四次元ポケットと異世界漫遊記   作:ルルイ

41 / 41
第十九話

 

 

 

 

 

 地爆天星によって浮き上がる地面を回避しながら、巻き込まれない範囲まで出て皆と合流した。

 最後にナルトが合流して、尾獣達も含めて全員無事に揃った。

 

 ナルトが最後になったのは、黒ゼツを地爆天星の中に処理してきたからだ。

 動けない黒ゼツを監視していた僕の影分身が、それを確認して先に情報を送ってきていた。

 

「あ、そういえば、この後どうやってここから出ればいいの!?」

 

「あー! そういえばどうするんだってばよ!?」

 

 サクラがそのことに気付き、ナルトが慌てる。

 特殊な手段で連れてこられたので、帰る手段など想定出来るものではない。

 この後、六道仙人が口寄せで脱出させてくれるはずだが、自力で脱出する方法を模索しておくべきだろう。

 

「ミナト、お前の飛雷神で元の空間まで飛べるか?」

 

「ちょっと待ってくれ。 やってみる」

 

 ミナトは飛雷神の苦無を構えてチャクラを練って集中する。

 ここに時空間忍術の使い手は三人いるが、目的の座標に飛ぶなら飛雷神が一番早い。

 カカシの神威でも空間を開けられるだろうし、サスケも将来的にはカグヤの空間の調査を行なう事から不可能ではない筈だ。

 だが適正としては飛雷神を多用できるミナトが一番高いだろう。

 

「………元の空間にあるマーキングに飛ぼうと思うと、ずいぶん遠くに飛ばないといけない感覚がある。

 何とかオレ一人だけなら飛べない事は無いだろうけど、ここに居る全員が一緒に飛ぶとなるとチャクラが相当必要だ」

 

「だったら俺のチャクラを使えばいいってばよ。

 そんで足りねえんなら尾獣の皆だって力を貸してくれるってばよ」

 

『まあこんなところに置き去りにされるのは敵わんからな。

 出る為ならワシらも力を貸してやる』

 

 尾獣達も流石に自分達を取り込んでいた者の近くには居たくないと、この場から離れる事を望んでいるみたいだ。

 九尾を筆頭に足りない分のチャクラを貸す事に反対する尾獣はいない。

 

『ナルト、先ずはお前がワシ等のチャクラを受け取ってミナトに渡せ。

 ワシ等のチャクラをバラバラに受け取っても普通は使いこなせん

 一度はワシの半身のチャクラを使いこなしたミナトなら、お前の様に六道仙術に昇華できるかもしれんが、お前がチャクラを調整して渡した方が効率がいい』

 

「いや、流石にナルトのようにはいかないよ。

 オレは仙術が苦手だからね」

 

 そういえばミナトは意外にも仙術が苦手だったな。

 自来也の弟子として妙木山で修業したらしいが、あまり向いていなかったと言っていた。

 

「そんじゃ、みんな頼むってばよ」

 

 ナルトがミナトに背に手を当て、ナルトの傍に尾獣達が各々の爪先や尾などの部位を近づけてチャクラを渡そうとする。

 

 

――ボンッ――

 

 

 その時、口寄せでよく聞く乾いた破裂音が響き、同時に景色が変わった。

 

『ナルト、サスケ。 皆よくやってくれた。 ………どうした?』

 

 目の前には六道マダラと特徴を同じにした六道仙人が浮いており、夢幻転生で呼び出したイタチの様に実体なく存在していた。

 周りを見れば実体のない歴代の影達がおり、穢土転生の三代目までの火影も体の一部を崩しながら居た。

 自力で脱出する前に、口寄せで通常空間に呼び戻されたらしいな。

 

 原作通りで問題無いのだが、自力で脱出出来そうなところだったので肩透かしを食らい、みんな少し微妙な顔をしてしまった。

 

 

 

 ともあれ脱出は出来たのは良かったが、呼び戻された事で初代火影柱間が気付いた。

 

「マダラ!」

 

 僕等とは離れた場所に呼び戻され現れたマダラに気付き、柱間が駆け寄っていく。

 僕もマダラの事はすっかり忘れていたが、その名を聞いて皆が警戒する。

 

『警戒する必要はない。 マダラは一度人柱力となり尾獣達が抜け出た。

 直ぐに死ぬだろう』

 

 六道仙人の言う通り、マダラは倒れたまま動かない。

 柱間だけがマダラの傍により、皆は二人の最後の語らいを見守った。

 

 しかし突然柱間がこちらの方を向いた。

 

「中野ハジメよ。 こっちに来てくれぬか。

 マダラが言いたい事があるそうだ」

 

「僕ですか?」

 

 何故と疑問に思いつつ、倒れているマダラの傍に近寄る。

 ピクリとも動かぬ弱々しい姿だが、これまでの激戦で死ぬ寸前と判っていても警戒心が無くならなかった。

 

「………中野ハジメか?」

 

「ええ、僕に何の用です?」

 

 弱々しい声でこちらの姿も既に見えていない様子だ。

 

「…お前…たちの…勝ちだ」

 

「え?」

 

「お前とは…決着が…着かなかった…

 だから、一言…言っておきたかった」

 

 確かにマダラとの戦いは、無限月読が発動している間にカグヤに取り込まれてしまった事で決着が着かなかった。

 穢土転生の時も僕が封印される事で時間稼ぎにされ、明確な決着とは確かに言えないかもしれない。

 この後無限月読は解除されるが、それを止められないからこそ僕等の勝ちだと言いたいのか?

