転生クックは人が好き   作:桜日紅葉雪

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明けましておめでとうございます。
今年も宜しくお願いいたします。


第7話

金色の月は鱗を除いてほとんど全てを食べた。

骨が硬かったが、まあ、当然というかなんというか、マ王様の尻尾よりも食べやすかったし、バリバリいけた。歯ごたえのある骨と、中のちゅるっと出てくる骨髄がすばらしく美味しかった。

本命の肉だがな…なんだあれ?うん、文句無く美味かったよ。美味かったんだけど、口に含んで噛んだ瞬間香りが広がりながら溶けて消えていった。脂っこいわけではなくさっぱりとした味でいい感じに歯ごたえがあるのだが、それの肉汁が舌にあたった瞬間肉全体が香りを撒き散らしながら溶けていくのだ。気がつけば大量に食べていてしまった。残った肉を慌てて燻製加工したほどだ。…途中で一回だけ骨ほど硬い何かを思いっきり噛んですごい痛かったけど、あれが何なのかは結局砕けてしまっていて分からなかったけど、破片が喉へ引っかかって咳き込みかけた。咳き込んだわけでもないのに何時の間にか引っかかる感がなくなったから問題無いか。うん、どうでもいいね。

さて、気になっているかもしれないが、今回体の変化は無かった。レウスの肉を食べて鱗が赤くなってたしもっと光沢が増えるかと思ったけど…まあ、別にいいか。

ただ、今回ブレスを溜め打ちしたせいなのか普通にブレスを打つときに喉のところで引っかかる感が無くなっていちいち予備動作をして力を入れなくても普通に打てるようになった。まあ、だからといってブレスが強くなったりしたわけじゃないんだけどね。これもどうでもいいか。

さて、飯でも食いに行こうかな。え?燻製?保存食なのに普段から食べてちゃ意味が無いでしょうに。

 

翼を広げて巣から出る。さて、今日は何を食べに行こうかな。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

目の前でアプトノスさんがゆっくりと倒れていく。

俺が殺したわけじゃない。殺したのは俺の目の前にいるこいつだ。黒狼鳥、イャンガルルガ。

何故か左目に傷を負っているけれど、そんなことは関係ない。重要なのはこいつは俺の癒しであるアプトノスさんの内の一匹を殺したということだ。殺して食べるというのなら、それは自然の摂理だ。弱肉強食。この世界では当たり前の真理だから、おれがとやかく言う気は無い。…だが、

 

「Guluuuuuu」

 

祖を同じ種族とするからこそ分かる、嘲笑。倒れたアプトノスさんを足蹴りにして俺に突き出してくる。

既に事切れているアプトノスさんの頭を、俺の目の前でこれ見よがしに叩き割った。

こちらへと顔をあげて再び嘲笑を浮かべると、先ほどの数倍の力でアプトノスさんを蹴る。その先は、崖。そのままとまることなく転がっていき…俺の視界から消えた。

 

(っ!!)

 

俺は、ゆっくりと膝を折る。

さらに広がる嘲笑の気配。

俺はそのままゆっくりと体を落とし…

思いっきり走り出した。お互いの距離は20メートルほど。

ぐんぐんと加速し、そのまま体当たり。踏ん張っていない黒狼鳥を吹き飛ばした。

止まることなく加速。吹き飛んだ黒狼鳥に追いつき、軽く跳んで体を思いっきり体を反転させる。

鞭のようにしなった尾が黒狼鳥の顔を打ち付ける。そのままややバランスを崩しながら着地。

そのまま空へと飛び上がりながら黒狼鳥の方に向く。体勢を立て直したらしい黒狼鳥がこちらに向けて飛び上がってきた。

 

(くそっ、思ったよりも速い!!)

