Game of Vampire   作:のみみず@白月

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消えた男

 

 

「可能性はいくつかあるわ。」

 

ホグワーツの校長室のティーテーブルを挟んで、レミリア・スカーレットは部屋の主人と向き合っていた。……ふむ、ダンブルドアはいつにも増して草臥れているような気がするな。話題の所為か?

 

当然ながら議題はアリスからの報告だ。フランスに出向させている彼女からの報告によれば、拠点を制圧した際に闇の印が刻まれた腕を証拠として手に入れたらしい。……腕を『手に入れた』? しかも初日に? あの人形娘は一体何をやってるんだ?

 

いよいよもって『紅魔館』に毒されてきたのかもしれんな。結構な危険人物になってきた金髪魔女のことを考えつつも、ダンブルドアに向かって話を続ける。

 

「先ず、単にリドルの残党が件の組織へと参加していた可能性。正直これが正解だったら嬉しいんだけど……まあ、あんまり期待しないほうがよさそうね。希望的観測にも程があるわ。」

 

「同感ですな。ハリーの『悪夢』と合わせて考えれば、トム本人が関わっているとみて間違いないでしょう。となれば、問題はどのような立場で関わっているかですが……。」

 

うーむ、リドルは下っ端に甘んじるような性格じゃないだろうし、発見された左腕の持ち主は死喰い人としてその場に居たのだろう。つまり、リドルの部下としてだ。でなきゃあんなバカみたいな刺青は入れまい。

 

言葉の途中で黙考し始めたダンブルドアに向かって、自分の考えを整理するためにも口を開く。

 

「一つ目、二つの勢力が協力体制にある可能性。要するに、グリンデルバルドの残党と死喰い人が所謂……『同盟』を組んでいる可能性ね。私はこっちが正解だと考えているわ。主義主張は違えど、そのどちらもが反体制派。おまけに力を失った勢力よ。藁にも縋る思いで協力しててもおかしくないでしょ?」

 

中核が根こそぎアズカバン行きになった死喰い人と、旗頭が不在のグリンデルバルドの残党。つまりは負け犬連合というわけだ。どっちも私のことをさぞかし恨んでいることだろう。……ふん、大人しく自分の尻尾でも追いかけてればよかったものを。キャンキャン鳴くから撃たれる羽目になるんだぞ。

 

二度の戦争で得た負債について考えながらも、続けてもう一つの可能性を口にする。

 

「二つ目、リドルがグリンデルバルドの残党を吸収した可能性。こっちは実際起こればかなり厄介なことになるわけだけど……有り得ると思う? 純血主義と魔法族上位主義。近いようで全然違うわよね。」

 

一見すると似ているが、根本的なところで大違いなのだ。特にマグル生まれの魔法使いに対しての考え方は致命的なはずだぞ。グリンデルバルドの『軍隊』にはマグル生まれも参加していたが、死喰い人には当然参加していなかった。いやまあ、そりゃそうだが。

 

そもそも、『純血主義』というのが宜しくない。こんなアホみたいな主義が大手を振って存在しているのはイギリス、ドイツ、ハンガリーくらいなもので、他の国々では時代遅れの差別主義者という認識のはずだ。少なくとも大っぴらに主張する類の主義ではないし、内心どう思うにせよ『常識的な』魔法使いなら参加を躊躇うだろう。

 

他にも食い違う点は多々ある。リドルが『自身の権力』を望むのに対して、グリンデルバルドは『魔法族そのものの地位向上』を目指していたはずだ。リドルが誰かの下に付かないように、グリンデルバルドの残党もまたそんな人間を神輿にはしないと思うのだが……。

 

思い悩む私に、ようやく再起動を果たしたダンブルドアが声を投げかけてきた。

 

「わしは二番目の可能性を推しますぞ。……ここで問題になるのは、スカーレット女史とその他の魔法使いたちとの認識の差でしょう。」

 

「認識の差?」

 