 

「なぜ、そんな事を僕に?」

 

「お前との戦いは…心躍った…。

 まるで生前の柱間と…争っていた時のように…

 それが決着のつかない…ままではな…」

 

「…仮にも平和を求めていたんだろう。

 それなのに戦いに喜びを見出すのはどうなんだ」

 

「…そうだな。 その通りだ…

 柱間…俺はお前より先に…世界を平和にす…ことで勝ちた…たのかもしれ…ん…」

 

 マダラの命の火が消え、柱間はそれを寂しそうに見届ける。

 平和にしたいという思い。 それが間違っているとは思わない。

 だがそうだとしても人が戦うのは、人としてあるための切り離せない性だ。

 

 望みがあるから、それを求めて争う。

 マダラと柱間の求める完全に平和な世界が、真に訪れるとは僕も思っていない。

 結局の所、何かを求めて争い続けるのが人の歴史だ。

 マダラの望んだ無限月読による争いのない世界も、それでは人が滅んでしまう事が決まっている世界になる。

 

 人が生きるにはその為に争い続けるしかないのは皮肉だが、それでも平穏に過ごせる人々がいる事に変わりはない。

 それが二人の作った木の葉の里なのだろう。

 余所者だった僕だが、そんな二人の思いを見て純粋に木の葉の為にこの世界で生きたいと思えた気がした。

 

 

 

 マダラを看取った後に、六道仙人は力を借りた歴代五影と穢土転生の火影達を解術すると言った。

 歴代火影を呼び出した大蛇丸がこの場に居るので解くのは奴にやらせればいいのだが、呼び出した死者を送り返すついでらしい。

 

「ハジメ、どうやらこれでお別れみたいだ。

 君には本当に感謝してる」

 

「なんだ、急に。 一緒に戦った事にか?」

 

 そういう意味ではミナトの飛雷神には一番助けられたんだが…。

 

「そうじゃない。 クシナとナルトの事さ。

 君が二人を守ってくれていたから、オレは今の二人に会えた。

 クシナの生きている姿を、そしてナルトの成長した姿を見れて安心したよ」

 

「まあお前からしたら、あの時から時間が進んでいないんだよな」

 

 死んだ上に封印されていたミナトからしたら、ナルトが生まれた日からずっと時間が止まったままだったはずだ。

 

「クシナをあの時助けた以外は、僕はたいして何もしちゃいないさ。

 手は貸したがクシナは一人でナルトを育てたし、ナルトも自分の力で強くなった。

 二人の姿が見れたのも、封印を解いて呼び出した大蛇丸の都合だしな」

 

 穢土転生として呼び出されたのは、ご都合主義とは言え偶然の巡り合わせだ。

 本当ならあの時ミナトも生かしてやりたかったが、そうすれば完全に未来が見えなくなるという理由で諦めた僕の不甲斐なさを思い出す。

 

 その呼び出した大蛇丸は、殺した師である三代目に何やら小言を言われているみたいだ。

 今更悔い改めるような奴ではないが、煩わしそうにしながらも三代目の言葉を聞いており、三代目も自身を殺した相手なのだとしてもそれを恨んでいる雰囲気ではない。

 むしろ別れの間際だからと伝えたい事を言っている様子がうかがえ、道を別ったとしても師弟として理解し合っている様に思えた。

 

「それでも君がいてくれたからこそだとオレは思う」

 

「わかったわかった。 それよりもクシナとナルトと話したらどうなんだ」

 

 二人はミナトが僕との話を終わるのを待っている様でこっちを見ている。

 

「もちろんそのつもりだ。 先にハジメにはお礼を言っておきたかったからね。

 今度こそ最後の別れになるだろうからね」

 

「そうとも限らないぞ。 穢土転生の術の存在が今回の戦争で大きく広まった。

 流石に命のリスクのある禁術の多用は許されないだろうが、死者を呼び戻せることが証明された以上、死んでしまった者と会いたいという理由で似たような術を開発しようと考える奴は必ずいる。

 実際僕も、戦わせる力は無いが死者の魂を呼び出す穢土転生の劣化版の術を開発したしね」

 

 話し込んでた大蛇丸と三代目、そして穢土転生の術を最初に考案した二代目扉間の視線がこっちに向いたのを感じる。

 

「そうなのかい!? 術のリスクは?」

 

「そこそこチャクラを消費するだけで、命を代償にする必要は全くない。

 呼び出すのに必要な条件は穢土転生と同じだが、戦わせる力を与えようとしなければ命みたいな大きな代償は必要無くなるんだ。

 そもそも無理に戦わせなくても死者から情報を聞き出せるだけで、十分なアドバンテージになるんだからな」

 

 それは盲点だったわと大蛇丸が呟いており、二代目も気づいていなかったのか唸っている。

 忍は戦う事に重点を少し置き過ぎているのだ。

 

 クシナとナルトは当然この事に反応する。

 

「ハジメ、本当だってばね?」

 

「ハジメのおっちゃん! じゃあまた何時でも父ちゃんと話が出来るのか?」

 

「確かに話をしようと思えばいつでも会わせられるが、頻繁に呼び出すつもりはないぞ。

 ミナトが既に死んでいることに変わりはない。 安易に死者を呼び起こすもんじゃない」

 

 倫理的な感覚で安易に使うつもりはなかったが、その在りようを六道仙人が補正してくれる。

 

『その者の言う通りじゃナルト。

 歴代の影達の力を借りるために呼んだワシが言うのもなんだが、本来生者と死者は交わるべきではない。

 生者は現世に生きるからこそ世界を動かし、死者は永遠の別れを迎えるからこそ尊ばれる。

 本来交わらぬ生者と死者が近付き過ぎれば、世の理の一つが乱れるかもしれん』

 

「六道のじいちゃんの話は小難しくてわけわかんねえけど、死んじまってる父ちゃんはあまり会わない方がいいってことだよな」

 

『その認識でよい』

 

 そういう意味では開発しちゃった夢幻転生の術も、確かに世の中に混乱を起こしかねない禁術だな。

 あの術は本当に穢土転生の下位互換だから、禁術と言っても大して難しい術じゃない。

 

「言われてみればリスクがない分、ある意味穢土転生よりも危険な術かもしれません。

 死者を安易に呼び戻せるのは、確かに世の中の混乱に繋がりかねない。

 死んだ人間に純粋に会いたいだけならいいですが、口封じなどで隠された事実が明らかになる可能性はいろいろ厄介ごとを生みかねないですね」

 

『それが解っておるならワシも言う事は無い。

 その術をどう使うかは、生み出したお前が決めるといい。

 危険な術など既に世に溢れかえっておるからの』

 

 危険な術のつもりはなかったが、今更世に混乱を生む可能性を気付かされるとは思わなかった。

 世の理を乱す術。 確かにそういう認識なら、簡単に使えてしまうほど恐ろしい術と思える。

 

「わかりました。 改めて多用しないことを誓います。

 そう言う訳だからミナトも、そう何度も呼び出す事は無いと思ってくれ」

 

「もちろんだよ。 もう会えなくなる筈だったんだ。

 また会える可能性があるだけでもありがたいよ」

 

 一度また呼び戻すと言った以上、ミナトは何らかの形でまたクシナとナルトに会わせたいからな。

 

「なら次はそうだな…。 ナルトの結婚式にでも呼び出そうか」

 

「おや、もうその予定があるのかい?」

 

「ハジメのおっちゃん、なに言ってるんだ! そんな予定無いってばよ!

