爆豪くんが逆行しました   作:ネムのろ

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やっと書けたこの話…迷いに迷いましたが書きました。
今回は轟親子がかっちゃんに迷惑かけちゃいます。
後編は結構シリアスです。尖水くんとデクくんが出会ったのは
あの公園でデク君は泣いていて───…?

尖水「まったく。こいつら一人にしたらロクなほうに進まないからメンドイよなー」
かっちゃん「んだとコラぁ?!もいっぺん言ってみやがれ尖水!!」
尖水「まったく。こいつら一人にしたらロクなほうに進まな「本当にやるな!遊ぶな!!」…バレたか」
かっちゃん「バレバレだっつーの!!」
デク「二人とも相変わらずすっごい仲良いよね」
尖・か「「ハァ?」」
デク「ワァすごーい息ピッタリだー(棒読み)」


第4話 その瞳に映るのは

それは爆豪勝己という少年が12歳になった時に起こった。

 

 

「…おいエンデヴァー」

 

「なんだ爆豪」

 

「なんでてめーの息子持って来やがった」

 

目の前には物凄く見慣れた赤と白の髪を持つ、父親を先ほどから睨みつけている同い年の子供がいた。

ヒデェ目だな…。爆豪はそう思いながらため息をした。四歳の時に三回くらい隠れて見て、七歳の時に何度か無理やり会わせようと必死だったエンデヴァーを軽く回避していた頃を思い出す。たしかあの時はここまで拗らせてはいなかったハズ。

 

四年間の間に何があった。

 

(デクのヤツ、こんな奴をよく救えたな…)

 

自分は無理だと爆豪は悟った。これは自分の手に余る。だって自分は破壊しかできない手なのだから。可愛い子ぶったり愛想良くなんてできない。どうやったって顔は不愛想になったり、逆に激怒して怖がらせてしまう。

 

相手を安心させることができた記憶なんて、ない。相手を怖がらせるか、相手を威嚇して成功してきたことだけは覚えている。というよりそう言う記憶しかない。むしろそっちが得意だ何故だ。

ヒーローになった後でもそれはほとんど変わらなかったように思う。

 

レスキュー自体の成績は昔から雄英でもほとんど上がらなかった。それでもヒーローになって出久の隣に立てたのは、努力を怠らなかったから。

自分は何でもこなすことのできる天才肌という奴だと言われても、それが当たり前だと思ってた時期もあったが、その視点を変えてみたら、出久が目に入った。

 

あいつは努力の天才だ…と、貶すばかりだった出久への自分の思考が変わった。変わっていったのだ。

そして認めた。認める事が出来たのだ。あいつはオールマイトが選んだだけの事はある人間だった。力を継承しただけの価値ある人間だったのだ。力がなかったからといって蔑んでいい対象ではなかった。

 

道端の石ころでも努力を惜しまず諦めずに希望を胸にし、突き進めば必ず突破口はあると、空に輝く一番星にだってなれるのだと、出久を見て勝己は思ったのだ。

そんな彼を見て、彼以外に(オールマイトを除いて)ナンバーワンヒーローなど居るはずがない。

そこまで勝己が思うようになったほど出久は本当に理想の、それでさえ、かつてのオールマイトのような、人々を笑顔にし希望を抱かせるような大きな存在となっていったのだった。

 

まぁ、そのせいで危ないヴィラン共から命を狙われていたが。

 

「息子を連れてくると連絡したはずだが?」

 

キョトン顔でそう話すエンデヴァーを見て、腹が立った勝己は怒鳴った。

 

「許可してねーよ!つーか、なんでてめーが俺の連絡先知ってんだよ!!」

「ヒーローとはそういうものだ」

「ちっげぇだろ!!つーかンなもんにヒーローの特権使ってんじゃねぇよ!!人をバカにすんのもいい加減にしやがれよ?!」

「? バカにしてないぞ?むしろお前のようなお子様がここまでできるとは思ってなかった。どういった教育をすれば、どういった特訓をすればお前のように奇才になるのか是非とも両親と話をしt」

