Game of Vampire   作:のみみず@白月

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脱獄

 

 

「……リザインだ。」

 

紅魔館のリビングでチェス盤の向こうに座るパチュリーに向かって、アンネリーゼ・バートリは投了を宣言していた。これで二連敗だ。

 

僅かな悔しさを感じながらどこが悪かったのかと考えていると、冷めた紅茶を飲み干したパチュリーが口を開く。そら、ジメジメノーレッジの嫌味がくるぞ。

 

「あら、また勝っちゃったわ。強くてごめんなさいね?」

 

「黙っていたまえ、陰湿魔女。……もう一回だ。」

 

「いいけどね、ヒマだし。」

 

肩を竦めて答えたパチュリーは、素直に駒を並べ直した。まあ……詰まる所、彼女の言う通りなのである。ヒマなのだ。退屈なのだ。やることがないのだ。

 

アリスと咲夜は魔理沙とお買い物中。レミリアは緊急呼び出しで魔法省へとすっ飛んで行ったし、美鈴と小悪魔はリドルの足跡巡りを続けている。そしてフランはぐーすかお昼寝中だ。いやまあ、吸血鬼としては正しい生態だが。

 

夏休み中でやる事もない私は、図書館リフォーム計画を組み立てていたパチュリーを引っ張ってきて、暇つぶしのチェスに付き合わせているというわけである。さほど抵抗なく付き合ってくれているあたり、どうやら彼女も煮詰まっていたらしい。相変わらず図書館にだけは手を抜かない魔女だ。

 

「そういえば、ハリー・ポッターの方はいいの? せっかく電話線を引いたのに、全然使ってないじゃない。」

 

駒を並べながら話しかけてくるパチュリーに、こっちも並べながら言葉を返す。ちなみに魔法使いのチェスではない。駒とすらコミュニケーションを取れないパチュリーは、あのチェスが嫌いなのだ。

 

「どうもロンが大失敗したらしくてね。私とハーマイオニーに電話はやめておけと手紙に書いて送ってきたんだ。何をやらかしたんだか。」

 

「ま、宜なるかなって感じね。魔法使いに電話なんか無理よ。しかし……エジプトは羨ましいわ。私も行ってみたい場所なのよね。」

 

「キミが行ったら暑さで死ぬよ? ミイラが一体増えるだけさ。」

 

ジト目で睨んでくるパチュリーに肩を竦めながら、ポーンをゆっくりと動かした。

 

昨年度は不幸のドン底にあったウィーズリー家だったが、不幸の次には幸運が訪れてきたらしく、先日ガリオンくじなるものを見事に引き当てたのだ。お陰で現在は家族総出でエジプト旅行の真っ最中。なんだってあんな砂まみれの場所に行くのやら。

 

先ずは定石で迎え撃ってきたパチュリーに対抗すべく、こちらも定石通りの一手を放ちながら話を続ける。

 

「それに、誕生日にはプレゼントでも贈るさ。ハーマイオニーやロンとは被らないように相談済みだしね。」

 

「ご苦労なことで。……っていうか、向こうは貴女に贈ろうとしないの? 普通そういうのって贈り合ったりするものなんじゃないかしら?」

 

悲しいかな、友達というものに縁のないパチュリーは自信なさげだ。誕生日プレゼントなど咲夜とアリス以外には贈ったこともないのだろう。ちょっとだけ哀れみの視線を送りながら、駒を動かして口を開く。

 

「吸血鬼は誕生日を祝わないと言ってあるんだよ。ま、実際そうだしね。私が生まれた頃にはそんな文化は無かったもんで、正確な日にちを知らないのさ。寒い大雪の日ってのが精一杯だ。」

 

「なんとも時代を感じる一言ね。」

 

言いながらパチュリーが動かした一手は……ふむ? 見たことない手だ。一見すると誘いの一手だが……くそ、わからん。新手を繰り出してくるとは、随分と余裕があるじゃないか。

 

長考に入った私を前に、今度はパチュリーが話題を投じる。

 