 俺が結婚なんて想像出来ないってばよ」

 

 原作通りなら二年後の事件をきっかけに結婚する予定なんだけどね。

 まあ結婚式が何時になるかは分からないから、未定である事に変わりはない。

 

 クシナもヒナタの事は知っており、戸惑っているナルトを見ながら楽しそうに笑みを浮かべており、それを見たミナトも何かを察した様子を見せていた。

 気づいていないのは当のナルトだけ。

 

 

 

 六道仙人の解術で穢土転生も解かれ、ミナトはクシナを抱きしめてナルトに誕生日を祝ってから消えた。

 歴代五影達も術が解かれて現世から消え、後は無限月読の解術にナルトとサスケが子の印を組めば解けると六道仙人が教える。

 ここでサスケがどう出るか…。

 

「じゃあやるぞ、サスケ」

 

「ああ、無限月読は解く。 だがその前に…」

 

 何かしらの企みがある様子のサスケ。

 やはり原作と同じことになるか。

 

「俺と戦えナルト。 お前の六道仙術と俺の輪廻眼を賭けて」

 

「…本気でいってるのかサスケ?」

 

「無限月読の解除に必要なのはその二つだ。 その二つを手にした方が術を解く。

 簡単な話だ」

 

 ナルトと戦おうとするのは原作通りだが、少し文言が違う気がする。

 

「サスケ、なぜその結論に至った。 二人で術を解けばいいだけの話だろう。

 お前は今何を考えている」

 

「…俺がこれまでの戦いで出した結論だ。

 ハジメ、お前が言った様に自分自身で決めたな」

 

「…聞かせてもらえるか。 お前の決断を」

 

 以前僕が言った事が、ここでの決断に繋がった訳か。

 ここでの選択に影響が出るように言っていたつもりだったが、それがいい結果に向かうかはサスケの考え方次第だった。

 五影を殺すと言わないあたり、少しでもマシな考えだといいのだが。

 

「いいだろう。 ナルト、忍界大戦はこれで終わった。 マダラは倒され十尾は封印され戦いは終わった。

 お前はこの先、忍界はどうなると思う」

 

「どうって、平和になんじゃねえのか?」

 

「一時的にはそうなるだろう。 だがそれも戦争の傷が癒えるまでだ。

 その後はまた他里同士の小競り合いが起こり、何時かは再び忍界大戦が起こる」

 

「そんな事ねえ! 木の葉も他の里の皆も一緒に戦って勝ったんだ。

 もうこんな戦争を起こさねえように、皆で一緒に世界を平和にしていけるってばよ」

 

「それを楽観的と言うんだ。 俺にはとてもそうは思えん。

 マダラの十尾を使った無限月読は失敗だったが、五里に対し戦争を仕掛けたのは正解だった。

 強大な敵に勝つ為に五里は同盟を結んだ。 それを維持するにはこれからも強大な敵がいる。

 俺は次のマダラになる。 五里の脅威として力を振るい、手を組まねば抗えない存在として君臨する。

 それが俺の火影の道だ」

 

 サスケの考えはそれに至ったか。

 原作では五影を殺すと言って革命を謳ったが、それだけでは忍界の混乱を生み出すだけ。

 五影になれる者は限られるが、代わりになる者はいる。

 次の影が決まるだけで体制まで大きな変化は起きないだろう。

 

 原作のサスケにどのようなプランがあったかは知らないが、このサスケは力を持つことでペインに近い考えの抑止力になろうとしている。

 輪廻眼をフルに活用すれば不可能ではないプランだろう。

 

「そんなことしたら皆を敵にしちまうぞ!」

 

「それが目的だ」

 

「バッきゃろう! そんなのうまくいくはず無いってばよ!

 お前が一人になって全部背負い込むなんて俺が許さねえ!」

 

 ナルトならそういうだろう。

 クシナが生きていたからナルトは孤独ではなかったが、それでも昔は里の皆から距離を置かれていた。

 幼心には堪えたようで、結局関心を持たれるためにいたずらをするようになった。

 更にうちはが滅んだ後はサスケとは一緒に暮らしていたのだ。

 原作よりも距離が近い分、余計にサスケの望みを受け入れる筈がない。

 

「一人じゃないならいいのかい?

 僕はサスケに着くよ」

 

 ナルトの言葉を否定したのは水月だった。

 

「水月、いいのか?」

 

「君の目的を聞いた時からそれに付き合うって言っただろ。

 まさかこんなに早くそのチャンスが来るとは思っていなかったけど」

 

 サスケ。 仲間に自分の目的を話していたのか。

 思っていたよりもサスケは水月たちに心を許していたみたいだ

 

「…俺はお前の行く末を見届けるだけだ」

 

「アタシも当然サスケに協力するよ」

 

 重吾と香燐もサスケに協力する事を表明した。

 その上香燐は、サクラの方を見て鼻で笑う仕草をする。

 挑発されたサクラは怒りで顔を歪めていたが、流石に木の葉の忍としてサスケのプランに恋心だけで賛同はしなかったか。

 

「あら貴方達、面白い話をしていたのね。

 それならサスケ君。 うまくいきそうなら私も協力してあげる。

 今更私が敵を増やしたってあまり気にならないし」

 

「この輪廻眼が望みか」

 

「確かに輪廻眼はとても興味深いけど、手にしても私に扱いきれる気がしないわ。

 今更あなたの体を得ようとも思わないし、見返りは研究に少し協力してくれるだけでいいわ。

 カブト、あなたはどうするの」

 

