Game of Vampire 作:のみみず@白月
「ここと、ここは通路で繋がってるよ。それと二階のここも隠し部屋で埋まってるから……うん、三階の女子トイレだね。」
テーブルに広げられたホグワーツの見取り図に、隠し部屋の位置を書き込んでいたフランが最後に空白部分の頂点を指差してそう言うのを、アリス・マーガトロイドは感心しきりで聞いていた。
同席しているダンブルドア先生とマクゴナガルも感じ入った様子で頷いている。無理もあるまい。まさかここまで絞り込めるとは思っていなかったのだ。
ホグワーツにはクリスマスが訪れているが、私たちは休暇返上でバジリスク対策会議の真っ最中だ。なんたって先週ハグリッドが拘束されたのである。彼が取り調べを受けている以上、クリスマスを祝う気分にはさすがになれない。
レミリアさんによればしばらくは魔法省で取り調べを受けるとのことだが、その後はアズカバンに送られてしまう可能性が大きいのだ。それを防ぐためにも、急いで犯人を捕まえる必要がある。
そこで唯一の手がかりとなるパイプの位置を教員総出で調べて、それを城の見取り図に書き込んでみたのだが……残念ながらあまり大きなヒントにはならなかった。途中で途切れていたり、鉄格子で封鎖されていたり。調べ切れなかった部分で虫食い状態の地図になってしまったのだ。
意気消沈しつつもダメ元でフランに協力を要請してみると、彼女は瞬く間に地図を埋めていって、地下から三階までを貫く空白部分を導き出したのである。学生時代に何をしていたんだ、この子は。
私の感心九割呆れ一割の視線を受けながら、フランは空白部分に大きく丸を書きながら口を開いた。
「多分、ここに大きなパイプが通ってるんじゃないかな。途中までしか書き込まれてないパイプなんかも、ここに繋がってると考えると説明がつくし。」
「その巨大なパイプが『部屋』に繋がっていると?」
マクゴナガルの問いに、フランは可愛らしく首を傾げながら言葉を返す。
「わかんないけど、この空洞に繋がるパイプは全部途切れちゃってるでしょ? 自然にそうなったとは思えないよ。誰かがこの空間を隠すためにそうしたんじゃない?」
あり得る話だ。キュートな名探偵の言葉に、ダンブルドア先生が頷きながら口を開く。
「可能性は大いにあるのう。バジリスクなら通れるが、人間には通れない程度にパイプを分断したのじゃろう。そして、その空洞の頂点にある部屋が三階の女子トイレというわけじゃな。」
「うん。他の部屋には掠りもしてないし、もし入り口があるとすればここだと思うよ。秘密の部屋に通じてるかはともかくとして、調べる価値はあるんじゃないかな。」
一度そこで言葉を切ったフランは、目を細めながら続きを話す。少し悲しそうな表情を見るに、どうやら昔を懐かしんでいるようだ。
「ふふ、道理で私たちが見つけられなかったはずだね。いくらジェームズたちでも女子トイレなんか入りたがらないし、それでなくてもここはマートルがいるトイレだもん。」
「マートル? マートル・ワレンのこと?」
私が思わず放った問いに、フランは頷いて肯定してくれる。ワレン……学生時代に同じ寮だった後輩で、前回の事件における唯一の死者だ。ゴーストになったのは知っていたが、トイレなんかに住み着いてるとは思わなかった。
しかし……前回の事件の被害者がいるトイレか。ますます怪しくなってきたな。
「調べる必要がありますね。」
「うむ、その通りじゃ。」
私の提案に頷いたダンブルドア先生は、フランに向き直って微笑みながら口を開いた。
「見事じゃ、フラン。君の知識には脱帽を禁じ得んよ。わしはこの場所に一世紀近くもいるというのに、君の半分も知らなんだ。」
「えへへ、みんなで色々調べたからね。まあ……お陰でちょっと迷惑をかけちゃったけど。」
苦笑しながら頰を掻くフランに、マクゴナガルが柔らかな笑みで言葉を放った。
「確かに苦労させられましたが、今となってはいい思い出ですよ。今回の件でお釣りがきます。」
「うん、それならよかったよ。……すぐに調べに行くの? 私も行こうか?」
少し心配そうな顔で言うフランに、今度は私が返事を返す。この後リーゼ様も合流するのだ。戦力は充分だろう。
