爆豪くんが逆行しました   作:ネムのろ

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書き手の活力を上げるのは、コメントや感想をくれる読者様なのだなと
いつも感想をくれる読者様たちにとっても感謝してます!
ありがとうございます!!感想を!!ありがとうです!!!
というわけで久々に褒めちぎられて活力わいたので、あっという間に書きました!
本当に!!ありがとうございます!!!!

今回のお話は前回でポッキリ折った部分+αを書きました。色々視点が変わります。
轟君だったりデクだったりかっちゃんだったり相澤先生も…今回でかっちゃんトラウマ編は一時期終わりかな~?


第10話 大切な思い出

~轟焦凍 視点~

 

あいつと初めて会ったあの時、正直に言えばいけ好かねぇって思った。どうして親父が俺と会わせたがるのかわからなかった。

だけどあいつが親父と互角に張り合うのを見て、目を見張ってしまった。

いつの間にか食い入るように見てたんだ。アイツの動き、蹴るや殴るなどの動作がとてつもなく洗練されたものだと一目で見て気づいた。

 

「キレイだ…」

 

思わず零れた言葉は、誰の耳にも届かなかったが…俺自身が耳を疑うほどで。でも、それが自分の本心からくる言葉だった。

だから納得しちまったんだ。親父がなぜ、爆豪に異様に執着しているのかを。

 

あいつはキレイだから。あいつは、強いから…

 

だけど、親父に連れられて何度かあいつを観察する間に気づいちまったんだ。あいつの…爆豪のキレイな真紅の瞳が曇るときがあるのを。それはいつも決まって、幼馴染の“緑谷”というヤツの名前が出る時だった。

はじめは俺には関係ないし、人のデリケートな部分まで干渉するもんじゃねーとほっとこうと思った。けど…その顔が時々寂しさに歪んだり、悲しみで思考がかき乱されて、動きや思考が鈍る。そしてきまって胸を掻くような仕草を、誰も見ていない時にサッと素早くする。

 

汗がブワリとにじみ出て、嗚咽をかみ砕くように下唇から血がにじむまで噛み、無理にでも痛みを逃がしているようだった。上手く息ができてないのか、はっ…はっ…と苦しそうに息を吸っては吐いてを繰り返して。

 

その一連の動きは見覚えがある。幼い時の記憶───お母さんがよく隠れて………

 

(過呼吸…?)

 

それで理解した。あいつは幼馴染の何かの事で苦しんでいるのだと。そしてそれは───…今も彼を苦しめているのだと、目の前で倒れてしまった爆豪を見て俺は直感した。

 

あいつが苦しそうな顔をするのは、いつも

 

(緑谷が傍に居る時だ……)

 

そうだ。アイツがいつも言っていた、“バカなお人よしで鈍感で頑固な幼馴染がいる”と。懐かしむように。けど時々苦し気に。

ソイツが傍にいるときだけ…爆豪はいつにもまして喜び、そして悲しむ。そいつの話をするだけでも顔や態度にそれが現れる。

 

ようは爆豪にとって、緑谷は劇的な弱みにもなるし、強みにもなるってことだった。

理由はわからねぇ。聞いた事も、ましてや聞きてぇとも思ったこともねぇ。けど、コレはねぇだろ…

 

いくらなんでもコレはねぇよ緑谷。

こんな、弱ってる爆豪にトドメ刺すみてぇなこと。

こればっかりは………

 

「緑谷…悪ぃな…俺はお前を許せねぇ」

「?!」

 

その俺の殺気こもった言葉を聞いてクラス中どよめきが上がる。力なく倒れた爆豪の体を間一髪で支えることに成功した俺は、きっとすげぇ顔してたんだろうな。緑谷の顔が強張ってるし身体も少し震えてる。

けど、知ったこっちゃねぇな。爆豪をこんなんにしちまったのは目の前のコイツだ。コイツのせいで爆豪は限界を超えちまった。

 

「爆豪がこんなんなっちまったのは、大半はてめぇのせいなのに」

「?!?」

 

