名探偵の事件簿(ケース・ファイル) -コナンVS金田一少年- 作:ワニ夫くん
◆
○阿笠邸
阿笠邸の金田一がソファに座っている。
金田一「いや、すみません、匿ってもらっちゃって。俺もなんでこんな事になったのか……まったく心当たりもないし、どんな事件が起きたのかも全く知らないですよ」
阿笠「はっはっはっ、そりゃ災難だったな金田一くん。ワシは阿笠博士(ひろし)。発明家じゃ。この家にあるのは、ぜーんぶワシの発明じゃぞい!」
金田一「ははは、凄いんすね」
金田一(……なんつーか、アブねえじいさんだな)
阿笠「じゃが、金田一くん。ワシは、今すぐに君を匿うなんて、一言も言ってないぞい。世の中はそんな甘くないからのう!」
金田一「えっ!? まさか、通報でもしたの!?」
哀「……安心して。別にまだ、通報もしてないみたいよ」(冷静に紅茶を飲む)
金田一「え……それじゃあ」
阿笠「ふっふっふ。本当にきみが新一に匹敵する高校生探偵か試してやろう! ここはひとつ、ワシの出すクイズに解けたら匿うという条件でどうじゃ!?」
金田一「はぁ?」
哀「とにかく、これを解いてみれば泊めてくれるそうよ。解いてみたら」
哀を一瞥して、博士を見直す金田一。
阿笠「コホン。では問題じゃ! 短い屋敷の中には、臼、家、弓がある。さて、この中に、ケチな人は入れるかな!?」
金田一「……屋敷に家? ケチな人……? なんだそりゃ」
阿笠「わかったかのう? まあ、新一なら三十秒で解けるはずじゃが」
哀「まともに考えちゃダメよ。どうせ大した問題じゃないんだから」
少し考えた後、金田一が何かに気づいて呆れる。
金田一「なあ、阿笠博士。まさか、それ……凄くくだらない話じゃないっすよねー?」
阿笠「そんなワケ……」
哀「博士の出す問題は、いつもくだらないわ。何か浮かんだなら、たぶん、あなたが思っているのが正解よ」
阿笠「……」
哀をまた一瞥。
金田一「……じゃあ、その人は屋敷に入れるよ」
阿笠「どうしてじゃ?」
金田一「たぶん、臼はそのまま。家はホーム、弓はアローって事でしょ。臼は『金田一こ「うす」け』、ホームは『シャーロック・「ホーム」ズ』、弓は『エルキュール・ポ「アロー」』。短い屋敷は、『短』『邸』で『探偵』。『明智小五郎』の名前の中に、『ケチ』が入ってるから、ケチな人はその屋敷に入れるよ」
阿笠「ピンポーン! さすが金田一耕助の孫じゃ、ピッタリ三十秒! 泊めてやってもいいぞい!」
金田一「え、こんな事で……ほんとに!?」
哀「毎度の事ながら、くだらないうえに強引なクイズね。25点」
阿笠「うう……自信作なのに、手厳しいな、哀くんは」
金田一「……それはともかく、本当にいい、のか?」
阿笠「う。うむ。まあ、以前に新一も君の事を話しとってな。半年前に事件で会ったんじゃろ? 新一も、金田一くんは面白いしまた会いたいと言っておったからな。新一がそう言うなら、悪い子ではなさそうじゃ」
金田一「あいつがそんな事を……?」
哀「それに。さっき、あなた外で『事件の謎は解く』って言ってたわね。誰もいない状況でそんな独り言を言えるって事は、まあとりあえず事件の犯人ではなさそうだし、あなたが本当に冤罪なら、誰かさんも手がかりを探ってる頃よ」
金田一「……そうか」
阿笠「まあ、そんなわけでの。しばらくはこの場所が安全じゃ。何しろ、ここは君以外にも、新一や哀くんが……」
哀「あ、バカッ! 何言ってんのよっ!」
阿笠「あ、ああ……すまん」
金田一「? 新一って……工藤?」
哀「え、ええ。まあね。気にしないでもらえると助かるわ」
阿笠「ほ、ほっほっほ」
哀「……あら? ちょっと電話ね。江戸川くんからだわ」
哀がその場から去る。
◆
○毛利探偵事務所
コナンがこっそり哀に電話をかけている。
コナン「おい、何やってんだよ、灰原! まだ金田一が無実と決まったわけじゃねえんだぞ!」