「それより、紅魔館のパーティーに参加してくれない? 急に私とリーゼ様が参加できなくなっちゃったし、咲夜がきっと寂しがってるわ。」
私のお願いに少し困った顔をしたフランだったが、やがて諦めたように頷いてくれた。彼女は咲夜の誕生日パーティー以外は基本的に参加していなかったのだが、今年はどうやら主義を返上してくれるらしい。うーむ……咲夜が絡むと甘くなるのは、紅魔館共通の特徴だな。
「んー、わかった。今年くらいは参加しておくよ。レミリアお姉様も喜ぶだろうしね。」
言いながら暖炉へと歩み寄ったフランは、フルーパウダーを投げ入れてから振り返った。
「それじゃ、頑張ってね。怪我なんかしちゃダメだよ?」
「おお、わざわざすまなかったね、フラン。良いクリスマスを。」
「本当に助かりました、フランドール。スカーレット女史やサクヤにもよろしく伝えてください。」
「咲夜のことをお願いね、フラン。」
微笑んでひらひらと手を振った後、私たちの挨拶を背にしながら煙突飛行で消えていく。あの子を見る度に思うが、動作の一つ一つが穏やかになった。昔の元気で活発な雰囲気ではなく、今は柔らかくて優しげな感じだ。……少しコゼットに似ているな。
どちらが良いとは言えないが、もう太陽のような笑顔が見られないと思うと少しだけ寂しい。それは同席している二人も同じようで、フランの消えた暖炉を寂しげな瞳で見つめている。きっと二人もかつてのフランを思い返しているのだろう。
しばらく校長室を沈黙が包んだが、ダンブルドア先生の柔らかな声がそれを破った。
「……それでは行こうか。これほどまでに手助けをしてもらったのじゃ。わしらもすべきことをせねばなるまい。」
マクゴナガルと二人で了承の返事を返して、三人で校長室を出て歩き出す。……おっと、リーゼ様に連絡せねば。ガーゴイル像を背にしながら、連絡用の人形を取り出した。常に袖口に仕込んでいる指人形だ。小さいだけあって機能は少ないが、何だかんだで結構使い所が多い。
「リーゼ様がグリフィンドールの談話室にいるはずだから、三階の女子トイレまで案内して頂戴。分かった?」
ロンはパーシーのこともあって家族でクリスマスを過ごしている。ハーマイオニーも旅行に行ってしまったようだし、一人になってしまうハリーのためにリーゼ様は談話室にいるのだ。……フランと会いたかったのか、不承不承という感じだったが。
コクリと頷いた指人形は、そのままふよふよとグリフィンドールの談話室へと飛んで行く。よしよし、良い子だ。
一連の動作を興味深そうに見ていたダンブルドア先生が、再び歩き出しながら声をかけてきた。
「君の人形は実に興味深いのう。ここ数年で動作が一気に人間らしくなったような気がするのじゃが……。」
「ちょっとした学習機能をつけてみたら、一気にこんな感じになっちゃいまして。どこから学んできたのやら。」
まあ、間違いなく美鈴さんと妖精メイドたちだろう。お陰で動作がちょっと剽軽になってしまった。もう少しお淑やかな動作になって欲しかったのだが……まあいいさ、個性は大事だ。人間も、人形も。
例として取り出してみた上海は、可愛らしく首を傾げて命令を待っている。これは……多分咲夜あたりから学んだな。あの子がリーゼ様やレミリアさんの指示を待つ姿にそっくりだ。
「おお、可愛らしいのう。」
ダンブルドア先生が孫を見るような目線で見ている反面、マクゴナガルは微妙な顔をしている。どうしたのかと目線で問いかけてみると、彼女は困ったような顔で口を開いた。
「いえ、確かに可愛らしいのですが……戦っている場面を思い出してしまいまして。」
あー、なるほど。上海は前回の戦争の時からよく使っている人形なのだ。元騎士団の人間なら、返り血を浴びるこの子を見たのは一度や二度ではないだろう。
マクゴナガルの言葉を聞いて、上海は失礼しちゃうわと言わんばかりに腰に手を当てる。これは……レミリアさんか? リーゼ様と口喧嘩している時の彼女にそっくりだ。背伸びして少しでも大きく見せようとしているところが特に。
今度学習元を当てるゲームをするのも面白いかもしれない。……いやまあ、紅魔館の住人限定のゲームだが。さぞ盛り上がることだろう。
