「……いい?デッキのグレード配分は、グレード3が7〜8枚。グレード2が10〜11枚。グレード1が15〜16枚。で、グレード0が17枚。わかった?」
「わ、わかった」
「それを踏まえて、君のデッキを見てごらん?」
「えっと……」
俺とホノカさんが出会った翌日のこと。俺は昼休みにホノカさんに呼び出され、昼飯を一緒に食べながら、ヴァンガードについて教えてもらっている。
「君のデッキの配分が、いかにグチャグチャなのかよくわかったでしょ?」
「グレード3とグレード2が12枚……グレード1が9枚……。グレード0は17枚あるけど……」
「トリガーの種類もメチャクチャだね。コンセプトがあってのことならわかるけど、カズキ君のデッキのトリガーは、適当もいいところだし」
「……返す言葉がない」
俺が勝てなかった原因は、思った以上に複雑だった。まずはデッキの問題。次にプレイングに問題があった。全体を把握してファイトを進めるということが、俺にはできていなかった。
「プレイングのコツはさっき言った通りだから、後はデッキをどうにかしないとね。Gゾーンのカードだって、まともに使えるカードが限られているし」
「まずはネクステージをどうにかしたいんだよな……。でも昨日知ったんだけど、ネクステージってかなりレアなカードなんだな」
「かなりどころじゃないよ!?1枚で1000円を超えることなんて、当たり前のカードなんだから!」
お、俺って運がよかったんだな……。俺のネクステージは、ネクステージがパッケージに載っていたブースターから引き当てたものだ。
「せっかくネクステージを持ってるんだし……1枚だけでもシングルで買っておきたいな……」
「ミルキーウェイには売ってないのか?」
「売ってるよ。でも……あそこは1枚4000円するから……」
「よっ!?」
高っ!?ネクステージって、そんなにレアだったのか。何となく手に入れた俺を褒めてやりたい。
「く……俺、金ないんだけどな……。来月になれば小遣いもらえるんだけど」
「昨日言ってたもんね。私も何とかしたいんだけど……今はできるだけお金を貯めておきたいし」
「何で?」
「来月になれば、新しいブースター『月煌竜牙』が発売されるからだよ!」
そうだったのか。月煌竜牙……全然知らなかった。
「そのパックにはギアクロニクルも収録されていて、同時にギアクロニクルのトライアルデッキ『鳴動の次幻竜』も発売されるんだ」
ギアクロニクルのデッキか……。これは楽しみだな。
「なら、ネクステージもそうだけど、そのデッキとパックのために金を温存するべきなんだな」
「そういうことだね。だから、今は持ってるカードでデッキを調整して、カードが手に入ったら、本格的にデッキを仕上げていこう」
「了解。で、今日の放課後は時間大丈夫なのか?」
「日直の仕事で、少し遅れるかも。だから、先に行ってていいよ」
「そっか。そろそろ昼休みも終わりそうだし、またショップで会おうぜ。その時に、デッキ調整頼む」
「うん。またね、カズキ君!」
***
そして、放課後。俺はいち早く、ミルキーウェイに向かっていた。何人かヴァンガードをしている人もいたが、今はデッキをどうにかしなくては。
「いらっしゃい。おや、君は昨日ホノカちゃんとファイトしていた……」
「戸坂カズキです。まだ初心者……ですけど」
「カズキ君ですね。今後とも、このショップをよろしくお願いしますね」
「はい。で、早速なんですけど……」
俺はデッキを取りだし、1枚のカードを見せる。それは、クロノドラゴン・ネクステージだった。
「おお!ネクステージですか!運がいいですね!」
「でも、1枚しかないんですよ。それで、ネクステージをもう1枚ほしいと思ってるんですけど……」
「ネクステージですか?そうですね……今だと、1枚5000円ですね」
「ごっ!?樋口1枚分の価値かよ!?」
それに、ホノカさんから聞いた値段よりも高くなってるぞ!?