「さよう。貴女やわしはゲラートがどんな人物だったのかを知っております。実際に目にして、体験しておりますからな。何を目指していたのか、どのような主義を掲げていたのか。そこに大きな食い違いはないでしょう。……しかしながら、多くの魔法使いたちにとってはそうではないのです。彼らにとってゲラートが起こした戦争は歴史であり、過去なのですよ。」

 

「つまり、今活動しているグリンデルバルドの信者たちは必ずしも過去と同じ考え方ではないってこと? ……たった半世紀前の話なのよ?」

 

あれだけ大きな戦いだったのに、そんなことが有り得るのか? キョトンとする私に向かって、ダンブルドアは困ったような苦笑で話を続けてくる。

 

「貴女にとっては『たった』半世紀かもしれませんが、通常の人間にとって半世紀というのは長い、本当に長い時間なのですよ。戦争を忘れ、食い違いが起こるには十分すぎるほどの時間なのです。」

 

うーむ、『歴史であり、過去』ね。……そういえばデュヴァルもそんなようなことを言ってたっけ。魔法界で今重職に就いているような年嵩の連中にとってさえ、ヨーロッパ大戦は幼い子供の頃の話なのだ。若い連中にとっては尚更遠い話なのかもしれんな。

 

僅か半世紀で私やグリンデルバルドの戦いは歴史に変わり、今を生きる魔法使いたちにとっては教科書の中の出来事になったわけか。私への対応を見る限り、別に軽々に考えているというわけではなさそうだが……そりゃあ『実感』は無いだろうな。なんたって生まれる前の話なのだから。

 

結果として『食い違い』が起こる、と。なんとまあ、グリンデルバルド本人が聞いたら怒りそうな話だ。……それと、妙にあの男に甘いペタンコ吸血鬼も。苛々と翼を暴れさせるのが目に浮かぶようではないか。

 

とはいえ、それにだって限度ってものがあるはずだ。人間の世代交代の早さを改めて実感しつつも、ダンブルドアに向かって反論を投げかけた。

 

「……だとしても、矛盾を全て無視できるほどには歪んでないでしょう? そう易々とリドルの傘下に下るとは思えないわ。」

 

「そうですかな? トムは学生時代から集団を纏めるのが上手かった。甘言を用いて引き込み、恐怖を以って縛り付ける。一種の『カリスマ』ですよ。小さな火種さえあれば、燃え上がらせるのには苦労しないでしょう。」

 

苦々しい表情のダンブルドアはそこで一度言葉を切って、神妙に首を振りながら予想の締めを口にする。

 

「そも、トムは勢力の拡大のためなら馬鹿正直にそれまでの主義は掲げたりはしますまい。彼にとって最も重要なのは純血主義そのものではなく、あくまでも自身の権力を確立することなのです。であれば、多少主義主張を『柔らかく』することにはさしたる抵抗がないでしょう。……そうですな、例えば最初はゲラートと同じように魔法族の地位向上を掲げ、次に魔法族の優位性を語ってマグルの排斥へとその矛先を向け、自身の権力を確たるものにした後で最後に半純血やマグル生まれの魔法使いたちを排除し始める。ゆっくり、ゆっくりとその主張を変えていくのです。……想像出来ませんか?」

 

「……出来るわ。でも、あんまり信じたくないような話ね。もし貴方の予想通りだとすれば、かなり厄介な事態になるわよ。」

 

グリンデルバルドの起こした戦争はイギリスのそれとは比較にならないのだ。こっちは十年そこらで、向こうは四十年以上。リドルの戦場はイギリスだったが、グリンデルバルドの戦場はヨーロッパ……というか、影響だけなら世界全体だった。当然ながら落ち延びた残党の数もかなりのものだし、杖を取らないまでも賛同しているという者だって少なくはないだろう。

 

リドルの危険思想にグリンデルバルドの兵力が付く? 考えたくもない状況じゃないか、それは。思考を回しながら別の質問を放とうとしたところで……おや? 入り口の方から微かに怒鳴り声が聞こえてきた。誰かがガーゴイル像の前で口論をしているようだ。

