Game of Vampire   作:のみみず@白月

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忍びの地図

 

 

「吸魂鬼を城から追い出すべきだな、ダンブルドア。今すぐにだ。」

 

校長室のいつものソファに座りながら、アンネリーゼ・バートリは苛々と言葉を放っていた。

 

大雨のせいで観戦に行けなかったクィディッチの初戦で、またしてもハリーが墜落しかけたのだ。しかも今回は教員が誰一人としてそれに気付けなかったというのだから堪らない。

 

スネイプは抜け穴の点検で忙しかったし、ダンブルドアはラデュッセルに呼び出されて吸魂鬼についてのお話中。観戦に行っていたマクゴナガルとルーピンも鈍亀のような対処しか出来なかったらしい。つまり、魔理沙がいなければ本当に死んでいたのだ。運命云々はどうなってるんだ、ポンコツ吸血鬼め!

 

膝をトントン叩きながら言う私に対して、ダンブルドアもまた神妙な表情で答えを返してきた。

 

「珍しく意見が一致しましたな。わしも吸魂鬼には出て行ってもらいたいと考えております。」

 

「結構、素晴らしいことじゃないか。それならさっさと陰気なアズカバンにお帰り願おう。連中はあそこで犯罪者と遊んでるのがお似合いなのさ。」

 

「全くもって同意しますが……残念ながら、要請は却下されました。これをご覧ください。」

 

言いながらダンブルドアが差し出してきた手紙を読めば……ふん、イラつく内容だ。取ってつけたような謝罪文の後で、吸魂鬼の警備を継続する旨が書かれている。

 

「ファッジを通してもダメなのか? 闇祓い局にしたってレミィの『お友達』なんだろう? キミとレミィが揃って通せない要請があるとは驚きだね。」

 

ちょっと皮肉げに言葉を放つと、ダンブルドアは困ったような笑みを浮かべながら説明を放ってきた。

 

「ブラックの捜査に関しては闇祓い局……というか、魔法法執行部ですな。あそこが指揮を執っているのは確かです。アメリア・ボーンズやルーファス・スクリムジョールが相手なら確かにどうにかなったでしょう。しかしながら、吸魂鬼の派遣はまた別の部署が関わっているのですよ。」

 

「あのキツネ男を送ってきた部署かい?」

 

「その通りです。アズカバン維持管理局はウィゼンガモット直下の組織ですので、決定に抗議するとなれば大法廷に話を通さねばなりません。」

 

「ならば通したまえ。」

 

お前やレミリアなら出来ない話ではないはずだぞ。態度でそれを伝えながら言ってやれば、ダンブルドアはますます困った顔になって首を振る。

 

「不可能とは申しませんが、今すぐにともいかないのです。吸魂鬼の警備を強く推す一派がおりましてな。なかなかに無視できない力を持っているのですよ。」

 

「ちょっと待て、魔法大臣を押さえてても無視できないレベルなのか? ……クラウチとかかい? あいつは閑職に飛ばされたはずだが。」

 

飛ばされたというか、レミリアが飛ばしたのだ。国際魔法協力部とかいう訳の分からん部署に。そしてヤツの信者も根こそぎ『粛清』したはずだぞ。私の疑問に対して、ダンブルドアは全然予想していなかった名前を出してきた。

 

「パイアス・シックネス、それにドローレス・アンブリッジらですよ。何というか……現在の魔法大臣のやり方に反対している一派でしてな。コーネリウスはスカーレット女史の操り人形だと罵っているのです。」

 

「純然たる事実じゃないか。」

 

「ほっほっほ。まあ、近い状態にあることは認めましょうぞ。とはいえ、これが正常な状態でないことも確かでしょう? 問題視する者も多いのですよ。」

 

うーむ、分からなくもない話だな。頭に脳みそが残っている魔法使いがどれだけいるかは知らないが、少しでも残っているのなら今の大臣がレミリアの『お人形』であることに気付けるだろう。

 

問題はそれを是とするか否とするかだ。話に聞く限りではボーンズやスクリムジョールは肯定派だし、ダンブルドアも何だかんだ言いつつ黙認している。他にも同様の意見の者は多かろう。ハロウィンの悪夢で実際に戦った者ほどその傾向があるようだ。

 

対して否を唱えているのがシックネスやらアンブリッジを中心とした集団なわけか。魔法省ってのは本当に……大っ嫌いな組織だ。なんだって何かをしようとすると、必ず誰かが邪魔をしてくるのやら。これだから政治ってのは度し難い。

