爆豪くんが逆行しました   作:ネムのろ

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大変長らくお待たせしました!
逆行かっちゃんのお時間よ!!
今回のお話はオリキャラくんの尖水(とがみ)辰(しん)くんのお話を前半。
後半にケンカ腰の焦凍と出久くん。それを見て頭を抱えるかっちゃんとなってます☆
良い読書を……

あ、コメントは返しませんが全部読んでます!
元気もらってます!皆様、本当にありがとうございます!



第11話 尖水辰と不穏な動き

勝己が倒れた。相当無理をしていたから、一生懸命あいつの面倒を見て、影ながら支えてきていたつもりだった。でも、本当につもりだったみたいだ。

目の前で倒れたアイツを支えて助けたのは轟焦凍。そして勝己を癒したのは…出久。

 

「なにも…できなかった……」

 

とっさに出たのは、出久への言葉の棘。口から出る乱暴な言葉だけだった。それ以外は…身体も足も。手でさえ動けなかった。ヒーロー志望だというのに、なんて情けないんだろう。

身体が鈍りのように動かなかった。あそこで動けた轟焦凍のほうがよっぽど強く成長しているじゃないか。

 

俺が見下していた轟焦凍のほうが、よっぽど強かったじゃないか……

 

「……アイツらの方が、頼りになっちまったな」

 

一人一人が強く。強くなっていく。

 

人として。大人として。ヒーローとして。

 

遠くなっていく背中。逞しくなっていく精神。それがヒーローになると言う事。気を抜けば置いて行かれる世界。何も得られず、成長できなければ…目指すものになれず、手さえ届かず遠ざかって行ってしまう。

そんな世界に、居ると言う事を再度認識せざるを得ない。

 

「クソッ!」

 

この、苛立ちは。この、疎外感は。この、悲しみは…

何もできなかった自分への苛立ちで。

何も成長できてないことからの、焦りと、置いてかれることからの孤独感と、恐怖。

 

まるで過去に置いてかれているような気がして。一人にしないでくれ。そんなこと言えるわけもなく。ましてや手を伸ばせるわけもなく。

自分に人を守る力などないのだと言われているようで。俺には人を傷つけるしかできないのだと指をさして言われているようで。

 

温かい場所が…クラスが、友の居る場所が、相応しくないと思えてしまって。胸が…痛くなってくる。

 

「やっぱ…俺は…俺には………xxxxしか、ねぇのかな…」

 

はじめて個性が現れた時の事を思う。

苦しむ親。

苦しむ友達。

怯える人々。

吐かれる暴言。

続けざまに起こる、暴挙の数々。

はじめて向けられた、憎しみの目──…

 

はじめて一人になって、孤独になって……

 

それで──闇の中で出会った、最悪の悪の親玉…

 

『君は、ヒーローというよりも』

 

嫌だ、嫌だ!俺は、俺は!!

 

『こっち側の人間ではないのかい?』

 

頭がズキズキと痛む。まるで、あの時の事を忘れるなと言うかのように。

 

「ふざけるな…俺は、まだやれる…っ」

 

震える声でそう言ったって、誰の耳にも届いてやしないのに。

 

『君の個性、今の側だと大層苦労すると思うよ?なんてったって今の側は縛るのが好きだし、危険とみなせばすぐに排除しようとする…君の周りの人間の態度がその結果さ!ハハッ』

 

あいつの声が頭の中で木霊する。低く、木霊する。

甘い毒をまき散らしながら、俺を支配しようとする。頭に甘い痺れが一瞬感じたような気がした。

 

『いずれ、君は君でいられなくなる。人は心があって人なんだ。だから面白い。そうは思わないかい?』

 

あいつがこっちに伸ばしてくるその手は、俺は取らなかった。払いのけてやった。

 

『ふざけるな!俺は絶対にヒーローになるんだ!』

『そうか…それは残念だ。』

 

でもね。と、そいつはクツクツ笑いながら言った。

 

『限界が来たら、きっと君は考えを改めてくれるだろう。誰も君を信じなくなり、誰も君の存在を必要としなくなる。ただの邪魔者扱いされる時がきっとくる。その時は…』

 

ニヤリと、暗闇の中でもあいつが極悪に笑った気配がはっきりわかった。

 

『迎えにくるよ』

 

ああ…頭が痛い。痛くて痛くてたまらない。呼吸がままならない。冷や汗で前髪がおでこにくっつく。

最後の頼みのように。ワラにでもすがるように。俺は願いをポツリ呟いていた。

 

「なぁ…お前ら…ヒーローなんだろ?」

 

俺を…救ってくれよ

 

「俺を導いてくれ…」

 

俺が何かをする前に。

俺が何かをやらかす前に。

俺の闇が俺を飲み込むその前に

俺の手が再び血で濡れるその前に……

 

助けて。

 

Hero(ヒーロー)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

保健室で、みんなが少しワイワイやっている。その様子をこっそりと見ていたのが尖水だった。扉の前で何をすることもなく。ただただ、彼らの放たれる言葉を聞いていた。ドアに背をもたれさせ、そのまま立っているだけ。

