Game of Vampire   作:のみみず@白月

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下がり藤、五三鬼桐、立葵

 

 

「いやぁ、物凄い偶然だよね。私の実家って知らないで選んだってことでしょ? それもこんな場末の寿司屋をさ。……あ、私は中城ね。中城霞。よろしく。」

 

確かに凄い偶然だな。感心したような表情を浮かべながら日本語で挨拶してきた中城さんに、サクヤ・ヴェイユは自己紹介を返していた。中城霞さん。五月にトーナメントの決勝戦で見た、魔理沙と同じクィディッチプレーヤーさんだ。

 

「ホグワーツ生で、魔理沙の友人のサクヤ・ヴェイユです。よろしくお願いします。」

 

「わお、日本語ぺらっぺらじゃん。霧雨ちゃんが教えたの?」

 

「いや、そうじゃない。私と違って丁寧な話し方なのはその所為だ。」

 

「なるほどね。……いやー、本当に変な気分だわ。まさかこんなことがあるとはねぇ。」

 

半笑いで腕を組みながらうんうん頷いた中城さんは、カウンターの向こう側でお寿司を作っている店主さんへと話を振る。……ううむ、近くで見ると美人さんだな。整った童顔と、艶のある黒の短いポニーテール。日本の人から見たらどうなのかは分からないが、イギリス人から見た『可愛らしいアジア系の顔付き』であるのは間違いないだろう。

 

「ほら、前に話したじゃん。ホグワーツの金髪のチェイサー。それがこの霧雨ちゃんなんだよ。」

 

「五月にお前が叩きのめされたって相手か。……だったら良いネタを出さないといけねえな。よくこのバカの鼻を折ってくれた。『箒のスポーツ』には詳しくないが、才能に甘えて驕ってるヤツが上に行けるはずなんてねえのさ。」

 

「ちょっと、余計なお世話なんだけど? 別に『叩きのめされて』はいないし、クィディッチを知らない父さんに文句を言われる筋合いはないよ。」

 

「箒は知らねえが、俺はお前の父親なんだよ。ロクに努力もしねえ娘が持て囃されてたら不安にもなるだろうが。……はいよ、最初はヤガラだ。」

 

話しながら握ったお寿司を出してきた店主さんに、首を傾げて疑問を送った。『ヤガラ』が何なのかも気になるが、それはまあ後で自分で調べよう。少なくとも魚であることは分かっているのだから。

 

「店主さんは魔法使いじゃないんですか?」

 

「ああ、俺は……というか、中城家は代々魔法使いじゃない。魔法使いなのは嫁入りしてきた妻の方でな。バカ娘にはその才能が受け継がれたわけだ。」

 

「お母さんの家系は結構な名門なの。許婚とかが居たくらいのね。そこの長女が非魔法族の寿司屋と駆け落ち同然で結婚しちゃったもんだから、私が生まれる前はお母さんの実家とは険悪だったらしいよ。」

 

「『生まれる前は』ってことは、今はそうでもないのか?」

 

お寿司を食べながらの魔理沙の質問に、中城さんは肩を竦めて戯けるように答える。もう完全に座り込んじゃってるな。お喋りする気満々だ。

 

「そこはほら、初孫たる私の魅力でお爺ちゃんとお婆ちゃんがメロメロになっちゃったわけよ。おまけにクィディッチが尋常じゃなく上手いからね。最近じゃ小上家に……お母さんの実家の方に戻らないかとかって言ってきてるほどでさ、よく分かんない親戚を婿にどうかって迫られてるの。嫌になっちゃうよ。」

 

「ふん、どこまでも勝手な連中だ。だからあっちの実家は好かん。十歳も年上のぼんくらを無理やりあてがおうなんぞ道理に反してる。」

 

「ま、こんな感じで父さんは未だに嫌ってるけどね。……でも、私もあの人は嫌かなぁ。青瓢箪みたいな顔なんだもん。クィディッチも下手そうだしさ。」

 

「きっぱり断ればいいんだ。まともに働きもしてねえボンボンに娘を預けられるか。」

 

要するに、中城さんにも許婚みたいな存在が居るわけか。まあ、縁遠いというほどの話ではないな。イギリス魔法界でもちらほらとは聞く言葉だ。静かに怒りながら白身のお寿司を出してきた店主さんへと、中城さんは一つため息を吐いてから返事を放つ。

 