 

咄嗟に頭を地面に向け、羽ばたくのをやめて急落下。一瞬後に俺のいたところを黒狼鳥の爪が薙いでいった。体を戻すも落下の勢いを止めきれず地面に着地。残った運動エネルギーが俺の足に衝撃を与えた。

ミシッと音がしたが、軽く動かせば特に痛みも無いので問題は無い。

予想外だったのはそのスピードか。黒狼鳥はそのまま少し離れた地点でこちらを睨んでいた。先ほどの様なこちらを見下す感じが消えてこちらを射殺さんとするような鋭い視線だった。

だからといって、逃げる気はない。

何よりも俺は許す気が無いからだ。無駄な殺生。恨みも無し、食べる気も無し、防衛でさえない。

ゆっくりと、視界が端のほうから赤く染まってくる。そして、何かが割れる音がした。

先ほどまで抱いていた激情も、恐怖も、覚悟も、全ての感情も、水をかけられた蝋燭のように消えた。

これでもかというほど無造作に一歩を踏み出す。

あまりにも無造作な一歩は、警戒をあらわにする黒狼鳥の意識の外側で…するりと、懐に入り込む。

黒狼鳥の細い喉に噛み付きそのまま首を捻る。突然のことにまったく反応できなかった黒狼鳥がよこなぎに倒れこんだ。上から押さえつけて一方的な展開にしようとするが、僅かに縮んだ黒狼鳥の尾の筋肉を見つけ、黒狼鳥を踏みつけた足にそのまま力を入れて反対側へと駆け抜ける。振り返ると、倒れこんだ状態から、毒がある尻尾を振り上げていた。そのまま尻尾を地面にたたき付けて反動で起き上がった。

大きく息を吸い込む黒狼鳥にあわせて走り出す。首を振り下ろすと同時に地面を蹴って体を横に倒す。

黒狼鳥から放たれたブレスの周りを一回転するような軌道を描いて足から着地。衝撃も前への推進力にして駆け出した。ブレス後の反動中の黒狼鳥はそのまま動けない。…はずだった。

頭をふらつかせたまま向こうも突進を仕掛けてきた。ゲームで言うノーモーション突撃だ。軽い助走で勢いのついた俺と、種族的上位である黒狼鳥がぶつかり合った。体が悲鳴をあげる。だが、マ王との戦いのときに比べたらそんなもの無いのと同じだ。衝撃で反り返る体に逆らわず地面を蹴り上げる。俺の体はそのまま宙で一回転して、まず爪が黒狼鳥の耳を切り裂いた。その後すぐに鞭のようにしなった尾が再び黒狼鳥の嘴を下からかち上げる。

着地した俺は無理をして完全に崩れた体勢を整えるためにいったん後ろに下がった。

 

「Gyuaaaa!!」

 

黒狼鳥の怒りの咆哮が響き渡る。

口の端から黒煙を上げながら、黒狼鳥が怒りに染まった目で俺を睨んできた。そんな目を無視して俺は記憶を呼び覚ます。

 

(確か、怒り時は我を忘れて向かってくるから、大雑把な攻撃になる代わりに速さも威力も大きく上昇するんだったか)

 

黒狼鳥が突撃をしてくる。横に回ろうにも、距離が近すぎて間に合いそうに無い。俺は横っ飛びに飛んで、崖から飛び降りた。ぎりぎりまでひきつけていたので、羽の先に向こうの羽があたったが、それだけだった。崖から落ちることを期待したが、そう上手くはいかなかったようだ。崖の前で一度立ち止まった黒狼鳥がいらだたしそうに声を漏らすのを見ながら、また少し離れたところへ着地する。

黒狼鳥は再び俺に突撃をはじめ、俺から少し離れた位置で俺のように飛び上がった。

俺の驚きの気配を感じたのか、奴の顔が笑みに変わる。…が、俺は驚きこそすれ、別に慌ててはいない。

黒狼鳥がサマーソルトを放つ。

同時に黒狼鳥の左へと回り込んだ。攻撃をはずし、顔を戻した黒狼鳥の顔に驚愕の色が浮かんだ。

俺が移動した音は、耳が切り裂かれたせいで聞こえない。俺の姿を捉えるはずの左目は、俺と出会う前から潰されていた。走りよりながらブレスを溜める。種族的下級種の俺にできる、最大の攻撃。どんどんとブレスを溜めていく。不思議と喉が熱を感じることは無かった。