 

「しかし、なんだってその連中は吸魂鬼の警備なんかをゴリ押ししてるんだ? ……さすがにただの嫌がらせじゃないよな?」

 

「さて、さて。彼らの胸中を推し量るのは難しいですな。ブラックを捕らえることで自分たちの手柄にしようというのかもしれませんし、ひょっとすれば今回のようなトラブルを期待していたのかもしれません。ホグワーツで事が起こった以上、わしの失態であるのは確かなのですから。」

 

「うんざりするような連中じゃないか。クラウチの再来ってわけかい? ……とにかく、レミィと協力して抗議は続けてくれ。現状だとブラックなんぞよりバカ島のバカ看守のほうが厄介だぞ。」

 

「無論です。わしもそれなりに怒っておりますのでな。強く抗議することにいたしましょう。」

 

ダンブルドアが真面目な顔でそう言ったところで、入り口のガーゴイルが動き出す音が響く。部屋の主が怪訝そうにしている以上、予定されていた来客ではないのだろう。

 

「おや、お客さんだよ。……スネイプやマクゴナガルじゃないな。姿を消そうか?」

 

足音で大体分かるのだ。マクゴナガルなら規則正しいクソ真面目な足音だし、スネイプはいつも盗人のように足音を隠している。……実に正反対の二人だな。

 

「そうしていただけますかな?」

 

「はいはい。」

 

ソファから立ち上がって能力で姿を消す。ルーピンの可能性もあるが……まあ、念には念をだ。ホグワーツの校長が吸血鬼と悪巧みでは外聞も悪かろう。

 

部屋の隅に移動して待っていると、ノックの音と共に来客が名乗りを上げた。

 

「ラデュッセルです。入ってもよろしいでしょうか?」

 

「おお、どうぞお入りください。」

 

おっと、件のキツネ野郎か。ラデュッセルはぺこりと一礼しながら入ってくると、いつもの胡散臭い笑みを浮かべながら口を開く。……しかし、その喪服みたいなスーツは趣味が悪いな。ネクタイまで黒じゃないか。

 

「ご報告がありまして。お邪魔させていただきました。」

 

「それはご足労をおかけしましたな。どうぞ、お座りくだされ。」

 

「それでは失礼して……。」

 

なんともまあ、他人行儀なやり取りだ。当然ながら別に相手を尊重しているわけではあるまい。お互いに腹の中を隠しているのが丸わかりだぞ。

 

ダンブルドアが紅茶を出したのに丁寧に礼を言ったラデュッセルは、早速とばかりに話を切り出した。

 

「クィディッチ競技場での一件を私からもアズカバンへと伝えたのですが……残念ながら、警備は継続せよとのことでした。そちらに届いている手紙の通りとなります。」

 

「ふむ。ホグワーツの領内には入らないという取り決めだったはずですが? アズカバンの方々は生徒の命を軽視しすぎのように思えますな。」

 

「こちらとしても今回の一件は重く受け止めております。吸魂鬼たちにも厳重な注意をした上で、今回の反省を活かし──」

 

長々とラデュッセルがたわ言を喋っているが、要するに警備の件を譲る気はないということだろう。こいつが『反抗勢力』とやらの一員なのか、はたまたアズカバンの面子がそうさせるのかは知らないが、何とも厄介なことだ。

 

「──も行なっております。今後は決して校内には入れさせませんので、その点はご安心ください。」

 

「実に丁寧な説明じゃ。しかしながら、老人には少々分かり難いのう。……つまり、次に何か起これば吸魂鬼たちを連れて帰ってくれるのですな?」

 

おやおや、ダンブルドアが軽い皮肉を放ったぞ。この男も結構イラついているようだ。こんなにトゲトゲしいダンブルドアは初めて見た。

 

ラデュッセルは僅かに目を細めるが、刹那の後には再び笑顔の仮面を被り直す。イギリスの英雄どのに睨まれてこれか。度胸だけはあるらしい。

 

「……そう取っていただいても構いません。私の責任において、そんな事態は起こらないと約束しましょう。」

 

「実に頼もしいお言葉じゃ。期待しておりますよ。」

 

ダンブルドアの空虚な言葉を受けて、ラデュッセルはゆっくりと立ち上がる。……結局紅茶には手をつけなかったな。実に分かりやすい意思表示じゃないか。

 

