Game of Vampire   作:のみみず@白月

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プリベット通り四番地

 

 

「……言っとくけど、遅れてないぞ。時間通りだ。」

 

真昼のプリベット通りに面する小さな公園。閑散としたその公園のベンチに座っているスーツ姿の爺さんへと、アンネリーゼ・バートリは聞かれてもいない言い訳を述べていた。何せご老体は『十年間待ってましたよ』みたいな雰囲気を醸し出しているのだ。いやまあ、この炎天下で十年も待ってたらミイラだろうが。

 

「ほっほっほ、別に待ってはいませんよ。わしも先程到着したところです。」

 

「だったらそういう雰囲気を出すのはやめたまえよ。ベンチに落ち着きすぎだぞ。」

 

「それが老人というものなのですよ。……では、行きましょうか。」

 

立ち上がったダンブルドアに続いて、公園を出て通りを歩き出す。八月に入る直前、ダンブルドアから一緒にダーズリー家を訪問しないかという手紙が送られてきたのだ。手紙には日にちと時刻の指定があるだけで、どんな用件なのかは詳しく書かれていなかった。

 

しかしまあ、クソ暑いな。これだからこの季節は好かん。忌々しい太陽の光を能力で弱めつつ、汗一つかかずに隣を歩くダンブルドアへと問いかける。随分と涼しげな表情じゃないか。魔法でも使ってるのか?

 

「それで、今日は何をしに行くんだい?」

 

「ある程度の予想は出来ているのでは?」

 

「そりゃあ出来てはいるが、私はそんなことをする必要性を感じないけどね。あの一家は今までハリーに対して散々な仕打ちをしてきたんだ。わざわざ説明する意味があるのかい?」

 

リドルに関することなのは間違いないとして、タイミングとして有り得るのはハリーを連れて行く『旅行』についての説明といったところだろう。律儀なダンブルドアのやりそうなことではないか。呆れた表情の私へと、ダンブルドアは苦笑しながら返事を寄越してきた。

 

「さて、もしかすれば貴女の言う通りなのかもしれません。ダーズリー家の方々がハリーをただ疎ましく思っているという可能性は大いにあるでしょう。……しかし、そうではない可能性も確かに存在しているのだとわしは考えます。」

 

「まーた始まった。キミはあれだね、素直な人間に見せかけた捻くれ者さ。もっと額面通りに物事を受け取ることを覚えたまえよ。裏の裏なんてのは表でしかないんだぞ。」

 

「ううむ、耳に痛い言葉ですな。ですが、愛とは難解なものなのですよ。……愛するがあまり憎むこともあれば、憎んでいたはずなのに愛することもある。己の自覚せぬ想いを秘めていることがあれば、失って初めてそれに気付くこともあるのです。わしは自分自身の経験と、セブルスと、そしてトムからそれを学びました。」

 

「スネイプやリドルが抱える矛盾に関しては認めてもいいがね、ダーズリー家のそれはもっと単純なものだと思うよ。キミの想像ほどにはこんがらがっちゃいないだろうさ。」

 

憎んでいるとは言わないまでも、間違いなく疎んではいるはずだ。でなきゃあんな状況には陥るまい。鼻を鳴らして断言する私に対して、ダンブルドアは通りに並ぶ無個性的な家々を眺めながら反論してくる。

 

「しかしながら、バーノン氏とペチュニアはハリーを手放さなかったでしょう? 無論わしとしてはそうあって欲しいと願っていましたが、彼らにはそうする選択肢も確かにあったはずです。文句を言いながら、冷たく当たりながら、それでもハリーを遠ざけることだけはしなかった。何故だと思いますかな?」

 

「分かり切ったことだろう? 世間体やら何やらを気にしたのさ。それだけの話だよ。」

 

「さて、さて。わしは彼ら自身ですら気付いていない感情がそうさせたのだと思いますよ。彼らは確かにハリーを『家族』だと認めているはずです。……現に、彼らがやったのはハリーを『常識』に従わせることだけではありませんか。無意味な暴力を振るうこともなければ、マグルの学校にもきちんと通わせようとしていた。彼らは自分たちの世界……『正しい世界』へとハリーを引き込もうとしただけです。本当にどうでも良い存在なのであれば、素直にホグワーツへと追い払ったとは思いませんかな?」