それをお前は…

 

「お前の中の爆豪って…なんなんだよ?」

「ぼ、くの…中の…」

 

ああ、見ててイライラする。こんなにイライラすんのは…アイツ以来だ。

 

「親父以来だよ。ぶっ飛ばしてぇって思ったの」

「?!」

「お前は爆豪を見ているようで何も見えちゃいねぇ…こいつの優しさに気づきもしねぇで…」

 

あんなに大切に思われて、大切に扱われて守られていながら。

 

「よくもまぁ、爆豪にこんな…」

 

ああ。ダメだ。これ以上ここに居れば俺はきっと。こいつを。

 

「と、轟くん…かっちゃんをどこに」

「保健室に連れて行く。くれぐれも後を追ってくれるなよ緑谷…じゃねーと俺はテメーに何をするかわかんねぇ」

「…っ」

 

空気ぐらい読めるヤツで助かった。俺は早々にその場を離れた。爆豪をお姫様抱っこして保健室に向かう。体温が妙に高いのは熱のせいだとわかるが、明らかに汗の量とその汗の冷たさが異常だ。

息もあんまし上手くできてねぇし…痙攣してやがる…

早くリカバリーガールに診せにいかねぇと…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~緑谷視点~

 

カッとなってしまった。頭に血が上ったんだ。だってあのかっちゃんが、ため息ついて僕に何も言わずに去ろうとするし。

なによりも、あんな彼の弱々しい目を見て、我慢ができなくなってしまったんだ。

 

どうしよう…

 

かっちゃんが…倒れてしまった。倒れないと思ってた。だってあのかっちゃんだもの。大丈夫だって思った。かっちゃんだったら何でもできるし、誰よりも丈夫で誰よりも頑丈だって信じてた。いや、過信してたんだ。

だからかもしれない。

彼の顔が、異常に青白くなっていったのにも、息苦しそうにしてたのにも…気が付かなかった。気が付かなかったんだ───…

 

どんなに強くたって、人は人。身体でさえ異常なときはあるのに。心だって……何らかの条件がそろえば人は病気になるし、壊れることも───

そこまで考えて僕は頭を抱えたくなった。後悔の念が押し寄せてきても今更だ。そうだ。今更なんだ。

どうして僕はいつも、かっちゃんだったら…と彼を他の人と隔てて考えちゃうんだろう…どうしてかっちゃんだったら、頑丈だからと、これくらいで倒れないと思ってしまうんだろう。

 

かっちゃんだって、僕らと同じ高校生なのに。僕らに悩みがあるようにかっちゃんだってあるハズなのに。なのに僕は…どうしてもかっちゃんが

 

違う次元に居る超存在だって、思ってしまうんだ。

謝りたい。かっちゃんが無事かたしかめたい。でも…今は…できない。

 

『後を追ってくれるなよ緑谷…』

 

轟くんの言葉がリフレインする。切羽詰まったようなその表情が、かっちゃんを見る時だけ優しく、そして悲し気に動くのを知っている。

 

『じゃねーと俺はテメーに何をするかわかんねぇ』

 

そう言い放った轟くんは、僕を見る時だけ眼光が鋭く、冷たかった。

 

後を追ってはいけない。僕はきっと、あの二人の触れてはいけないデリケートな部分に触れてしまったんだ。

後を追ってはいけない。無意識に握りしめてた拳から力を抜く。緊張で強張った身体はまだカタカタと震えてた。

 

そして僕は、かっちゃんが握り締めてたある物が床に転がっているのを見て、わかってしまった。理解してしまったんだ。直後押し寄せたのは後悔と“痛み”

 

「……っ!」

 

痛むあまりに胸を両手で押さえ、ギュッと握り締める。胸に剣でも突き刺さったかのような、鈍くてとっても痛い悲しみの痛みだった…

 

「ぼくは…っ! なんて事をかっちゃんに……!!」

 

