Game of Vampire   作:のみみず@白月

140 / 566
レミリア・スカーレットと二つの悪
トライ・ウィザード・トーナメント


 

 

「三大魔法学校対抗試合?」

 

魔法ゲーム・スポーツ部の応接用ソファに座りながら、レミリア・スカーレットは部長であるルドビッチ・バグマンに聞き返していた。やっすいソファだな。応接用だけはまともなのを用意すべきだぞ。

 

今日はワールドカップのチケットを強請りに来ているのだ。リーゼがアホみたいな量のチケットを安請け合いしてきたせいで、贈られてくる分だけでは足りなくなってしまった。あのペタンコ吸血鬼はチケットの価値を正しく認識していないらしい。結構貴重なんだからな。

 

そこでワールドカップの責任者であるバグマンに『おねだり』してみたところ、生意気にもチケットを渡す代わりに協力して欲しいという要請が飛んできたわけだ。その……なんちゃら対抗試合とやらに。

 

疑問顔で問いかけた私に、バグマンはハンカチを額に当てながら説明を口にし始める。丸顔の大柄な魔法使い。……ちょっとアホっぽいところが減点対象だな。

 

「はい、ご存じないのも無理はありません。ホグワーツ、ボーバトン、ダームストラングの三校から一人ずつ代表者を選び、魔法力、知力、勇気を競い合うというイベントなのですが……その、かなりの数の死者が出たということで、二百年ほど前に中止されたのです。」

 

「それで? その『かなりの数の死者が出る』催しとやらを、なんだって再開しようとしてるのかしら? 生徒を殺しまくりたいってこと?」

 

「もちろん違いますとも! 確かに二百年前には危険があったのは事実です。……しかしながら、三校の連携を強める行事としてこれ以上のものはないでしょう? 魔法ゲーム・スポーツ部と国際魔法協力部にとってはこの催しの再開こそが悲願でした。十重二十重の安全策を整え、そしてワールドカップによって訪れた各国の代表と話し合うことも出来た。今こそ再開の機は熟したのです!」

 

ふーん。……まあ、話は理解できた。確かに魔法学校同士の繋がりは薄い。ダームストラングは秘密主義だし、ボーバトンは気位が高すぎる。そしてホグワーツには常識がないのだ。魔法界の将来を思えばその溝を埋めようとするのは悪くない考えだろう。実現できるかは微妙なとこだが。

 

興奮のせいで頰を赤らめているバグマンに、頬杖をつきながら返事を返す。力説してるところ悪いが、今のところあんまり興味は湧いてこないな。

 

「理念は理解できたわ。大いに結構、勝手にやればいいじゃない。どうして私の協力が必要なの?」

 

「それがその……ボーバトンの代表から、是非スカーレット女史を審査員にとの要望がありまして。両校の生徒たちも貴女に一目会いたいと言っているらしいのです。」

 

「あら、大陸の魔法使いはイギリスと違って義理堅いみたいじゃない。受けた恩を忘れてはいないようね。」

 

イギリス魔法省とは大違いではないか。禿げかけシックネスやらハエ取り女やらもちょっとは見習うべきだぞ。そういうのが私に対する正しい反応なのだ。

 

冷たく言い放った私にちょっと縮こまりながらも、バグマンは説得を続けてくる。

 

「ええ、ええ、おっしゃる通りです。私も大陸の方々と話してスカーレット女史の偉大さを再認識いたしました。……なので、どうか審査員をお願いできないでしょうか? ボーバトンやダームストラングの子供たちの夢を叶えてやって欲しいのです。」

 

なんかこう、煽てられてる感じもするが……ふん、いいだろう。大陸の生徒たちは中々見所があるようだし、審査員くらいなら受けてやっても構うまい。それにまあ、ホグワーツに行けば咲夜にも会えるし。最近リーゼは子離れしろと煩いが、仕事ならば仕方がないのだ。不可抗力なのだ。

 

オドオドとこちらを窺うバグマンに、尊大に頷きながら了承の返事を放った。

 

「そういうことなら構わないわ。審査員とやらを受けてあげようじゃないの。」

 

「おお、それはありがたい! 本当にありがたいことです! これで大陸の方々もお喜びになるでしょう。さっそく両校の校長へと伝えさせていただきます。」

 

「ボーバトンはオリンペが校長をやってるのよね。……ダームストラングは誰だったかしら? まだアレクセイが勤めてるの?」

 