 

「重要なのは奥底に眠る感情ではなく、実際にハリーが受けた仕打ちの方だ。彼は物置に押し込められた挙句、自分の両親のことさえも歪曲して伝えられていたんだぞ? バーノンたちが実際にどう思っていたかはこの際問題じゃないんだよ。……あの家はハリーにとって『帰るべき場所』じゃなかった。それが全てさ。そうである以上、私はあの家族に対して良い感情は持てないね。」

 

本当は愛していたから全てを許せと? そんなもんは単なる言い訳に過ぎない。私はハリーがどれだけホグワーツに恋い焦がれているのかをよく知っているのだ。それは両親の面影や、魔法の魅力だけが影響しているわけじゃないはずだぞ。

 

『あの家に帰りたくない』。仮にも自分たちが育てている子供にそう思わせるような連中に同情の余地などあるまい。冷たく吐き捨てた私へと、ダンブルドアは何故か嬉しそうな表情で頷いてきた。

 

「ほっほっほ、そう思うのは貴女がハリーの友達だからなのでしょうな。重畳、重畳。だからこそハリーは一人にはならないのです。……ですが、わしはダーズリー家の方々にも彼らなりの考えがあるのだと思いますよ。特にペチュニアは複雑な想いを抱えているのでしょう。……今でも思い出します。彼女が子供の頃に送ってきた手紙の内容を。魔法の世界に足を踏み入れたリリーへの憧れと同時に、大好きな彼女から離れたくないという想いが伝わってくるものでした。……愛故に憎むこともあるのですよ、バートリ女史。愛する者に置いていかれるというのは辛いものなのですから。」

 

少し寂しげな表情のダンブルドアがそう言ったところで、見覚えのある一軒の家の前に到着する。……何にせよ、私が重きを置くのはハリーの方だ。彼の視点を重視するか、それとも全員の視点を鑑みるか。結局のところその違いでしかないのだろう。

 

「決着の付かない問答は終わりだ、ダンブルドア。私が私である限り、キミの言葉には頷かんよ。さっさと用件を済ませようじゃないか。」

 

「いやはや、貴女がゲラートに似ているのか、それともゲラートが貴女に影響されたのか。不思議なものですな。貴女と話していると彼と話している気分になりますよ。」

 

訳の分からんことを呟いたダンブルドアは、インターホンを押して応答を待っているが……誰しも自分のことは分からないらしいな。ゲラートと似ているのは私じゃない、お前の方だぞ。考え方こそ正反対かもしれないが、ゲラートとダンブルドアはどちらも理想家であり夢想家なのだから。

 

対する私やレミィは身内が最優先の利己主義者だ。常に全体を重視するゲラートやお前とは全然違うだろうに。私が老人の背中へと肩を竦めたところで、インターホンから女性の声が聞こえてきた。ふむ、ペチュニア・ダーズリーか。

 

「はいはい、どなたでしょうか?」

 

「これはこれは、約束も無しに押しかけてしまって申し訳ない。アルバス・ダンブルドアと申しますが、ハリー・ポッターはご在宅ですかな?」

 

そして返答は息を呑む音の後に沈黙。当たり前だな。予想できていた反応に鼻を鳴らしながら、スタスタと玄関の方へと歩いて行く。やるだけ無駄なのだ、こんなやり取りは。そのことは二年前にブラックが実証済みだぞ。

 

「私には浪費できる時間が腐るほど残っているが、キミはそうじゃないはずだ。さっさと行こう。そこに居ると長く待たされることになるぞ。」

 

「礼節の問題ですよ、バートリ女史。招かれてから入る。ごく自然なことではありませんか。」

 

「こちとら生まれながらに招かれざる客なもんでね。知らんよ、そんなことは。」

 

適当に返しながら杖を抜いて、柵と玄関を次々に開錠して進んで行くと……おや、さすがだな。開いたドアの先ではバーノンが仁王立ちしていた。私の『非常識』な行動はお見通しのようだ。

 

「やあ、バーノン。また会うことになって残念だよ。せっかくの休日だったようだが、それもこれまでだ。ご愁傷様。」

 