その場に泣き崩れてしまった僕を、クラスの皆は唖然と見守ってて。そこにすでに居た相澤先生は、みんなをまとめる為に声をかけて。

 

「緑谷。お前はちょっと来い」

 

今まだ涙を流す震える僕をそっと立ち上がらせて、一緒に誰もいない、誰も来ないような屋上へと連れてきてくれた。

 

「少しずつでいい…お前の言葉で聞かせてくれるか。お前と爆豪の今までを」

 

先生の優しさが、今の僕にはとても痛くて苦しくて。でも、とても嬉しかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは幼い時の記憶。少しぼんやりする記憶の一つ。

 

二人はいつも一緒だった気がする。いや、時折どこかへ行きそうになる勝己を、出久が必死に手をつないで隣に縛り付けていたと言っても過言ではなかった。

それほどまで、出久は勝己に依存していた。ふとした瞬間に出久は頻繁に感じたのだ。そこら辺に吹く風でさえ、勝己をどこかへ攫ってしまいそうな…

まるで少しの事でさえも、消えていなくなってしまうような。目の前から跡形もなく掻き消えてしまうような…そんな危うい感覚がいつも出久を襲った。

 

いつも不安でたまらなかった。勝己にはどこにも行ってほしくなかったから。消えてほしくなかったから…

だって出久にとって勝己こそ己の大切な宝物だったのだから。キラキラと光り輝く彼をずっとそばで見ていたい。

自分のエゴだったのだ。だからあの時も勝己を縛るように。自分を忘れないようにするために、勝己の誕生日に願いを込めて贈った。

 

特典付きの、期間限定オールマイトキーホルダーを。

自分のコレクションの中の、特別な思い出の詰まったキーホルダーを贈った。

勝己はこんな貴重なものを貰えないと返そうとしてきたが、無理やり受け取ってもらったのだ。

 

『昔どこかで、誰かに聞いたんだ。』

 

出久は語った

 

『もしも自分の大切な人がね、遠くにいっちゃってもね』

 

自分の大切にしている宝物を贈ると、その絆は永遠につながっていてくれるのだと。たとえ何が起ころうとも、何かが二人を隔てても。

その絆を大切に思う間は、決して消えない『まじない』なのだと。

 

『だからねかっちゃん』

 

僕の前から消えないでね

 

そう言った出久を、勝己は目を見開いて驚いていた。

 

(まるで…わかってるかのような顔で笑うんじゃねーよ…)

 

勝己がこれから何をしようとしているか、まったくわかっていない癖に。だが、だからかもしれない。そんな出久を見て勝己は新たに覚悟を強固にした。

そして勝己はそれをギュッと握り締めて、真剣な顔でこう言ったのだ。

 

『わかった。何があってもオレはお前との絆を手放さねぇ。何が起こっても…俺だけでも大切に持っててやる』

 

返品はきかねーぞ!

 

最後にそう言い放った勝己の顔は、ニッと彼らしく笑っていたのを、出久は今でも昨日の事のように思い出せた。

 

「…これが、さっきかっちゃんがずっと握り締めてたキーホルダーです…」

 

出久は蹲りながらも先ほど拾ったキーホルダーを相沢に見せる。それは大切に扱われていたためか、完璧に原型をとどめていた。

丁寧に上からプラスチックのようなものの袋で包められてて、勝己の爆発にも耐えられる素材でできている。

 

「捨てたって思ってた…」

 

もう出久とは関係ないのだと、言われているような気がしていた。彼が自分を隔ててたのだと思っていた

だけれど、それは出久の思い込みだった。勝己はずっと大切に持っていてくれたのだ。絆を。あの日の思い出を。優しく包み込むようにそっと自分の胸に抱いて。

 

「ずっとずっと…かっちゃんは僕との思い出を大切にしてくれてた…」

 

勝己ではない。実際は自分が隔てていたのだ。彼を自分から。その現実を必死に見ないようにして…結果、勝己を傷つけてここまで追い込んでしまった。

 