「とぼけた顔すんじゃねぇよ舐めプ野郎二号!!誰がさせるかよ!!てーかてめぇはソイツ連れてさっさと帰りやがれ!!」

 

そうしてまたも勃発するは爆発と衝撃波と炎。さきほどから一向に帰る気配のないエンデヴァー親子を追い返そうとして、勝己がエンデヴァーと何故か戦っている。もちろんエンデヴァーは少し手加減していたのだが…

 

(先ほどより、力も瞬発力もあがっている…?)

 

弱まるどころか一向に疲れも感じないのか、どんどんと勝己の威力が増していっている。素早さも劣るどころかますます早くなっているのだ。

 

(どういうことだ…?)

 

たんに、12歳になってもっと筋力増幅できて、やれることが色々増えたために勝己の昔の記憶と身体が馴染んできて、前世で得た知識と経験から動きにムラがなくなって疲れにくくなっているだけで。

個性もだんだん勝己の“言う事”を聞くようになったからでもある。どうやらよっぽどの事でもない限り、四歳から七歳の頃に個性が暴走することはないらしい。医学的に言うなら身体がリミッターをつくっているからだとか。

 

(この子供の成長の底が見えない…!)

 

エンデヴァーは目の前の年端もいかぬ子どもを見ながら、しかし彼の繰り出す攻撃と、その子供とは思えない集中力と表情にゾクゾクしていた。こんなに戦って一喜一憂するなどと、何年ぶりだろうか?

 

「隙ありぃ!」

「しまっ!」

 

考え事をして隙を作ったエンデヴァーに、今の勝己のキックは効くようで。咄嗟にガードした彼の腕が反動で上に弾かれた。

しまったと焦りを顔に出した瞬間、勝己の顔が喜びでいっぱいになる。目は見開かれて口元はみるみるうちに上がる。ちょっと待てあれが12歳の笑顔か?いや違う絶対に違う断じて違う。

 

「しねぇぇぇえええカスがぁああ!!」

 

なんとも興奮したその叫び声を聴いて、おいコラ死ねってなんだ死ねって?と一瞬思ったが…叫びながら彼が何の迷いもなく上半身を屈めて、蹴りかぶったところを見て咄嗟に飛びのこうとするが、それを勝己はさせてくれない。

 

「!」

 

仕方なしにガードするしか選択肢がなかった。

しかし爆豪勝己という少年は、戦闘においての作戦までも考慮するのが上手いらしく──…ガードする前に、恐ろしいほどの速さで勝己が間合いに入り込んできた。そのまま攻撃のモーション──ヤバい。

 

(来る!!)

 

そう疑わなかった。

 

「…?」

 

だかしかし、衝撃が来ない。

不思議に思って目を開けると、そこには何とも言えない嬉しそうなニヤリ顔の勝己。伸ばされているのは彼の左足。その足がピタリと攻撃態勢のまま、触れるか触れないかのギリギリな距離でエンデヴァーの腹に向いたまま空中で止まっていた。

 

(つぶ)ったな?」

 

勝己の笑顔はしてやったり。と笑っている

 

「ナンバーツーともあろうエンデヴァーが…俺みてぇなガキの攻撃を避けきれずに、目ぇ、(つぶ)ったな?」

「!!」

 

その事実を言われるまで気が付かなかった。そうだ。自分は今、確実に攻撃が“来る”と予測し理解し、対処しようとした。だが、しきれなかったのだ。

そして、あろう事かプロヒーローで実力も高い己に『恐怖』を抱かせた。スピードで圧倒しながらその都度(つど)翻弄(ほんろう)された。“必ず来る攻撃”だと信じこまされ、身体を硬直させ、その勢いと彼自身の膨れ上がった殺気と何かの“圧力”によって恐怖を感じてしまった。

 

よって目を(つぶ)ってしまったのだ。

 

ヴィラン戦において目を(つぶ)る行為は死を意味する。

 

それが模擬戦や戦闘訓練だとしてもだ。相手が誰であろうと、目を瞑ってはいけない。戦うにしても逃げるにしても…

 

なのに。

 

それなのに。

 

今自分は…何をされた?