「そんな簡単な話じゃないんだってば。小上家は細川閥の中枢の家なんだから。……それに、陽司さんはきちんと働いてるんだって。魔法省で呪学書の管理をする仕事に就いてるの。何度も何度も説明したっしょ?」

 

「はん、どうだか。仕事ってのはしっかり毎日やるもんだ。『俺たちの世界』の司書は毎日のように図書館に通って懸命に働いてるぞ。本の管理自体は立派な職業だと思うが、あのぼんくらはたまに思い出したように仕事をするだけじゃねえか。大抵は家の中で遊び呆けてるんだろ?」

 

「だから、それは家同士の付き合いとかがあるから外に出られないってだけで……まあいいや、私だって結婚したいわけじゃないしね。この話は終わり! それより二人とも、昨日のデーゲームは観た? あの一瞬で決まったやつ。シビれたよねぇ。」

 

うーむ、やっぱりクィディッチの話をする時の方が活き活きとしているな。顔を明るくしながら問いかけてきた中城さんに、魔理沙が残念そうな表情で返答を返す。

 

「『凄いキャッチだった』ってのはナイトゲームの会場で噂になってたから知ってるが、昨日の昼は別の試合を観てたんだよ。リヒテンシュタイン対フランスの方をな。そっちはあんまり盛り上がらなかったぜ。」

 

「あちゃー、勿体無い。とんでもないキャッチだったんだから。こう、ぐるんって回転してスニッチを捕ったの。……会場が一つだけなら良かったのにね。ワールドカップは日程に限りがあるから、そう簡単にはいかないのかもしれないけどさ。」

 

「昼は二箇所だもんな。あれってよ、トーナメントの頃からもう造ってたのか? あの時の倍以上の『観客席船』があるわけだけど。」

 

魔理沙が言っているのは、ワールドカップが行われているマホウトコロ近海の海上競技場のことだろう。何たって日本魔法省は七大魔法学校対抗トーナメントの時に使われた規模の船を倍以上も用意して、昼は五万人規模の競技場を二つ、夜は十万人規模の競技場一つでワールドカップを運営しているのだ。昼の試合が終わった後に巨大な木造船を移動させることで、競技場の数を自在に変えているらしい。あれが動く光景は壮観だったな。

 

『客席』そのものを動かすという常識に囚われない発想に感心していると、中城さんは疲れたような顔付きで質問の答えを寄越してきた。ちなみにワールドカップ後半は昼夜で一試合ずつになったり、一日一試合だけになったりもするらしい。

 

「今のところは上手く進んでるけどさ、日本魔法界でも色々あったんだから。トーナメントの時に収容数ギリギリだったのを受けて、何隻か急遽新造したの。まだ使ってないみたいだけど、実はデーゲームが長引いた時用の予備もあるんだよ? 六月七月はマホウトコロの生徒も手伝わされる羽目になってさ、こちとら卒論の準備で忙しいってのにいい迷惑だったよ。……毎度のように三派閥でのいざこざもあったしね。一回戦を昼間二試合、夜二試合にするか、夜だけ一試合にするかで延々争ってたらしいわ。バッカみたい。そんなのどっちでもいいじゃん。」

 

「……日本の魔法界での出来事には、常に三派閥の軋轢が関わってくるんですね。そもそもどうして仲が悪いんですか?」

 

「んっとね、面倒くさい歴史の話になっちゃうけどそれでもいい? 先ずさ、最初に日本魔法界の基礎を作ったのは中臣氏……後の藤原氏なの。より厳密に言えば土台を作ったのは忌部氏で、それを組織の形に整えたのが中臣氏って感じなんだけど、専門的な話をする時以外は『藤原氏』が基礎を作ったって認識で問題ないと思うわ。今『下がり藤』を掲げてるのがその意志を継いでる派閥ね。それまでバラバラだった各地の魔法族を纏めて、飛鳥時代……千四百年くらい前に一つの集団にしたのよ。当時はまだ藤原氏のずーっと下の部下くらいの扱いだったし、魔法使いどころか陰陽師ですらなかったんだけど、兎にも角にも『怪異から朝廷を守る』って役目を持った集団ではあったんだって。」

 

千四百年も前か。思った以上に古い時代が出てきて驚く私たちへと、中城さんは知識を振り絞るようなしかめっ面で解説を続ける。美人が台無しだぞ。

 

