Game of Vampire 作:のみみず@白月
「へえ、それならグリップを付けたほうがいいのか?」
揺れるホグワーツ特急の車内で、霧雨魔理沙は二人の上級生へと質問を放っていた。
全員と自己紹介をし合った後、コンパートメントの会話は自然と二つに分かれたのだ。私、ハリー、ロンのクィディッチ談義と、リーゼ、ハーマイオニー、咲夜、ルーナのお勉強談義である。まあ……向こうは談義というよりかは、ハーマイオニーの『独演会』に相槌をうっているのに近いが。
この短時間で初対面の数人の性格は概ね理解できた。ハーマイオニーは勉強好きの努力家。ロンはクィディッチが好きで流されやすく、ルーナはオカルト好きで突拍子がない。
普通は似通った連中でグループを作るもんだと思うが……このコンパートメントは実に個性豊かだ。リーゼ、咲夜、ハリーを加えるとそれはより顕著になる。
うん、嫌いじゃない。私はこういうごちゃごちゃしている感じが大好きなのだ。画一的でつまらんよりはよっぽどマシだぜ。
「そうそう、ブラッジャーに狙われた時のダッチロールで役に立つんだよ。雨の試合なんかじゃ滑るから、特にね。」
私の疑問に実体験で答えるハリーに、ロンが補足を付け加えた。
「それにさ、片腕で飛ぶ時なんかはあるとないとじゃ全然違うぞ。どのポジションでも機会はあるんだし、グリップは付けた方が絶対にいいよ。」
「ふーん。それなら買ってみるか。つってもまあ、休暇まで待たないとだけどな。」
「ちょっと待ってなよ、確か入れてきたはずだ……。」
言いながらごそごそとトランクを漁り始めたロンは、やがて分厚い雑誌のようなものを取り出した。ルーナが読んでるやつの五倍は厚いぞ。カラフルな表紙には飛び回るクィディッチの選手が描かれている。
「ほら、これさ! 今年のクィディッチ用品カタログだよ。今年はお金に余裕があるからって、ダメ元でママに頼んだら買ってもらえたんだ。」
ロンが広げたカタログとやらは……こりゃすげえ。箒そのものから細々としたアタッチメント、お手入れの器具に練習道具。ありとあらゆるクィディッチ用品が載ってるようだ。しかもカラーで。
「すごいよ、ロン! 海外のも載ってるじゃないか!」
「これってこっちじゃ売ってないんだよな? 自動パス機能付きクアッフル? ……欲しいぜ。」
目をキラキラさせて覗き込む私とハリーに、ロンは得意げに一つ一つの説明を始める。『今年の』ってことは来年も出るわけだ。これは絶対に買わねばなるまい。
「凄いだろ? プロ用の公式球とか、あとはほら! 来年のワールドカップで使われる予定のスニッチだって買えるんだ。ジョージがプレミアが付くから今のうちに買っとけって言うんだけど、全員のお小遣いを足しても……ありゃ、起きちゃったか。」
と、説明するロンの胸ポケットからモゾモゾとネズミが這い出てきた。何と言うか……死にそうだな、こいつ。ポケットから出るのも一苦労といったご様子だ。
「そいつ、ロンのペットなのか?」
「うん。スキャバーズって言うんだ。ただ、最近元気がなくてさ。……どうした? スキャバーズ。お腹が減ったのか?」
「随分とくたびれてるな。入学した時に買ってもらったとか?」
「いや、兄からのお下がりなんだよ。もう十年以上は生きてるんだ。……ほら、とりあえずこれを食べなよ。学校に着くまでもうちょっと我慢してくれ。」
十年以上? 普通のネズミなら二、三年で死ぬはずだが、魔法界じゃ寿命も長いんだろうか? そういえば魅魔様の使い魔も長生きだったし、案外そういうもんなのかもしれない。知らないことはまだまだありそうだ。
ロンから車内販売で買ったかぼちゃパイの欠片を受け取ったネズミは、そのまま再びポケットの中へと……何だ? 急にリーゼたちの方を見て硬直してしまったぞ。死んだか?
