名探偵の事件簿(ケース・ファイル) -コナンVS金田一少年-   作:ワニ夫くん

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13:『小五郎の迷推理』

 

 

 

○米花町ホテル

 

 引き続き、明智が容疑者たちに話している。

 

明智「――以上の内容を、さきほど佐藤警部補の連絡により受理しました。手紙のフォントについては、どうやら黒須探偵事務所のPCデータから手に入れたもののようです。尤も、データを盗むという行為が自然に行われている以上、今回の犯人もそれができたと考えるのが自然ですが」

 

 そこまで言ったところで、小五郎が割り込む。

 

小五郎「いいえ、明智警視! 私はもう、今回の事件の犯人は解けましたよ。そう……言って見るのなら、謎はすべて解けた!」

 

剣持「おお、毛利くん! 遂に謎が解けたか! まさか金田一以外からその言葉を聞く事になるとは……」

 

目暮「誰なんだ、毛利くん! 一体、誰がこの事件を仕組んだ犯人なんだ!?」

 

明智「……さて。一応、彼の推理とやらを訊いておきましょうか」

 

 明智はまったく期待していないように、近くの椅子に座った。

 

小五郎「今回の事件の犯人……それは、あなただ! 和美さん!」

 

和美「えっ!?」

 

明智「ふぅ……」

 

小五郎「あなたは、先ほど、決定的なミスを犯しました。そう、今回の手紙のフォントの話でね。……和美さん、あなたは先ほど、確かにこう言いましたね? 『半年前の手紙と使われているフォントが同じ』と」

 

和美「ええ……」

 

松山「でも、口を挟むようで悪いけど、あの手紙はほとんど普通の明朝体だったはずよ? 明朝体なんて誰でも使うようなフォント、同じだって気づいたくらい……」

 

小五郎「いいえ、それは違うんですよ、松山さん。実はあのフォント、漢数字を表記する時だけ、かなり特徴的な形になるようなんです。たとえば、私の娘に送られたこの手紙。この手紙には、『工藤新一』という男の名前が表記されていますが、『一』の字が少し妙な形にひねくれているでしょう? 普通の明朝体ではないんですよ」

 

時任「あ、ほんとだ!」

 

松山「言われてみれば……」

 

小五郎「先ほどの連絡でわかった通り、これはどうやら鬼沢が黒須探偵事務所から盗み出したデータだそうです。そのデータを持っていない限りは、このフォントを再現する事はできない、そうですね? 明智警視」

 

明智「ええ、未完成品でインターネット上で配信した様子もないので、おそらくは黒須探偵事務所の人間や、パソコンに侵入できた人間にしかフォントは入手できないでしょうね」

 

小五郎「……という事だそうです。……ただ、少なくとも今回の手紙には日付や時刻は一切記載されていなかった。名前に漢数字が入っている人間以外は、使っているフォントが同じだと気付いても、ただの普通の明朝体のフォントを使った悪戯だと考えてしまうのが自然でしょう。そのくらいなら、私でも出来ますからな」

 

剣持「そうか、じゃあ……」

 

小五郎「そう、先ほど手紙の話題が出た時、名前に数字が入っていない松山さんや時任さんは、この事には気づかず、誰でもできるただの悪戯か何かだと思っていました。それが自然です。逆に、名前に数字のある深海さんが手紙の違和感に気づいたのもまた、おかしな事じゃありません。……しかし、和美さん。あなたの名前に数字が入っていないにも関わらず、半年前と同じフォントである事を根拠に、あの事件との繋がりにすぐに気づいた!」

 

和美「!」

 

小五郎「その理由は簡単です! あなたが鬼沢さんのデータを使ってこの手紙を作った張本人だからですよ! 笠原和美さん! ……それとも、死神の子とでも呼ぶべきですかな?」

 

和美「嫌っ! 違いますっ!」

 

 そんな横で、明智がため息をついている。

 

明智「ふぅ。……毛利探偵、容疑者の身辺調査にはしっかりと目を通す事をおすすめしますよ」

 

小五郎「え?」

 

明智「これは、触れないに越した事はない話ですがね……。あなたの今の推理があった以上、ここで、一つ、皆さんの前ではっきりしておかなければなりません。その根拠では、彼女は犯人になりえない理由をね」

 

小五郎「……どういう事ですかな、明智警視」

 