「やっぱ金のこと考えると……厳しいな」
「それにネクステージは、出来れば4枚ほしいカードです。今のカズキ君なら、後3枚買っておきたいですね」
「あ、合わせて15000円……。小遣いが飛ぶ……」
これでは、とても来月のデッキとパックに金を回せる余裕がない。かといって、このままではネクステージは宝の持ち腐れ状態だ。
「無理して1枚だけでも買うかな……?」
「せっかく強力なカードがあるのに、本来の力を引き出せないようなら、もったいないですからね」
そこなんだよな。だから、迷っているんだけど。
「そこで……賭けをしてみませんか?」
「賭けですか?」
店長はショーケースに展示されていたネクステージを3枚取り出すと、俺の前に並べた。
「このネクステージ3枚を賭けて……君にはファイトをしてもらいます。勝てば3枚のネクステージはタダであげます」
「えっ!?いいんですか!?」
「運のいい初心者に、ささやかなプレゼントです。ただし、負けたら自腹で買ってもらいます。最低でも、1枚」
「う……」
喉から手が出るほどのチャンスだ。ネクステージ3枚を無料でもらえるのは完全に儲けもの。
だが、見返りも大きい。1枚だけでいいとは言え、ここで5000円を支払うのは避けたい。それに……
「俺、デッキが完成していなくて……」
「あれ?昨日はホノカちゃんとファイトしていたんですよね?」
「構成がグチャグチャだとホノカさんに指摘されて……これからデッキ調整をするつもりなんです」
昨日は運よく勝てたが、今日はどうなるかわからない。
「自分のデッキに、自信がないんですか?」
「……正直、自信ないですよ。ホノカさんにデッキを見てもらうまでは、これでいいって思ってたんですから。だから、せめてデッキの構成だけでもどうにかしてから……」
「でも、君が組んだデッキでしょう?」
俺の言葉を一蹴するように、店長は優しくも力強く言葉を被せる。
「構成を見直して、ファイトに臨むこともいいかもしれない。ですが、そんなものに囚われずにファイトすることにも、意味があるかもしれません」
「意味……」
「確かに、ホノカちゃんが言ったように乱雑なデッキかもしれません。それでも、君が考えて組んだデッキです。今の君のデッキをぶつけることが、大切ではありませんか?」
今の俺……。持てる力を最大限にぶつけて、弱い俺やデッキでもやれることをする。それが、大切なのか……。
「……わかりました。俺、やります!
「いいですね。初心者は、何事も挑戦することが必要です。デッキが上手く組めなかったり、弱かったりするのは当然ですよ。誰だって、最初は同じ。経験を重ねて強くなるんです」
「だから、俺にこのデッキでファイトするように……」
「ホノカちゃんの力を借りたデッキではなく、今の君のデッキで、実力を示してほしい。それがきっと、いい経験や成長につながる。強さになる。そう思ったんです」
俺のことを、そこまで考えてくれていたんだな……。まだ出会ったばかりの初心者なのに……。
「ま、ネクステージを簡単に渡したくないって言うことでもあるんですけどね」
「うわっ、何かズルい」
「価値あるカードを無償であげようと言うのです。それ相応のリスクは負ってもらわないと」
さっきいいこと言ってただけに、俺の中の店長の株が一気に下がってる。
「では、対戦相手なんですが……」
「えっ?店長じゃないんですか?」
「私はしませんよ。ショップの店長のくせに、ファイトの腕は全然なので……」
いや、散々言ってたくせにファイトはダメなの?
「なので……ユウキ君!」
ブースターパックを眺めていた1人の少年が、俺たちのところに近づいてくる。身長は俺と同じくらいで、同年代だろう。
「何すか?」
「この子とファイトしてほしいんです。ネクステージ3枚を賭けた、重要なファイトなんですよ」
「何!?そんな太っ腹なことしていいんすか店長!」
「僕から初心者である彼にできる、精一杯の贈り物ですよ」
「贈り物のレベルが凄すぎですって!」
話し口調から察するにムードメーカーと言ったところか。店長とは仲がよさそうだ。
「おい、お前!初心者らしいが、名前はなんて言うんだよ?」
「俺は戸坂カズキだ。あんたは?」
「真島ユウキだ!羨ましい初心者め!俺がネクステージほしいくらいだぜ!」
「いや、ユウキ君はギアクロニクル使ってないでしょう?」
「それくらい羨ましいんすよ!店長!」
だろうな。ショップからすれば、損失しかない行為だからな。
「くそぅ……こんなのに軽々しくネクステージ渡すなんて何か嫌だ!ファイトするぞ、初心者!」
「あぁ。望むところだ!」
テーブルに向かい合い、ファイトの準備を進める。手札5枚を引いて、互いに伏せてあるカードに手を添えた。
「行くぜ、初心者!手加減なしだ!」
「もちろんだ。行くぞ!」
「「スタンドアップ!ヴァンガード!!」
ファーストヴァンガードが表になる。ネクステージを賭けたファイトが、今始まった。
「ガンナーギア・ドラゴキッド!(5000)」
「ハーブリンガー・ドラゴキッド!(5000)」
相手はなるかみ……どんなクランだ?