「それでまあ、そこから数百年間でその集団はどんどん地位を上げていったの。雇い主の藤原氏が政治の中枢を支配するようになって、その藤原氏から重用されてたみたい。地位を手に入れた人たちが次に望むのはいつだって長寿でしょ? だから呪いとかに頼ってたわけよ。……政治的な騒動にも何度か関わったらしいんだけど、正直その辺の出来事はあんまり覚えてないかな。史学だと一番退屈な時期なんだもん。でも、面白い逸話もちょこちょこあるんだ。」

 

「面白い逸話? 例えばどんなのだ?」

 

「例えばさ、『かぐや姫を月の民から守るために、衛府と共に陰陽師たちも戦った』とか。普通に考えれば有り得ない話なのに、魔法界側だと色んな文書に史実として登場するんだよね。それもかなり詳細に戦いの様子が書かれてるらしいよ。……日本の魔法界だと『竹取問答』っていう一つの史学の研究テーマになってて、人が月に立った今でも結構盛んに研究されてるんだ。マホウトコロの先生にも専門家が居るしね。」

 

「あー、竹取物語か。私もさすがに知ってるが……まさか、あれが本当の話だったってことか?」

 

『竹取物語』? 私は知らないぞ。置いてけぼりになっている私を他所に、中城さんは困ったような半笑いで曖昧に首肯した。

 

「実話だと信じて研究してる人も中には居るってことよ。……文書によればかぐや姫がね、月に帰る時に不死の薬を帝と竹取の翁たちに贈ったんだって。帝はかぐや姫が居ないのに生きていても意味がないからってそれをどこかに捨てることを選んだんだけど、翁とその妻は姫が去った後で仲良くなった陰陽師の一人に薬を譲ったみたいなの。そのうちの一つが細川派の台頭に繋がる事件に関わってて、もう一つは今なお日本魔法界のどこかに隠されてるらしいわ。……まあうん、全部眉唾だけどね。日本魔法界でも八割以上はあくまで創作物だって割り切ってるから、話半分に聞いて頂戴。翁たちが陰陽師に薬を譲ったって部分も、細川派と松平派の研究者たちは『藤原派の陰陽師が夫妻を殺して薬を奪ったに違いない』って主張してるしね。いちいち真に受けてたら歴史が滅茶苦茶になっちゃうよ。」

 

「でもよ、面白いぜ。不死の薬か。案外マホウトコロに隠されてたりしてな。」

 

「マホウトコロの校舎があの島に出来たのはその時代からずっと後だし、幾ら何でもそれは無いっしょ。……まあ、とにかく続けるね。そんでもって今から六百年くらい前の南北朝時代に、日本の歴史上最も悪名高い陰陽師が生まれたの。そいつは足利氏って家に取り入った後、その頃起こってた内乱を上手く利用してどんどん地位を上げていった挙句、最後には当時の実質的な支配者である将軍を意のままに操れるようになっちゃったのよ。尊王派の……要するに藤原派の陰陽師たちはこてんぱんにやられちゃって、手も足も出なかったんだって。」

 

支配者が藤原氏から足利氏に変わったのと同時に、悪い魔法使い……陰陽師? とやらが権力を手に入れたということか。お寿司を食べながら何とか頭を動かして話についていく私たちへと、中城さんがピンと指を立てて物語の続きを語る。

 

「そこで出てくるのがさっき言った不死の薬なの。将軍を操れるようになった最悪の陰陽師は蛇舌で、ある日使役していた老蛇からその薬の話を聞かされたんですって。『蓬莱の丸薬』の話をね。」

 

「んでもって、そいつは永遠の命を求めて薬を探し始めたってわけか。分かり易い話だな。」

 

「ま、そういうこと。そのために沢山の人を殺したり、京に大きな災害を呼び寄せたり、良からぬ存在を使役したり、とにかくやりたい放題だったらしいわ。……それを止めたのが現在の細川派の基礎になった陰陽師たちなのよ。足利家の下に細川家って家があって、そこに仕えていた陰陽師が足利家が支配されていることを憂う主人のために、各地を巡って仲間を集めることを決意したの。最悪の陰陽師の支配が及んでいない、在野の術師たちをね。……藤原派の陰陽師みたいに位が高い人たちじゃなかったんだけど、細川派の陰陽師たちは日々妖怪退治をして腕を磨いてたんですって。どちらかというと陰陽師というか、武士ね。呪符だけじゃなくて刀も使ってたらしいから。」