「…サスケ君、君への協力はイタチへの借りを返す為だ。

 それも済んだ以上、君が何をしようと僕には関係ない。

 僕には帰るべき場所がある。 この無限月読を解くのなら後は好きにすればいい」

 

 カブトがサスケを助けたのは、イタチがイザナミを使って大事な事を思い出させたからだったな。

 その辺りは確認出来てなかったが、原作通りにイタチがうまくやったようだ。

 

「サスケ、馬鹿な事はやめろって言ってもやめないんだね」

 

「ああ。 クシナさんの言葉でも俺はやめる気はない。

 貴女には世話になったが、それは聞けない話だ」

 

 クシナには殊勝な態度で応対するサスケに、威嚇し合っていた香燐とサクラがグルンと顔をそちらに向ける。

 香燐は警戒心を顕わにし、サクラはサスケの態度に目を丸くしている。

 サクラはサスケがクシナに対して他の人とだいぶ態度が違う事を知らなかったようだ。

 

「…わかったってばね。 その顔は意地張って覚悟を決めた男の子の顔だってばね。

 ミナトもそんな顔の時はいくら殴っても考えを変えなかったから、何言っても無駄だってわかるってばね」

 

 ミナトを思い起こしながらクシナが拳を握り締めると、同時にサスケがブルりと一瞬体を震わせたように見えたのは気のせいか。

 過去を思い起こしていたからクシナは気づかなかったが、サスケをしっかり見ていた香燐とサクラはなぜか慄いているように見えた。

 

「だからってそれを認める理由は無いってばね。 なら私はそれを止められるナルトを信じる。

 ナルト、絶対勝ってサスケを止めるってばね!」

 

「もちろんだってばよ!」

 

「決まりだな。 他の奴らは手を出すな。

 ナルトとは一対一で決着を着ける」

 

 カカシとガイがこちらを見てどうするかと視線で訴えてくるが、二人での決着は仕方ないと思っている僕は目を瞑ってその意向を伝える。

 それに納得いかない様子ではあるが、それ以上何も言わなかった。

 

『待て、勝手に決めてんじゃねえ。

 今のナルトの力にはワシ等の力も含まれている。

 その力を奪ったところで、ワシ等がお前に力を貸すと思っているのか』

 

 そう言ったのは九尾だった。

 他の尾獣達も概ね賛同する様子で、サスケが力を奪ったのならナルトと違って協力する義理はないだろう。

 

「ああ、尾獣達がナルトと同じように俺に力を貸すとは思っていない。

 だが…」

 

 

――ギンッ!――

 

 

 サスケが見回す様に首を振ると、尾獣達全員に輪廻写輪眼によって幻術を掛け動きを封じた。

 

「サスケ、何やってんだ!?」

 

「俺の輪廻眼の力には逆らえまい。 邪魔をすると分かっているなら封じさせてもらう。

 五里の戦力として再び人柱力に使われるのも厄介だ。

 お前との決着が着いたら、尾獣達は処理させてもらう」

 

 尾獣達を幻術で封じるのは、僕も想定していた。

 だが…

 

「サス…ケ、お前…僕まで…」

 

「先生!?」

 

 尾獣達の幻術をかけるタイミングで、僕にまで掛けてくることは思ってもみなかった。

 幻術対策の修行もしていたが、流石に輪廻写輪眼の瞳力は容易には破れない。

 

「サスケ、なぜ先生まで幻術を!?」

 

「尾獣よりもずっと厄介なのがあんただからな。

 例え尾獣に幻術をかけ損ねても、あんただけは確実に封じるつもりだった」

 

 うん。 考えなくても、僕結構やり過ぎたからね。

 サスケがやらかすなら警戒されて当然か。

 

「先生はお前とナルトの戦いを邪魔する気はなかった!」

 

「だろうな。 コイツはそういう奴だとはわかっている。 

 だがそれは警戒しないという理由にはならない。

 マイト・ガイ。 あんたにも幻術を掛けようとしたが躱された」

 

「写輪眼の幻術はカカシで慣れていたからな。

 咄嗟だったが視線を外した」

 

 流石だよガイ。 仮にも先生として生徒に追い抜かれた気分だ。

 

「まあ、ハジメを封じられたのなら問題ない。

 アンタも十分厄介だが、一人くらいならどうにかなるだろう」

 

「俺は無視か、サスケ?」

 

「カカシ。 あんたのチャクラが枯渇寸前なことを見抜けないと思ったか?

 既に戦力外のあんたは数にいれてない」

 

 現在のカカシは両目が切り替えの出来ない写輪眼状態で、目を開けているだけでチャクラを消耗する。

 日常的に何かしらの対処をしなければいけない問題だが、今の状況で戦うならチャクラの回復役が必要になるという欠陥をカカシは抱えていると言える。

 

「サスケ君! 私は!…」

 

「お前も余計な事はするな、サクラ。

 お前じゃ俺の脅威にはならない」

 

「クッ………」

 

 相手にならないと言われ悔しそうにするサクラ。

 戦えるのに幻術を掛けられなかったのはその証拠だと、サスケが言っているように思える。

 

「ナルトを除いて、俺の邪魔になる相手はあんただけだ、マイト・ガイ。

 あんた一人だけなら、ナルトと決着を着けるまで水月たちで足止めは出来るか?」

 

「ちょっとサスケ! いきなりそれはかなりの無茶ぶりだよ!」

 

 ガイもカグヤ戦でかなり大暴れしている。

 そんなガイを足止めなど水月も無茶だと言い、サスケ自身も出来るのか疑問符を浮かべている。

 

「サスケ! これ以上皆に手出しをすんな!