「いきなり固まったけど、死んでないよな?」
「まさか。ちょっとボケちゃってるだけだよ。……おい、スキャバーズ? どうしちゃったんだ?」
ちょんちょん突くロンにも構わず、ネズミは未だに固まったままだ。何となく視線を追ってみれば……どうも咲夜の動きを目で追っているらしい。殆ど沈んだ夕陽に反射する銀髪でも気になるのか、口を開けてポロリとパイの欠片を落としてしまっている。
「栄養ドリンクは飲ませたの? ダイアゴン横丁で買ったんでしょ?」
「今朝飲ませたんだけど、味が嫌いなのかあんまり飲んでくれないんだよ。ひょっとしたらポケットが嫌なのかも。……トランクに戻るか?」
ハリーに答えながらロンがトランクの近くまで運ぶと、ようやく再起動したネズミはノロノロとトランクの中へと入って行った。……しかし、栄養ドリンク? ネズミが? やっぱりここは変な世界だな。
「まあ、そのうち元気になるよ、うん。……それよりほら、カタログの話に戻ろうぜ。注文書だって付いてるんだ。」
微妙な空気を吹き飛ばすかのように、ロンが再びカタログを突き出してくる。……ま、爺さんネズミってのも大変興味深いが、確かに今はカタログの方が大事だ。物事には優先度というものがあるのだから。
「なあなあ、それって決まった店でも注文できたりすんのか? 世話になった店があるから、出来ればそこで買いたいんだよ。」
「もちろん出来るさ。ほら、注文書のここに──」
夢が満タンに詰まったカタログを見ながら、三人のクィディッチ談義は白熱していくのだった。
───
「──だから結局反則になっちゃったんだよ。それを逆手に取って、トマトを相手のシーカーにぶつけようとした選手もいたんだけど……うん、上手くいかなかったな。トマトはブラッジャーよりかは避けやすいしね。……あれ? なんかスピードが落ちてないか?」
クィディッチ用品についての話がひと段落して、会話のメインが奇妙な反則行為に移り始めたところで、何故かホグワーツ特急が速度を落とし始めた。滑らかとは言い難い、ガクンガクンと速度を落とす感じだ。
トマトをぶつけようとした馬鹿なビーターの話をしていたロンがそう言うのと同時に、ハリーも窓を見ながら口を開く。初めてだからよく分からんが、この様子だと到着したわけではないのだろう。
「おかしいな。ホグワーツまではもうちょっとあるはずだよ。……故障とか?」
なんか幸先悪いな。つられて私も窓の方を……おいおい、リーゼが険しい顔をしているのが目に入ってきた。あの吸血鬼の険しい顔ってのは、私にとっては充分すぎるほどの危険信号だ。
「あー、リーゼ? なんか知ってるのか?」
思わず私が声をかけると、リーゼは窓の外を見たままで背中越しに返事を返してくる。
「さぁね。だが……ホグワーツ特急はちょっとやそっとじゃ止まったりしないのさ。おまけに外は雨だ。クソッたれめ。」
「雨だとなんかヤバいのか? こんなもんちょっとした小雨だろ?」
「……雨は嫌いでね。」
なんだそりゃ。濡れるのが嫌なのか? 窓の外は確かに小雨……というか、私の苗字と同じ霧雨が降っている。この程度魔法でどうにか出来ないのかを聞こうとした瞬間、列車が完全に停止すると同時に車内の明かりが消え失せた。つまり、真っ暗だ。
「ちょっ、見えないわ! 私の杖はどこ?」
「ン、それは私のお尻だよ、ハーマイオニー。」
慌てるハーマイオニーと無感動なルーナのやり取りの後、コンパートメントの中が明かりで照らされる。リーゼだ。恐らく何かの魔法なのだろう、杖先に明かりを灯している。
「落ち着きたまえ。それと……一応杖を持っておいた方がいいね。」
全員にというか、ハリー、ロン、ハーマイオニーにそう言ったリーゼは、窓際からドアの前へと移動した。その言葉を受けたハリーたちも、残った三人を庇うように杖を構えて通路側に陣取る。ルーナもその後ろ……つまり、私と咲夜の前にスルリと出てきた。
この配置は、私と咲夜が下級生だからってことか? ……ありがたいのと、情けないのが半々ぐらいの気分だぜ。まあ、仕方があるまい。残念ながら私は明かりを灯す事さえ出来ないのだ。
それでも一応杖を構えていると、隣の咲夜が……ナイフ? どっから取り出したのかナイフを手渡してきた。なんだこいつ。いつもこんなもんを持ち歩いてるのか?