「何の用だ、小娘! 家には入れんぞ! そこで止まれ!」

 

「そう言って追い返せたことが一度でもあったかい? もう諦めたまえよ。」

 

消していた翼を出現させながら言った私へと、バーノンは尚も文句を言い募ろうとするが、その後ろから現れた長身の老人を見て疑問げな表情に変わる。気を付けろ、常識人代表。そいつは非常識の親玉だぞ。

 

「初めまして、でよろしいかな? バーノン氏。わしはアルバス・ダンブルドアと申す者じゃ。この名に聞き覚えは……うむ、あるようじゃな。大いに結構。話が早くて助かるのう。」

 

「『あれ』を教える学校の校長だろう? ふん、知っておるわ! いい歳をして何をやっているんだか……嘆かわしい!」

 

「『あれ』はとても複雑なもの故、この歳になってもまだ解明し切れないのじゃ。そのことに関する議論も大歓迎なのじゃが、今日は他に話題があってのう。入ってもよろしいかな?」

 

「よろしいわけがあるか! ダメだ、入るな。あと一歩でも進めば警察を……小娘! 入るなと言っているだろうが!」

 

時は金なり。制止の言葉を無視してリビングの方へと歩いて行くと、ドアの隙間からこちらを覗き見ている子豚ちゃん……というかまあ、もう子豚とは言い難い体型になってしまったダドリー・ダーズリーの姿が見えてきた。肥らせ呪文でも使ったのか? こいつ。えらい変わりようだぞ。

 

「おっと、ダドリーちゃん。久し振りだね。ハリーはどこだい?」

 

「……部屋に居る、はずだ。」

 

「なら呼んできてくれたまえ。じゃないと話が始まらないんだ。」

 

私がリビングへと足を踏み入れながら言ってやると、ダドリーは曖昧に頷いてから素直に二階へと上って行く。父親よりも適応力があるじゃないか。もしくは判断するための脳みそが不足しているかだな。

 

キッチンの奥で彫像のように突っ立っているペチュニアを無視して、勝手にダイニングチェアへと腰を下ろして待っていると、今度はゆったりとした動きのダンブルドアが部屋に入ってきた。『門番』の説得は成功したようだ。

 

「ふむ、良いリビングですな。非常に整頓されておる。しもべ妖精が見たら仕事が無いと嘆きそうなお部屋じゃ。……おお、ペチュニア。久しいのう。壮健そうでなによりじゃよ。」

 

かなり複雑な表情のペチュニアは、口をパクパクさせてダンブルドアに何かを返そうとした後……結局は何も言わずに微かな目礼を寄越してくる。それを気にする様子もなく、ダンブルドアは私の隣の椅子へと腰掛けた。

 

続いてリビングに入室してきたバーノンは、ドカドカと荒々しい歩調でテーブルに近付くと、一言も発せずにダンブルドアの向かいの席に座り込む。どうやらやり方を『無言の抗議』に切り替えたようだ。あんまり意味ないと思うぞ、それ。

 

そのまま三人が囲むダイニングテーブルに気まずい沈黙が訪れたところで……頭上から慌ただしい足音が聞こえてきた。ハリーがダドリーからお客様の存在を知らされたようだ。バーノンの大声に気付かなかったってことは、ひょっとして寝てたのか?

 

果たしてその予想は正しかったようで、数秒後にはリビングに髪をぐっしゃぐしゃにしたハリーが飛び込んでくる。どういう寝方をしたらそうなるんだよ。

 

「リーゼ! それに……ダンブルドア先生?」

 

「おはよう、ハリー。髪が『スカイダイビング状態』になってるぞ。」

 

「ほっほっほ、ごきげんよう、ハリー。夏休みを存分に楽しんでいるようじゃな。」

 

「はい、あの……ひょっとして、ヴォルデモートに関する件で──」

 

ハリーからその言葉が出た瞬間、キッチンの方から何かが割れる音が響く。……ペチュニアが驚いて皿を落としてしまったようだ。視線が集中したことでようやく自分がやったことに気付いたのだろう。ハッと息を呑んだペチュニアは、黙って破片を拾い始めた。

 