 俺とお前だけで決着を着ければいい話だろう」

 

「邪魔が入らない様に厄介な奴らを封じているだけだ。

 こいつらを見ていると輪廻眼もお前の六道仙術も大した力に思えなくなってくる」

 

 邪魔をする気はなかったが、例えサスケが勝っても本当に世界を敵に回せるか不安になるセリフだな。

 

「わかったってばよ! 俺とお前だけで決着を着けてやる。

 ゲキマユ先生、だから俺に任せてくれってばよ!」

 

「ナルト…。 わかった、お前の青春を思いっきりぶつけて勝って来い!」

 

「ハハッ、こんな時でもゲキマユ先生は変わんねえってばよ」

 

「サスケの考えには賛同出来んが、ライバルとの決着に燃えるのは当然だからな!」

 

 展開的には確かにガイが好む状況だ。

 

「決まったな。 なら…」

 

 

――天道・地爆天星――

 

 

 サスケが地爆天星を発動して尾獣達を岩石の中に封じ込める。

 幻術を掛けられたからか、ついでに僕まで!?

 

「尾獣達とハジメを助けたければ俺を倒す事だ。

 あの場所で待つ…」

 

 そう言い残し、岩に閉じ込められ始めている僕の方を一瞥してから、決戦の場所に向かっていった。

 岩によって封じ込められるところでガイに呼びかけられる。

 

「先生!」

 

「大丈夫だ…ナルトに…任せろ…」

 

 そう言い残して地爆天星の岩石の中に僕は封じ込まれた。

 マダラにもこの戦争で一度封じ込まれたので、この術と相性が良くないのかもしれない。

 

 

 

 地爆天星に封じられて幾分か時間が経った。

 幻術は自力で既に破っている。 方法はこの世界で培った忍者としての経験ではなく、シャーマンキングの世界で巫力を増やす為に鍛えた精神力で力づくで破った。

 輪廻写輪眼による幻術だったし、忍者としての力量ではいくらチャクラが多くても破れなかっただろう。

 僕の中には穆王もいたので人柱力と同じ方法で内部から解いてもらう手段もあったが、本体ではないからか幻術を解く事は出来なかった。

 

 幻術は解いたが二人の戦いを邪魔する気はなかったので、決着が着くまで地爆天星を破らず待っているつもりだったが、僕と尾獣達を封じている岩石が動き出した事で状況が変わった。

 恐らくサスケが尾獣達のチャクラを利用する為に呼び寄せたのだろうが、僕まで呼び寄せているのはまずい。

 流石に僕のチャクラを利用させるわけにはいかないので、地爆天星から脱出する事にする。

 

 

――甲縛式O.S. 穆王の鎧――

 

 

 O.S.現身・穆王を甲縛式に凝縮させた力を振るい、地爆天星の封印を破る。

 穆王の鎧は僕自身が穆王の頭を模った兜を着け、後頭部から五本の尾が伸びて肩当てを着けたような姿だ。

 五本の尾を強めに振るっただけで地爆天星の岩石を内側からぶち抜き、外へ脱出する。

 

「先生!」「「ハジメさん!」」「ハジメ!」

 

 脱出して地面に降り立つとガイにカカシ、サクラ、クシナがサスケの仲間と相対する形で向き合っていた。

 透視で見ていたので状況は分かっている。 ナルト側とサスケ側に分かれてたので一応お互いを警戒していたのだ。

 カブトは関与せずに距離をとって様子見に徹しており、六道仙人はマダラの下半身のチャクラが尽きてすでに消えてしまっていた。

 一尾と八尾のチャクラをナルトに供給したから、姿を現していられる時間が減っていたのだろう。

 

 後は…

 

「大蛇丸。 本気で狙っていたわけじゃないみたいだが、マダラの輪廻眼を渡すわけにはいかんぞ」

 

「残念ね。 貴方が出てきたら流石に諦めるしかないわ」

 

 マダラの遺体に残った輪廻眼を大蛇丸が狙い、カカシ達を牽制していたのだ。

 二人の決着次第で状況が変わるのでまだ本気で手に入れようとしていたわけではないが、サスケが勝ったらそれを口実に持ち去る気だっただろう。

 

 流石にそれは見過ごせないので阻止する。

 戦後のマダラの輪廻眼の扱いも考えておかないといけない。

 そう言った事を考えなきゃいけないあたり、僕も木の葉の重役として板が付いているな。

 

「ハジメさん、ナルトとサスケの戦いはどうします」

 

「こうして脱出はしたが、手を出すつもりはない」

 

「しかしサスケが勝ったら…」

 

「カカシ、お前が心配するのも分かる。 僕もサスケにそんな道を歩んでほしいとは思ってない。

 だがサスケを引き留めて、こっちに呼び戻せるのはナルトだけだ。

 ナルト以外じゃ、おそらく殺さなければ今のサスケを止める事は出来ない。

 それくらい今のアイツの意志は固い。 カカシも分かってるんじゃないか?」

 

「それは……」

 

「ナルトを信じろ。 お前たちはそれが出来るはずだ」

 

 二人の決着は本当に分からない。 ここは原作とは僅かに状況が違うからだ。

 ナルトに託す以上、サスケが勝つようなら僕もそれを見送るつもりだ。

 だから僕自身も、ナルトが勝つことを信じるしかない。

 

 幾度となく思う。 僕の力を全力で奮うだけで解決出来るならと。

 だが、この戦いは必要な事なんだ。

 心の底からナルトが勝って、サスケを止めてくれることを祈る。

 

 

――ドオオオオオォォォォォォォンンンン!!!――

 

 

 大きなチャクラのぶつかり合いを感知し、だいぶ遅れて大きな音と凄い衝撃波がこちらまで到達した。

 双方が十尾の攻撃に匹敵するかのような威力が正面からぶつかったみたいだ。

 

「これは! これが今のナルトとサスケの戦いなのか」

 

「おそらく最大威力の術同士がぶつかりあったんだろう。

 どちらのチャクラも感知できるから死んではいないみたいだが、二人とも大きく消耗してるみたいだ」

 

「ナルト、サスケ。 頼むからどっちかが死ぬようなことになるんじゃないよ」

 

 二人の親であるクシナが、やはりもっとも二人の無事を祈っている。

 これで原作と違いどちらかが死ぬような結果になるなら、僕としてはかなり気が重い事になる。

 そうなったら、今度こそシャーマンキングの蘇生術呪禁存思を使う事を躊躇わないぞ。

 

「そう遠くない内に決着は着く筈だ。

 ゆっくりでいいから二人の元に向かおう。

 カカシ、悪いがマダラの遺体は神威で保管していてくれるか」

 