 

目を……意図的に(つぶ)らされた?

 

数多のヴィラン共と幾戦と戦ってきたエンデヴァーが。

あの、実力と共に皆に認められた、プロヒーロー№2のエンデヴァーが。

 

「このクソガキ…」

 

口では悪態つきながらも、口元は嬉しそうにニヤリと笑っている。なんとも楽しそうに口元が上がっている。

 

「なんだよ火親父さんよ。」

「火事親父みたく言うな。」

「じゃあ2」

「2?!」

「舐めプ野郎二号。№2ヒーロー。面倒くせぇから全部まとめてくっつけて縮めて2だ文句あっか」

「文句しかないが?!」

「うるせぇ。もう決めた」

 

エンデヴァーは、勝己の実力をかなり認めている。

そのうえ、お気に入りでもある。四歳児でヴィラン共に立ち向かい、心揺ぎ無く最後まで立ち上がっていた姿は素直に感心したし、そのとても幼稚園児とは思えない精神面の強さに惹かれた。

 

実を言えば何度も勝己と焦凍を会わせようと目論んでいたが、何故かことごとく断られるわ、秘密裏に会わせようとすればすぐにバレて計画失敗に終わるわで結果は残念なものになっていた。

 

なので少し間をおいてから何の計画もなしに、12歳になった焦凍を連れてきた。すでに自分の手には負えないほどだったし、それにと、焦凍を見つめる。

思っていた通りだとエンデヴァーは思った。ついさっきまで勝己に無関心だった焦凍も先ほどの戦いで勝己に興味を持ったらしかった。だって目が少しだけ、ほんの少しだけマシになった気がするから。

 

「お前すげぇな…クソ親父を騙せるほど演技上手ぇんだな」

「お前それどういう意味で言ってやがるああん?」

「いや?ただ口も顔もフザケタ不良みてぇな奴なのに、戦い方とか身のこなしとか…あと戦うフォルムとでもいうか…そんなのが熟練されててすっげぇキレイだなって思った。ドブ親父とタイマン出来る奴なんて同年代でいたなんてびっくりだ」

「ああ?!そりゃ褒めてんのか貶してんのかどっちだ舐めプ野郎?!」

 

しかし悲しいかな…己の息子が天然すぎて相手を逆に煽ってしまってるし、なにより先ほどから親である自分をさりげなく貶してくる。

 

「焦凍ぉ……」

 

もっと人間関係について教えるべきだったか…ガクリとエンデヴァーは項垂れた。

 

「そう言えば…お前にくっついて離れなかった緑色の子供…緑谷といったか?姿が見えないが…」

「知らねえよあんな奴」

 

今まで聞いたこともない心底冷えきった声が勝己の口から放たれて。一瞬二人に寒気がしたほどで。

何かが。何かが二人の間に起こった。そしてそれは触れるべきではないとエンデヴァーは悟った。

 

「そうか…」

「…もう、帰れ」

「…」

 

どことなく冷たく、しかし憂いた背中を見て何かを言いかけた焦凍を制止して。

 

「そうか。わかった。邪魔したな」

「ホントにな」

「また来る」

「くんな!ヒマ人かよ!!」

「俺も来るぞ」

「お前は一層くんな舐めプ野郎がッ!!」

 

一喝する爆豪だったが、いつもの覇気がない。ないが怒っているのはたしか。

 

「お前…面白い奴だな」

「真顔で んな事言われても笑えねぇよ!!」

「冗談じゃないぞ。本気でそう思う」

「余計にたち悪ぃじゃねーかよ!!」

 