 

「イギリスで言う昔の魔法戦士みたいなものですね。サー・グリフィンドールも剣と杖を両方使えたって伝えられてますし。」

 

その仲間を集め始めた陰陽師さんは、主人のために立ち上がったわけか。カッコいいな。相槌を打った私に頷きながら、中城さんは『最悪の陰陽師』についての話を締めた。

 

「細川派の陰陽師たちは先んじて見つけ出した蓬莱の丸薬をエサに、最悪の陰陽師を誘き出して出雲で戦いを挑んだの。京はもう敵の縄張りだったから、有利に戦える場所に誘い込んだってわけ。伝承によれば大蛇とか妖怪とかを従えた最悪の陰陽師と、出雲の巫女や神様たちの助力を得た細川派の陰陽師たちが三日三晩に渡る激戦を繰り広げた結果、遂に最悪の陰陽師を打ち倒したんですって。……肝心な蓬莱の丸薬は、最悪の陰陽師を唆した老蛇に奪われちゃったらしいけどね。だから日本の魔法界では蛇が嫌われてるの。最悪の陰陽師が蛇舌だったのに加えて、漁夫の利を得た老蛇の印象が強いから。」

 

「なるほどな、そういう訳があったのか。……ちなみに『最悪の陰陽師』ってのはさ、実際なんて名前なんだ?」

 

「日本魔法界だとあんまり口にしちゃいけないって言われてるから、霧雨ちゃんたちも迂闊に声に出さない方がいいと思うけどね。ちょっと待ってて、ペンを取ってくるから。……はい、これが名前。正式には相良柳厳。どうしても呼ばなきゃいけない時は、大抵別名である『相柳』って呼ばれてるわ。」

 

イギリスの『なんとか卿』みたいだな。持ってきたボールペンで割り箸が入っていた細長い紙袋に名前を書いて、『さがらりゅうげん』という振り仮名を振ってくれた中城さんは、それを私たちに見せた後でくしゃくしゃに丸めてから続きを話す。……別名の方だと読み方が変わるのが不思議だぞ。『あいやなぎ』か。日本語はこれだから難しいんだ。

 

「そんでもって日本は邪悪な陰陽師の支配から解放されて、平和になったわけなんだけど……残念なことに、藤原派と細川派は相容れなかったの。藤原派は粗野で作法を知らない細川派をバカにするし、細川派は最悪の陰陽師にボコボコにされてた藤原派が上に立つのが我慢できない。それを打ち倒したのが自分たちとなれば尚更よ。だから日本魔法界は二派に分かれることになっちゃったわけ。」

 

「その頃にはもうマホウトコロはあったんですか?」

 

「あー、あったよ。千年くらい前にはもうあったから。その頃は場所も今と違うし、『陰陽処』って名前だったけどね。非魔法界から身を隠すために、今の島に移転した後に名前が変わったの。」

 

ふむ? イギリスのホグワーツも、アフリカのワガドゥも、日本のマホウトコロも土台が成立したのは大体千年前なのか。単なる偶然なのか、あるいは何かしらの理由があるのか。そのことを考えていると、中城さんがもう一つの派閥に関する話に移った。

 

「えーっと、それで……そう、松平派。残った松平派が成立したのはそれから暫く後の戦国時代。四百年ちょっと前よ。その頃は各地の大名が土地を支配して争い合ってたんだけど、藤原派と細川派の中でもそれに参加するか否かで揉めてたの。藤原派と細川派で揉めてたんじゃなくて、二派の内部でそれぞれ揉めてたって意味ね。」

 

「同時に内部分裂が起きたんですか。」

 

「ん、そういうこと。結局議論は物別れに終わって、藤原派と細川派の一部の陰陽師たちが各地の大名に協力するようになったから、残った陰陽師たちも捨て置けないってことで戦争に参加していった結果……まあ、無茶苦茶な争いに発展したわけよ。武士たちが争ってる裏で、陰陽師たちも各々の家紋を掲げて暗闘するようになっちゃったの。今の土地に移ったばかりの陰陽処でも決闘騒ぎが絶えなかったらしいわ。一応は中立地帯ってことになってたんだけどね。日本の魔法界で『戦争』があったとすればこの時よ。」

 

戦争か。日本魔法界の暗黒の時期ってわけだ。ふんふん頷く私たちを見て、中城さんは苦笑しながらその結果を口にする。

 