 

「とにかく、フランス魔法省にも『死喰い人』に関しての警告を送りましょう。仮にリドルが力を手に入れたとすれば、次はどうやって……あら、何かしら?」

 

「ふむ? セブルスの声ですな。それと、ハリー?」

 

「クィディッチ競技場で最後の課題の説明を受けてたんじゃなかった? ……行ってみましょうか。」

 

代表選手たちはバグマンから最後の課題……『迷路』についての説明を受けていたはずだ。あの選手を殺す気満々な巨大迷路の。傍迷惑なことに、バグマンは最後の課題に関しても一切手を抜くつもりはないらしい。

 

当然、各所には愉快な『障害物』が設置されることになっている。ハリーがまたしても命の危険に晒されるのは目に見えているが……まあ、最後の課題に関しては『ハリー係』のペタンコ吸血鬼にぶん投げるしかなかろう。今はさすがに余力がないのだ。

 

しかし、何故ハリーが校長室に? 時間的に説明が終わったとしても不思議ではないが、ここに来るということはダンブルドアに何か話があるのだろうか? まさか課題の危険性を抗議しに来たわけではあるまい。それなら第一の課題の時点で来ているはずだ。

 

二人して首を傾げながら校長室を出て、短い螺旋階段を上ってみれば……うーん、これはお粗末。いい歳してガキを虐めている陰気男の姿が見えてきた。嘆かわしいな。リリー・ポッターも冥界で呆れてるぞ。

 

「黙れ、ポッター。校長はお忙しいのだ。貴様のたわ言に付き合っている暇などない。」

 

「僕は本当のことを言っています! クラウチさんが禁じられた森に居たんです! それで……ダンブルドア先生!」

 

話の途中で階段から上がってきた私たちを見つけて、ハリーは必死の表情で駆け寄ってくる。……クラウチ? 自宅で病気療養中のあの男が禁じられた森に居た? いきなり意味不明な単語が飛び出してきたな。

 

「おお、ハリー。どうしたのかね? この老いぼれの耳がまだ確かなら、クラウチ氏が禁じられた森に居たと聞こえたのじゃが。」

 

人を落ち着かせるようなダンブルドアの深い声を聞いて、ハリーは一度息を吸ってから状況を説明し始める。酷く焦った表情を見るに、どうやらよっぽどのことがあったようだ。……さすがに通してやれよ、スネイプ。

 

「僕、バグマンさんから課題の説明を受けた後、クラムと禁じられた森の縁で話し合ったんです。……えっと、ハーマイオニーについてのことを。そしたらいきなりクラウチさんが茂みから飛び出してきて……何と言うか、その、正気を失っている様子でした。木を相手にブツブツ話してたんです。」

 

「……それで、わしに伝えに来てくれたのじゃな?」

 

「はい。ワールドカップのこととか、対抗試合のこととか、話の時系列が滅茶苦茶だったんですけど……急に僕の肩を掴んでダンブルドア先生を呼べって言ってきて。その時だけは正気の、鬼気迫る様子でした。」

 

「案内しておくれ、ハリー。セブルスはアラスターとミネルバに警告を。スカーレット女史は……我々と来ていただけますかな?」

 

手早く指示を飛ばしたダンブルドアは、返事を聞く間も無く大股で歩き出してしまう。……ハリーは小走りでついていけるかもしれんが、ダンブルドアが大股だと私は走らねば追いつけんぞ。

 

こうなってしまえば淑女としては飛ぶ他あるまい。トタトタ走るのはなんかちょっと情けないのだ。……今度身長を伸ばす薬とかをパチュリーに作ってもらおうかな。そしたらリーゼを見下ろして死ぬほど笑ってやろう。

 

ムーディとマクゴナガルを呼びに教員塔へ向かうスネイプと別れ、階段を下りて城の勝手口へと三人でひた進む。幸いなことに忌々しい太陽は既に落ちているのだ。である以上、私の活動には支障はあるまい。

 