「あ、その手がありましたね」

 

 大蛇丸に狙われていた時に、そうすれば確実に奪われずに済むと気づいたみたいだ。

 ただしチャクラ切れだったので、僕がチャクラを供給して神威を使ってもらう。

 大蛇丸が残念そうにずっと見ていたが、相手にしていられん。

 

 ナルトとサスケが戦っているだろう終末の谷に、全員で向かう。

 辿り着く頃には恐らく決着は着いているはずだ。

 

 

 

 

 

 ナルトとサスケの戦いは決着を迎え、無事に無限月読も解除して第四次忍界大戦は無事に終結となる。

 原作の様に全力でぶつかり合い、共に力を使い果たした後にナルトがサスケを説得する形で決着を迎えたようだ。

 違う点は僕達が辿り着いた時、二人はボロボロでお互いの利き腕は特に酷かったが、形は残しており再生忍術で治療出来る範囲だった。

 サスケの心境の変化が、共に片腕を無くすという結果を変えたのだろう。

 

 倒れていたナルトの治療を僕とクシナが行ない、サスケの方はサクラと香燐が積極的に治療しようとしていた。

 口では争わずとも互いに威圧し合いながら行われる治療に、治癒するどころか死に掛けの状態にプレッシャーでトドメを差されそうな様子で、『シヌ…』と言葉を漏らし見かねてクシナが二人を押しのけて治療を代わった。

 その様子を見ていたナルトは…

 

『なんでサスケばっかって昔はよく思ったけど、あれは羨ましくねえってばよ』

 

 と、勝ったはずの立場から微妙な表情でサスケを見ていた。

 そんな表情でナルトに見られている事に気付いたサスケも、なんとも言えない表情になっていて、二人にとって重要な戦いの決着を僅かに微妙なものにした。

 

 

 互いの六道の力を賭け合っていたがナルトがサスケの輪廻眼を望むはずもなく、そのままでお互いが動けるようになってから無限月読は解除された。

 二人の戦いはナルトがサスケを咎めさせない為に、この場に居た者達だけが知る秘密とされた。

 つまり里抜けをしたサスケの罪はそれのみに留められ、大戦後にサスケは木の葉に帰還する事となった。

 

 戦後の処理が一段落着くころまでは木の葉に留まり、今度は里に認められたうえでサスケは再び里の外に出た。

 原作の様に大筒木カグヤの謎を追うためだ。

 

 戦後の処理が一段落着いても、神・樹界降誕で世界中に生えた樹木による被害が大きく、復興のための仕事はたくさんあった。

 綱手様は戦争の終結を機に火影の引退を表明して、僕も長らく続けていた火影補佐を辞そうと思っていた。

 

「やめるはずだったんだけど、なんでまだ僕は火影補佐を続けているんだ?」

 

「なんでって、いなくなったら俺が困るからですよ、ハジメさん」

 

「六代目…」

 

 六代目には原作通り、カカシが就任した。

 綱手様もあれでそれなりに高齢だからと引継ぎの話は以前からしており、カカシが六代目に名を上げて恙無く引き継がれた。

 オビトに六代目に成れと言われていなかったのにこうなったのは、嘗てのオビトが火影岩に己の写輪眼を刻みたいと語っていたかららしい。

 

 カカシには今も両目にオビトの写輪眼が収まっている。

 両目とも切り替えの出来ない写輪眼になってしまったので、今は額当てで目を隠すのではなく瞳術を封印する術式が刻まれたバイザーを着けている。

 未来の油女シノに似た感じだが、普段から両目も口も覆い隠す事になり一見では不審者にしか見えなくなる。

 火影岩は目を晒した状態にするらしいが、やはりマスクは外さないらしい。

 

「いい加減やめたかったんですけど…」

 

「勘弁してくださいよ。 就任したばかりで戦後処理も忙しいのに、ハジメさんまでいなくなったら火影の仕事が回らなくなりますよ」

 

「案外何とかなるんじゃないですか?」

 

 元々僕はいなかったのだから、戦後に綱手様から引き継いでも何とかなっただろう。

 火影となり部下の立ち位置になったので、カカシを六代目と呼び敬語も使うようにもしている。

 

「いやいや、ハジメさんの役割は大きいですよ。

 新任で一人でこの状況を回すなんて無理ですってば」

 

「…やっぱり綱手様をもう少し引き留めておくべきだったか」

 

 あの人、火影をやめたらさっさと里を出てどこかへ行ってしまった。

 火影になる以前と変わらないが、責任のあった立場を離れたばかりだと言うのにフットワークが軽い。

 

 そういえば戦後処理と引継ぎをしていた時に、静養していた自来也がひょっこり現れて、ブチ切れた綱手様の拳の一撃で完全に成仏させられた。

 蘇生術とまではいかない綱手様の治療で再び現世に呼び戻され、再びボコボコにされペインにやられた時よりも酷い有様となった。

 仕置きが終わった後は綱手様は治療せずに叩き出し、自来也はこちらに治療を求めてきたが自業自得なので僕も治療しなかった。

 仕方なく自来也は妙木山での療養生活をやり直しになったらしい。

 後、ペインとの戦いで片腕を失っているので、忍としても引退するそうだ。

 

「ところでよかったんですか? サスケの見送りをしなくて」

 

「うちは一族の資産の引継ぎでさんざん顔を合わせてたからな。 また出ていくのも分かっていたし、先に済ませておいた。

 今度は定期的に帰ってくるようだし、あまり気を使わなくてもいいだろう」

 

 後見人になった時から管理していたうちはの遺産。

 それをようやくサスケに引き継がせられたので、うちはに関するすべての肩の荷が下りた。

 うちはの資産は木の葉にすべて残っているので、それの管理の為にサスケは定期的に帰ってこなければならなくなる。

 長々と風来坊ではいられないだろう。

 

「ま、あいつももうガキじゃないって言ってましたからね。

 昔っから可愛くない所は変わってませんが、ちょっとは大人らしい対応も出来るようになったみたいですからね。

 ただサクラが直前になって、無理矢理ついていっちゃったのは予想していませんでしたよ」

 

「は? サクラがついていったのか?」

 

 今度は一人で旅をするんじゃなかったっけ?