 

 

 

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

 

 

 

 

グズグズと、出久は泣いていた。

 

(かっちゃん…)

 

彼はいつものように帰路の途中で出会った勝己に声をかけた。しかし勝己は昔のように嫌々ながらも面倒を見る彼ではなくなってしまっていた。

他の同年代の子たちがやってきて出久を馬鹿にする。しまいには殴りかかってくる。弱い者いじめと言うやつだ。

昔は少しだけ存在したソレが、今は活発になってきてしまっていたのには理由があった。

 

爆豪勝己という少年が理由だ。今まで正義(ヒーロー)という名を背負うに相応しい男だった彼が、何故か12歳になった最近、出久への態度が激変したのだ。

 

無個性だからといって絶対にバカにしてこなかった彼が

 

力がない自分でも頑張ってヒーローを目指しているのを誰よりも知っているハズのあの勝己が

 

同世代の子たちとつるみ、笑いながら出久を馬鹿にし貶し、そして虐めてきたのだ。最初は信じられなかった。何かの冗談だと思った。だがそうやって勝己の事を信じようとする出久の心を、勝己はいとも簡単に踏みにじってしまった。

なんなんだ。一体どうしてしまったのだ。こんなの彼らしくないではないか。

 

「ちく、しょう……」

 

無個性だと馬鹿にし始めて、挙句の果てに手を出してきた。キミはそんなダサい男じゃないだろ!そんな風に弱い者を下だと見下す人を、君は一番嫌っていただろ!

 

「ちくしょう!!」

 

僕だって。僕だって個性さえあれば。

 

「一生懸命、頑張ってるのに……ッなのに…!人の頑張りを嗤う奴らとつるむなんて…キミらしくないじゃないか……!」

 

そう悔しく吐き出すと、ようやっと勝己は出久を真っ直ぐ見つめた。そしてこういったのだ

 

「てめぇに、俺の何がわかるんだよ…?ええ?俺が守ってやらねぇと、何にもできねぇ石っころの意気地なしのデクがぁあ!」

「…ッ」

 

彼の顔は、恐ろしいほど無表情だった。しかしなぜか出久には……彼が泣いているような錯覚がした。だから息をのんでしまった。あまりの彼の痛々しい姿に。

 

(痛々しい……?)

 

それはおかしい。だって、痛いのは自分の心と身体なのに。それよりも目の前の、親友であり幼馴染の勝己を見て、自分よりもずっとずっと痛々しいと感じるだなんて。

いや…もはや親友ではない。ただの幼馴染。

 

いやそれよりも。

 

(そうか…僕だけが君の事、親友って思ってたんだね…)

 

勝己は違ったのだと、この時デクは思った。

 

(僕だけが君の事…信頼してたんだね…)

 

そう言えば、勝己の気持ちも何を考えていたのかも、思考した事はなかった。“爆豪勝己ならば大丈夫”。何故かそう思って安心していた。そんな根拠などどこにもないのに。

何かに追い詰められていたのかな。何かを気に病んでたのかもしれない。やっぱり好きでもない相手をずっと助けてきてボロボロになって…なり続けてきたから限界を超えてしまったのかもしれない。

 

(かっちゃんがこうなったのは…僕のせいかもしれない…)

 

彼とちゃんと向き合ってこなかった自分が悪いのだ。

 

(ごめんね。かっちゃん)

 

頼りっぱなしで、寄りかかりすぎたのだ。自分の背負うはずの重みを、勝己に丸投げてたのかもしれない。

 

「もう…遅いのかな……」

 

取り戻せないのかな……

 

「前みたいな…かっこいい爆豪勝己(ボクのヒーロー)

 

出久の脳裏には、どこまでも頼もしくって、弱さなど見たことがない、弱くあった時など見たこともなかった幼馴染の姿が浮かんでいた。

親から聞くところによると、どうやら赤ん坊の頃から勝己は自分の面倒をよく見ていたらしい。

 