「それでは、これで失礼させていただきます。」

 

「いやはや、わざわざ申し訳ありませんでしたな。今後は決して校内に入れないように、くれぐれもよろしくお願いいたしますぞ。」

 

「無論です。」

 

最後にもう一度ダンブルドアが釘を刺したのに大きく頷いてから、ラデュッセルは校長室を出て行った。

 

気配が完全に遠ざかったのを確認した後、姿を現して口を開く。

 

「……何と言うか、信用できない男だったね。」

 

「あまり人の悪口は好きではありませんが……そうですな、同意いたします。」

 

「また意見があったじゃないか。先日の大雨はこの所為かな? ……ともあれ、問題はあの男が何を望んでいるのかだ。アズカバンの面子か、出世か。シリウス・ブラックが狙いなのか、こちらの失態を誘いたいのか。ハッキリしないうちは厄介な駒になるぞ。」

 

あのキツネ野郎は盤面に紛れ込んだイレギュラーだ。どちらにせよ厄介なのは確かだが、背後関係がまるで見えないままでは対処に困る。

 

ダンブルドアにもそれは理解できているのだろう。小さなため息を吐いた後で、苦々しげに頷いた。

 

「数人の知り合いへと手紙を送ってみましょう。アズカバンはあまりにも閉鎖的すぎる。あの場所への繋がりを持った者は多くはありませんが……ひょっとすれば、ラデュッセル刑務官を知っている者がいるかもしれません。」

 

「私からもレミィに調べるように言っておこう。……今年は吸魂鬼か。うんざりするね。」

 

後頭部、バジリスク、吸魂鬼か。来年辺りはドラゴンでも現れそうだな……いや、ドラゴンは一年目で経験済みだった。さすがに二度目は無いだろう。

 

トラブル続きの学校生活を思って、アンネリーゼ・バートリは大きなため息を吐くのだった。

 

 

─────

 

 

「ありがとう、マリサ。君は僕の命の恩人だ。だから……本当にありがとう。」

 

医務室のベッドに横たわるハリーが礼を言ってくるのに、霧雨魔理沙はブンブンと首を振っていた。そこまで真っ直ぐ言われると照れるぜ。

 

「当然のことをしたまでだろ? それに……ニンバスまでは気が回らなかった。すまんかったな、ハリー。」

 

「なに言ってるのさ。あの状況じゃ仕方ないよ。命があるだけでもラッキーなんだ。」

 

ハリーは笑顔でそう言っているが……うん、完全に無理をしている。まるで自分に言い聞かせているかのような痛々しさだ。見てられんぞ。

 

あの豪雨の試合の後、ハリーの箒はバラバラになった状態で発見されたのだ。なんでも競技場から遥か彼方の……暴れ柳? とかいう木の場所まで飛んでいって、そいつに激突してしまったらしい。

 

結果としてそいつを怒らせたニンバスは、原型がわからなくなるほどに破壊されてしまったとのことだ。今もベッドの横にはその亡骸が詰まった袋が置かれている。

 

クィディッチをやっている者なら誰もが理解できるだろうが、箒は杖と同じくらい大事な相棒だ。まだ出会って半年ほどの私だってそうなのに、ハリーにとってのニンバスは三年間共に戦ってきた戦友である。そのショックは計り知れまい。

 

袋を見て落ち込んでいる私を見て、ハリーが元気付けるように話しかけてきた。ダメだな。元気付けに来たってのに、これじゃあ逆じゃないか。

 

「マリサは最高のキャッチをしてくれたよ。悪いのは僕さ。吸魂鬼や犬に気を取られて箒から落ちるだなんて、自分が情けないよ。」

 

「仕方がないさ、吸魂鬼は厄介な……犬? 犬ってのは?」

 

励まそうとする途中で、謎の言葉を聞き返してしまう。クィディッチ競技場に野良犬でも入ってきたということだろうか?