しかし、クラウチが正気を失う? 何らかの呪いにかけられたのだろうか? それが何故禁じられた森に? 脳内に次々と浮かび上がる疑問を代弁するかのように、ダンブルドアがハリーに向かって問いを放った。

 

「クラウチ氏は何と言っていたのかね? ただわしを呼んでこいと?」

 

「いえ、警告があるとかって言ってました。それに、誰かを怖がってるみたいで……一応、クラムをその場に置いてきたんですけど──」

 

「置いてきた? ……急ぐべきじゃな。」

 

言うと更に速度を上げたダンブルドアは、勝手口を抜けて校庭へと足を踏み出す。『警告』ね。クラウチはダンブルドアと仲が良いわけではない。むしろ私と同じく、険悪と言ってもいいくらいだ。その彼がダンブルドアを名指しで指名するということは……確かに急いだ方がよさそうだな。少なくとも私には思い当たる節があるぞ。

 

老人と少年と吸血鬼。奇妙な一行は夜露に濡れた芝生を横切って、ボーバトンの馬車が停泊している場所の近くに到達した。……木が多すぎて吸血鬼の視力でもよく見えんな。闇夜は苦ではないが、さすがに障害物を透視する能力などないのだ。そしてそれは、グルグル目玉を着けてまで欲するほどの能力ではない。ムーディと違って私には美意識というものがあるのだから。

 

ルーモス(光よ)。……この近くかね? ハリー。」

 

「はい。森へ入ってすぐだったので、この近くのはずです。」

 

杖明かりを灯すダンブルドアにハリーがそう答えるものの、辺りに人気は感じられない。……うーむ、面倒くさいな。私はリーゼと違って細かい気配を探るのは苦手なのだ。バートリの長女がどうだかは知らんが、スカーレットの長女は木ではなく森を見るべきなのである。

 

「本当にここだったんです! 確かにこの辺にクラウチさんが……。」

 

「疑ってはおらんよ、ハリー。それより杖を構えておくのじゃ。決して油断しないように。」

 

暗闇に翻弄される人間二人を尻目に、ちょっと高く飛び上がって辺りを見渡してみれば……おや、少し離れた木の陰にクラムが倒れているのが見えてきた。死んでるのか?

 

「とりあえず、クラムは見つけたわよ。倒れてるけど。」

 

言いながら着地して確かめてみると、どうやら気絶しているだけらしい。……さて、どういうことだ? 肝心のクラウチは居ないし、クラムは絶賛気絶中。となると、クラウチがクラムを気絶させて姿を消したか、第三者がクラムを気絶させてクラウチと共に姿を消したかなのだろう。……問題はどうやって姿を消したかだな。ここでは姿くらましは出来ないんだぞ。

 

考えながら気絶しているダームストラングの代表選手を見下ろしていると、近付いてきたダンブルドアがクラムに向かって蘇生呪文を放つ。

 

「失神呪文じゃな。エネルベート(活きよ)。……気が付いたかね? ミスター・クラム。」

 

ダンブルドアの蘇生呪文を受けたクラムは、ゆっくりと目を開いてその身を起こすと……そのままダンブルドアに向かって慌ただしく話し始めた。急に起こされたせいで少し混乱しているらしい。

 

「……ゔぉくは、襲われた! あの狂った男がゔぉくを襲った! ゔぉくがポッターが戻って来ないかと振り返ったら、後ろからいきなり──」

 

「落ち着くのじゃ、ミスター・クラム。今カルカロフを呼ぼう。暫くそのまま安静に。いいね?」

 

立ち上がろうとするクラムをやんわりと押さえつけた後で、ダンブルドアは杖を振って不死鳥の守護霊を何処かへ飛ばす。恐らくカルカロフの下に伝言を届けたのだろう。……あんなヤツを呼んでも仕方ないと思うのだが。

 

しかし、クラウチが襲った? クラムを? ……いよいよもって意味不明だな。ダンブルドアの下へとハリーを遣わしたくせに、クラムを襲って姿を消す? 行動が滅茶苦茶だぞ。

 

