名探偵の事件簿(ケース・ファイル) -コナンVS金田一少年-   作:ワニ夫くん

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16:『painful heart ~犯人の過去~』

 

 

 

○米花運動公園

 

 

 ランナーたちを押しのけて、佐山がドームスから逃げようと走っている。

 その顔には笑みがある。

 

佐山「ははは、あとはあん中の監視カメラが、あいつらの焼けただれる姿を撮ってくれる……! マニアには売れるかもなっ!!」

 

 しかし、そんな佐山の前に何かが現れる。

 警察のパトカーたちだ。中から警察の人間が降りてくる。

 

目暮「――動くな、警察だ! 佐山社長……たったいま、佐山社長を捕まえてくれとコナンくんから連絡があった! これはどういう事か、説明してもらおうか!」

 

佐山「……は?」

 

剣持「それに、その銃、まさか実銃じゃないだろうな? だとすれば、銃刀法違反だ。とにかく俺たちについてきてもらう」

 

佐山「ふっ。……く、くくく……こいつはホンモノだ! 動くんじゃねえぞ、ウスノロども!」

 

 佐山は、彼らに笑いながら銃を突きつける。

 警察たちがぎょっとする。

 

佐山「ハッハッハッ! 俺のオヤジの妹の旦那の兄貴は警視庁の副総監なんだ! お前らなんか簡単にクビにできる! さあ、お前ら全員、道を空けろ!」

 

小五郎「――オヤジの妹の旦那の兄貴が何だって? そんなもん知るかよっ!」

 

 彼の背後から迫った小五郎の一本背負いが佐山に叩き込まれる。

 佐山の身体が地面に大きな音を立てて叩きつけられた。

 

佐山「がっ!」

 

 しかし、佐山が、這うようにして警官隊の方に逃げる。

 やっと立ち上がれた佐山。彼の前には剣持たちがいる。

 

佐山「ひ、ひぃっ! ゆ、ゆるして!」

 

剣持「まったく……こいつはどうやらもう一発投げられたいみたいだな……!」

 

目暮「やってやれ、剣持警部!」

 

剣持「……どりゃあっ!」

 

 剣持がまた背負い投げを叩き込み、今度は佐山が泡を吹いて倒れる。

 剣持たちのもとに、小五郎が駆け寄る。

 

剣持「やれやれ。……しかし、毛利くんにしては犯人に甘い一本だったな」

 

小五郎「なぁに、剣持警部の為に、一本目はわざと甘めに投げたんですよ。……こいつには、俺の一本じゃ足りねえ! 市民の怒りと、法の怒りをそれぞれ叩きこまねえと気が済まねえからな……!」

 

目暮「ああ! よくやった、毛利くん、それに剣持警部……それより、早くドームスに向かうぞ! コナンくんたちが危ないっ!」

 

 

 

 

 

 

○米花運動公園・ドームス前

 

 ドームスが炎上している。周囲には野次馬と警官たち。

 パトカーは一足先に着いたが、消防署はまだだ。

 明智たちのもとに、高木がいま来た無線の内容を報告する。

 

高木「明智警視! 佐山は、確保されたそうです」

 

明智「わかりました。……どうやら、私とした事が、彼に目をつけるのが一足遅かったようです」

 

佐藤「え? どういう事ですか?」

 

明智「鬼沢が盗んだ黒須探偵事務所のデータ……その中に、彼でも開けられなかったシークレットのファイルがありました。内容は、クラウン事件の真相が暗号化されているファイルだったのですが、厳重すぎて少々手間取りましてね。もう少し早く解読できていれば……」

 

高木「まさか明智警視、あともう少しで鬼沢が解読できなかった真相に辿り着いていたんですか?」

 

明智「今となっては意味のない事です。……過去の事を悔いるより、今は彼ら三人を助ける最善の方法を考えましょう」

 

 明智が燃えるドームスを見る。

 

美雪「はじめちゃん……!」

 

蘭「コナンくん……!」

 

 小五郎や剣持、目暮たちも合流する。

 

小五郎「ったく、あの馬鹿野郎……! ちゃんと警察が来るのを待てって言っただろうが! くそっ、待ってろコナン! すぐに消防隊が来るからな!」

 

明智「――ダメです、毛利さん。火の回りが早い。このまま消防隊を待っていては、とても間に合いません。それに、外の火は消せても、中の火は消せない……ドアのロックを解除している間に、彼らは焼け死んでしまいます」

 

小五郎「じゃあ、あんた、この状況でどうしろって!? あいつらを見捨てろっていうのか!?」

 

明智「既にヘリを用意して、上空から助ける準備は出来ています」

 

小五郎「上空から? 上空からってあんた! あのドームスにはどでかい天井があるんだぞ!」

 