「かっちゃんは…かっちゃんは…! こんなのに縋るほど…! 大切にしてくれてたのに!! なのに…!! ぼくはかっちゃんを傷つけるだけして…っ!」

 

そしてまた、出久は声をあげて泣いてしまうのだった。

 

「そうか」

 

静かな、先生の声が響く。

ストと隣に座って、相澤はポンポンと出久の背中を摩った。

 

「ケンカや仲間割れは人生の中じゃいくらでも湧いて出てくるトラブルだ。」

「…」

 

問題は湧いて出てきて治まるものもあれば、生涯一生解決しないものもある。

 

「だからって、何もしないで手をこまねいてるのはお前の性分じゃないだろ緑谷」

「…!」

 

ハッとした顔の出久を見て、相澤は続ける。

 

「相手も立場も顧みず、深いところまで足を踏み入れてしまうのがお前だろ」

 

相澤が思い出すのは…己が無個性でも、傷つき動けない勝己や相澤を、ヴィランの攻撃から身を挺して守ろうとした出久の小さな背中。

 

─出久が忘れてしまっている記憶だ─

 

とても小さくて頼りないはずなのに。何故かとても大きく感じてしまったのだ。あの日の事をきっと一生、相澤は忘れる事はないのだろう。

 

「お前たちの絆が具現化したようなモンなんだろソレ」

 

キーホルダーを指さす。カサリと出久の手の中で音が鳴る。懐かしむように微笑み、そっとキーホルダーを撫でる出久の顔は…物悲しそうで。

 

「……はい」

「じゃあ、あいつに返さなきゃいけないな」

「…」

 

黙りこむ出久を見て、相澤はまた出久の頭をポンポンと撫でた。

 

「爆豪を信じてやれ。あいつも苦しんでる。お前からもらった思い出の品を大事に今も持ってるっつーことは、あいつにとって掛け替えのない大切なもんだって事だ」

「そう…ですか? かっちゃんが僕との思い出を大切に……」

 

それに縋りつく程度には、彼にとってとても大切なモノなのだろう。

 

「そして必然的にそれは爆豪がお前を大切にしてるって事だな」

「ええ?! ぼ、僕を?! かっちゃんが?! うそだぁ…」

「あのな。そろそろ気づいてやれよ緑谷。」

 

呆れ顔でそう返す相澤。爆豪が可哀そうだと言った。

 

「…轟君にもオールマイトにも、言われました…」

 

思い出すはそれぞれの、言葉

 

『君の中の爆豪勝己という少年を、もう一度見返す必要があるのではないかな?』

 

オールマイトが言っていた、見返さねばいけない事柄。

 

『お前の中の爆豪って…なんなんだよ?』

 

苦し気に吐き出された言葉には、怒りと悲しみが含まれていた。まるで自分の事のように勝己を心配し、自由に思い、行動できる轟のその姿に嫉妬した自分が居て戸惑った。自分はそんなことなど出来なかった。

勝己の、あの背中を見るたびに……ああ、遠いなと目を細めるだけだった。だから対等に話している轟を見て──…どうしようもない嫉妬の炎が腹の底からせりあがってきて…気分が悪くなった。

 

だから余計に見て見ぬふりをしてしまったのだろう。おかげで普通の時ならば気づけた勝己の異変に、己は気づけなかった。

 

「僕の中の…かっちゃんは…」

 

出久は目を閉じて意識を自分の中に集中させた。

 

「いつも…横暴で、でも先を行く皆のリーダーで…」

 

そこで出久はハッとした。そうだ、なんで忘れていたんだろうと呟く

 

「とても、やさしくて…温かくて…」

 

また胸倉をギュッと握る。そうだ。そうだった。勝己はいつも傍に居てくれた。守ってくれていた。そして異常なまでに己を盾にしてまでも、出久を守っていた。あの勝己の手は一見乱暴そうに見えてじつは優しい事を知っている。

出久の頭を何度も撫でてくれた手だ。何度も弱い自分を引き上げてくれていた手だ。言葉も乱暴なだけで…すべて気遣われた結果ああなってしまったのだと気づく。

 