「……そういえば、美鈴とこあはちゃんと探しているのかしらね? 孤児院には収穫なしだったけど。」

 

「絶対にちゃんとは探していないだろうが、動かせるのはあの二人だけなんだ。アリスは魔法の研究にお熱だし、キミはお外が嫌いなんだろう?」

 

「私は魔女なの。魔女ってのは塔やら工房やらに篭っているものでしょう? そういうことよ。」

 

「アリスを見るに、説得力はないけどね。今日だってきちんとお出かけしているじゃないか。」

 

二人の報告によれば、リドルの孤児院は綺麗さっぱり無くなっていたとのことだ。跡地に建っていたアパートメントも調べたそうだが、残念ながら収穫はなかったらしい。最初から期待してはいなかったが、ここまで綺麗に消え去ってるとは思わなかった。

 

そして現在は両親の墓を調べるために移動中だ。長すぎる移動だが……まあ、あの二人に迅速な行動など期待していない。どうせそこらで美味いもの巡りでもしてるんだろう。のんびりやればいいさ。

 

「……これでいこうか。」

 

ようやく私が動かした一手を前に、今度はパチュリーが長考に入った。それを横目に紅茶のお代わりをエマにでも頼もうかと呼び鈴に手を伸ばすと……おや、レミリアのご帰宅か? ドスドスという足音を聞く分には、どうやら御機嫌斜めのようだ。

 

「んふふ、またファッジが『うっかり』なにかを失敗したみたいだよ? さすがはうっかり大臣だ。期待を裏切らないね。」

 

「いつものことじゃないの。この前なんて、自分に自分でマーリン勲章を贈るとかいう意味不明なことを仕出かしたんでしょう? レミィももうちょっと人を選べなかったのかしらね。」

 

「『ハロウィンの悲劇』のせいで、魔法大臣はイギリスで最も人気のない席になってたのさ。操りやすいのはファッジしかいなかったんだよ。」

 

パチュリーと廊下の方を見ながらファッジの次なる『奇行』を予想していると、ドアが荒々しい音と共に開いて件の吸血鬼が入ってきた。翼をバッサバッサ動かしているのを見るに、予想以上にお怒りのようだ。

 

「最悪よ!」

 

ぷんすか怒るレミリアは勢いよくこちらに歩いてきたかと思えば……おいおい、なんだよ。机の上にばしりと新聞を叩きつける。駒が散らばっちゃったじゃないか。

 

「何なんだ、レミィ。八つ当たりはよしてくれ。いい歳して恥ずかしいぞ。」

 

「そんなもんやってる場合じゃないの! 読んでみなさい。そしたら私の気持ちが良く分かるわ!」

 

ダンダン足を踏み鳴らしながら言うレミリアにちょっと引きつつも、パチュリーと二人で新聞を読んでみると……ああ、これはマズいな。確かにチェスなんかやってる場合じゃない。

 

号外と書かれたその下には、デカデカと『アズカバンからシリウス・ブラックが脱獄!』という見出しが踊っていた。

 

「マズいぞ、レミィ。これはマズい。」

 

「わかってるわよ! だから焦ってるんでしょうが! ……まったくもう、あの脳足りんの吸魂鬼どもは何をしていたんだか!」

 

「吸魂鬼に脳ってあるのかしらね? 魂は無いし、頭は口でしょ?」

 

考え込み始めたパチュリーを無視しながら、レミリアと二人で顔を見合わせる。別にアズカバンから誰かが脱獄するのは構わんが、脱獄した人物がマズいのだ。

 

ゴクリと喉を鳴らしたレミリアが、恐る恐るという感じで口を開いた。

 

「……フランには何て言えばいいの? 『お早う、フラン。良い夕方ね。ああ……そうそう、裏切り者のブラックが自由になったわよ』とでも言う?」

 

「それでも私は構わんがね。その場合、一足先にホグワーツに戻らせてもらうよ。」

 

「……あああ、どうすりゃいいのよ!」

 

頭を抱えるレミリアだが、私だってどうすればいいのか分からん。なんたって、今のフランは怒らせると怖いのだ。

 