 小五郎が真顔で訊いた。

 

 

 

 

 

 

○マガデーゲームス・休憩室

 

 ゲームで遊ぶ元太、光彦、歩美を横目に、金田一が腰かけている。

 窓はガラス張りで、米花運動公園が見える。『ドームス』も見下せる。

 哀はその近くで紅茶を飲みながらスマホをいじっている。

 

金田一「それにしても、あの社長、随分と調子よかったよな……」

 

哀「ええ。佐山天成……どうやら、このマガデーグループの社長二世のボンボンみたいね。学生時代には、かなり過激な映画を作っていて有名だったらしいわ。実銃を撃つ映画はハワイで撮影された事になってるけど、日本で撮られたんじゃないかっていう疑惑もあるとか」

 

金田一「げ、実銃!?」

 

哀「……まあ、この人の家なら、何か犯罪の形跡があっても、誰かが揉み消してしまうんでしょうけどね。そのまま親の資産を元手に会社を興して、今ではわがままなゲーム会社の社長という『イージーモードの人生』だそうよ。日本の未来が思いやられるわね」

 

金田一「へえ……。道理で客に対しても礼儀知らずな筈だよ! もう俺二度とバーチャバトラーに課金しないね!」

 

 そこに、コナンがやってくる。

 

コナン「――鬼沢さんの事情聴取が終わったってさ、いま高木刑事から連絡が来たよ」

 

金田一「ああ。……どうやらお前も今回、完全に協力を求められてるみたいだな」

 

コナン「……まあね。それより、金田一。もうひとつだけ、高木刑事から連絡があったんだ。お前、三ヶ月前に一度、鬼沢さんと面会をしたんだってな」

 

金田一「え? うん……まあ、ちょっと色々あってさ」

 

コナン「それも推理に大事な情報かもしれない。良ければ教えてくれ」

 

金田一「……わぁってるよ。ただ、むやみに言いたくはない話なんだ……こうしてまた事件が起きた以上、話さないわけにはいかないけどな」

 

 金田一は頭を掻く。

 

金田一「鬼沢さんや和美さんの家庭事情の話。実は二人の家庭はちょっと複雑でさ」

 

コナン「複雑?」

 

金田一「ああ、和美さんの本名だよ、彼女の本名は『笠原一美』。ただ、えっと、フルネームの時に使う漢字は『和』っていう字じゃなく、数字の『一』なんだよ。そして、それはある人から字を借りてる」

 

コナン「『一』……? それってまさか!」

 

金田一「ああ、鬼沢誠一。鬼沢さんと、それから和美さんの父親だよ」

 

コナン「そんなバカな……! それじゃあ、二人は……!」

 

金田一「鬼沢さんと和美さんは、ただの馴染じゃない。腹違いの兄妹だったんだ! 二人の親は、そういう事情で世間体が悪いから、二人を幼馴染という事にしていた。母親同士はそこまで納得いってなかったみたいだけど、折角の兄妹を引き離すのは可哀想だと思って、同じ街に住んでね。……だけど、そんな折に鬼沢誠一が、老人を殺した罪で捕まった。鬼沢誠人は殺人の汚名を着せられた父親に寄り添い、笠原一美は父から譲り受けた名前を変えて、父親と決別した……」

 

コナン「そうか、それで半年前のあの時……!」

 

回想・和美『鬼……沢くん』

 

コナン「……間違えて『お兄ちゃん』という呼びかけたのを、『鬼沢さん』と呼び直したわけか」

 

金田一「ああ、よく覚えてるな。俺も最初に疑問に思ったのは、その時だった」

 

コナン「だけど、金田一、お前、まさか半年前からこの事を……?」

 

金田一「一応ね。ちょっとだけ引っかかったから、調べてみたんだ。あの二人は、ミス研のOBとOGだって言っただろ。事件の後、学校で昔の部誌を読んでいて、その時の名前が『笠原一美』だったのを確認した。それで、俺の頭にはある仮説が浮かんだ。彼女は何故、わざわざ『和美』と字を変えていたのか。……面会して、鬼沢さん本人にも確認したら、案の定だったよ。二人は兄妹だったんだ。……でも、やっぱり和美さんは犯人じゃない」

 

コナン「……二件の事件で、ともにアリバイがあるから?」

 