彼は根本的に傷つきやすく繊細な心を持つ──心優しい少年だったのだと、それは変わらずにあるのだと気づかされた。

だから。今までの自分に腹が立った。何も知らない自分が…今まで勝己をどれほど傷つけたか理解した。理解したから出久は心の奥がキュッと苦しくなった。

 

「お兄ちゃんみたいな…人でした…!!!!」

 

その言葉の後に続いたのは出久の泣き声のような叫び。

膝から崩れ落ち、大声で泣き叫ぶ出久を、相澤は黙って見つめていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(本当に覚えてねぇのか…あの時の事……)

 

相澤は一人思い出す。ある事件に幼い時の勝己がヴィランに攫われて、相澤が居たにもかかわらず苦戦し、しかしやっとの事で敵を追い詰めたその時だった。ヴィランが勝己ごと自害しようとしたのだ。

その時に相澤はすでに限界を超えており、目にダメージもあった。個性はこれ以上使えない。しかし使わなければ…そんなふうに迷っていたその時に事は起こった。

 

迷ってる相澤を置いて、こっそり後をつけてた出久が迷うことなくヴィランへと突っ込んで体当たりをした。

怯んだその瞬間に相澤が捕縛に成功した。その捕縛のさいに出久がケガをしてその日の記憶といくつかの記憶がぼんやりとしか思い出せなくなってしまうが。

すでに幾つかこういう事態の経験をしていた相澤や他の誰より早く、出久は敵へと怯むことも迷う事もなく…敵へと真っ向に向かっていった。

勝己という幼馴染を助け出すためだけに。

 

(デカいな…)

 

その小さな背中を見ながら思ったものだ。しかしその頃から勝己に変化が見られ始めたのもたしか。

 

(もっと爆豪へ配慮しておきゃよかった…)

 

そうすれば、今頃勝己だってあんなに苦しい思いをせずにすんだのかもしれない。もしかするとあの日の事が原因で彼の中でトラウマになってしまっているのかも…しれない。

出久が無茶をしでかして、ヴィランにやられてボロボロになる。それをあの日、目のあたりにしてから怖くなってしまったのではないか?

 

(だとしたら切っ掛けは緑谷の無茶だ。)

 

そう考えるとつじつまが合う。今までの勝己の無茶につながる。しかし繋がらない事柄も俄然として見えてくる。隠れた真実を追い求めていく相澤の目には、理解しつつある真実があった。

しかし、それに伴ってさらに隠れていた事柄が明白になって。

 

(だが、そうだとしてもだ。アイツの情報網がどっから来ているのか。それがわからねぇ…そもそも、子供の頃のあいつにあんな危険であいまいな情報、渡すヤツいるか普通?)

 

結局その部分は分からずじまいで。

相澤はムムムと思考に溺れていくだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも…さっきのかっちゃんの挙動を見るに考えたくはなかったけど、なんらかのコンプレックスもしくはフォビア、精神的負荷による精神と身体弱体化、それによるアンバランス性症候群で引き起こされた…」

 

相澤の思考を乱して現実へと引き戻したのは、出久の癖だった。

 

「緑谷、ストップだ」

「はっ! す、すみません…つい……」

 

いきなりいつもの癖が出た出久を見て、フッとどこか安心したように笑う相澤。

 

「お前は調子、戻ったみたいだな」

「…はい」

「じゃあ大丈夫だろ。だが問題は他にもあるな…」

「かっちゃんと轟くん…ですね」

 

あの冷たい交互の色が違う眼光を思い出す

 

「ああ。予測でしかないが、爆豪がお前の隣を歩むのを止めた時期に、あいつらは出会ったんだろうな。」

 

彼の挙動を思い出す。

 

「きっとその時が一番爆豪が不安定だった時期だ。あいつの弱いところ、強いところ、優しいところ…全部あいつは、轟は傍で見て感じたんだろうな」

「そっか…だから轟くんは、あんなことを…」

 