昔は純粋に癇癪を爆発させるだけだった。その分には見てて苦笑を浮かべる余裕はあったし、分かりやすく怒る分、対処もまた分かりやすかったのだ。

 

転じて今のフランが怒ると……おお、怖くなってきたぞ。冷たい微笑みを浮かべながら、皮肉混じりで罵ってくるのだ。昔一度だけ、レミリアがフランの描いた絵とは知らずに『落書き』呼ばわりしたときにそれは起こった。あの時はかなり怖かったもんだ。二度と見たいとは思えない。

 

よし、決めた。ホグワーツに逃げよう。ダンブルドアに交渉すれば入れてもらえるはずだ。そうと決まれば急がねばなるまい。そそくさと計画を実行に移そうとするが……。

 

「待ちなさい、リーゼ! 何処に行く気よ!」

 

レミリアが必死の表情で腕を掴んできた。おのれポンコツ吸血鬼! 道連れにする気か?

 

「離したまえ、レミィ。私は……そうだ、ハリーだ! ハリーが危険かもしれないだろう? 彼を守らねばならないのさ。」

 

「いつからガキのお守りにそんなに熱心になったのかしら? ハリーの守りについても話し合いましょう? ……フランも一緒にね!」

 

「ええい、離せレミィ! 大体、魔法省の不祥事に私は関係ないだろうが! キミの管轄だぞ、それは!」

 

「幼馴染でしょ! 友達でしょ! 見捨てないでよ!」

 

とうとう泣き落としを始めたレミリアの腕をギリギリと捻りながら、アンネリーゼ・バートリは久方ぶりの恐怖を感じるのだった。

 

 

─────

 

 

「……よっと。」

 

ゆっくりと地面に下り立ちながら、霧雨魔理沙は満足気な笑みを浮かべていた。

 

ダイアゴン横丁での生活が始まって二週間。私にとっては非常に充実した日々を送れている。アリスの家も住み易いし、何よりダイアゴン横丁は驚きに満ちているのだ。憧れの世界を好き勝手に歩ける。夢のような生活じゃないか。

 

そして、その中でもとびっきり気に入ってる時間が箒飛行の練習だ。風を切る感覚、内臓がひっくり返るような浮遊感、日々上手く操れるようになっていく相棒。うーむ、たまらん。

 

当然ながらその辺を自由に飛び回れるわけではない。アリスから魔法界の法律を聞いた私はがっくりしたもんだ。なにせ箒の飛行にはかなりの制限があったのだから。おまけに私は未成年。一時はホグワーツまでお預けかと落ち込んでいた。

 

そんな私を救ったのが、相棒を買った箒屋のおっちゃんである。餅は餅屋ということでダメ元で話を聞きに行ったところ、店の裏手に小さな飛行場があると教えてくれたのだ。

 

おまけに普段は試し乗りの場として使っているそこを、客のいない時は使わせてくれることになったのである。

 

『代わりにホグワーツで店の宣伝でもしてくれりゃいいさ』とのことだが……ううむ、これは絶対に客を増やさねばなるまい。ビラでも作ってばら撒きまくろう。

 

箒を片手に店の裏口を抜けると、おっちゃんが新聞を読みながらやる気無さげに店番をしていた。もちろん今日も客はなしだ。

 

「おいおい、また客はなしか? 箒にカビが生えちまうぜ。」

 

「ほっとけ、小娘。それより飛んだ後はメンテナンスを怠るなよ? 箒ってのはデリケートなもんなんだ。」

 

「へいへい。」

 

いつもの軽口を叩き合ってから、店の片隅で相棒にクリームを塗り始める。世話焼きで知識も豊富だってのに……無愛想なのがいけないのか? もうちょっと流行ってもいい店だと思うぞ、ここは。

 

何がいけないのかを実家の道具屋と比較して考えていると、おっちゃんがチラリと店先を見ながら口を開いた。

 

「また来てるな、あの坊主。」

 