金田一「ああ、そうだよ。どちらの事件も、和美さんは偶然俺たちに目撃されてアリバイが出来たに過ぎないんだ。アリバイ工作がされているわけでも何でもないし、お前が見た時はひとりで行動してたんだろ?」

 

コナン「ああ、何となく合理的じゃないとは思ってたんだ。……仮にアリバイ工作をしていたとしても、誰にも目撃されなかったら結局意味はない。それもおかしいとは思ってたけど、そうか……それなら余計に身辺調査で色々疑われちまうもんな」

 

金田一「それに、和美さんはもう、兄が自分の幸せを願ってくれてる事を知ってる。俺は、鬼沢さんと面会する前に、それをちゃんと確認したんだ。……犯人じゃない、そう信じたい」

 

コナン「ああ、きっと和美さんはシロだよ」

 

 コナン、ふと何かを思い出す。

 

コナン「……そうだ、金田一。高木刑事……他にも電話で、言ってた事があるんだ」

 

金田一「何だよ?」

 

コナン「ああ、別に大した事じゃねえよ。これまでお前が関わってきた事件の犯人が、何人か、同じ拘置所にいたんだって。高木刑事は、今回ついでにその人たちにも興味本位で色々聞いてみたんだ」

 

金田一「一体何を?」

 

コナン「……逮捕された犯人たちは、みんな、お前に感謝してるって。それだけの事だよ!」

 

金田一「……」

 

コナン「お前は殺人者が逮捕された後も、彼らの為に面会に行って、励ましたり、後からわかった大事な真実を伝えたりしてたんだろ。だから、受刑者たちはお前に救われたんだって……高木刑事によると、そう言われてるんだとさ。まあ、俺はずっと、犯人には憎まれっぱなしかもしれないけどな」

 

金田一「……そうか」

 

コナン「――やっぱり、お前は、たくさんの人の心を救えてるのかもしれない。……それに、鬼沢さんに面会した時、お前はたぶん……鬼沢さんの妹が、不動高校の栗本先生とうまく行ってる事を報告して、安心させたんだろ? 逮捕された鬼沢さんにとって、最も気がかりな事……それは、犯罪者の兄を持った和美さんだ。だから、あんたは彼女が今どうしているのかを、鬼沢さんに伝えたんだ……違うか?」

 

 金田一が困ったように髪を掻く。

 

金田一「……なんつーか、いつもは推理する側だったけど、推理されるっていうのはなんか気分が悪ぃな」

 

コナン「へへへ……。あ、そうだ。それから、鬼沢さんの情報によると、以前の事件で鬼沢さんが盗めたファイルはごく一部で、どうしても開けられないシークレットファイルなんかも存在したらしい。……あの探偵事務所、やっぱりまだ何か深い闇を隠してたみたいだぜ」

 

金田一「……らしいな。あの時思った……事件はまだ終わってないって!」

 

コナン「やっぱり、お前も何かあるって気づいてたのか。……それにしても、あの二人が兄妹か。おっちゃんが変な推理してねえといいけど」

 

 

 

 

 

 

○米花町ホテル

 

 容疑者たちは相変わらず明智の話を聞いている。

 

時任「えっ!? 鬼沢さんと和美さんが兄妹!?」

 

明智「ええ、本当の名前に数字が含まれている以上、彼女が手紙のフォントに気づくのも無理のない話です。おそらく、そちらの名前で手紙が届いた。違いますか?」

 

和美「はい……」

 

 和美は手紙を差し出す。そこには、『一美』と書かれている。

 

明智「……つまり、残念ながら、毛利探偵の推理は的外れという事ですね」

 

小五郎「う、おっほん! ま、まあ、これはほんのちょっとした冗談ですからな……和美さん、あんまり気にしないでください。まさか、あなたのようなキレイな人が犯人である筈ないと思ってたんですよ、和美さん! ね、目暮警部!」

 

目暮「毛利くん……さっさと非を認めて和美さんに謝ったらどうだね」

 

 目暮が見やると、和美は泣きそうな顔になっている。

 小五郎は、ふと申し訳なさそうな顔になる。

 

小五郎「はっ! ……和美さん、失礼な事をしてしまい、本当に申し訳ありませんでした。……しかし、皆さん。現段階で、あくまでまだ誰の疑いも晴れてはいません! 引き続き、皆さんには警察の事情聴取に協力していただきたい!」

 

 

 

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