『俺はきっと、お前の知らない爆豪を知ってる』

 

睨むその眼光の中にたしかに感じた。嫉妬と、悲しみと、悲願を。

 

「先ずは…轟くんに謝らないといけないって思うんです。」

 

グッとこぶしを握り締めて出久は言う。

 

「僕はきっと、彼が大切に思う人を傷つけて、そして彼をも傷つけたと思うから…これから先何が起こるかわからないけど、僕は彼にも謝りたい」

 

それが僕の彼への精一杯の礼儀だと、出久は力強く言い放った。そんな彼を見て相澤はフッと笑う。

 

「やっと俺が知る“お前ら”に戻ってきやがったな」

「へ? それはいったいどういう…」

「教えないね。答えが知りたければ」

 

もがいて、足掻いて、這いつくばって、上り詰めて探してみせろ

その相澤の意地悪そうな声を聴いて、その場を静かに去っていく背中越しに大声で答えた。

 

「はい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~爆豪視点~

 

「ん…」

「爆豪!」

 

目を開けると、真っ先に入ってきたのは赤と白。そして互いの片方の違う目の色。そしてよく見てみると理解した。どうやら俺は保健室に運び込まれたようだ

 

「んでてめーが、保健室にいんだよ」

「爆豪が…倒れたから、俺が、ここ…までっ」

「…そうか。倒れたんか俺」

「…」

「なに泣いてんだよ」

 

いつも涼しい顔してるヤツが、俺の横たわるベッドの脇に置いてある椅子に座りながら、子供のように泣く姿は昔のデクを思い出すな。

 

「すまねぇ…でも…」

 

未だに乗り越えられてねぇ、てめぇの壁…トラウマを思い出しちまったか? ピクリと無意識にこいつの頭を撫でようとしてる俺の手が動いて、俺はそれにも戸惑っちまったが…必要はねぇと感じて手をそのまま自分のデコへ乗っからせた。

 

「あーもういい。勝手に泣け」

「…すまねぇ……」

 

しばらく轟の押し殺すような泣き声を聞きながら考えていた。

 

(思い出しちまったな…あン時の事…)

 

ガキの頃に攫われたあの事件。センセーもいた。皆歯が立たなくって、あと少しってー時にあいつ俺ごと自害しようとして。

目の前にがむしゃらに走ってくる緑色が見えた時、心の中がザワついた…

前世でも同じような事が起きたっつーのに、なんでまた俺が攫われなきゃいけなかったんだ…しかもまだガキン頃だしよ…個性まだまだ上手く出ねぇ時だった。

 

(くっそ…)

 

デクが死んじまうんじゃねーかと、心臓が痛いほど脈打った。怖くなった。怖くなって、あいつのあの必死の顔とか見て、あの強い瞳を見て前世の記憶がフラッシュバックしちまった。

 

(今日は何もかもが上手くいかねーな…)

 

耐えられると思ってた。だが現実はそうはいかなくて。

 

「ごめん…爆豪」

「なんでてめーが謝ンだよ…」

「お前の…大切なヤツ、傷つけちまった…」

「…」

 

真剣な顔で轟は俺を涙目で見つめてきた。つーか、こいつは何を言って?

 

「でも後悔はしてねぇ…おれ、俺は…お前が大切なんだ!」

「…は」

 

え、なんだこの展開? どういう事だ。つーかどういう意味…てか俺の両手をお前の両手で包むな放せ。

 

「爆豪! 考え直せ…緑谷の奴はお前の大切にするほどのヤツじゃねぇ…あいつはお前を苦しめる元凶だろ? そんなに苦しんで守らなくったって…」

「…」

 

こいつ…

 

「俺は、俺は…お前が心配なんだ! 緑谷のために色んな事して…そして少しずつ壊れていくお前を見てらんねーんだ…頼むから、もう…」

「轟焦凍」

「?!」

 

俺は真っ直ぐ轟の目を見つめた。二つの異なった色の瞳が不安に揺れている。

 