 

心なしか、彼の顔が青白く、呼吸もままならない。

 

おもむろに、その伏せられていた瞼がゆっくりと上がっていく。クスリと、笑う気配がした。

その手はいつもの力強さはなく。震えている。

その瞳は、とてもとても悲し気で。

 

「ホント、お前ら愛されてんだなぁ」

 

クラスでも、もちろん家族内でも。

 

「……いいなぁ…」

 

ポツリと零れた本音は、誰の耳に届くことなく。

 

「…こんな感情、お前らに抱くなんて…」

 

その場に溢れて、そうして消えていく。

 

「自称兄として失格だな…」

 

流れていく涙と共に、尖水はグシグシと乱暴に腕で目をこすり、涙をぬぐった。彼の悲しさを知る者はいない。

 

また、彼の苦しさも、知る者はいないのだ。

 

彼が抱える苦悩も、彼が言わない過去も、言えない過去も…

 

すべて闇が知る事。

 

自分の胸倉をギュッと握り締めながら、フラフラと彼はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういやぁ、尖水はどうした?」

 

勝己の発言によって、そこに居た二人は顔を見合わせた。そう言えば途中からいなくなっていたなと出久が思い出して。

 

「先生と話し合って、かっちゃんたちの居る保健室へ来る間の廊下までは、後ろの方で何か考え込んでたみたいだったけど…」

 

途中までいた。けれど、いなくなった。そう聞いた瞬間、誰にも気づかれなかったが、勝己はドキリとしたのだった。

 

「なンで、アイツの存在忘れとンだお前は」

「だ、だって!かっちゃん…と、轟くんに一刻も早く謝りたくって…」

 

チッ。と勝己はいらだつ自分を抑えるようにため息を零す。

 

(まさか、もう始まったっていうのか?)

 

勝己はとあることを知っていた。いや、知らされていた。

とある、未来が見える個性を持つヒーローに聞かされていた。

 

『いずれ、あの子は闇に飲まれるだろう。君でさえ気づけない、深い、深い闇にね』

 

尖水と一緒に、彼に無理やり会った時の話だ。彼は眼鏡をクイと上げて、勝己のやったユーモアあふれる一発ギャグに笑ったあとで、勝己の願いを聞いてくれることになった。

心なしか尖水も肩を震わせ、「ブプッ」と、必死に何かを耐えていたような気はするが。勝己は一切気にしない。

尖水を外に待たせてくれと、彼は言った。この時、勝己でさえ想定していなかった出来事を、このヒーローから聞く事になろうとは。

 

君はとても興味深い。未来を見通す個性のヒーローに、そう言われたのを思い出す。

 

『まるで未来をワザと変えるために送られてきた異邦人のようだね。いや、私が知るコミックの話さ。』

 

何でも彼は、未来で沢山のモノを失ったらしい。最後に自分の命が終わった後、また自分として生まれた。だからその主人公は、今度は

 

『悲しい未来を、なかったことにしようと動く。もちろん彼の行く所行くところ、凄まじい葛藤がおこる。十や二十じゃあない。万や億さ。まるで、運命の波が彼を飲み込もうとするかのように。運命が、彼を消そうとするかのように…』

 

そこまで言って、彼は勝己をジッと見つめた。

 

『未来を変えるなんて、今まで見た事がなかった。しかし実際に君はもう…』

 

彼には何が見えてしまったのだろうか。静かに頭を振ってから、彼はそっと溜息を吐く。

 

『とにかく、尖水辰には十分に気を付けてくれ。それか、気にかけてくれ。彼には測り知れない闇がある。今はコントロール出来ていても、いずれアレは耐えきれなくなる時が来るだろう』

 

その時が来たら、君はどうするつもりだ?

 

(どうもしねぇ。俺は俺のやりたいようにやる。)

 

グッと、勝己は己の拳を握り締めながら見つめた。あの時、答えたように、思いをもう一度拳に宿すように誓う。

 

(ぜってぇ、その闇から)

 

その瞳は強く輝いているようで。ギラギラと強く輝いていた。

 

(助け出してやっから)

 

だからその時は

 

待ってやがれ。尖水辰。

 

(今までの恩を二十倍にして返してやっから)

 

「覚悟しとけ」

 

その、勝己が零した言葉があまりにも力強く、しかし静かにその場に響くように呟いたので、出久が震えあがった。

 

「ピャッ?!」

「あ?」

 

たいして、勝己は己が先ほど、凄い気迫で呟いたことなど微塵も知らない。どうやら無意識に出てしまっていたようだ。出久は昔の勝己が降臨したのかとブルブルと震えている。それを見かねた焦凍が勝己の肩を叩いた。

 

「爆豪…」

「なんだ」

「…お前、さっきスゲェ気迫で呟いてたぜ」

「え」

「覚悟しとけって…」

「あ」

 

そこであっちゃーと、勝己が手をオデコへとあてがった。

 

「あー…なんつーか、すまねぇ。お前らの事じゃねー」

 