「んでまあ、紆余曲折あって最終的に勝利したのが徳川って家だったんだけど、その徳川家に協力していた陰陽師たちが松平派の基礎になったの。徳川家の昔の名前が松平家だったのが理由で『松平派』って呼ばれてるわけね。戦争終結から二百五十年以上も徳川の支配が続いたから、支配者から呪術の取り仕切りを任された松平派は身内を優遇して、旧藤原派と旧細川派を弾圧しまくったわけよ。……だけど徳川将軍家の支配の終焉と共に松平派の栄華も終わって、弾圧から身を守るためにまた内部で結束した藤原派と細川派が勢力を伸ばし始め、今では三派閥が均衡してるって感じかな。藤原派と細川派が力を取り戻した原因として財閥云々のいざこざもあるんだけど、その辺は詳しくないの。私は期生で史学を取ってないから。どう? 大体は掴めた?」

 

「はい、分かり易かったです。教えてくれてありがとうございます。」

 

「お前、結構頭が良かったんだな。感心したぜ。」

 

「他の勉強はともかくとして、史学は嫌いじゃなかったからね。特に戦国時代は面白かったわ。……実際のところ、戦国時代に一番活躍したのは羽柴って家に付いた陰陽師たちだったんだけどね。一夜で城を築いたり、大雨を呼んで水攻めの手伝いをしたり、服従の術でライバルの大名を操ったり、軍勢が素早く移動する手伝いをしたり。多少誇張されてるとは思うけど、本当に凄い人たちだったみたい。……だけど最後は徳川が勝ったから、全員死刑にされちゃったんだって。物悲しい話だよね。」

 

国に歴史ありだな。長い説明をそこで終わらせた中城さんは、大きく伸びをしてから話を完全に締めた。

 

「ま、そんな感じ。下がり藤が藤原、五三鬼桐が細川、立葵が松平ね。私は一応小上家の血を引いてるから、形式上は細川派。クィディッチをやってると派閥がどうだとか言ってる場合じゃないからさ、私はかなーり派閥意識が薄い方だと思うけど……日本魔法界に関わるなら覚えておいた方が良いよ。大抵の人たちは派閥のことを真っ先に気にするから。」

 

「だけどその、争いを終わらせようって人は居ないんですか? 誰がどう見ても問題なわけですよね?」

 

「どうかなぁ。これはマホウトコロの先生から習ったことなんだけど、日本魔法界は三派閥があるからこそ強固だって意見もあるんだよ。競うから進歩するし、敵が身近に居るから備えるってわけ。別々の方向を見てるから技術とかやり方とかにも多様性が生まれるしね。……大賛成って意見じゃないけどさ、一理はあると思うよ。クィディッチと同じで『競う相手』は絶対に必要なんじゃないかな。日本は閉鎖的な島国だから、外側じゃなくて内側にそれを作るようになったのかも。」

 

「でも、今はもう違うだろ? 非魔法界と一緒で魔法界も国際社会になってきてるじゃんか。」

 

私に続いた魔理沙の発言を受けて、中城さんは疲れたような笑みでこっくり首肯してくる。苦い諦観の笑みだ。

 

「そう、それ。先生も言ってたよ。正にそれが問題なわけ。だから日本魔法界は段々と世界の動きについて行けなくなってるんだってさ。……今や身内で争ってる余裕なんて無いのに、いつまで経っても使い慣れた三派閥ってシステムから抜け出せないのよ。融和派も居るには居るんだけどね。白木校長しか担げそうなリーダーがいなくて、その白木校長が動こうとしないからどうにもならないんだって。」

 

「まだ暫くはこの状態が続くってことか。」

 

「暫くはって言うか、もう変わらないのかもね。そもそも日本魔法界は派閥ありきで成り立ってるんだよ。それを変えたければ日本魔法界の根幹をぶっ壊すような出来事がなければ無理だし、そこまでの衝撃だと三派閥のシステム以前に日本魔法界そのものが崩壊しちゃうんじゃないかな。……他国の人には大っぴらに三派閥についてを話さないあたり、日本魔法界の殆どの人がこの状態を『良くない』とは思ってるんだろうけどね。それでも変えられないの。それが日本の魔法界よ。」

 

バカバカしそうに、それでいて仕方がないという感情を滲ませながら言う中城さんを目にして、サクヤ・ヴェイユは日本魔法界の複雑さを実感するのだった。

 


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