「持っておきなさいよ。杖よりマシでしょ?」
「おまえ、何でこんなもん持ってんだよ。危ないヤツだな。」
「使用人の嗜みよ。」
絶対嘘だ。外の世界には詳しくないが、少なくとも霧雨道具店の下働きはナイフなんか持ってはいなかったぞ。しかもなんか凶悪な形のナイフを。
とはいえ、確かに今の私にとっては杖よりかは役立つだろう。素直に受け取ったそれを利き手に持ち替えていると……おい、今度はなんだよ? 気温が一気に下がり始めた。
「寒いわね。」
「ん? そうかい?」
ハーマイオニーの呟きに、リーゼがキョトンとした顔で首を傾げる。こんなに急激な変化だってのに、あいつは気付いていないのか?
「きっとノースアームが入ってきたんだよ。冷気を纏ってるんだもん。二十本の腕で人間を食べちゃうんだ。」
「そうじゃないことを祈るよ。ここに居る全員合わせても腕の数じゃ勝てなさそうだしね。」
ルーナの素っ頓狂な予想をハリーが苦笑混じりに流したところで、通路側のドア窓に黒い影が映った。ひらひらとして、なんだか頼りない感じの影だ。マント、か?
「ちっ、仕事熱心なことだな。」
苛ついた声でよく分からないことを口にしたリーゼは、身振りで自分以外の全員を窓際へと移動させる。同時にドアがゆっくりと開いて……黒いフードを被ったそいつが、ゆっくりと私の方を見た。
視界が狭まる。それに、寒い。凍りつくような寒さの中、リーゼのそいつに話しかける声がどんどん遠ざかり──
二つの叫び声。一つは私。一つは……。
『逃げなさい! 早く!』
『やだ! お母さんも一緒じゃないとやだよ!』
『いいから行くの。走りなさい! 絶対に振り向いちゃダメよ。』
三つか四つの頃の私が、真っ暗な道をひたすら走る。人里の明かりが遠くに見えて、それで……。
男の声。けーね先生の怒声。
『上白沢先生! 急いでください!』
『やめろ、妖怪! その子を離せ!』
そして、振り返った私は真っ赤に染まったそれを──
「エクスペクト・パトローナム!」
微かに聞こえたリーゼの声と共に、霧雨魔理沙の視界は闇に沈んでいった。
─────
「ちっ、仕事熱心なことだな。」
近付いてくる吸魂鬼を窓越しに見ながら、アンネリーゼ・バートリは身振りで他の全員を下がらせた。
ダンブルドアはこいつらの介入をどこまで許したんだ? ホグワーツ特急で臨検とは、随分と強引な手を打ってくるじゃないか。アズカバンは面子を潰されてお怒りか。
そのまま通り過ぎろと念じるが……何故か吸魂鬼はコンパートメントのドアを開ける。そのまま身を乗り出して入って来ようとする吸魂鬼を杖で抑えながら、一応警告の声を放った。
「ここにはブラックはいない。見て分からないのか? ……ああ、見えないんだったね。そんなんだから脱獄されるんだよ、能無しめ。」
おっと、思ったよりも罵倒っぽくなってしまったな。……まあ、構うまい。こいつらのことは好きではないし、そもそも言葉を理解しているかすら怪しいもんだ。アズカバンじゃどうやって制御してるのやら。
私の言葉に、しばしこちらをジッと見つめる吸魂鬼だったが、やがて再びコンパートメント内に押し入ってこようとする。なんなんだよ、一体。当然ながら感情が読み取れんので、何をしたいのかがさっぱりだぞ。
「いい度胸じゃないか。警告はしたぞ?」
これだから脳みそが無いヤツってのは嫌いなんだ。言葉と共に杖を向けて、紅魔館のことを思い出しながらくるりと回す。パチュリーから習い始めた頃は苦手だったが、今の私にとってこの呪文は苦ではない。幸せな記憶なら腐る程あるのだから。
「エクスペクト・パトローナム!」
途端に杖先から出てきた小さな銀色のコウモリが、勢いよく吸魂鬼へと襲いかかった。幸福そのものを実体化させた守護霊は、恐怖を餌食にする吸魂鬼にとっては相容れない存在なのだ。よく考えたら色んな妖怪に効きそうだな、これ。