益体も無いことを考えながら、三人で三階の廊下をひた歩くのだった。
───
「うーん……見つからないわね。」
「そうですね。空洞は下にあるわけですから、仕掛けがあるとすれば地面に近い場所だと思うのですが……。」
貯水タンクのカビに顔をしかめながら言う私に、隣の個室のマクゴナガルが返事を返してくる。トイレを手分けして調べているわけだが、それらしき痕跡が全く見当たらないのだ。ワレンも不在のようだし、困ったことになったぞ。
私とマクゴナガルで個室を調べ、途中で合流したリーゼ様が洗面台の辺りを、そしてダンブルドア先生は……。
「おい、ダンブルドア。キミもいい加減入り口から離れたらどうなんだ。訳の分からん主義は返上したまえよ。」
「しかし、わしが女子トイレに入るというのは無作法だと思うのですよ。ここに立っているのだって気恥ずかしいのです。」
「いい歳したジジイが何を言ってるんだ、まったく。」
リーゼ様の呆れた視線を受けるダンブルドア先生は、それでも奥まで入ろうとはしない。何というか……やっぱり不思議な人だ。時たま見せる妙な行動は健在か。
イライラしてきたらしいリーゼ様は、杖を取り出しながら強硬手段を提案してきた。
「床を爆破しよう。絶対にその方が早い。」
他の全員が微妙な顔になるが……まあ、尤もな提案だ。このまま調べていても時間の無駄だし、後で直せば文句は出まい。
反対意見が出ないのを見て、笑顔になったリーゼ様が杖を振り上げ──
「待ってよ! 私のトイレを壊さないで!」
おお、ビックリしたぞ。個室の便器から飛び出してきたゴーストが必死の表情でそれを止めた。ワレン? あー……まさか、便器に入っていたのか? 学生時代から変わった子だったが、ゴーストになってもそれは変わらなかったようだ。
涙目になりながら詰め寄ってくるワレンに、リーゼ様が杖を振り上げたままで返事を返す。
「おや、『嘆きのマートル』のご登場か。」
「どうしてそんなことするのよ! 貴女って、貴女って……酷いわ!」
「後で直すさ。それにここは、厳密に言えば『キミの』トイレじゃないだろう?」
「私がずぅっと住んでるのよ? 私のトイレだわ!」
既に泣きそうなワレンの猛抗議を前に、リーゼ様は面倒くさそうな顔でどうしようかと目線で問うてくる。私もちょっと面倒くさいが……何か知ってるかもだし、一応聞いてみるか。
「ねえ、ワレン? 私のことを覚えてる?」
前に歩み出た私を見て、ワレンは怪訝そうな顔でしばらく見つめていた後……嫌そうな顔で口を開いた。うーん、学生時代にうんざりするほど見た表情だ。
「貴女、マーガトロイド先輩だわ。リドル先輩につきまとってた。」
やっぱりこうなったか。その『憧れのリドル先輩』がお前を殺したんだぞ。この子はかつてのリドルに憧れていた女子生徒の一人なのだ。まだハンサムだった頃のリドルに。
当時はまだリドルと仲が良かった私とテッサは、そういう女子生徒たちからのやっかみを受けていた。まったくもって迷惑な話だ。お前の憧れてた先輩は、トカゲになったり後頭部に取り憑いたりしているんだからな。
そう言ってやりたいのを何とか堪えながら、なるべく笑顔でワレンに話しかける。
「あー……覚えていてくれて嬉しいわ。この女子トイレについてちょっと聞きたいんだけど。」
「どうせ、どうせ、馬鹿にしに来たんでしょう? 貴女は優等生だったもんね! 私なんかとは大違い!」
「違うわ、ワレン。私はただ──」
「とっても綺麗なマーガトロイド! 頭のいいマーガトロイド! みんな貴女に夢中だったわ! チャド・マーウッドも、ジェフリー・バーロウも!」
誰だよそれは。当時の男子学生であろう名前を喚くワレンは、そのまま大泣きしながら便器へと戻って行く。
「私のことは放っておいて頂戴! 貴女なんかに私の気持ちは分からないわ!」
ワレンが便器に飛び込むぼちゃんという音を最後に、トイレの中は沈黙に包まれた。しばらく全員が微妙な顔で黙っていたが、やがてずっと杖を振り上げたままだったリーゼ様がそれを破る。
「あー……もう爆破していいかい?」
今度は私も賛成した。
───
「深そうですね。」
私の声にその場の全員が頷く。どう見ても落ちたら死ぬ高さの空洞だ。