ボーバトンの校長であるオリンペ・マクシームのことはよく知っている。割とこまめに手紙を送ってくるし、フランスに出向いた際には何度となく顔を合わせているのだ。

 

ダームストラングも数年前まではちょくちょく手紙を送ってきていたものの、ここ数年はめっきり便りがない。恐らくアレクセイから関わりのない誰かに校長が変わったのだと思うのだが……。

 

私の懸念を肯定するように、バグマンは大きく頷きながら返答を放ってきた。

 

「いえ、アレクセイ・クリヴォフ氏は校長を退いております。今は、あー……イゴール・カルカロフ氏が校長を務めておりますな。はい。」

 

「……イゴール・カルカロフ? 元死喰い人じゃないの。」

 

そいつはムーディによる『犠牲者』の一人だったはずだぞ。確か……司法取引でアズカバンを逃れたんだったか? 小物だったことは間違いないが、まさかダームストラングで校長をやってるとは思わなかった。あの学校のコンプライアンスはどうなってるんだ。

 

顔を引きつらせる私に対して、バグマンは慌てたように弁解を捲くし立ててくる。

 

「いえ、いえ! 今はもう改心なさったようでして。死喰い人との繋がりはないとハッキリ公言されております! でなければ校長などやれるはずがないでしょう?」

 

「どうかしらね。ダームストラングってとこが実に『らしい』とは思わない? ……ま、いいわ。きちんと法で無実となってるのであれば、私だって口煩くは言わないわよ。」

 

「それはありがたい。非常にありがたいお言葉です。」

 

恐縮したようにペコペコお辞儀をするバグマンを見ながら、立ち上がって口を開く。いやまあ、よく考えれば問題ないだろう。奴は仮面のお仲間を売りまくったのだ。今更死喰い人どもと繋がっていることなど有り得まい。むしろ恨み骨髄で狙われている可能性すらあるぞ。

 

「それじゃ、詳しい話は手紙で知らせて頂戴。……ああ、チケットありがとうね。お陰でワールドカップを楽しめそうだわ。」

 

「また必要になったらいつでもおっしゃってください。最優先で席を確保させていただきます。」

 

結局最後までハンカチを手放さなかったな。汗かきバグマンを尻目に魔法ゲーム・スポーツ部のドアを抜けて、見慣れぬ魔法省地下七階の廊下を歩き出す。ちょっと面倒事は増えたものの、一応ミッション成功だ。

 

しかし、来た時も思ったが……何というか、ボロっちいな。魔法法執行部がある二階や魔法事故惨事部がある三階とは雲泥の差だ。壁紙は所々がハゲているし、明かりもチカチカ切れかかっている。魔法を掛け直す価値もないと言わんばかりじゃないか。

 

アトリウムはすぐ下なのでエレベーターではなく階段の方へと歩いていると……おや、マグル製品不正使用取締局なるプレートが見えてきた。確かアーサーの仕事場だったはずだが、なんで七階にあるんだ? 執行部の管轄なのだから、二階にあるべき局だろうに。

 

恐らく魔法省で最もボロボロなドア……いや、四階の生物課よりはマシか。あそこのドアには行く度に別の爪痕が刻まれているのだ。二番目にボロボロなドアを開けてみると、物置のような狭さの部屋にテーブルが二つ置かれているのが見えてきた。紅魔館のトイレよりも狭いぞ。

 

「……スカーレット女史? これは、一体どうしたんですか?」

 

奥側のテーブルで事務作業をしていたアーサーが声をかけてくるのに、部屋をキョロキョロ見回しながら返事を返す。手前のテーブルでは赤毛の息子……パーシーだったか? が慌てて立ち上がっている。どうやら局員はこの二人だけのようだ。

 

「ちょっとバグマンに用事があってね。見慣れた名前のプレートがあったから入ってみたってわけ。……しかし、なんでこの階に部屋があるのよ。執行部直下の組織なんだから、二階にあって然るべきでしょうに。」

 

「どうも上の方々はこの局の仕事を、あー……重要だとは考えていないようでして。局員も二人だけですし、この階の空き部屋に追いやられてしまったんです。」

 

「呆れた。アメリアがそんなことを許すはずないし、どうせどっかのバカが独断でやったんでしょ。……私から抗議してあげましょうか?」

 

アーサーとはそれなりに長い付き合いなのだ。アメリアに文句を言うくらいなら安いもんだが……ふむ、どうやらアーサーはこの『犬小屋』を受け入れるつもりらしい。首を振りながら困ったように断りの返事を放ってきた。

 

「いえ、それには及びません。この部屋でもやってやれないことはありませんから。……だろう? パース。」

 

アーサーが息子兼唯一の部下へと同意を求めると……うーむ、あまりの狭さに立ち上がれずにオタオタしている。こいつ、リーゼの言では学年首席だったはずだぞ。何だってこんな局に就職したんだ? 被虐願望でもあるのか?