明智「……ガラス張りの天井なら破壊してしまえば良い。たとえサッカーボールでも割れないガラスだとして――しかし、もしそのサッカーボールが砲丸よりも威力の強いシュートを決めたら……どうなると思いますか?」

 

 

 

 

 

 

○ドームス内

 

 金田一が上着で必死に火を消そうとしている。しかし、あまり大きな効果が起きない。

 コナンも消火器で内部の火を必死で消しているが、思った以上に周囲一面が火に焼かれていて焼石に水だ。

 

金田一「くそっ……!」

 

コナン「これじゃあ埒があかねえ! このままじゃこの中もすぐ煙が充満してお陀仏だっ!」

 

時任「無駄だよ……。ここにはもう逃げ場はない。……佐山の奴には……やられたな、ほんとに……悔しいよ……」

 

 必死で動いているコナンや金田一と違い、時任はすっかり諦めた様子で座っている。

 金田一はそんな時任に少し怒りを見せる。

 

金田一「無駄かどうかはやってみなきゃわからないだろ……! ただ座ってるだけじゃ絶対に助かりっこないんだ! ……あんたも佐山に酷い目に遭ったなら、これから生きて見返してみろよ! 死んだら終わりだぜ! あんたも佐山も!」

 

時任「? ……金田一くん。きみはあくまで、佐山にも生きててほしいと思うの?」

 

金田一「……ああ、確かに佐山は酷い奴だよ、最低だ! 俺だってあいつの事は絶対許さねえよ……! でも、だからって、あんな奴らの為に、あんたみたいな優しい人が不幸になってどうするんだよ……。俺は、一度だって見た事ないよ! 誰かを殺して……大切な人の復讐をして、幸せになれた人なんて……!」

 

コナン「金田一……」

 

時任「はは、優しいって……。……でも、残念だね、名探偵さん。あたしは、ただの殺人者だよ」

 

 時任が悲しそうに言うと、コナンが口を開く。

 

コナン「……そんな事ないよ、時任さん。金田一さんは、こう推理してるんだ。――これまで玩具屋のおじいちゃんが作ってくれた色んな凄い発明品を使って、悪い奴らをたくさん捕まえてきたんでしょ? ……でも、今回の事件では、一度もそんな便利な道具は使った様子がない。もし使えば、もっと完全な犯罪が出来たかもしれないのにね。……それは、時任さんがおじいちゃんの作った道具を、絶対に殺人の為に使いたくなかったから……そうだよね?」

 

 時任は少しうつむいた。

 

時任「鋭いな、小さな探偵さんは。これは、あたしの復讐だった……。たとえおじいちゃんの復讐の為でも、おじいちゃんが作った発明品だけは正しい事の為だけに使いたかった。きみも、便利な道具をいくつも持ってるみたいだね、コナンくん」

 

コナン「うん。阿笠博士って人に作ってもらったんだ……あの蝶ネクタイ型変声器も」

 

時任「あたしにとって、おじいちゃんは、その博士みたいな人だったのかな……。いつも、学校から帰ると遊びに行ってた。おじいちゃんの玩具屋の裏には桜がいっぱい植えられてて、春になるととても綺麗だった……」

 

 時任は何かを思い出す。

 

 

 

 

 

 

○回想。まちの小さな玩具屋

 

 ずっと昔の光景。

 幼少期の新奈が、泣きながら、玩具屋のおじいちゃんに会いに来ている。

 通りには桜の木が咲いている。

 

新奈「えーん! おじいちゃーん!」

 

おじいちゃん「おや、新奈ちゃん。また泣いておるのかな?」

 

新奈「おじいちゃん……! 男の子がいじめるの! あたしのおうち、お医者さんなのに、あたしはバカで、男の子みたいだからって! しかも、泣き虫で、悪いところばっかり女の子みたいだって!」

 

おじいちゃん「そんな事はないんじゃがのう。新奈ちゃんは、本当は頭も良いし、綺麗だし、ほれ、この間つけてたリボンもよく似合ってたじゃないか……」

 

 新奈がうつむく。

 

新奈「そのリボン……男の子たちが解いてぐちゃぐちゃにしちゃったの……」

 

おじいちゃん「ああ、そうか、それで泣いておったのか。……どれどれ、見せて見なさい。ああ、このくらいならすぐにまたこの間みたいな可愛い形に戻れるから安心せい」

 

新奈「でも、また、解かれちゃうかもしれない」

 

 新奈はまだぐずっている。

 

おじいちゃん「そういう時は、これなんかどうじゃ? 凍る・ド・スプレー!」

 

新奈「凍る・ド・スプレー?」

 

おじいちゃん「ほっほっほっ! これは、布製品なんかを一瞬にして凍らせてしまう玩具なんじゃ。このスプレーをかけると、ほれ、こうしてずっと同じ形を保つ事が出来る。しかも、冷たくなくて、硬度も高くて安心じゃ!」