哀『そうね。少なくとも、あなたの盗聴も良い趣味とは言えないと思うけど。一体どうしたのよ』
コナン「今日、放課後に金田一と会ったんだ。ちょうど、高木刑事たちが来て、金田一に任意同行を求めた……だが、金田一は拒否して逃走。ちょっと前になんとかこの発信機はつけられたけど、まさか博士の家にいるなんて!」
哀『まったく、それなのに今の今まで追わなかったわけ?』
コナン「まだ、あくまで任意同行を求められてた段階だ。容疑者の一人ってところかもしれない。凶器に指紋がついてたという話もしてたが、剣持警部もどうやら本意ではなさそうだった。あいつは逃げるどころか、逆に現場に向かって犯人を捜そうとしてるみたいだったしな」
哀『それで、まだ追いかける段階じゃないと思ったわけね』
コナン「ああ。でもな、灰原。金田一が無実だとしても、この後本格的に容疑が向いてきたら、あいつを匿うのは犯罪だぜ?」
哀『あら、それなら、私の件でも警察に出頭しなきゃダメかしらね』
コナン「……バーロー。とにかく、俺は今からそっちに行く! あいつは犯人じゃないと思うけど……念のため、用心しろよ!」
哀『言われなくてもね』
電話を切り、着替えようとするコナン。
しかし、そこに待ち構えていたように蘭が現れる。
蘭「コナンくん! どうしたのよ、こんな時間に!」
コナン「あ、えっと……博士の家から電話があって、今日泊まらないかって」
蘭「今から!? もう十時よ!? それに、明日も学校でしょ!? なんで泊まる必要があるのよ?」
コナン「え、えっと……それは」
蘭「とにかくダメ! まったく、博士も一体何考えてんのかしら……」
コナン(悪ぃ、灰原……)
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○阿笠邸
鳴っている携帯電話のメール「悪い、行けなくなった」を見て、ため息をつく灰原。
哀「どうかしら、博士の家の居心地は」
金田一「なあ、さっきから気になってたんだけど、君は一体?」
哀「灰原哀。江戸川くんの同級生、御覧の通りの小学一年生よ。色々あって、博士の家でお世話になってるわ」
金田一「江戸川? 江戸川コナンか?」
哀「ええ」
金田一「……なんていうかさ。はっきり言って、二人とも、とても小学一年生には見えないね。……あいつといい、君といい、なんかちょっと特殊だよ。その年なのにジョオーサマって感じ」
哀「それは褒めてるのかしら?」
金田一「まあね。まるで、俺より頭の良い女の子と話してるみたいな気分だ。俺が子供の時なんて、ゲームしてテレビ見てサッカーして学校サボって、とてもじゃないけど、きみたちとは違う生活してたぜ? ほんと、凄いよ」
哀「あら、ありがとう。でも、あなただって、本当は相当頭が良い筈よ。金田一耕助の孫で、いくつもの事件を解決に導いた名探偵……金田一一でしょ? あの工藤くんが頭脳を認めているくらいだもの」
金田一「あの工藤がねぇ……」
哀「で、そんな事より、あなた、殺したの?」
金田一「え?」
哀「――米花自然公園の被害者。ナイフで一突きだってね」
金田一「お、おれはやってないよ! 第一、一体どんな事件が起きたのかだって知らないんだって!」
哀「そう。……それなら教えてあげるわ。被害者は、ゲーム会社のパート事務員・戸塚美津子。死因は刺殺。ついでに頭が銃で撃たれていたらしいわね。死亡推定時刻は、昨夜十一時から十二時」
金田一「え? なんでそこまで……」
哀「江戸川くんが今日警察の人に聞いた情報を、さっきメールで送ってきたわ。何かの参考になるかわからないけど」
金田一「……」
金田一は少し真面目な顔になる。
金田一(この子も、コナンも、やっぱりただの小学一年生じゃない。単に同年代より頭が良いだけじゃない、そんな気がする。……もしかすると、工藤新一と江戸川コナンは、あのミステリーツアーの“あの人”たちと同じ――いや、だが、それなら妙だ!)