その光景を横目に、ハリーがちょっと気まずい雰囲気を漂わせながら質問を言い直す。

 

「……『例のあの人』に関する件で何か進展があったんですか? 今すぐ出発するとか? それなら準備をしてきますけど。」

 

「そう慌てないでおくれ、ハリー。今日はバーノン氏やペチュニアに対しての説明をしに訪れたのじゃ。安全とは言い難い旅になるじゃろうて。ならば、保護者への説明を省くわけにはいかないじゃろう?」

 

「……それだけ、ですか?」

 

拍子抜けしたように肩を落としたハリーは、おずおずとバーノンの横に座りながら髪を撫で付け始めた。私と同様、彼にとってもあまり重要な用件には感じられなかったようだ。

 

てれびじょんの前のソファでこっそり聞いているダドリー、未だ口を閉じたままのバーノン、破片を片付け終わったペチュニア。それらを順繰りに見た後、ダンブルドアはバーノンに向かって説明を語り出す。

 

「さて、わしらが今日この家にお邪魔したのは、ハリーを旅に連れて行く許可をいただくためなのです。時期も、回数も、期間も、向かう先も定かではありませんが、来学期の間にハリーはホグワーツを離れる必要がありましてな。そう、つまり……ヴォルデモート卿との決着を付けるために。」

 

「……ちょっと待て、その『なんとか卿』は犯罪者だったはずだ。『あれ』で人を殺して回っているとかなんとか。違うか?」

 

「いかにも、その通り。六月にはイギリス魔法界で大きな戦いを起こし、結果として少なくない犠牲者が出ております。その際わしらは勝利を収めましたが、肝心のヴォルデモート卿を取り逃がしてしまいましてな。それを追う必要があるのですよ。」

 

「待て、待て! 何故この小僧がそれに付いて行く必要がある? まさか、お前たちの世界では子供まで戦いに巻き込むのか? いい大人が一体何を……情けないにも程があるぞ! そんなことが許されるはずがないだろうが!」

 

うーむ、珍しく私たちにとっても納得できる類の『常識』だな。テーブルを叩いてダンブルドアを怒鳴りつけたバーノンは、隣のハリーを指差しながら続きを捲し立ててきた。当のハリーはちょっと驚いたような表情を浮かべている。

 

「許さんぞ、そんなことは! そっちの警察は一体全体何をしている? 政府は? 軍隊は? そいつらがまともに働かないからといって、どうして小僧を引っ張り出す必要があるんだ! ……信じられん。これだからお前たちの世界は我慢ならんのだ。わしは去年、その小娘から確かに聞いたぞ! なんちゃら卿は危険なテロリストなのだと! そんな奴が居る場所に子供を連れて行く大人が何処にいる! そんなことをして恥ずかしいとは思わんのか!」

 

「うむ、うむ。貴方の言葉は大いに正しい。わしらとしても子供を巻き込まずに決着を付けたくはあるのですが、これには深い事情がありましてのう。……どうしてもハリーでなくてはヴォルデモート卿を滅ぼせないのです。である以上、わしらはハリーを連れて行く必要があるのですよ。」

 

「何だそれは。話にならん! 許可など絶対に出さんからな!」

 

今や顔を真っ赤にして激怒しているバーノンに、今度はハリー本人が説得を繰り出した。……なんとまあ、奇妙な構図だな。私としても予想外の展開だ。

 

「バーノンおじさん、ダンブルドア先生の言うことは本当なんだよ。僕とヴォルデモートには魔法的な──」

 

「やめろ、小僧! この家で『まの付く言葉』は禁止だと言っておるだろうが!」

 

「あー……そうなると説明するのが物凄く難しくなっちゃうんだけど、とにかくそうしなくちゃいけない理由があるんだ。僕も納得してるし、そうするつもりでいる。だからその、許可だけ出してくれれば充分だよ。」

 

困ったような表情のハリーの言葉を受けて、バーノンは理解し難いものを見るような目でハリーを見返している。いやまあ、確かに説明するのは難しそうだな。運命やら魂の欠片やらに関してをバーノンが理解できるとは思えんぞ。

 