 

「えっと、はい、父さん……じゃなくて、局長。ここでも問題ありません。ペンを動かすスペースはありますから。」

 

「それすらなかったら窒息して死んでると思うけどね。……まあいいわ、この部屋の酸素が無くならないうちに用件を済ませちゃいましょう。はいこれ。」

 

私が先程『おねだり』したチケットの束から家族分の枚数を抜いて差し出してやると、アーサーはキョトンとしたような顔で受け取りながら口を開いた。

 

「ええと、これは?」

 

「ワールドカップのシーズンチケットよ。リーゼがロンにお願いされたらしくてね。家族分あるから、みんなで楽しみなさいな。」

 

「それは……なんとも申し訳ありません! わざわざご足労をおかけしたようで。ロンのやつ、一体何を考えているんだか。」

 

「別に気にしなくっていいわよ。勝手に安請け合いしちゃったのはリーゼだしね。それにほら、まだまだあるわ。」

 

残った束を振りながら言ってやると、アーサーはペコペコ頭を下げて再びお礼を言ってきた。向こうのパーシーも机にガンガンお腹をぶつけながら必死に頭を下げている。うーむ、ちょっとだけ面白いな。部屋の狭さも相まって、若干コメディチックな光景だ。

 

「いや、本当にありがたい限りです。家族みんなで楽しませていただきます。」

 

「ええ、そうして頂戴。……それじゃあね。」

 

言いながらボロボロのドアを抜けて、再び七階の廊下を歩き出す。アーサーはああ言っていたが、やっぱりアメリアに一言伝えておくべきだろう。忠実な駒にはきちんと報いねばなるまい。それが支配者としての義務なのだ。

 

二階に向かうために階段からエレベーターへと方向を変えながら、レミリア・スカーレットは古ぼけた廊下をひた歩くのだった。

 

 

─────

 

 

「これを見て頂戴、リーゼ!」

 

図書館の魔女が突き出してきた羊皮紙の束をぼんやり見ながら、アンネリーゼ・バートリはだらりとソファに寝そべっていた。もう起き上がるのも億劫だぞ。

 

ヒマなのだ。咲夜はアリスと一緒に魔理沙のいる人形店へと遊びに行ってしまったし、レミリアはチケットを強請りに魔法省へ。美鈴と小悪魔は分霊箱探しと銘打った食い道楽旅行の真っ最中である。

 

ピコピコで遊ぼうにもフランは寝てしまったし、暑い中どこかへ出かけようとも思えない。魔法で冷え切ったリビングでゴロゴロしていたところ、同じく暇を持て余したパチュリーがいきなり謎の羊皮紙の束を突きつけてきたというわけだ。

 

「見るのも嫌な量だね。……何なんだい? それ。」

 

寝そべったままで問いかけてみると、パチュリーはよくぞ聞いてくれたと言わんばかりに説明を始める。ああ、面倒くさい予感がするぞ。

 

「図書館の設計図よ! ついに完成したわ。私の、私による、私のための図書館! 世界一の図書館! 完璧な図書館!」

 

凄まじいな。ここまでテンションの高いパチュリーを見たのは何年振りだろうか。そういえば、去年の今頃に世界一の図書館がどうだのって言っていたような気もするが……こいつ、まさか一年間もそんなことを考えて過ごしてたのか? ボケて時間の感覚がおかしくなってるんじゃないだろうな?

 

「あー……うん、拝見しようじゃないか。」

 

「じっくり見て頂戴。隅々までよ!」

 

ドン引きしながら受け取って、パラパラとそれに目を通してみれば……ふむ、図書館というよりは迷宮に近いな。誰かが利用することなど一切考えていない、文字通り『死ぬほど』迷惑なダンジョンの設計図だ。

 

私の呆れを他所に、パチュリーは滅多に見れない満面の笑みで説明を捲し立ててきた。こいつの笑顔ってのは何でこんなに不気味なのだろうか?