怯む吸魂鬼を執拗に襲い続けるコウモリは、やがて通路の先まで吸魂鬼を追い払っていく。コンパートメントから身を乗り出してそれを見届けた後、再び中へと戻ってみれば……おや、死屍累々だな。ハリーと魔理沙は気絶しているようだし、他の全員もガクガク震えている。
「ロン、さっき蛙チョコレートを買ってただろう? まだ残ってるかい?」
車内販売の時を思い出しながらロンに声をかけると、彼は震えたままで肯定の頷きを放ってきた。
「の、残ってるけど。どうして? それに、さっきのは?」
「疑問は後で聞くさ。先ずはチョコレートを全員で分けるんだ。実に意味不明なことだが、吸魂鬼の恐怖に対してチョコレートが有効なのは実証済みだしね。」
「きゅ、吸魂鬼? ……分かった。今分けるよ。」
真剣な表情で言ってやると、ロンはコクコク頷きながらも残ったチョコレートを砕き始めた。それを横目に、先ずはハリーと魔理沙の診察に移る。
まあ、問題ないだろう。キスされたわけじゃないんだし、強い恐怖を味わっただけのはずだ。しかし……ハリーは何となく分かるが、魔理沙も? この子も何かしらのトラウマを抱えているのだろうか?
二人を椅子に寝かせようと持ち上げていると、いち早く立ち直ったルーナと咲夜が手伝ってくれる。この二人はそこまでの影響を受けなかったようだ。
「咲夜とルーナは平気だったのかい?」
「私は大丈夫です! ちょっと怖かったですけど……ちょっとだけでした!」
「ウン、パパが言ってたんだ。吸魂鬼を見たら何も考えるなって。心を空っぽにして、閉ざせって。それをやってみたんだもん。」
「お見事、ルーナ。キミの父は優秀だね。」
私が褒めると、ルーナはちょっと照れくさそうに顔を伏せた。守護霊の呪文を使えないなら実際有効な対処法だろう。
しかし、咲夜はよろしくないな。吸魂鬼に影響され難いということは、彼女は恐怖を正しく認識していない可能性がある。あれは恐怖そのもののはずだ。我々吸血鬼や妖怪なんかが影響されないのはともかく、人間の咲夜はむしろ影響される方が正常だろうに。
こんなところにも吸血鬼の館で育った弊害があったわけか。……恐怖を恐怖として受け取れないのはかなりの問題だぞ。防衛機能の一つがまともに働いていないようなものだ。前途多難だな、まったく。
褒めて欲しそうな咲夜に微笑んでしまうのをなんとか我慢しながら、二人と一緒にハリーと魔理沙を左右の椅子に寝かせてやった。蘇生呪文は……やめとくか。放っておいても目覚めるだろうし、それなら無理に起こさないほうが良かろう。
二人にもチョコレートを食べるように言ってから再び通路を警戒していると、チョコのお陰で立ち直ったらしいハーマイオニーが声をかけてきた。
「……あれが吸魂鬼なのね。私、その……怖かったわ。凄く。あれが覗き込んできた瞬間、嫌な思い出がぶわっと溢れてきたの。」
情けなさそうに言うハーマイオニーに、苦笑しながら口を開く。
「それはキミが恐怖を知っているということさ。恥じる必要はないよ、ハーマイオニー。恐怖を知らない者はそれを避けることも、立ち向かうこともできないんだから。」
「うん……きっと、ハリーと魔理沙は辛い経験をしたんでしょうね。私なんかよりもずっと。」
二人を心配そうに眺めるハーマイオニーだったが、ふと気付いたように私に向き直った。
「でも、リーゼは? 吸血鬼だから平気だったの?」
「そんなとこだよ。長命な生き物ってのは総じて心が頑丈なのさ。まあ……うん、頑固とも言うかな。他者からの影響を受け難いんだよ。」
それに、吸血鬼が恐怖にビビってちゃあ世話がないのだ。我々はそれを受け取る側ではなく、与える側なのだから。そも恐怖ってのはあらゆる妖怪の根幹に関わる感情なわけで、一々それに影響を受けてたら生きていけんぞ。
「それは……良いことなのよね?」
何故か心配そうな顔になるハーマイオニーに、彼女の頰に手を当てながら声をかける。聡い子だ。きっと長命なことのデメリットを汲み取ったのだろう。出会いと、死別。そのための心の強さだと気付いたらしい。