「ギアクロニクルか。どこまでやれるかな?俺のターン!ドロー!サンダーシャウト・ドラゴン(8000)にライド!ハーブリンガーは左後ろへ!ターンエンド!」
「俺のターン、ドロー!スチームファイター ウルニギン(7000)にライド!ガンナーギアは……後ろでいいか」
今回はGアシストしなかったぞ。と言っても、手札にグレード1がこれしかなかったけどな……。
「ガンナーギアのブースト、ウルニギンでアタック!(12000)」
「おっと、毒心のジンでガード!」
「ってことは……トリガーが出ても無理か。ドライブチェック、腹時計付きのギアラビット。スタンドトリガー!」
言ってる側から普通に出るなよ……。しかも、スタンドトリガーなら、攻撃の終わったリアガードをスタンドするトリガー……。今は使えない。
「ガンナーギアをスタンドして……パワーも一応与える。(17000)ターンエンド」
カズキ:ダメージ0 ユウキ:ダメージ0
「バニラのスタンドトリガー……。トライアルデッキ弄ったくらいか?」
「言っただろ?俺は初心者なんだ。デッキのことは、あんまり期待しないでほしいね」
「そんな奴がネクステージ?強いカード持ってたら強くなれるわけじゃねぇんだぜ?」
「別に無理に強くなるつもりじゃない。俺は、ただネクステージがほしいんだ」
「……?」
ネクステージと言えば、今のギアクロニクルにとって強力なカード。初心者が強くなるための近道として集めるものかと思っていたが、何か違う。
(奴なりに、ネクステージじゃないといけない理由があるってことか?)
「ユウキ……だったか。あんたのターンだよ」
「おっ、そうだった。俺のターン!ドロー、ヒートブレード・ドラグーン(9000)にライド!」
当たり前だけど……順当にライドしてるな。
「ハーブリンガーの前にボルテージホーン・ドラゴン(9000)をコール!ヒートブレードで、ウルニギンにアタック!(9000)」
「スチームメイデン ウルルでガード!」
「……ウルル、か。今のは、俺だったらガードするのにギアラビットを使ったな。公開済みの手札を残せば、後々シールド値の目星をつけられやすくなるぜ?」
「……あっ」
普通にガードするだけでも、先のことまでイメージしないといけないのか。奥が深いんだな、ヴァンガードって。
「なるべく公開済みのカードからガードに使う。優しい俺から初心者君に、アドバイスってとこだな!」
「言葉の言い回しに悪意を感じるのは、気のせいか……?」
「何のことですかね?初心者君?ドライブチェック、マイティボルト・ドラグーン」
何か、煽られているみたいだな……。ま、トリガーが出なくてよかった。
「ハーブリンガーのブースト、ボルテージホーンでアタック!(14000)」
「ここは……ノーガードするか。ダメージチェック、グリマーブレス・ドラゴン」
「ターンエンド」
カズキ:ダメージ1 ユウキ:ダメージ0
「今度はこっちの番だな。俺のターン!スタンドアンドドロー!スチームファイター アンバー(9000)にライド!」
「アンバー……とことんトライアルデッキだな」
「続けて、スチームナイト カリブム(8000)をコール!」
「って、おい!そいつを入れてるのかよ!?」
そこまで驚くカード……なのか?確かスキルは……ああ、そういうことか。
「カリブムのスキル。ハーブリンガーをデッキの下に戻す。その後、戻したカードのグレードマイナス1のカードをコールするけど……」
「ヴァンガードにねぇよ!そんなカードは!」
「ってわけで、一応デッキをシャッフルしてくれよ。スキルでデッキは確認するっぽいし」
なるほど。このカードはこういう使い方をするんだ。覚えておくか。
「終わったぜ。次は?」
「カリブムの後ろにラッキーポット・ドラゴキッド(4000)をコール!ガンナーギアのブースト、アンバーでアタック!(14000)」