 

「いい? 基本的には正方形のブロックがいくつも集まることで形成されているの。咲夜の能力で空間を歪めてもらって、理論上永遠に続く図書館になるわけよ。つまり、こことここが繋がってるから、何処まで行っても一瞬で入り口に戻ることができるわけ。……ああ、心配しなくても大丈夫よ。全部のブロックにちゃんと本棚はあるから。」

 

「それはそれは、安心したよ。本棚がなくちゃ大変だからね。心配で心臓が止まりそうだったんだ。」

 

「そうよね、最初に説明しておくべきだったわ。本棚に関しての説明は……ここね。ほら、ここに書いてある通り、本棚には形状変化の魔法をかけた──」

 

もはや私の皮肉も通じないようで、パチュリーはぶっ壊れた蓄音機みたいに延々と喋り続けている。うーむ、鬱と躁の差が激しすぎるな。じめじめパチュリーも面倒くさいが、ぺちゃくちゃパチュリーはもっと面倒くさいようだ。

 

このままだと数日間は続きそうな『発表会』に、強引に割り込んで遮る。ダンブルドアもそうだが、人間ってのは長く生きるとちょっとおかしくなってしまうのかもしれない。最近のアリスもぶっ飛んだことをするようになってきたし。

 

「そこまでだ、パチェ。キミの熱意は伝わったよ。」

 

「──だから本の品質を落とすことなく、それぞれの本に適した温度と湿度で……何よ、まだまだ説明することがあるわ。聞きたいことも沢山あるでしょう?」

 

「ああ、聞きたいのは山々なんだが、それでキミの時間を奪うのも心苦しい。だから端的に纏めようじゃないか。……先ず、咲夜の能力はもう実用段階にあるのかい?」

 

夏休みに入ってから毎日のように特訓している……というか、させられているのは目にしているが、少なくとも捻れた廊下はそのままなのだ。今や紅魔館の名所の一つとなったあの場所は、今日も元気にぐにゃんぐにゃんしている。妖精メイドたちも遊び場が増えて嬉しかろう。

 

「それは……まだよ。でも、あと三年か五年も経てば問題なく習得できるはずだわ。一瞬じゃないの。」

 

「……なるほど、確かに一瞬だね。」

 

皮肉なことに、時間に対する感覚が逆転してしまったようだ。かつて人間だったパチュリーは長命種特有の感覚を手に入れ、そして今の私は一年ですら長く感じられる。参ったな。ちょっと『人間らしい生活』にのめり込み過ぎてるのかもしれない。

 

思えば一年生の頃に比べて、三年生の学生生活はずっと長く感じた気がするぞ。……良いことなのか、悪いことなのか。今度レミリアにでも話を振ってみるか。

 

「つまり、今すぐに実現するようなものじゃないってことだろう? もう少し考えを練っておきたまえよ。……それより、リドル対策の方はどうなってるんだい?」

 

適当にあしらいながらも話題を変えてやると、パチュリーはいきなりつまらなさそうな表情に変わって口を開いた。分かりやすいヤツだ。

 

「どうにもなってないわよ。もう残りの分霊箱を探して、その後ハリー・ポッターにリドルを殺させるだけじゃない。どっちも私の仕事じゃないでしょう? 分霊箱が見つかったら適当に調べてあげるから、それ以外の時間は趣味の研究に回させて頂戴。」

 

うーん、ドライというか、魔女らしいというか。これも逆転現象の一つだな。今や吸血鬼の方がゲームにのめり込み、動かない大図書館は趣味に生きているわけだ。

 

まあ、確かにそうだな。不死の秘密はパチュリーがしっかりと暴いたわけだし、ここからは私たちの仕事だろう。レミリアが魔法省を操縦し、私がハリーを鍛える。その間に探索班が分霊箱を探し出し、来るべき日に舞台を整えてリドルを殺す。そんな感じの流れになるはずだ。

 

アリスも独自にちょくちょく探索をしているようだし、今年中に一つか二つは見つけられると思うが……そういえば、全部で何個かは発覚したのだろうか?