視線を辿ってみれば……本当だ。いつものメガネの少年が、ショーウィンドウに飾られたファイアボルトを食い入るように見ている。毎日毎日ご苦労なこった。

 

このところ、アイツは毎日のようにああしてファイアボルトを見つめているのだ。まるで恋だな。ベタ惚れだ。

 

「そんなに欲しけりゃ買えばいいのにな。」

 

ちょっと呆れた感じで呟くと、店主は鼻を鳴らしながら返事を返す。

 

「そりゃ無理な話だろうよ。あれは五百ガリオンだぞ? こっちだって売れるとは思ってねえよ。客寄せの為に置いてんだ。」

 

「勿体ないぜ。箒は乗るものだろ?」

 

「ああいうのはプロチームが買うんだよ。個人で持つようなもんじゃねえのさ。」

 

「プロチームか……観戦してみたいな。」

 

非常に興味がある。おっちゃんの話を聞く分には、日本のチームは強いらしい。幻想郷を日本と言っていいのかは分からんが、一応は故郷のチームなのだ。応援に行ってみたくはある。

 

「観るなら来年に取っときな。来年はワールドカップだぞ。おまけに開催国はイギリスときたもんだ。俺にとっても稼ぎ時さ。」

 

「絶対に観に行くぜ。」

 

固く決意しながらもクリームを塗り終わり、今度は毛先を整え始めた。この面倒な作業も飛行のスピードに繋がると思えば苦ではない。幻想郷でもあんなに速くは飛べなかったのだ。練習すればあの巫女にだって追いつけるかもしれない。

 

そのまま私が全ての作業を終わらせた頃になっても……おやおや、未だメガネはファイアボルトにぞっこんだ。うーむ、さすがに哀れになってきたな。恋のキューピッドでもやってみるか?

 

「なあ、ちょっとだけ乗せてやるわけにはいかないのか? そりゃあガキには買えやしないだろうがな。あんなに熱心なヤツは他にいないぜ?」

 

ダメ元での提案だったわけだが……おっちゃんはちょっとだけ悩んだ後、メガネを見ながらため息混じりに頷いた。

 

「まったく、仕方がねえな。入れてやれ。ほんのちょっとだったら乗らせてやるよ。どうせ売れやしねぇんだしな。」

 

「へっへっへ、やっぱりあんたはお人好しだぜ。」

 

「うるせえぞ、小娘!」

 

つくづくいいヤツだな。おっちゃんの照れ隠しの怒鳴り声に肩を竦めながら、店のドアを開けてメガネに声をかける。そら、メガネ。キューピッド様のご登場だぜ。

 

「おい、そこの! ファイアボルトにお熱なんだろ? 試乗させてやるから入ってこいよ!」

 

「あの、僕……乗れるの? これに?」

 

「特別だぜ? 毎日来るもんだから、ここの店主が許してくれたのさ。」

 

見られていたとは思わなかったのだろう。メガネはちょっとだけ恥ずかしそうにしながらも、それを上回る歓喜を顔に浮かべながら店内に入ってきた。

 

「ちょっと待ってな、今出すからよ。」

 

「ありがとうございます!」

 

ショーウィンドウに向かうおっちゃんにペコペコお礼を言っているメガネを横目に、私もちょっとだけワクワクしてくる。そりゃあ私の相棒はスターダストだが、五百ガリオンの箒ってのは興味を惹くには充分な謳い文句なのだ。気になっていなかったと言えば嘘になる。

 

おっちゃんから絶対に傷は付けるなよという注意を受けたメガネを伴って、裏手の飛行場へ歩き出す。まあ、注意は必要無かったかもな。なんたってメガネの手つきは芸術品を触るそれなのだ。古代のアーティファクトだってこんなに慎重には持つまい。

 

「ほらよ、ここだぜ。あんまり高くは飛ぶなよ? 屋根の上にある……ほら、あの線までだ。」

 

「うん。それじゃあ……乗るよ?」

 

「おいおい、なんで私に聞くんだ。さっさと乗っちまえよ。」

 

恐る恐るという様子で浮かび上がったメガネは、空へと上がると満面の笑みへと表情を変えた。どうやらお気に召したらしい。

 

