して、金色の月の上をとった。翼を抑えられているために仰向けの体勢で地面に落下する。

衝撃で息が止まって苦しい。が、幸いに大きな怪我はしなかった。金色の月の爪が俺の翼膜を傷つけたが、問題はない。落下の衝撃で奴の動きが止まる。

ゴローンと横に転がって束縛から抜け出す。奴も同じように起き上がろうとしたが、足を下にした瞬間小さく悲鳴のような声を上げて崩れ落ちる。今なら逃げられる。そう思った俺の視界に、虫のたまり場が映った。小さく笑って火球を吐きかける。同時に急いで後ろを向き目を固く閉じる。

俺のブレスが着弾した音に驚いたのか金色の月はそちらを見て、圧倒的な光量に網膜を焼かれた。同時にばら撒かれた電撃が金色の月の目を貫いた。

奴の悲鳴が響き渡る。落ち着いて奴をよく見れば顔も傷だらけだ。不自然な切り傷やはがれた鱗も見える。ハンターとの交戦の後なのだろう。俺は奴に近寄り、悶えている奴の傷口に嘴を叩きつけた。

悲痛な咆哮が響き渡る。それに頓着せずにもう一度。

何度も何度も繰り返す。

叩く。叩く。叩く。叩く。叩く。叩く。

そのたびに咆哮が響き渡る。いい加減にうるさい。

俺は狙う傷口を顔の傷口に変えた。硬かろうがあまり関係がない。

瞼を叩く。中身も外側も傷ついているからか、たった一度叩いただけで大きく陥没した。

伸びかけの爪を首の傷にしっかりと食い込ませて上をとる。

がっちりと奴の首から上を固定。さあ、遠慮はいらない。ただ生き残る事だけを考えろ。

ただ無心で叩く。叩く。叩く。叩く、叩く、叩く叩く…

 

叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く

叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く

………

 

気が付けば、金色の月は声を上げていなかった。顔は元がわからないほどに陥没していたし首に食い込ませた爪も10センチほど食い込んでいる。

それでも奴は死んでいなかった。俺は奴の首を固定していた足を退けた。小さく黄金の月が動いたが首の傷を思いっきり叩いて止める。そうして今度はゆっくりとブレスを溜める。

火竜に火が効かないのはその鱗が火を遮断するからだ。ゆえに鱗のない場所には普通に火が効く。まあ、普通の肉よりは火が通りにくいのだが。

喉が熱を感じる。温かみではなく熱だ。その熱を我慢しきれなくなる寸前で吐きかけた。

肉を、血管を、圧倒的な熱量が焼き尽くしていく。体を硬直させた黄金の月がしばらくしてけいれんを始めた。そうしてまた痙攣さえしなくなり、

俺は金色の月を殺しきった。

 

………やっちゃったよ、俺。

 

 

 

 

 

とある古龍観測隊の報告

 

もう嫌じゃあ…

なんなんじゃあのイャンクック。

秘境から逃げ出したと報告のあった金火竜を追ってみれば、その金火竜はあの赤いイャンクックと追いかけっこをしておった。ちなみに今回は発光してはおらんかった。しばらく追いかけっこを続けたと思えばキノコの性質を利用するといったモンスターが考えるとは思えないような方法で金火竜をたたき落とし、あまつさえ殺してしまいよった。奴の鱗や嘴の破片を見るにどう考えても奴は下位。それが上位個体の上に上位種であるはずの金火竜を殺すじゃと?常識に喧嘩を売るのもいい加減にしてほしいもんじゃ。ああ、儂はまた上層部に正気を疑われるのじゃろうなぁ。今から気が重いわい。

それにしても、あの金火竜、何故こんなところへ現れたのだ?何かよからぬことが起こってなければいいが…

 

 

 

 

ギルド本部への通達

秘境より報告。上位ハンターが秘境にて金火竜と交戦中に謎の雷を操る龍が出現したとのことです。なお、件のハンターは全員が軽傷または重症、一名が負傷によりハンター活動が不能。治療が終了後にハンターを引退することになりました。

なお、本来のターゲットであった金火竜は森丘方面へと移動。古龍観測隊に観察を依頼したところ、以下の報告が上がってきました。正直頭の痛い報告ですが、お目通し願います。

 

           古龍観測隊より報告

      金火竜、森丘にて善性イャンクックに討たれる。

            死体は確認済み

   死体は現在善性イャンクックが食糧にしているため回収不可

   なお、燻製加工を善性イャンクック自身が行っていることを確認

  観測者が精神病を抱えたため休養中。直接の報告は現在不可能である。

 

異常です。…失礼。以上です。

 

 

ギルドポッケ支部への通達

秘境の雷を操る龍は、文献に出てくるミラアンセスと呼ばれる古龍だと思われる。

非常に強力な古龍で祖なる龍とまで呼ばれているようである。

秘境へのハンターの立ち入りを厳禁し、古龍観測隊からの観測報告を待つように。

それで、金火竜および善性イャンクックについてですが…ギルドマスターからのお言葉です。

金火竜については特別大きな被害もなく解決して喜ばしく思う。

ただし善性イャンクック…てめぇは駄目だ。

何俺たちの常識をぶち壊してんだ!あと、作った燻製1枚でいいから俺によこせ!!

…とのことです。ええ、私共としても非常に同感です。

 

 

 

 




観測隊のじっちゃんは犠牲になったのだ…

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読了ありがとうございました。

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