そもそも、クラウチが『狂う』ってのがよく分からん。あの男の杖捌きは魔法省内でも上位に属していた。そして当然、精神力の面でもだ。当然ながらそんじょそこらの呪いでおかしくなるような男ではないし、そもそも呪いをかけるのだって一苦労のはずだぞ。

 

奇妙な状況に頭を悩ませていると、やおら背後から草を踏みしめる音が聞こえてきた。咄嗟に振り返ってみれば──

 

「……あら、ムーディ。どうして杖を私に向けているのかしら? 礼儀がなってないわよ?」

 

「それはお前が物騒なものをわしに向けているからだろうが? ぇえ?」

 

ふん、相変わらず愛想のない男だ。反射的に向けた手のひらの妖力弾を下ろしてやれば、ムーディも渋々杖を下ろしながら近付いてくる。片足が棒切れにしてはお早い到着じゃないか。こいつにとっての犯罪者は馬にとっての人参だな。

 

「見回りをしておったらスネイプの守護霊が飛んできてな。この忌々しい義足の調子が悪くなければもっと早くに来れたんだが……それで? 何があった? 伝言ではクラウチがどうたらとか言っておったが。」

 

「ハリーが『狂った』クラウチを見つけて、クラムをそこに残した。帰ってきてみればクラムは気絶していて、クラウチはそこから消えていた。……ほら、簡単な話でしょう?」

 

私に気付いて再び立ち上がろうとしているクラムを指差しながら言ってやれば、ムーディは歪んでいる顔を更に歪ませて吐き捨てるように返してきた。何だその顔は。子供が見たら気絶するぞ。超ホラーだ。

 

「ならばこんな場所で喋っている間に探すべきだな。それこそ簡単な話だろうが?」

 

「私、夜の森は怖くって。お化けが出ちゃうかもしれないわ。貴方が行ってきて頂戴よ。……それにほら、貴方はクラウチが大好きでしょう? 探しに行ってあげなさいな。」

 

「ふん、相変わらず嘘しか吐かん女だ。これだから吸血鬼は好かん。」

 

鼻を鳴らしてぶつくさ文句を言いながらも、ムーディは草を掻き分けて禁じられた森の奥へと入って行く。いやはや、素直なんだか捻くれてるんだか分からんヤツだな。一つだけ確かなのはイカれてるってことだが。

 

ムーディの背が木々に紛れて消えていったところで、今度は城の方からカルカロフが小走りでやって来た。今夜の森は千客万来だな。……いや、ちょっと待て。早すぎないか? 守護霊を飛ばしてからまだ三分と経ってないぞ。

 

「ダンブルドア! それに、スカーレット女史? クラム!」

 

そこまで言ったならハリーのことも呼んでやれよ。一人だけ呼ばれなくて可哀想だろうが。何故かその場の面々の名前を口にしたカルカロフは、未だ地べたに座っているクラムに向かって問いを放つ。

 

「クラム、何があった? 誰にやられた?」

 

「ゔぉくは……。」

 

そこで言い淀んだクラムは、何故か私に目線を合わせて何かを訴えかけてきた。……んん? 話していいかってことか? 何で私に聞くんだよ。何だか知らんが、こいつだけは他にも増して私に気を遣ってくるな。

 

とりあえずコクリと頷いてやると、クラムはカルカロフに向かって詳細を話し始める。

 

「ゔぉく、襲われました。審査員の人……クラウチって人に。あの人は何かおかしく──」

 

「襲われた? クラウチが君を襲った? 対抗試合の審査員が? イギリスの役人が?」

 

疑問四連発でクラムの話を遮ったカルカロフは、そのままダンブルドアと私の方へと振り返って……おや、怒ってるのか? 顔を真っ赤にして喚き散らしてきた。

 

「裏切りだ! やはり始めから平等な試合ではなかったのだ。最初はポッターを試合に潜り込ませ、今度は『私の』代表選手を魔法省の役人に襲わせたな! 大方僅差の二位だから、危機を感じて蹴落とそうとでもしたのだろう! ……裏取引と腐敗の臭いがするぞ、ダンブルドア! そもそも未成年がここまでの好成績を出せるのはおかしいではないか!」