そのままビュンビュンと飛び回るメガネだったが……上手いな、おい。私の飛行が『お遊び』に思えるくらいの上手さじゃないか。箒に乗っているという感じが一切しない、軽やかな飛びっぷりだ。

 

うーむ、ちょっと悔しい。見た感じ年上なのは確かだが、それにしたって数年差だろう。……いいさ、私は始めたばかりなんだ。これから絶対に上手くなってやるぜ。

 

私も持ってきた相棒に再び跨りながら、空に浮かび上がって声を放つ。

 

「どうだ、メガネ! 乗り心地は!」

 

「最高だよ! それと……ハリーだ。ハリー・ポッター。」

 

「おっと失礼。私はマリサ・キリサメだ。マリサでいいぞ。」

 

「こっちもハリーでいいよ。」

 

飛びながら自己紹介を終わらせると、メガネ……ハリーは笑顔で一回転する。嬉しくて堪らないといった様子だ。余程に箒が好きなのだろう。

 

「マリサはクィディッチをやってるの? ホグワーツじゃ見たことないし、入学前だよね?」

 

「今年入学だぜ。クィディッチは……やりたいとは思うんだけどな。なにせ箒に乗ってからまだ二週間なもんで、自分が上手いか下手かもわからん有様だ。」

 

「二週間? 二週間でそれなら大したもんだよ。バランスを取るのも上手いし、しっかり静止できてるじゃないか。絶対に才能あるよ。保証する。」

 

ふむ? おべっかじゃなくて、本当に驚いている感じだな。ちょっとだけ自信が湧いてくるのを感じながら、ハリーに向かって言葉を返す。

 

「その言い振りだと、そっちはクィディッチをやってるんだろ? どのチームなんだ?」

 

「グリフィンドールのシーカーさ。シーカーっていうのは……分かる?」

 

「スニッチを追うポジションだろ? 一応ルールは頭に入ってるぜ。」

 

「そうそう、それだよ。」

 

グリフィンドールってのはリーゼの居る寮だったはずだ。それに……シーカーか。試合の決め手になるポジション。つまりこいつは飛ぶのがかなり上手いわけだ。安心したぞ。このレベルが平均だったら、ちょっと気後れしてたとこだ。

 

ホッと安堵の息を吐く私に、ご機嫌な様子のハリーが質問を放ってきた。

 

「マリサはこの店の子なの? まさかファイアボルトに乗れるとは思わなかったよ。いい店だね。」

 

「いやいや、他国の出身でな。ホグワーツには留学しに来たんだ。ダイアゴン横丁に家を借りてて、飛行場を使わせてもらってる関係で親しくなったのさ。……ま、いい店ってのは同意するけどな。そっちもダイアゴン横丁に家があるのか?」

 

このところ毎日来てたからてっきりそうだと思ってたが、ハリーは首を振りながら困ったような表情で返事を返してくる。

 

「いや、全然違う場所に住んでるんだけど……ちょっとした問題を起こしちゃって。新学期までこっちに居ることになってるんだよ。」

 

「へぇ? なんだか分からんが、ラッキーだったな。お陰でそいつに乗れたわけだし。」

 

「んー……そうだね。不幸と幸運としては、結構バランス取れてるかな。」

 

クスクス笑いながら言ったハリーは、飛行場の隅に落ちているボールを指差しながら提案を投げかけてきた。

 

「ねえ、あれでちょっと練習してみない? もちろん箒は交代交代で。」

 

「いいな、それ! やろうぜ!」

 

願っても無い提案じゃないか。少なくともただ飛び回るよりかは絶対に楽しいはずだし、ボールを使った練習は初めてなのだ。一人じゃ出来なかった練習に、自然と胸が弾んでくる。

 

「それじゃ、最初は軽めにいくよ!」

 

「おう、こい!」

 

初めてのトリックパスの練習を、霧雨魔理沙はおっちゃんがいつまでやってるんだと怒鳴り込んでくるまで続けるのだった。

 


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