 

キョトンとする私を見て、ハリーが苦笑しながら説明してくれた。

 

「あー、みんなには言わないでね? また騒がれちゃうから。……スニッチを追って飛んでる時に大きな黒い犬が見えたんだ。それでまあ、死神犬かと思って気を取られちゃったんだよ。」

 

「死神犬? 死神の飼ってる犬なのか? あの連中は年がら年中船を漕いでるんだと思ってたが、犬を飼ったりもするんだな。」

 

死神の大半は社宅住まいだと聞いていたのだが……ペット可だったのか。魅魔様から教えてもらった地獄や冥界についてを思い出していると、ハリーもまたキョトンとした顔に変わって口を開く。

 

「えーっと、死神が飼ってるわけじゃないと思うよ。その犬を見たら死んじゃうらしいんだ。占い学で取り憑かれてるって言われてるんだけど……そもそも死神って本当にいるの?」

 

「いる……よな? こっちにはいないのか?」

 

「僕はこう、おとぎ話の存在だと思ってたよ。ニホンじゃ普通に見かけるの?」

 

おっと、ヤバいな。何かしらの食い違いが発生しているようだ。死神犬なんて言われたから、てっきりこっちでも普通にいるのかと勘違いしてしまった。……いやまあ、いるにはいるんだろうが。

 

「えっと、日本でもまあ……伝説の生き物的な? そんな感じだぜ。」

 

「そっか。そりゃあそうだよね。普通に死神を見かけるなんてあり得ないか。」

 

残念ながら、幻想郷じゃ有り得なくもないぞ。たまに人里の茶屋でサボってるし、おまけに説教をしている閻魔まで見られる始末なのだ。よく考えたら滅茶苦茶だな。

 

……どうやら、もっと気をつけないといけないようだ。別に秘密にしろと言われているわけではないが、あんまりペラペラ話すのもマズかろう。噂の賢者どもはあそこを隠しておきたいようだし、口が軽いと消されるかもしれない。

 

壁に耳あり障子に目あり。自分に釘を刺してから、再びハリーへと言葉を放つ。

 

「とにかく、その死神犬とやらを見たならヤバいんじゃないか? 死ぬんだろ?」

 

「それが微妙な感じなんだよね。マクゴナガル先生は馬鹿馬鹿しいと思ってるみたいだし、ハーマイオニーやリーゼも同感なんだって。なんというか……オカルト話扱いらしくてさ。」

 

「あー……なるほど。そういう類の代物か。それならまあ、気にすることはないと思うぜ。」

 

マクゴナガルやハーマイオニーはともかくとして、リーゼが言ってるなら問題なかろう。大体、見たら死ぬだなんて強力すぎる。そんなにヤバい存在は幻想郷にだってそういないぞ。……ちょっとはいるけど。

 

私が苦笑しながら言ってやると、ハリーは安心したように頷いた。どうやら少しだけ気にしていたようだ。

 

「そうだよね。……そういえば、そっちの傷はもういいの? 傷跡が残ったりはしないよね?」

 

「大丈夫、大丈夫。綺麗さっぱり消えてるぜ。ポンフリーに感謝だな。」

 

一転して心配そうになったハリーに、しっかりと頷いて返事を返す。脱臼も捻挫も擦り傷も、ポンフリーは瞬く間に治してしまったのだ。今じゃあ怪我したのかも分からないぐらいに回復している。

 

「そっか……本当に良かった。マリサは女の子なんだしね。傷跡なんか残ったらと思うとゾッとするよ。」

 

「まあ、私は別にどうでもいいけどな。ハリーの傷跡もカッコいいと思うぜ。ヴォル……ヴォルヴォルモー? とか何とかをやっつけた時の傷跡なんだろ?」

 

私が傷跡を指してそう言うと、いきなりハリーがお腹を抱えて笑い始めた。……何だ? ジョークを言ったつもりはないのだが。

 

ひとしきり笑った後で、ハリーは目に浮かんだ涙を拭いながら口を開く。

 

「そうそう。その『ヴォルヴォルモー』をやっつけた時についちゃったんだ。……いや、この傷跡で笑えたのは初めてだよ。ヴォルヴォルか。そっちの方が絶対にいいね。」

 

「何でそんなに笑ったんだ? ……まあ、元気が出たなら何よりだぜ。」

 

なんだかよくわからんが、これで元気付けるという当初の目的は達成できたわけだ。ベッドの脇の椅子から立ち上がって、未だ笑いの発作に襲われているハリーへと言葉を放つ。

 

「そんじゃ、私は行くから。ちゃんと休めよな、ハリー。」

 

「ああ、来てくれてありがとう、マリサ。お陰で元気が出たよ。」

 

笑顔のハリーに手を振ってから医務室を出ると……おお? 何故かドアの向こうで双子が待ち伏せていた。顔にはお揃いの悪戯げな笑みが浮かんでいる。要するにまあ、いつもの顔だ。