「それは無理な話だ」

「なんで…!」

 

まるで駄々っ子に言い聞かせるように、静かに轟へ言葉を紡ぐ。

 

「あいつは、俺のヒーローだから」

「?!」

 

そう言ったときの轟の目を見開いた顔は正直珍しかった。表情筋あんまし動かねー癖してこういう時は仕事するのなお前の顔。ヴィランと対峙するときは長所になるが。日常では短所になりうるな。

そう考えていると驚いたままの轟が、何かを聞きたそうに見つめている。しゃ~ねぇな…少しだけ話してやっか。

 

「ずっと昔に、俺の中の本当の俺を、見つけて手を伸ばし続けて。引っ張った奴がいた。」

「……」

 

最初はウザったくてしかたがなくて。まるで俺が下であいつが上だと言わんばかりで。それがたまらなく嫌で。だから俺はあいつが俺より下って事をわからすために色々やった。

無理にでもそのホワホワした頭ン中に俺という名の恐怖を染みこませて、二度と歯向かわないように仕立てようとした。

けどそいつは、俺の予想を上回って俺を助けちまった。何度も何度も。ヴィランから。世間から。時には俺自身から…

 

「ガキの頃、あいつは俺の命を救ってくれたんだ」

「…」

 

轟は俺の話を静かに聞いていた。俺の言葉を一言も逃さないように、ジッと大人しくそこに居て聞いていた。こいつ、聞き上手なんだなと、今更思った。

 

「で、今のあいつにはそン時の記憶はねー。だから余計に困惑してンだろうな…」

 

いつの間にか外は夕焼けで。そろそろ帰るかとベッドから起き上がろうとしたら、思いっきり勢いよく保健室のドアが開かれた。

 

「と、轟くんっ!!」

「み、緑谷…?!」

 

ここまで走ってきたのか汗だくで、少し息が切れたままデクが入ってきて、轟の前に立つとそのままキレイに頭を垂れた。

 

「ごめんなさいっ!!」

「な、い、いきなりなんだ」

「君の大切な人…かっちゃんを傷つけて…ごめんなさい!!」

「「?!」」

 

こいつ、今までの話聞いて?

 

「君にとってかっちゃんが大切だって気が付いたの、相澤先生と屋上で話してた時で…その、本当にごめんなさい…赦す赦さないの問題じゃなくって、その、ぼ、僕が謝りたかった、だけなんだけど…」

 

後半に行くにつれて、もじもじしながら声が小さくなっていく。こいつが不安な時の癖だ。まーだ直してなかったんか。

とりあえず、こいつが話す内容を聞く限りは俺と轟の話は聞いてないみてーだ。だったらいい。

 

(デクに知られたくねぇ)

 

デクが俺の中でヒーローだっつー事。

 

「…気づいたのか」

「うん…恥ずかしながら、やっと…」

「そうか…じゃあもう爆豪を虐めないんだな?」

「え?!」

「はぁ?!」

 

素っ頓狂な声が出ちまった。聞き捨てなんねーな。

 

「おいちょっと待てコラ半分ヤロウ…誰が誰を虐めてるって?」

「緑谷が爆豪を?」

「虐めてないよ?!」

「虐められてなんかいねーよ!!」

「そうなのか? 俺には緑谷が一方的に爆豪を虐めてたようにしか…」

「は、はぁ?! てンめー、なにわけのわからねー事…」

 

そこで俺の言葉を遮った奴がデクだった。何で邪魔するんだと掴みかかったが、なぜか簡単に払いのけられちまった。

 

「君の目には、きっと僕が誰かを虐める悪いヤツに映ってたんだね…それも君の誰よりも大切な人が、君の嫌いな人に虐められて酷く傷つくような…そんなふうにかっちゃんと僕をとらえて見えちゃってたんだよね…」

 

その言葉に目を見開いたのは、轟だけじゃなく俺もだった。そうだ。たしかこいつ、こいつの母親って──…

 