リーゼ様が日頃のストレスを発散し終わったところで、洗面台の……洗面台だった場所の下に大きなパイプを発見したのである。試しにトイレの残骸を投げ入れてみたが、リーゼ様の耳でも落下音は聞き取れなかったらしい。つまり、並大抵の深さではないわけだ。
「まあ、私が先に行こう。飛べるしね。」
「お願いいたします、バートリ女史。」
ダンブルドア先生の返事を受けて、リーゼ様がひょいっとパイプに入って行く。落下をどうにかする魔法は多いが、大抵は細かい動作が利かないのだ。飛翔術だと静止できないし、クッション呪文は落ち切るまでは無防備。まさか箒を取ってくるわけにもいくまい。
その点リーゼ様は自由自在だ。ちょっとだけ羨ましくなる。パチュリーも浮遊魔法をよく使っているし、私も練習してみようかな。
……まあ、そのためには杖なし魔法をもっと練習する必要があるか。パチュリーは息をするように使っているが、私にはどうも向いていないようでなかなか上手く使えないのだ。杖に頼りすぎているのかもしれない。
手元の杖を見ながら今後の課題を考え始めたところで、コウモリの守護霊がパイプの奥から飛んできた。主人に見合わぬ可愛らしい守護霊は、私たちの前までたどり着くとリーゼ様の声で報告を話し出す。
『下は安全だが、少々不潔だ。ゴミと友人になりたくないなら気をつけたまえ。』
途端に嫌そうな顔になった私とマクゴナガルに苦笑しつつ、ダンブルドア先生が淵に立ってから口を開いた。
「では、わしが先に行こう。この場合はレディーファーストとは言えんしのう。」
パチリとこちらにウィンクしてから、ダンブルドア先生は軽やかな動作でパイプに飛び込んで行く。お茶目な人だ。とてもじゃないが百を超えてるとは思えないぞ。
「それじゃ、私たちも行きましょうか。」
少し間を置いてからマクゴナガルに話しかけてみれば、彼女は入り口の方をチラチラみながら私に順番を譲ってきた。
「お先に行っててください。私はもう一度入り口の魔法を確認してきます。」
「わかったわ。」
心配性なマクゴナガルがドアの魔法を確認しているのを尻目に、私もひょいっとパイプに飛び込む。まあ、生徒が入ってきたら困るのだ。この穴に飛び込もうとする生徒はいないと思うが、念には念を入れておくべきだろう。
少し落ちるとパイプは垂直から斜めへと姿を変えた。物凄く急な滑り台のようになっている表面に、絶対に靴底以外をつけないように注意する。服がヘドロ塗れになるなんて御免なのだ。
そのまま落ちて、落ちて……なっがいな。全然底に着く気配がない。明らかにホグワーツの地下室よりも下まで続いている。一体全体どうやって作ったのか知らないが、これは確かに『秘密の』部屋だな。誰も見つけられなかったのにも頷ける。
体感でかなり長い落下に耐えていると……やっと地面だ。呪文で落下を緩めて着地すれば、既に辺りを調べているリーゼ様とダンブルドア先生が見えてきた。ゴツゴツした岩肌がむき出しなトンネルのような場所だ。
「お待たせしました。マクゴナガルもすぐに来ます。」
「ああ、アリス。見てごらんよ。」
リーゼ様の言葉に従って、指差す箇所に杖明かりを近付けてみれば……なるほど、確かにバジリスクはこの場所にいたらしい。地面には何か大きな物を引き摺ったような跡が見える。蛇の足跡……腹跡? とにかく痕跡なのだろう。
「ふむ? 思ったよりも巨大ですな……。」
興味深そうに調べるダンブルドア先生がそう言ったところで、背後から着地音が聞こえてきた。マクゴナガルも到着したようだ。
「遅くなりました。しかし……随分と深い場所ですね。斜めになっていましたし、湖の下でしょうか?」
「何にせよ、サラザール・スリザリンは念入りな魔法使いだったらしいね。もしくはモグラに憧れてたのかもしれんが。……さて、早速探検してみようじゃないか。」
ちょっと楽しそうなリーゼ様に続いて、全員で奥へと歩き出す。まあ、私も少しだけワクワクしている。好奇心は魔女の性なのだ。千年前に作られた場所というのには非常に興味がある。
しばらくゴツゴツとした岩肌が続いたが、先頭を歩いていたリーゼ様が突然動きを止めた。
「止まれ。」