 

「よう、双子。お前らもハリーのお見舞いか?」

 

「それもある。しかし、それだけではないのだ。今日は最高のキャッチを見せてくれた後輩に贈り物があるのさ。」

 

ニヤリと笑って言うジョージに続いて、フレッドも同じ表情で続けてきた。

 

「その通り! あれだけのキャッチでトロフィーが貰えないなんて間違ってるだろ? トロフィー室から良さげなのを失敬しようかとも思ったんだが、それよりも相応しい贈り物があるのを思い出してな。」

 

言葉と共にフレッドが……なんだそりゃ。くたびれた羊皮紙を差し出してくる。こりゃまた、随分なトロフィーだな。こんなもん浮浪者だって喜ばないぞ。

 

「ありがとうよ、フレッド、ジョージ。暖炉の焚き付けにでも使わせてもらうぜ。」

 

肩を竦めて言う私に対して、双子は慌てたように説明してきた。

 

「まてまて、早まるな。別にそういうジョークってわけじゃないんだよ。その羊皮紙を広げて杖を置いてみな。」

 

「そしてこう唱えるんだ。『我、よからぬことを企む者なり』ってな。そうすりゃその羊皮紙の価値が分かるはずだぜ。」

 

「……ホントかよ?」

 

ニッコリ顔で頷く双子をジト目で見ながら、一応言われた通りにやってみると……おお、こりゃすげえ。杖を置いた部分から徐々にホグワーツの地図が浮かび上がってきた。じわじわとインクが広がっていくみたいだ。

 

広大なホグワーツを詳細に描いた地図の一番上には、『ムーニー、ワームテール、プロングズ、パッドフット、ピックトゥース。我らがお届けする自慢の品、忍びの地図』と書かれている。

 

魔法っぽい物にワクワクし始めた私に、双子は得意げな表情で説明してきた。

 

「どうだ? すげえだろ。偉大なる先輩方からの贈り物さ。隠し通路、隠し部屋、隠し階段。そういうのも殆どが載ってるんだ! ダンブルドアだってこんなには知らないぞ。」

 

「それに、地図だけじゃない。そこら中で動いてる点を見てみろよ。……名前が書いてあるだろ? つまり、ホグワーツ中の人間が何処で何をしてるかが丸わかりなのさ! これがあればフィルチなんか怖くないぜ!」

 

「めちゃくちゃすげえ。……でも、いいのか? これがないと困るだろ?」

 

コイツらの『偉業』はこれによって支えられていたわけだ。となればこの地図が無ければ困るだろうと思ったのだが……そうでもなさそうだな。双子は満面の笑みのままだ。

 

「心配ご無用! 隠し通路は殆ど頭に入ってるし、もうフィルチに見つかるようなヘマはしないさ。俺たちは十分過ぎるほどに経験を積んだんだよ、後輩。」

 

「つまり、これを誰かに受け渡す時が来たというわけだ。お前には悪戯の才能があるぜ、マリサ。俺たちくらいになると、雰囲気でそれが分かるんだ。」

 

悪戯の才能か……うーむ、コイツらにそう言われると悪い気はしないな。そういうことならありがたく貰っておくとしよう。

 

「へへ、そうまで言われちゃ断れないな。霧雨魔理沙の名にかけて、この地図に相応しい悪戯をしてみせるぜ。」

 

鼻を掻きながら言ってやれば、双子は嬉しそうに頷いた。

 

「それでこそだ、マリサ! 我らが意思、偉大なる先輩方の意思、確かにお前へ引き継いだぞ。」

 

「使い終わったら杖を乗せて『いたずら完了』で元の羊皮紙に戻るからな。それじゃ、上手く使えよ!」

 

最後にビシリと敬礼した後、双子は医務室へと入って行った。それに戯けて敬礼を返してから、早速杖を乗せて言葉を放つ。

 

「いたずら完了。」

 

途端に地図は消えて、元の古ぼけた羊皮紙に戻った。いやはや、こいつはいい物を貰ったぞ。最高の贈り物じゃないか。

 

……よし、先ずは隠し部屋やら通路やらを探検してみよう。こんなに面白い城なんだ、隠されているものはもっと面白いに違いない。

 

ポケットに地図をしまい込みながら、霧雨魔理沙は足取り軽く歩き出すのだった。

 


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