哀(……少しは違和感に気づいてるみたいね。組織とはあまり関係なさそうだし、今までも高校生探偵たちは、私たちの秘密に気づいてきた。どちらにせよ、時間の問題に感じるわ)
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○七瀬美雪の部屋
布団にくるまる美雪は、心配そうに天井を見つめている。
美雪「はじめちゃん……」
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○深夜の警視庁・資料室
明智の前に、佐藤、高木、剣持の三名がいる。
明智が何やら三人の前で資料に目を通している。
明智「なるほど、例の事件の証拠は日本に移送済、ですか。……わかりました。ご苦労様です、剣持警部、佐藤警部補、高木巡査部長。ひとまず、過去の事件データから考えて、あなたたちは信用できると考え、今回の捜査を非公式に命じてみました」
剣持「一体、どうしたんです。香港の証拠保管庫に問い合わせろだなんて……」
高木「該当の証拠品は、こちらでも発見できず、今も捜索中なのですが……」
明智「ええ、おそらくはもう見つかりませんよ。……どうやら今回の一件、警察側の不祥事が絡んでるかもしれませんからね」
剣持「警察の……」
高木「不祥事だって?」
佐藤「それって一体どういう事ですか!? 教えてください、明智警視!」
明智「ふぅ。……実は、私と剣持くんは、以前に香港で金田一くんに殺人容疑がかけられた際に、少々事件に立ち会いましてね」
高木「え、金田一くんが殺人容疑って……今回が初じゃないんですか?」
佐藤「嘘でしょ高木くん……(呆れる)」
明智「ええ、今回以前にも四回か五回……残念ながら、正確な回数は失念しましたが、彼には殺人容疑がかけられた事があります。勿論、いずれも冤罪でしたが」
佐藤「え、そんなに……?」
高木「それは、いくらなんでもかけられすぎでは……」
明智「まあ、彼には不幸な死神がついているんでしょうね。そんな天命に生まれたのは、彼だけではないのかもしれませんが」
高木「そういう問題なんですか……」
剣持「ああ、まったく……あいつは、とにかく運が悪いんだ。よく行く先々で殺人事件に巻き込まれちまう。俺も人の事は言えねえがな、あいつはそれで毎回事件を解決してきたんだよ」
高木「うーん。でも、なんだか、よく考えるとそれって、毛利さんに似てますね。事件の通報を聞いて言って見ると、いつも毛利さんがそこにいるような……」
佐藤「そうかしら?」
高木「え? 佐藤刑事も前に言ってたじゃないですか」
佐藤「ええ。確かに毛利さんはよく見かけるけど、それ以上に見かける子がいる気がするわ。いつも『あれれ~おかしいぞ~』と私たちに的確なヒントをくれる眼鏡の男の子が……」
高木「ああ、言われてみると、確かに……」
明智「コホン。とにかく、話を戻します。香港での事件の際、私がナイフで刺される事件があり、その時に、金田一くんはそのナイフを証拠品と思わず、直に触れました。私の記憶が正しければ、今回のナイフはそれと全く同じ種類のものです」
剣持「え!? そりゃ全然気づかなかった……」
明智「刺された私が言うんですから間違いありませんよ。……つまり、ほぼ間違いなく、あの時に使われたナイフがそのまま今回の殺人事件に使われていると考えています」
佐藤「でも、それってどういう!?」
明智「そこで、私は、二つの可能性を考えています。まず一つは、その事件を演出した“ある指名手配犯”が、警察の監視をくぐって証拠のナイフを盗み出した可能性。あの男ならそうした芸当もやりかねません。しかし、その場合、目的は不明慮です」