黒狼鳥がこちらに振り向く。同時にブレスを吐きかけた。青白い色のブレスはそのまま顔に着弾。あまりの熱に火をまったく通さないはずの黒狼鳥の鱗は焼け落ち、嘴の表面がどろどろに溶けていった。パニックを起こし暴れる黒狼鳥から距離をとり、走り出す。

がら空きの横腹に俺の突撃が決まり、黒狼鳥が吹き飛んだ。その先は、崖。

目も見えず、自分で暴れすぎて上下感覚も麻痺していた黒狼鳥は、そのまま何もできずに地面に頭から墜落し、絶命した。

黒狼鳥の死体のすぐ後ろには、何の因果か頭を潰されたアプトノスの死体があった。

 

 

 

 

 

後任古龍龍観測隊隊員

 

前任のじっちゃんが病気でぶっ倒れた。って言うことで、俺があの善性イャンクックを観察することになった。んで、さっそく観察を開始したんだが、早速やってくれた。ありがとう。流石、俺達の期待を裏切らない。

んで、今回の哀れな犠牲者は森丘のアイドルであるアプトノス…を殺したイャンガルルガ。

正直ざまぁ!って感じだが、さっき古龍観測隊本部に報告してみたら、傷のあるイャンガルルガは上位個体だって怒られた。

えっと、上位個体??あのイャンクックって下位個体だよな。んで、今回倒したのはイャンガルルガ上位固体と。うん、分かった。ここで俺が言うべき言葉は一つだけだな。

 

「Ω<ナ…ナンダッテー!!」

 

うん、すっきりした。ていうか、びっくりしたことはびっくりしたけれど、あのクックってマ王撃退したり金火竜倒したりしてるんだからいまさら慌てるようなことじゃないだろ。って思うんだけど…

そんなことより、善性イャンクックが戦ってるときに途中から赤く光ってたことと最後に使った青い炎のほうが気になるんだけど…

 

 

 

ギルド本部への通達

今回も善性イャンクックについての報告です。というか、それぐらいしか報告事項が無いんですけどね。

さて、今回もやらかしてくれました。以下、古龍観測隊善性イャンクック観察班からの報告です。

 

               古龍観測隊よりギルドへ

        善性イャンクックが一定以上の脅威をもっていると判断

        善性イャンクックを観測する班を発足しました。

        観察班の定期報告にて、隻眼のイャンガルルガを狩猟したと

        の報告が上がってきています。

        なお、今回の報告を上げてきた物の目視のみしか資料が

        証拠が無いのですが、戦闘中に青白い炎を使ったり前任

        が言ったように赤く発光をしていたようです。前回の金

        火竜を討伐時には発光していなかったようなので発光条件

        は不明です。

 

なお、この報告を行っている古龍観測隊上層部はそろそろ胃が限界を迎えそうなんですが…

もう、上位個体扱いでいいんじゃないですかねぇ…なお、近況調査以来に初接触者の3名を送りました。おそらく次の定期連絡で報告を挙げると思われるので、宜しくお願いします。

 

 

 

ギルドポッケ支部への通達

近況調査以来の件はギルドマスターに報告しました。古龍観測隊は…胃薬の差し入れを行いますので、渡りをつけといてください。

善性イャンクックは上位指定するには個体能力が足りていませんので無理です。知能面を含めれば既に上位モンスター指定してもいいのですが、これまでその手のモンスターが古龍しかいなかったので対応がしきれないのです。

ギルドマスターも頭を抱えてましたけどね。ままならないものです。まあ、悪いのは常識に喧嘩売ってるどっかの飛竜ですが。




他者視点何にするかすごい迷う。
次回は…多分休み明けてからになるんで1月10日までに何とかがんばってみます。

読了ありがとうございました。

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