 

うーむ、これをオリンペが言った場合は多少説得力があったかもしれんが、こいつが言う分には何一つ意味を持たないな。黙して何かを考えているダンブルドアを他所に、荒い息を漏らすカルカロフに向かって口を開く。ちなみにハリーとクラムは大口を開けて唖然としてしまった。純情な青年たちは、醜い大人の喧嘩を見慣れていないようだ。

 

「『平等』ね。貴方が一度でも『平等』に点数をつけたことがあったかしら? それに、裏取引と腐敗の臭い? それは貴方自身から漂う臭いでしょうに。十数年前に自分が何をしたのか、もう忘れてしまったの?」

 

「……私は、無罪になったのだ。過去の話を蒸し返すのはやめていただきたい。」

 

「そうね、貴方は無罪になった。イギリス魔法省はそう言ったし、ダンブルドアもそういう態度で接しているわ。……だから? 私の線引きでは貴方は未だに疑うべき相手なのよ。死喰い人ですら裏切ったような男を、いったい誰が信用すると思うの?」

 

「……どうやら、あなたがたは長い年月で礼儀というものを忘れてしまったようですな。不愉快に過ぎる。クラム、来なさい。船に帰るぞ。安全な船にな!」

 

おお、怒っちゃってまあ。未だに死喰い人の裏切り者の汚名は堪えるらしいな。クラムを引っ張り起こそうとするカルカロフに、尚も言葉を投げつける。こういうのは雪合戦と一緒で、自分への被弾なんか無視して攻め続けることこそが肝要なのだ。

 

「そもそも、貴方はどうしてこんなに早く来られたの? 森の近くで夜のお散歩をしてたってわけ? 随分と奇妙な話じゃないの。」

 

「……それを貴女に話す必要がありますかな? 私がどこを歩いていようが私の勝手でしょう?」

 

「まあ、そうだけどね。重要なのはここでクラウチを見張っていたクラムが襲われて、件のクラウチは姿を消してるってことよ。……あら、不思議ね。誰がクラウチを『消した』んだと思う?」

 

「クラウチにはあの忌々しい妄想狂とは違って、二本の足がまだ残っていたはずでは? 人間は歩くことが出来るのですよ、スカーレット女史。クラウチがそうしたとは考えられませんか?」

 

冷ややかな目線で睨み合う私とカルカロフだったが……ふん、ダンブルドアの柔らかな声が緊張する空気を引き裂いた。万物の調停者どののお出ましだ。

 

「口論はそこまでじゃ。ともかく、今日はもうクラムを休ませるべきじゃな、イゴール。ハリーも城へとお帰り。……彼をお願いできますかな? スカーレット女史。」

 

「いいけどね。ちゃんと調べておきなさいよ?」

 

「無論です。」

 

「結構。行くわよ、ハリー。」

 

遣る瀬無く事態を見守っていたハリーに一声かけて、くるりと身を翻して歩き出す。こうなった以上、私にもやることがあるのだ。変な山羊髭の小物と無駄な問答をしている場合ではないのである。

 

……ふむ、先ずは国際魔法協力部と連絡を取るべきだな。いつまでクラウチと連絡を取れていたのか、最後に姿を見たのはいつか。やり取りをしていたブリックスあたりに詳細な話を聞く必要があるだろう。

 

それに、スクリムジョールやボーンズにも報告を入れねばなるまい。ともかくクラウチを見つけ出さないと話は始まらないのだ。ムーディやダンブルドアが見つけ出せなかった場合には、魔法警察や闇祓いを捜索に当たらせねば。

 

グリンデルバルドの残党、闇の印が刻まれた左腕、消えたかつての政敵、死喰い人を裏切った男。ジワジワとピースが揃っていく感覚を感じながらも、レミリア・スカーレットは薄暗い校庭を歩き続けるのだった。

 

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