明智「……そして、もう一つは、警察の不祥事によって証拠品が外部に流出した可能性。いずれにせよ、そうしたケースを警察内部から告発するのは少々骨の折れる話で……私には、以前にもそういう経験があります」
高木「警察の不祥事……だから、僕たちをここへ?」
明智「ええ。だから、過去の実績などから信頼できると判断した捜査員にのみ、この事を話す事にしました。……今回は、未成年の少年が冤罪に巻き込まれている可能性がありえます。警察の不正により、市民の少年が疑いを被るなどという事は、決してあってはならない事です。私は、組織人としてではなく、一個人としてあなたがたに協力を申し出たい」
遠い目をする明智。
そんな横で、佐藤が決意の表情をする。
佐藤「……明智警視。私の父も、警官でした。あなたは知っているかわかりませんが、父は明智警視のお父様とも面識があります。あなたと同じく、私も父から受け継いだ誇りを、忘れるわけにはいきません」
高木「(佐藤を見て)……わかりました。そういう事なら……自分は、警察の職務に誇りを持っています! だから、仮に証拠の流出があって、それにより冤罪が発生するというのなら、それを放置する事はできない!」
明智「ありがたい限りです。それで、剣持くんは?」
剣持「……断る事はできないでしょうな。あんまり敵を作るわけにもいかないんですが、何しろ今回はあいつに容疑がかかってます。誰が敵だろうと、このまま放っておくわけにもいきませんよ」
明智「やはり。あなたたちは、私が見込んだ通り、どうやら上の人間よりも……ずっと『警察官』のようだ……。ところで、この場合、不服ですが……我々の声はなかなかその『上』には通りません。証拠流出を前提に捜査しているとなれば、上からの妨害が発生する事は必然。これは経験上、よく知っています。……と、なれば、打つ手はひとつじゃありませんか?」
少し沈黙が流れて、佐藤がハッとする。
佐藤「まさか……外部協力者の黙認ですか!?」
剣持・高木「え!?」
明智「ええ。それも、完全な民間人のね。上には報告せず、信頼できる外部協力者に無制限に情報を回します。……我々の今の見解を前提に、非公式に捜査に協力して、犯人逮捕まで漕ぎつけてくれる……そう、『探偵』と呼ばれる方たちに頼り、我々のシナリオ通りに解決してもらう。今回は彼らを頼りたい唯一の場面じゃないですか」
剣持「それじゃあんた……。(ため息をつき)……目的の為には手段を択ばない……流石明智警視だ。良くも悪くも、あなたらしいやり方だよ」
高木「わ、わかりました! それなら、明智警視! 毛利さん……眠りの小五郎で有名な、毛利小五郎探偵はどうでしょうか!? 彼ならきっと……」
剣持「毛利小五郎……?(何かを考える)」
明智「……いいえ、毛利さんは元刑事。私の私見では、これらの情報を伝えるのに適した相手とは思えません。それに、彼とは会った事もありますが、私はまだ彼の実力をそこまで高く評価できていませんからね」
佐藤「では、一体誰に!」
明智「……いるんでしょう、もう一人。よく殺人事件に巻き込まれる、死神のような探偵が」
高木がハッとする。
高木「まさか」
明智「――ここは、協力を仰ごうじゃありませんか。現場に必ず現れては、答えを知ったようにヒントを告げる……あなた方の間で噂の、小さな名探偵にね!」
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