お前らじゃない。そう言われて何を思ったのか焦凍がグイと身体を前のめりにしながら、勝己へと質問する。

 

「誰に何を覚悟しておけと言いたかったのか、俺たちは知っちゃまずいのか?」

 

真っ直ぐ見つめてくる焦凍の瞳を、静かに見守ってから、勝己は頷いた。

 

「ああ。悪ぃが今のてめーらじゃ、そいつの足元にも及ばねぇ。知っててもただ損するだけだ。」

 

尖水辰。彼はきっと…この雄英の中でも指折り強い。それこそ本気を出せば…中からでも雄英生徒たちや教師さえ、危険に貶める事だってできる。ヒーロー側だからそれをやらないだけで。

 

だから、中途半端な覚悟で詮索するなと、勝己は彼らの安全もかねて、忠告をする。しかし頑固なのは、出久だけではなかったらしい。

 

「だが、俺はお前のために何かしたい」

 

ますます強く、顔をしかめながら言う焦凍が、とても痛ましかった。きっと過去を思い出しているのだろう。子供の自分がなにもできなかった、救えなかった大切な存在。母親の事を、焦凍はよく勝己と重ねてしまう事が最近多くなってきている。

ヤバイ。勝己はそう感じはじめていた。なぜなら、己に強く嫉妬をするものを知っているからだ。そいつはただ今、勝己の隣で絶賛ぷるぷる震え中で。

かと思えば、バッと立ち上がりつつ、力強く言う。

 

「ぼ、僕だって何かしたいよかっちゃん!僕たちに出来る事なら、なんだって!だから…かっちゃん、一人で背負わないで」

 

また倒れられたら…今度こそ僕死んじゃう…と、出久が俯き加減で言えば、勝己がオデコをデコピンした。痛い…と言いながら涙目になる出久。

 

「今のお前らじゃ無理だっつってんだろ」

「だから教えねぇーのか」

 

焦凍がそう言いながら詰め寄る。勝己はギロリと睨むように、強く言い返した。

 

「ああ。今のお前らじゃ、話す気にもなれねぇ。」

「…俺たちが…弱いからか」

「ああ」

「…ッそう、か」

 

焦凍は苦し気にそう言いながら、また、左側の顔を覆う。

そして立ち上がって、真っ直ぐに出久と勝己を交互に見た。

ギュっと拳を作りながら。

 

「じゃあ、体育祭で俺が緑谷に勝てば、お前は俺のものになって、全部話してくれるんだな?」

「「ハァ?!?!」」

 

いきなりの焦凍のトンデモな発言に二人して声がハモッた。なんだその、何を考えたらその答えになるのかまっっっったくわからない謎証言は。

 

「なんでそーなるんだ?!」

「極端すぎない?!」

 

勝己と出久が交互に言えば、きょとんとした顔の焦凍が首を傾げる。

 

「だってそーいう事だろ?俺が誰よりも強いことを爆豪に見せれば、爆豪だって隠してる色々を安心してまかせられるだろ。」

 

だからといってどうして体育祭?なんで焦凍のものにならなければいけない?焦凍の謎な思考回路を解き明かせるやつは、残念ながらこの場には居ない。

 

「手っ取り早いのは、爆豪が俺のものになる事だ。悪い手じゃねーぜ爆豪?」

「!」

 

勝己は焦凍のこの言葉に目を丸くした。あくまで焦凍は全てにおいて勝己のためを思ってやると言っている。言い方や発想がやや斜め上を横切っていっそ宇宙までいっているようなぶっ飛んだ発想だが。

勝己を守ろうとしている事、勝己を大切に思っていると言う事が、痛いほどわかった。勝己も出久も理解した。

 

だから、出久は

 

「譲れない」

「デク?!」

「僕だって、そこは譲れないし、譲らない」

 

いつもの弱々しい光がなくなり、何をも変えるような鋭く純粋なまっすぐな瞳に、強い光が差す。

 

「かっちゃんは」

 

ズイと焦凍の前に来て、背中に勝己を隠すように立ちふさがる。

 

「僕の幼馴染だ」

 

ギロリと強い眼光が焦凍を射貫く

 

「かっちゃんは、僕が守る」

 

だから君の役は必要ないよと、挑発などするものだから、焦凍の心に火が付いた

 

「へぇ…言ってくれるじゃねーか」

 

焦凍も只寄らぬ雰囲気になる。睨み返し、静かに、しかしドスの効いた声で言う。

 

「幼馴染だからっていい気になってんじゃねーぞ。ぜってー体育祭でお前に勝って、一番になって、爆豪をお前から引きはがしてやる」

 

焦凍は本気だ。本気で出久に勝ち、出久から勝己を引きはがす気だ。ゴクリと生唾を飲んだのは、一体だれか。

そんな緊迫状態の中、さらに焦凍を煽ったのが出久だった。

 

「できるものならやってみろよ。僕は絶対に負けない」

 

ゴゴゴという効果音が似合いそうな二人の睨み合いに、片隅で勝己はというと、「どうしてこうなったんだ?!?!」と頭を抱えていた。


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