「ノーガード!」
「ドライブチェック……スチームメイデン エルルだな」
ダメージにはなるかみの守護者、完全ガードのユニットであるドラゴンダンサー アナスタシアが入る。ラッキーだ。
「ラッキーポットのブースト、カリブムでアタック!(12000)」
「サンダーシャウトでガード!序盤からダメージはやらねぇよ!」
「くっ、ターンエンド!」
カズキ:ダメージ1 ユウキ:ダメージ1
「俺のターン!スタンドアンドドロー!」
次でグレード3。行動の幅が一気に増える。
「へへ、行くぜ。食らえ!障壁穿つ雷鳴!ライド!ドラゴニック・ヴァンキッシャー!!(11000)」
「おお……!」
「感心してる場合かよ?魔竜戦鬼 チャトゥラ(8000)をコールし、ボルテージホーンでアンバーにアタック!(9000)」
「さっきの教訓、活かしてやる!腹時計付きのギアラビットでガード!」
ガードはなるべく公開済みのカードから。ここは助言通りにラビットを切った。
「ほお?やるな。なら、ヴァンキッシャーでアタック!(11000)」
「ここはノーガードだ!」
「ツインドライブ!1枚目、ライジング・フェニックス。2枚目、プラズマダンス・ドラゴン。クリティカルトリガー!パワーはチャトゥラ(13000)クリティカルはヴァンキッシャーだ!(11000 ☆2)」
クリティカルトリガーか……。ダメージが一気に引き離されていく……。
「ダメージチェック、1枚目、引っ込み思案のギアレイヴン。2枚目、スチームバトラー ダダシグ。クリティカルトリガー!効果はアンバー!(14000 ☆2)」
よし、これでチャトゥラのパワーは足りなくなった。アタックは通らない!
「……チャトゥラで、アタック!(13000)」
「え……パワーは足りていないのに?」
「残念だけどな、チャトゥラにはスキルがある!こいつはヴァンガードにしかアタックできない代わりに、アタックした時だけパワープラス3000される!(16000)」
「く……」
そんなスキルがあるなんて、全然知らなかった。
「初心者のカードプールの知識のなさが響いたな!」
「今覚えたから問題ないな。それに、これからいくらでも覚えていける」
「格好つけて言うな!で、アタックはどうすんだよ!?」
「もちろん、ノーガード!」
「散々引っ張ってノーガードかよ!?」
今の手札だとガードできないんだから、仕方ないだろ……。
「ダメージは……うっ、スチームバトラー ダダシグ。またクリティカルトリガーか……」
「無駄にトリガー消費したな。ラッキー!」
「う、うるさいな!早くターンエンドしろよ」
「おっと、残念。チャトゥラにはまだスキルがある」
まだ何かあるのかよ……。
「チャトゥラはアタックがヒットした時、CB1で1枚ドロー!さらに相手のドロップゾーンから、ウルルをバインド!」
「……バインド?」
「フィールドとは違う場所に置いて、そのファイトでは使えなくするスキルのことだな!」
そんなスキルもあるのか。まだまだ勉強不足みたいだな。
「これで今度こそターンエンド!」
カズキ:ダメージ4 ユウキ:ダメージ1
「ようやく俺のターンか……。スタンドアンドドロー!」
かなり離されているからな……。ここからグレード3になれるし、一気に仕掛けにいく!
「時空の鼓動を呼び覚まし、未来へ羽ばたく翼となれ!ライド!クロノジェット・ドラゴン!!(11000)」
「へぇ……」
「さらにジェネレーションゾーン解放!憧れを翼に変え、未来をこの手に!ストライドジェネレーション!!」
今回はさすがに馬鹿正直にネクステージにストライドはしない。勝つためには、今の俺が持つユニットだけでどうにかするしかない。
今、俺がネクステージの代わりに、ストライドしたGユニットは……
「時空竜 フェイトライダー・ドラゴン!!(26000)」