 

「ええ、サスケを迎えに来てたカリンって子が原因みたいですがね。

 直前になってついていくと言い出すもんだから、里を出るための手続きを全部俺に押し付けてっちゃったんですよ」

 

 それならそうなるわな。

 サスケの行動が原作よりマイルドになったせいで、恋愛関係の戦いが激化している気がする。

 

「お陰でまた仕事が増えちゃって。 あ、これ、サクラの外出手続きの申請です。

 事後処理だと面倒なんで、事前に終わらせてたって事で何とかなりませんかね」

 

「無理です。 自分の生徒なんですから責任持ってやってください」

 

「あ、やっぱり? けど、貴女の妹弟子でもありますよね」

 

「その師匠が真っ先に飛び出してるんですよ。

 やっぱり師匠に似たんだろうな…」

 

 僕やシズネさんを筆頭に綱手様の医療忍術を学んだ者は多いが、一番似たのはサクラだからな。

 

「まっ、成長したと言ってもまだ10代ですからね。

 色恋にも真剣になる年頃なんでしょう。

 ハジメさんはそろそろどうなんです?」

 

「なんですか、いきなり…」

 

「また来てますよ。 水影様からのラブレター」

 

 また来たのか…。

 戦後、五里の影同士の繋がりが強くなったおかげで書状を届けやすくなったが、そのせいで頻繁に水影様から届くようになったのだ。

 既に何通も来ているが、その内容の全てに僕を霧隠れに招待したいという物が含まれているのだ

 

「…一応正式な霧隠れからの書簡でしょうに」

 

「始めの方は格式を守っていましたが、後の方になると毎回ハジメさんへのラブコール一色ですよ。

 毎度毎度、ぜひ霧隠れに来てほしいと締めくくられてます。

 最初に読むの俺なんですけどねー」

 

「火影として抗議の返事をしてはどうです?」

 

「あなたが直接水影様と連絡を取り合ってくれれば解決するでしょう」

 

「そう言う訳にもいかんだろう。 思慕の念を持たれてるのは分かるが、立場が問題だ。

 これで僕が一介の忍なら友好のために派遣される可能性はあるが、これでも火影補佐として長くやってる。

 相手は水影様だ。 別々の里に深く関わってる者同士が容易に縁を結ぶのは些か不味いだろう」

 

「まあ、そうですね。 ですがハジメさん?

 ラブコールその物には悪い気はしていないと」

 

「…色々事が片付いたからな。 身を固める機会があるなら考えないでもない」

 

 僕自身はこの世界に骨を埋める気でいるからな。

 家庭を持って子を持ちたいという思いも無い事は無いのだ。

 

 僕の返事を聞いたカカシが、目を見開いて驚いた雰囲気を見せる。

 バイザーで両目は見えてないがな。

 

「え、マジですか? そういったことに興味はない人だと思ってました」

 

「…これまで忙しかったからな。 そんな事を考える余裕がなかっただけだ。

 アイツらも立派になってきたし、少し寂しいと思ってな」

 

 なんだかんだと、ナルトとサスケの成長を自身の子供の様に見ていた所があったらしい。

 所帯を持って子を持ちたいという気持ちが無いでもないのだ。

 

「そういえばハジメさんは、ナルトが生まれた時から気に掛けてましたからね」

 

「それはお前も同じだろう。 ミナトに近しい者は皆ナルトを気に掛けていた」

 

「ハジメさんは特にでしょう」

 

「ミナトに頼まれていたからな」

 

「そのせいでクシナさんとの再婚の話が上がってませんでしたっけ?

 あれって今話があったらどうなんです」

 

「ないわ! というか、つい先日またミナトと別れたばかりだぞ。

 死人が戻ってくる可能性がある世の中で、友人の妻の再婚相手になんぞなれるか!」

 

「…確かにそれは気まずいですね」

 

 穢土転生は忍界の一つの常識をぶち壊していた。

 

「それにクシナとも十分付き合いの長い友人だ。

 アイツのミナトへの思いも知っている。 よき友人であることはもう一生変わらんだろう。

 っと、喋り方が戻ってしまっていました。

 やはりまだ慣れませんね」

 

 つい以前のカカシの立場と同じように話してしまっていた。

 三代目も五代目も目上だったので普通に接していられたが、カカシは目下の立場からの火影就任だ。

 普段の会話であれば問題無いが、執務の時は立場を弁えなければならない

 

「俺もハジメさんの上に立つのは慣れませんからね。

 気にしませんから、普通に話してくださいよ」

 

「これでも火影補佐をやってきた自負がありますからね。

 形式は守らせて頂きます」

 

「やっぱ火影ってのは堅苦しいねぇ」

 

 なると決めたのはカカシなのだ。 これまでのようにはいかないのでそこは我慢してもらうしかない。

 特に火影としての仕事中にイチャイチャパラダイスを読むのは絶対にダメだ。

 息抜きと言って堂々と読もうとするから困る。

 自来也が生きているので、もし続編が出たらどうなる事か。

 

 そんな面倒な未来を想像していたら、書簡を読んでいたカカシが何かに反応する。

 

「あっ」

 

「どうしました?」

 

「いえ。 とりあえずこれでも最後まで読まなきゃいけないだろうと、ハジメさんへのラブレターを読んでいたんですけどね」

 

「普通に書簡と言ってください」

 

「どう読んでも甘ったるい恋愛小説の一片を読まされてる気分になるんで、とても書簡とは思えないんだけど。

 あーそれでですね、水影様が里に来た綱手様を客として持て成したと書いてあります」

 

「綱手様が今霧隠れに?」

 

「どうやらそうらしいですね」

 

 数少ない女性で影になった者同士だ。

 水影様は綱手様に敬意を持っていたようにも見えたし、決して相性は悪くはないだろう。

 だが綱手様が水影様と接触したと聞いて、何か嫌な予感を感じないでもない。

 本人は結婚していないくせに、五代目を務めていた頃に見合いの話を何度か持ち掛けられたことがある。

 あれはお節介なオバチャンの雰囲気をぷんぷんに匂わせていた。

 