「大丈夫だよ、ハーマイオニー。私にはその心配は不要だ。」
だが私にはレミリアやフラン、パチュリーにアリス、それに小悪魔と美鈴が居る。そして咲夜は……分からないな。これに関しては彼女が決めることだ。誰も強制するつもりはないし、するべきでもない。
なおも少し心配そうなハーマイオニーだったが、通路から響く足音で真剣な表情へと変わる。
「誰かしら?」
「少なくとも吸魂鬼じゃないね。監督生とかかな?」
足音って時点で吸魂鬼は有り得ないし、私の感覚もその主が人間だと告げているのだ。心配はあるまい。
足音の主は隣のコンパートメントを確認した後、私たちのコンパートメントへと向かってきた。ドアが開くと……おや、リーマス・ルーピンだ。噂のヨレヨレ君がひょっこりドアから顔を出している。
「君たちは大丈夫だったかい? ……ハリー? それに……まさか、コゼット?」
室内の面々を見回した後、先ずは横たわるハリーに目を留めて驚愕の表情を浮かべた後、咲夜を見て信じられないとばかりに硬直してしまった。無理もあるまい、咲夜は母親に生き写しなのだ。
首を傾げる咲夜に代わり、私が前に出て説明を始める。
「それは咲夜だよ、ルーピン。フランから手紙は受け取っているだろう?」
「サクヤ……そうか、君がサクヤか。そして貴女が、あー……なんと呼べば?」
「バートリでいいよ。教師だろう? キミは。」
この男はダンブルドアから事情を聞いているはずだ。どうやらそれは確かだったようで、かなりやり辛そうにしながらも私に疑問を放ってきた。
「それじゃあ、その、バートリ。何があったんだい?」
うーん、演技力はハグリッド以上、マクゴナガル以下ってとこだな。新たな大根役者の登場に苦笑しながら、説明の続きを話し始める。
「アズカバンの看守がお外に出られてはしゃいでいるようでね。おやつ欲しさにコンパートメント内まで押し入ってきたんだよ。お陰でハリーと魔理沙……こっちの新入生だ。この二人は絶賛気絶中ってわけさ。」
「……嫌な連中だ。ダンブルドア先生は車内にまで入ってくるのを許してはいないはずなのに。今チョコレートを──」
懐からマグル製の板チョコを取り出したルーピンに、ようやく落ち着いてきたロンが待ったをかけた。
「もう食べました。ハリーと魔理沙の分も残ってます。」
手元を見れば、きちんと二人分を包み紙の中に残している。大事そうに確保しているのを見るに、どうやらロンはクィディッチ仲間たちを心配していたらしい。
「そうか。それじゃあ、私は他のコンパートメントを見てこよう。起きたら必ず食べさせるように、いいね?」
言ってからもう一度ハリーと咲夜を複雑そうな表情で見たルーピンは、それを振り切るようにコンパートメントを出て行く。死んだ友人たちに瓜二つの生徒か。どんな気持ちでいるのやら。
「えっと、あの人は私のお母さんと知り合いなんですか?」
ルーピンが出て行ったドアを見ながら聞いてくる咲夜に、その頭をさらりと撫でて答えを返した。
「ああ、その通りだ。父親ともね。そしてハリーの父親もホグワーツで同じ学年だったのさ。」
「……そうですか。」
何かを考えながらドアを見つめる咲夜を他所に、それを聞いていたハーマイオニーが口を開く。興味深げな表情だ。
「不思議なご縁ね。ちょっと頼りない感じの見た目だったけど……防衛術の新しい先生なのかしら?」
「まあ、アリスには劣るだろうけどね。少なくともクィレルよりは遥かにマシなはずだよ。」
「うーん、差がありすぎて、判断に迷うわね。」
ハーマイオニーが苦笑したところで、車内の明かりが復活してゆっくりと列車が動き始める。やれやれ、ようやく出発か。
眠るハリーの鼻に心が落ち着くとかいう薬草を詰め込み始めたルーナを眺めつつ、アンネリーゼ・バートリはやはり今年も楽できそうにないなと嘆息するのだった。