嘘予告詰め合わせ 作:耳音戈
実のところサマル王子は天然ぼんやりキャラ設定の方が好きですが、それだと話が締まらないので。
無駄にシリアスです。
世界に覇をとなえた大神官ハーゴンの野望は、彼の崇める破壊神シドーと共に潰えた。
破壊神を破壊した三人の勇者たち。
ローレシアの王子、戦士ロラン。
サマルトリアの王子、魔法戦士パウロ。
ムーンブルクの王女、賢者ナナ。
世界に平和を齎した勇者たちに、しかし世界はやさしくはなかった。
魔力を一切持たぬ身でありながら、神を滅ぼした王子ロラン。
人は彼に怖れを抱き、異端を見出した。
いわく「人の身でありながら数多の魔族を退けたのは、人にあらざる身であるから」と。
そしてある夜、王子は王宮から姿を消し。
暫くして、サマルトリアとムーンブルクからも勇者は姿を消した。
諸国の懸命の捜索をもってしても、三人の行方は杳として知れなかった。
復興のための担ぐべき象徴を失ったムーンブルク地方は北大陸の二大国からの圧迫に対しムーンペタ-ルプガナ都市同盟を成立させこれに対抗。
ローレシア王国はサマルトリアに対しけん制を行いつつムーンブルク地方の切り取りを目論んでいた。
サマルトリア王国はアレフガルドから流入する難民に頭を悩ませ、その解決策としてムーンブルク北部の領有を画策していた。
デルコンダル王国は不穏な大陸を他所に平和を謳歌しつつ、海洋貿易をルプガナと二分し上手く住み分けていた。
地下都市ペルポイは戦いが終っても地下に潜り続けた。地上など知らぬかのように。
湖上都市ベラヌールは冷静に大陸の情勢を眺めていた。
テパは元の平穏な暮らしを取り戻していた。
メルキド、リムルダールを失い、また戦時に国王が王宮から逃亡したアレフガルド古王国では王の威光が失墜。メルキド公とリムルダール公という大貴族を失ったために政争の歯止めが利かず、ついに貴族同士で泥沼のような内戦が始まっていた。
ロンダルキア崩壊より三年。
世界は、まだ見てくれは平穏と言えた。
そして、物語はアレフガルドより始まる。
「ここが、ラダトームの城下町だっていうのか?!
この荒れ果てたスラムが!」
「どうやら間違いなさそうだ。
不死鳥ラーミアの紋章をルビス神をあらわす紋章と並べるのはアレフガルド地方の教会特有の慣習だからな」
「……還って来てしまったのね。わたしたちは。
あの、不思議な少年のいた未来から」
*
「勇者だと? ハ、信じられるか!」
「信じる必要は無い」
「何ぃ……?」
「お前たちでは、俺を倒せないからだ」
戦士ロラン。
「ばかな、ホークアイの大集団とも伍する俺の兵団が、たった一人に……
きさま、ほんとうに人間か?」
「ばかはお前らだ。俺が何だと思っている?」
「まさか、まさか本当に!?」
破壊神を――破壊した男。
*
「ゆ……ゆうしゃ、どの?
何を……剣など抜いて、どうされるおつもりじゃ!」
「アレフガルドの玉座、貰い受けに来たんですよ」
「ぎょ、玉座が欲しいのであればやるぞよ。
余はもう王を辞めたいのじゃ!」
魔法戦士パウロ。
「残念だが、そう簡単にはいかないんだよラルス様。
貴方が生きていては困るんだ」
「ひぃっ!? じゃ、じゃから譲ると言うておる!」
「大丈夫、ラルス様もロランにもあまり傷がつかないように事を運ぶつもりだから。
死ぬ事には変わりないんだけどね――ザラキ」
「い、いやじゃ、死にとうない、余は死にとうない、死にと、うな……」
仲間のため、幾度と無くその命を捧げた少年。
*
「ナナさま! ああナナさま! おお、大神ミトラも照覧あれ!
ムーンブルク王国の正統がご帰還なされた……!」
「久しいですね、じいや。いえ今はもう都市長と呼ぶべきかしら?」
「い、いえいえ、ナナさまがご帰還なされたならば同盟などに固執するつもりはございませぬ!
すべてはムーンブルクを渡さぬがための方便!」
「いえ、都市長。都市同盟は維持してもらいます。
ベラヌールとの協定も」
賢者ナナ。
「な、何ゆえに」
「今の状況でムーンブルクの復興は不可能だからよ。
私はムーンブルクを寸土たりともローレシアにもサマルトリアにも渡す気はありません」
「では、では何を。何をなさるおつもりなのです。
どうかこのじいめにお聞かせください」
「――返してもらうの。私の、私たちの失ったものを」
「ナナさま、貴女様はまさか……世界を、恨んでいらっしゃる?」
有り余る魔力を武器に、復讐に身を投じた少女。
*
「準備が調った、とは言いがたいな。もう二、三百ほど傭兵を集めたかったが」
「仕方無いな。これ以上は隠し通せない」
「ルプガナの方も、もう少し時間が必要ね。海軍は動かせないわよ?」
「なに、ローラの門から入り込んだネズミを叩き返すだけなら俺でじゅうぶんだ。
ルプガナに言ってやれ。勝ち馬に乗りたいなら今のうちだってな」
「……油断するなよ」
「油断はしないさ」
「もう、冒険の書は効果が無いのよ」
「わかってるって」
*
「まさか、あれは……アレフガルドの王旗?」
「何で、ムーンブルクにアレフガルドの王軍が居るんだ!
そんな報告は受けていないぞ!」
「ロラン陛下。サマルトリアの王軍です。数は百といったところでしょうか」
「陛下……か」
「陛下? ご命令を」
「ムーンブルクはムーンブルクの民のものだ。それを奴らに教えてやろう。
できるか?」
「陛下。我らは陛下の兵でございます。獅子の下に弱兵は居りませぬ。
ましてやロトの勇者ならば」
「よく言った。ならついて来い。おれが先陣を切る!」
「は!」
「皆の者、陛下につづけ!」
「遠くば音に聞け!
近くば寄って目にも見よ!
おれの名はロラン! ロトの勇者!
そしてアレフガルドの王なり!」
「そろそろ始まる頃かしら?」
「ああ、もう始まった頃だろう」
「世界を私たちの手に」
「世界を俺たちの手に」
「――世界を、覆しましょう」
「ああ。世界を、覆そう。俺たち三人がともにあるなら、なんだってできるさ
そして新しい世界を創ろうじゃないか」
「ロトに依らない、世界を」
「犠牲に頼らない世界を。
俺たちが要らなくても済む世界を」
「そうしたら、また旅に出ましょう。
あの少年が見せてくれた、あの世界がいいわ」
「ああ、そうだな。
きっと楽しい旅になる」
*
世界がたった三人によって守られるちっぽけな存在なら。
世界がたった三人の犠牲で守られるちっぽけなものなら。
世界の価値は、たった三人にも劣るのではないか?
神は応えを返さない。
人は答えを持とうとしない。
ならば、たった三人で世界を覆すことに、何のためらいがあるだろう。
今ここに。
たった三人の勇者による世界への反逆が始まろうとしていた。
世界は、彼らの想いをまだ知らない。