ピリついた雰囲気で言うリーゼ様に、他の三人が緊張を強める。私には何も見えないが、夜目の利く彼女には何かが見えているのだろう。
いつもの二体の人形を取り出しながら続く言葉を待っていると……目を細めて何かを見ていたリーゼ様は、小さくため息を吐いてから肩を竦めた。
「ああ、問題ないよ。抜け殻だ。」
「抜け殻?」
「んふふ、行けば分かるよ。」
マクゴナガルの質問に悪戯気な表情で返したリーゼ様は、躊躇うことなく進んで行く。抜け殻? 何の話だろうと考えながら背中に続くと……なるほど、これのことか。杖明かりに照らされた先に、巨大な蛇の抜け殻が見えてきた。
近付いてみると……でかい。私が以前見た状態の倍はあるぞ。こんな場所で何を食べて育っていたのかは知らないが、少なくとも栄養には困らなかったようだ。
「これはまた……凄まじい大きさですね。」
「うむ。十メートルは優に超えるようじゃな。君が見た時より大きいかね?」
「ええ、倍はあるみたいです。」
「……妙じゃな。そこまで急激に成長するものかのう?」
そうだろうか? 事件があったのは半世紀も前なのだ。これぐらい成長していてもおかしくなさそうに思えるが……。
どうやらリーゼ様も同様の考えらしく、抜け殻をツンツンするのをやめて私たちを促してきた。
「成長期だったんだろうさ。大体、バジリスクの成長記録なんて残ってるはずがないだろう? 考えるだけ無駄だよ。さっさと進もうじゃないか。」
「そうですな。……まあ、詳しいことはハグリッドに聞けば分かるでしょう。そのためにも犯人の証拠が見つかればいいのですが。」
まだ何か引っかかっている様子のダンブルドア先生だったが、リーゼ様の呼びかけに従って再び歩き始める。確かにハグリッドなら知ってそうだ。こと魔法生物に関してはこの場の全員より上だろう。
そのまま長いくねくねとした通路をひたすら四人で歩いていくと……壁? 明らかに人工物な雰囲気の滑らかな壁には、絡み合う二匹の蛇が掘り込まれている。どうやら目的地に到着したようだ。
「怪しいですね。何らかの魔法で開くのでしょうか?」
「試してみようじゃないか。」
マクゴナガルの言葉に応えて、リーゼ様がいくつかの呪文を試していくが……ダメだ。壁はピクリとも動こうとしない。
放った呪文が悉く弾かれたリーゼ様は、ちょっとだけイラついた表情で再び強硬手段を提案してきた。
「ダメだね。……壊そうか?」
「それも難しいですな。かなり強固な防護呪文がかかっております。」
杖を振りながら壁を調べていたダンブルドア先生が、続けて自身の推理を話し出す。
「何らかの合言葉に反応するのでしょう。壁の紋様と製作者のことを考えれば、恐らくは……蛇語が必要になりますな。」
「参ったね。ハリーを連れてこようか?」
「ほっほっほ、それには及びませんよ。少しお待ちいただけますかな? わしが試してみましょう。」
言うダンブルドア先生に、ちょっと驚いた様子のリーゼ様が言葉を返した。
「おいおい、蛇語を理解できるってのは知っていたが、話す方もいけたのかい?」
「残念ながら、どちらも不完全ですよ。昔パーセルタングを話せる者に教わったのですが……簡単な単語しか発声できないのです。とはいえ、そこまで難しい単語ではないでしょう。あまりに複雑な合言葉では『継承者』とやらも開けますまい。」
それはまた、意外な特技だ。マクゴナガルも驚いているところを見るに、知る者は多くはないのだろう。
私たちが見守る中、壁の前に立ったダンブルドア先生がシューシューと蛇語らしきものを口にし出した。初めて聞くが……うーむ、さっぱり分からん。水中人の言葉のほうがまだ理解できそうだ。
そのまましばらく待っていると、何度目かのシューシュー音に反応して彫刻の蛇が動き始める。絡み合った蛇が分かれると、それに従うように壁が分かれていって……部屋だ。
堀のような水路に挟まれた石造りの大きな部屋。蛇の彫刻が刻まれた柱が立ち並び、最奥にはサラザール・スリザリンを象ったのであろう巨大な石像が鎮座している。扉が完全に開くと同時に所々に設置された燭台に緑の炎が灯り、部屋の中を怪しげに照らし始めた。……これがそうなのか。
『秘密の部屋』がアリス・マーガトロイドの目の前に広がっていた。