「だから僕は、謝りに来たんだよ。君の中の傷に触れて、君を傷つけてしまったことに…そして君が大切にしてくれているかっちゃんを傷つけたことも含めて…」

 

もう一回デクは頭を深々と下げた。轟は最初こそ驚いていたが、少し困惑したような顔をして。自分の左側を手で覆った。

 

「もういい。緑谷」

 

その瞳は悲し気に光っていて

 

「謝ってくれたんだ…俺はお前を赦すしかないだろ」

「でも…」

「いいんだ。ここからだろお前たちは。ここから先どう接していくかとか、そんな色々…」

 

デクは気が付いてねぇけど、轟のヤツ…肩が震えてやがる。今度はこいつかよ…トラウマっつーのは本当に厄介だな。

 

「たく、どいつもこいつも…」

 

だから、これはサービスだ

 

「ば、ばく、ごう?」

「かっちゃ…?!?!」

 

俺を担いで運んでくれたり。俺の話を、濁したが誰にも話してなかった前世の記憶の話を聞いてくれた。これくれーは安いもんだろ。

 

「あんだ? 頭撫でられるのは恥ずかしいンか? やめてほしいンか?」

 

悪戯っ子のようにニヤニヤしながら聞けば意外な返事が返ってきた。

 

「……その、できれば…まいにち…」

 

もじもじしながら、毎日してくれたら、嬉しいとか言いやがって。何言ってンだこいつは? 頭逝かれたんか?

 

「は?」

「ダメ!! か、かっちゃん独り占めはズルいよ轟くん! かっちゃんもいつまで轟くんの頭撫でてるの?!?」

「はぁ?」

 

いきなり勢いよく突っかかってくるデクが、自分の頭を差し出しながら大声でいった

 

「僕のも撫でてください!!」

「死ね!」

「ギャブ!」

「み、みどりや…」

 

思わず手で爆破しちまった。手加減はしたぜ? つーかそもそもさっきの態度とちげぇし。なんなんだデクの野郎…。そんなことを考えていると、轟はデクのほうへ歩んでいって、手を貸しながらデクを立ち上がらせていた。

 

「大丈夫か?」

「轟くん…ありがとう…」

「いや。これくれーは…俺は頭撫でてもらったが、お前はもらえてねーし…」

「同情されただけだった?!?!」

 

まったく。どうなるかと思いきやこいつらは…どこまで俺を救えば気が済むんだ。心が軽くなった。凄く軽くなった。まるで今までの重さがウソのように。

なんとなくこれから先、もっと自由に動けるような…そんな予感がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼は知らない。

 

『爆豪! 考え直せ…緑谷の奴はお前の大切にするほどのヤツじゃねぇ…あいつはお前を苦しめる元凶だろ? そんなに苦しんで守らなくったって…』

 

相澤と緑谷が

 

『あいつは、俺のヒーローだから』

 

じつは彼らの会話を聞いてしまっていた事に。

そして少なからず、出久の事をそう言い張った勝己のその言葉に、いたく感動して廊下を何度も走ってしまった出久が数秒後に、部屋に突入していくのだった。

 

「ヒーロー…か」

 

相澤はそこをすでに離れて、特訓ルームへと足を進めていた。

 

「結局あいつら両想いっつー事…になるのか」

 

二人ともお互いにお互いを身近なヒーローとして視ていたのだ。

 

「はぁ…あんなの見たら気合入るだろうが」

 

特訓ルームについて、相澤は個性を発動させながらジャンプをした。首の周りの布を浮かばせながら目の前のロボや、特訓の相手をしてくれる教師を睨む。

 

「どいつもこいつも…世話が焼けるやつで問題児になりそうなヤツらばっかだ。」

 

しっかり監視して、正しい道へ導かねぇと…そのためには教師側(おれたち)が少しでも強くなってねーとダメだっつー事。

 

「なぁ、そうだろ爆豪?」

 

その声に返事もなければ返答もない。あるのはその場に響く戦闘訓練用のロボと爆発音と破壊音だけだった。

 




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