 嫌な予感の通りに、水影様に共謀した綱手様が本気になって、僕の外堀を埋めに来るのを知るのは数年後の事だった。

 

 

 

 

 

 仕事を終えて一段落して一人でいる時に、元の世界の本体側からの接触があった。

 連絡役のコピーが来て、今後どうするかの確認に来たようだ。

 

「原作も終わったが、お前自身はやっぱりこの世界で生きるんだな」

 

「既に愛着がわいてしまってるからな。 この世界にいる友人を残して本体に統合されるのは心残りがある。

 この世界で死ぬまでは過ごす事にするよ」

 

「コピーの独立は元から想定はしていたことだ。 他の世界の力を乱用しなければ、問題無いだろう。

 だが随分第四次忍界大戦で活躍したみたいだな」

 

「あれでも一番強いドラゴンボールの力は極力控えていたぞ。

 だがやっぱり本体側はこっちの様子を確認してたんだな」

 

「原作に関わる場面に限ってだがな。 マダラとカグヤとの戦いは随分暴れていたな」

 

「…なんか異世界転生させた神様に見られてる転生者になった気分だ」

 

「…まあ本体とはいえ、見えない所から見ていたと言われるのは気分は良くないだろうな。

 そっちのプライベートまでは見てないから安心してくれ」

 

「こっちも本体から分岐した存在だ。 本体側の考えは分かってるつもりだよ」

 

 元は同じ思考をしていた存在だ。 コピーの反乱を恐れて配慮する事を心掛けているのはちゃんと覚えている。

 影分身みたいに消えないので、扱いに気を使うのは当然だからだ。

 影分身と同じように安易に危険に飛び込ませるように扱ったら、確実に反乱を起こすだろう。

 

「そういえば未来の外伝に大蛇丸がクローン技術を作って、それを流用した奴が騒動を起こす話があったな」

 

「確かにあれは正に僕等が失敗した場合の解り易い例だな」

 

「今後大人しくなった大蛇丸の研究は止めるつもりはないから、僕の行動で歪みが起こってなければ同じような研究は行われるだろうな。

 問題として発覚するまでは手を出すつもりはないけど、未来の大蛇丸は何か騒動を起こしてないか?

 タイムテレビでこの世界の歴史はいろいろ確認してるんだろう」

 

 僕の行動の確認もタイムテレビを使っていた筈だ。

 

「本体のスタンスは変わってないよ。 必要がなければ未来は知ろうとしない。

 この世界の僕のこれからの事は確認してないから、気にせずにこの世界で生きればいい」

 

「助かる。 もし何か手に負えない事が起こったら、連絡を取るかもしれないからよろしく頼む」

 

 秘密道具などは全部手放したが、唯一本体側にこちらから連絡を取れる手段は残している。

 ボタン一つを押せば、その時代の僕に本体側から即座に接触を図ってくれるようになっている。

 まあ、この世界の問題に収まらない様な事でもなければ頼る事は無いので、よほどのことがなければ一生使う事は無いだろう。

 

「この世界の忍術の研究は今後も続けるから、時代の節目にでもコピーの卵の回収にきてくれ。

 本来の目的だった技能の収集くらいは、今後も本体に還元させておきたい」

 

「必要な技能は既に回収出来ているから、既に必須と言う訳じゃ無いぞ」

 

「原作本編を終えて後は蛇足の様な人生を送るつもりなんだ。

 趣味程度の研鑽に留めておくつもりだよ」

 

 忍界大戦を終えていろいろやりきった感がある。

 火影補佐の仕事はまだ当分続きそうだが、気持ちだけは既に隠居に向かっている。

 

「続編のBORUTOもあるだろう?」

 

「それこそネクストジェネレーションに任せるさ。

 僕はミナトと同世代の人間だからな」

 

 その頃には僕も本当に引退しているだろう。

 

「そうか。 まあ寿命で死ねるように頑張ってくれ。

 大体十年ごとくらいに確認に来るよ」

 

「わかった。 そっちからすればすぐなんだろうが未来の僕によろしく」

 

「ああ、元気でな」

 

 パラレルマシンを使って、連絡役の僕は元の世界に帰っていった。

 

 時間を越えられる本体側なら、この後すぐに10年後の僕を確認しに行くだろう。

 僕にとっては10年でも、本体側ではすぐの事だ。

 十年後までに何か本体に役立つ研究成果を用意しておきたい所だ。

 

「さて家に帰るか。 穆王も待ってる」

 

 終戦後、僕と共にいた穆王の断片は解放された本体に戻らず、これからも僕の家に居座る事にした。

 僕から分離するときは、やはり本体じゃなかったからか人柱力の様に死ぬことも無かった。

 今は元通り僕の家の留守を預けているが、馬サイズではあるが元の姿で暮らしている。

 尾獣本来の姿で物珍しがられてはいるが、ご近所とは変わりなく付き合えているらしい。

 

 留守を任せているだけだが、ここでの生活は思いの外気に入ってくれていたらしい。

 せっかくの同居人に何か土産でも買っていこうと、市街地を回ってから家に帰る事にした。

 

 

 

 

 




 これにてナルト編、終了です。

 数話だけでしたが、前の投稿から二か月経ってしまいました。
 もうちょっと早く投稿したかったです。

 カグヤとの決着はいろいろ流れを考えましたが、何とか纏まりました。
 ただナルト編終了となる終わりと判りやすい今回の話は、どうにも迷走した感じがあります。
 物語を考えるのは楽しいですが、終わらせ方というのは結構難しいと今回の話で経験しました。
 原作の漫画だったらタイトルとそれらしいイラストでOKって感じでしたが、それを文章だけでやるのは難しいですからね。

 ナルト世界に来たコピーのハジメはこの世界に残って過ごします。
 ボルト時代のハジメもイメージしていますが、原作もまだまだ途中ですので、今のところ書く予定はありません。
 サスケが誰とくっつくのかまだ決めていませんので(笑)

 今回の話は長くなってしまいましたので、もうちょっとテンポよく話が進む書き方をするのが今後の課題です。

 では、また次の投稿をお待ちください

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。