 

「そりゃそうだが、結局分霊箱は全部でいくつあるんだい? 髪飾りからは分からなかったのか?」

 

パチュリーに問いかけを放ってみると、彼女は面倒くさそうに首を振りながら答えを返してきた。

 

「残念ながら髪飾りは三番目に作られた分霊箱だったから、正確な数は未だ不明よ。日記帳、ゴーントの指輪、そしてレイブンクローの髪飾りの順番ね。」

 

「ダンブルドアの推理によれば、ボージン・アンド・バークス時代にどこぞの資産家魔女を殺して、ハッフルパフのカップとスリザリンのロケットを手に入れたらしいから……それが分霊箱だとすれば五つか。本人も含めて六つに分かたれた魂。それで全部だと思うかい?」

 

「あくまでも予想になるけど、六つで止めるくらいならもう一つ作るんじゃないかしら? 七ってのは魔法的に力のある数よ。リドルはそういうことに拘るタチみたいだし、有り得ない話じゃないと思うわ。」

 

「ふぅん? 六も結構良い数字だと思うんだが。……ほら、モルガナの六芒星とか、あとは何だっけ? 黙示録の獣? とか。」

 

私がぼんやりした知識で問いかけてみると、パチュリーは鼻で笑いながら訂正を加えてきた。……なんかムカつくな。こいつはやっぱり教師には向かないようだ。

 

「あのね、六芒星が表してるのは七よ。六芒星の上に自分や供物を置くことで、七番目の存在を力付けているの。それに黙示録の獣の頭は七つ。666が表しているのは人間の不完全さだわ。魔法的に見れば六よりも七の方がよほど強力な数字なのよ。イギリス出身のブリジット・ウェンロックが証明済みじゃない。ホグワーツの卒業生でしょ? 知らないの?」

 

「ご高説どうも。……とにかく、後一つ未知の分霊箱がある可能性が大きいわけだ。もう少しヒントを探す必要があるね。」

 

決めた。今度からこういう質問はアリスに聞こう。アリスなら快く教えてくれるはずだ。もっと丁寧に、もっとやんわりと、もっと優しい笑顔でな! お前のようにネチネチとなんか言ってこないぞ! この陰湿ジメジメ魔女が!

 

ジト目になった私の言葉に、パチュリーは頷きながら同意してくる。

 

「まあ、その辺はアリスかダンブルドアの領分でしょ。リドルの人となりを知らない以上、私たちがいくら考えたって無駄よ。」

 

「そりゃそうだ。……それじゃ、私はダンブルドアへ手紙を書きに行こう。善は急げ、悪も急げ、だ。」

 

立ち上がって執務室へと向かおうとするが……くそっ、パチュリーが私の服を掴みながら羊皮紙の束を突きつけてくる。おのれ悪しき魔女め。まだその妄想図書館に付き合わせる気か。討伐隊を組むぞ。

 

「待ちなさい、リーゼ。他人の意見もちゃんと取り入れたいのよ。貴女の話を聞いたんだから、今度は私の話を聞くべきだと思わない?」

 

「離すんだ、パチェ。私はキミの図書館になど微塵も興味がない。こあが帰ってきたら延々話してればいいじゃないか。他には誰も聞きやしないぞ。」

 

「本音が出たわね、性悪吸血鬼! 逃がさないわよ。せっかく考えたんだから、誰かに話を聞いて欲しいの! 自慢したいの!」

 

「壁にでも話していたまえ! キミはそれが大得意だし、大好きだろう? 壁はキミのことが嫌いだろうがね!」

 

服を握りしめて離さないパチュリーをぐいぐい引っ張っていると、やがて彼女は窓の外を指差しながら高らかに宣言してきた。

 

「ええい、弾幕ごっこで勝負よ、リーゼ! 私が勝ったら夏休み中は図書館の話に付き合ってもらうわ! ずっとね。ずっと!」

 

「いい度胸じゃないか。私が勝ったら二度とその『妄想』には付き合わんからな。壁と仲良くお茶会を開きたまえよ?」

 

「ふん、吠え面かかせてやるわ。表に出なさい!」

 

「んふふ、十分後が楽しみだね。またむきゅむきゅ言ってるに違いない。」

 

お互いに罵倒を飛ばしながら窓から外へと浮かび上がる。……負けるわけにはいかんぞ。あんな馬鹿みたいな改築案に付き合ってたら、ノイローゼでおかしくなってしまう。夏休み中はゴロゴロすると決めてるんだ。

 

妖力を身体中に漲らせつつ、アンネリーゼ・バートリはクソ暑い真夏の昼空へと翼を広げるのだった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。