 

新奈「すごい!」

 

おじいちゃん「まあ、周囲の熱が高すぎると溶けてしまうんじゃが、普段は凍ったようにきっちり形が保たれる。ほれ、このままつければ可愛いままじゃ。きっと、これから好きな子が出来ても、これで振り向いてくれるぞい」

 

 新奈の頭にりぼんをつける玩具屋の老人。新奈もニコニコ笑う。

 新奈は桜の木をふと見る。

 

新奈「ねえ、おじいちゃん。あの桜の木は、このスプレーで凍ったままに出来ないの?」

 

おじいちゃん「……うーん、それは出来ないのう。あれは、命じゃからな。これから散っていくのを止める事は出来ないんじゃ。でも、だからこそ、とても大切で、大事にしなきゃならないものなんじゃよ」

 

新奈「……うん」

 

 寂しそうな新奈を見て、玩具屋の老人は彼女を慰めようとする。

 

おじいちゃん「……新奈ちゃん。わしがきみにあげた玩具は、ともすれば誰かを傷つける使い方も出来るようなものばかりじゃ。マジックハンドで遠くの物をパンチする『パンチングキャッチャー』……それに、素早く張手をしてくれる『お相撲ハリテくん』。じゃが、新奈ちゃんはパンチングキャッチャーを野良猫から小鳥を守るのに、お相撲ハリテくんを近所のおばあちゃんの肩たたきに使った。とても優しい子じゃ」

 

新奈「え?」

 

おじいちゃん「……きみは、わしのくだらない玩具を、誰より優しい事の為に使ってくれる天才じゃよ。こういう子がいてくれる事が、わしが子供たちの為に玩具を作りたい一番の理由なんじゃ」

 

 

 

 

○ドームス内

 

 まだ火は燃え盛っている。

 

コナン「……」

 

時任「本当に良い人だった……本当に大好きだったから、いつか死んじゃうのかもしれないって思って悲しくなった事も何度もあった……。でも、あんな理由で命を奪われて……遺体も酷い状態になってるのを見たんだ……! 犯人が近所の男性だってわかって……大好きな鬼沢先生も、あたしの前からいなくなっちゃった! でも、本当に……一番許せないやつは、他人に罪をかぶせて、優しい人たちの人生を台無しにして、逃げようとしてたんだ!」

 

 しかし、そこまで言って、時任はハッとする。

 

時任「……でも、あたしも同じだ。三人もの人を殺した。他にもまだ人を殺そうとした。……この手はもう、あいつらの血がべっとりついた……血みどろの血なんだよね……! ……佐山の事なんて、言えないか」

 

コナン「……それならさ、また生きて償えば良いじゃない。過去はどうしようもないかもしれないけど……これから、その血を洗う権利は、きっと誰にでもあると思うよ」

 

金田一「……ああ。いま、側面から外に出るのは無理だが、あの天井をぶち破る事さえできれば……! ヘリが助けに来てくれる! そこから、また新しくやり直せばいいんだよ。今からだって遅くないよ!」

 

時任「コナンくん、金田一くん……」

 

 コナンは何かを思いながら、真上を見上げる。

 

コナン(ああ……死なせねえよ……そんなに悲しい事を言うなら……そんな悲しい台詞を思い出させるなら……余計に……絶対に死なせるわけにはいかねえんだっ!)

 

金田一(時任さん……あんただってきっと、また帰れる……あんたは、生きたまま、その桜並木がある場所に帰ったって良いんだ……!)

 

 金田一は引き続き消化を続けようとする。

 

時任「わかった……そうまで言うなら……あたしも手伝うよ! 一緒に……一緒にここから出よう!」

 

金田一「ああ……!」

 

 その時、コナンにDBバッジで連絡が入る。

 

阿笠『新一、聞こえるか?』

 

コナン「阿笠博士!」」

 

阿笠『おっ、新一か? いま、空からヘリが向かっておる!』

 

コナン「だが、博士。天井はガラス張りだ!」

 

阿笠『いいか、キック力増強シューズの威力を最大にセットし、タイミングよく真上にボールを蹴るんじゃ!』

 

コナン「威力最大!? そんな、危険すぎる!」

 

 コナンはふと金田一の方を見る。

 

阿笠「確かに危険じゃ。……だが、ワシの発明は、こういう時の為の発明じゃ! わしはお前が正しい事の為に発明を使ってくれると信じておる! きみや少年探偵団が、いつも正しい事の為に発明を使ってくれた……その事は、ワシの一番の宝じゃ! やってくれ、新一!」

 

コナン「博士……。……ああ、わかった! どっちみちそれ以外に助かる手段はねえ。……チャンスは一度きりだ! 金田一! 時任さん! 今からいう事をよく聞いて!」

 

 

 

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