「さっぱり意味が分からん。そのなんちゃら卿は人を殺している。だったら小僧、お前も死ぬ可能性があるということだ。違うのか?」

 

「そりゃあ、可能性で言えば確かにあるだろうけど……。」

 

「そんな場所にわざわざ行く必要があるか? 少なくともわしらの世界では子供をそんな場所に連れて行ったりはせんぞ! 何故ならそれは、恥ずべき行為だからだ!」

 

「だけど、そうしないとヴォルデモートはまた復活しちゃうんだよ。またいつの日か沢山の魔法使い……じゃなくて、沢山の人が死んじゃうことになるかもしれないんだ。だから、ここで終わらせなくちゃならない。その為には僕が行く必要があるんだよ。他の誰でもない、僕がね。」

 

熱を帯びてきたハリーの説明を聞いたバーノンは、若干気圧されたように口を噤むと……困惑気味の表情を浮かべながら、黙って聞いているペチュニアの方へと顔を向けた。

 

その視線を受けたペチュニアは、ほんの僅かな間だけハリーのことを見ると、ダンブルドアに向かって質問を放つ。端的で、物事の本質を突いた質問を。

 

「リリーにこれ以上捧げろと? 貴方はそう言うのですか? ダンブルドア。」

 

……これは、痛い所を突いてきたな。憎しみと、哀願と、叱責が綯い交ぜになったようなその言葉を聞いて、私とダンブルドアの表情が苦く歪む。対してハリーやバーノンの表情は驚きに満ちたものだ。ペチュニアから『リリー』という単語が出るとは思っていなかったのだろう。

 

「すまぬ、ペチュニア。これで最後じゃ。必ず最後にしてみせる。……じゃが、今回だけはハリーがどうしても必要なのじゃ。」

 

「……何れにせよ、私に言うべきことはありません。その子がそうしたいと言うなら好きにさせます。」

 

一転して無表情に戻ったペチュニアは、そう呟くとキッチンでの作業に戻ってしまった。……どんな感情で放った言葉なのかはよく分からんが、彼女が魔法界を憎む理由だけは少し分かった気がするな。

 

とはいえ、バーノンだけはペチュニアの表情から何かを感じ取ったようだ。腕を組んで何かを考え込んだかと思えば、うんざりしたような表情で口を開く。

 

「……いいだろう。お前の好きにしろ、小僧。もうわしの知ったことではない。だからこれ以上この家に厄介事を持ち込むな。」

 

「えっと……許可をくれるって意味だよね?」

 

「許可も何もあるか。わしらは知らん。それだけだ。……そら、これで話は終わりだ! さっさと出て行ってもらおうか!」

 

まあ、私としてはどうでもいいさ。ハリーが納得済みならダーズリー家のことなど知ったこっちゃないし、許可とやらが得られたならダンブルドアも満足だろう。未だペチュニアの方を気にしているダンブルドアが立ち上がるのに続いて、席を離れながらハリーへと提案を送る。

 

「そうそう、近いうちにロンの家に行こうと思うんだがね。キミも来るかい? モリーには聞いていないが、間違いなく歓迎してくれると思うよ。」

 

「うん、行きたい。……友達の家に遊びに行ってもいいかな? バーノンおじさん。ほら、いつも行ってるウィーズリーおじさんの家だよ。もしかしたら夏休みの後半はそっちに居ることになるかも。」

 

「構わんが、迎えには来させるな。もう常識を知らん客は御免だ。」

 

「なら、手紙で詳細を送るからトランクの中で待っていたまえ。ブラックにも伝えておくよ。」

 

何たって、モリーとロンの話し合いが『泥沼化』しているのは目に見えているのだ。私一人が間に挟まれるのは嫌だぞ。となれば、より多くの人間を巻き込む必要があるだろう。もうアリスは行きたくないらしいし。

 

ハリーが頷いたのを確認してから、律儀に挨拶しているダンブルドアを背に玄関へと向かう。約束通りハーマイオニーの家にも行かなきゃいけないし、ゲラートへの連絡事項も溜まっている。八月ものんびり過ごすってわけにはいかなさそうだな。

 

楽しみ半分、面倒半分くらいの気持ちで、アンネリーゼ・バートリはくつくつと笑うのだった。

 


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