「はは…僕……かっちゃんの荷物だったんだね…」

 

ポツリと吐き出したその自分の言葉に、なんだかズキリと自分自身傷ついてしまった。

 

これからどうすればいいのだろう。どうやって生きていけばいいのだろう…?自分なんてヒーローを目指す限り、きっと勝己の勘に障ってしまう。

邪魔になってしまう。荷物になってしまう。彼の夢を……自分が潰してしまう

 

「そんなのヤダ……」

 

またポロポロと零れ始めた涙を、乱暴に拭う。だが止まってはくれない。

 

『てめぇなんぞ、さっさとそこらへんのヴィランにでも捕まっちまえよ』

 

言われた言葉が、自然と脳裏に浮かんでくる。その言葉を聞いて重なる背中は、いつも何故かヴィランや問題に巻き込まれがちな出久を、ボロボロになっても何年も助け続けたカッコいい小さな背中。

 

『頭だけ良くっても個性がなくっちゃなぁ?どーしようもねぇよなぁ?』

 

風邪を引くたびに、ぶっきらぼうなしかめっ面で、看病してくれた。休んだ分のノートを写して持って来てくれた(ノートには細かく解説されていたり、先生の説明した部分などがあってとってもわかりやすかった)

 

『諦めちまえよ。そうしたら楽だ。』

『どーせ立ち向かう根性も個性もなーんもねぇんだ』

『諦めて、警察官にでもなったほうがいいんじゃねーか』

 

数々のその言葉が、出久の頭の中でリピートする。その度に悔しさが、疎外感が、あふれて胸の中で暴れまわる。

身体が震えるのを必死に止めようと、自分で自分の身体を抱くように(うずくま)った

 

勝己の邪魔にだけはなりたくはない。

 

「でも…かっちゃ……僕…ゆめ、諦めるのも……ヤダよぉ…!」

 

その震える丸まった背中に、ポンポンという小さく、優しい振動があると気が付いて、顔を上げればそこに居たのは

 

「どうしたどうした少年」

 

半分呆れたような面倒くさそうな、もう半分心配しているような声

 

「何をそんなに嘆いているのかね?」

 

ワザとらしくキザなおじさんのように喋って首を傾げている。親身になって事情を聞きだそうとしている。

 

「お兄さん…誰?」

「お兄さん…?」

 

何とも輝かしい、キレイな白緑の髪が風に揺れていて。ガーデングラスの眼がキラキラと夕陽の光を反射してとても幻想的だと出久は思った。

 

「ぷっ…!お前って面白い事を言う奴だよな」

 

随分と大人びた彼は、幾歳か年上に見えたのでお兄さんと呼んだのだが、相手はソレを聞いてプスクス笑っている。

 

「わりぃわりぃ。あんまりにもツボに入ったから」

「それにしたって、酷いよ…初対面なのに。ボク落ち込んでる時にさ…」

「ああ悪かったって。ほら。ここ座れ?話ならいくらでも聞いてやんぜ?」

 

その彼のやさしさに、少しだけ甘えてみようと思った。ズタズタのボロボロになってしまった自分の心の依り代を少しだけでも───…そう、少しだけだ。けっして同じ過ちは繰り返さない。

 

(かっちゃんに寄りかかって傷つけたようには、しない…)

 

グッと奥歯を噛みしめて嗚咽を押し殺した。

 

「じつは…」

 

声が震える。震えるけれど──…

 

「僕……」

 

誰かに聞いてほしかった。この悲しみを、苦しみを何処かに吐き出したかった。グルグルと渦巻いた胸の中の何かに、自分自身が押しつぶされて壊れて消えてしまうその前に…どこかに吐き出したかったのだ……

 

 

 

 

 

 

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

 

 

 

 

 

「………やりすぎだろ爆豪」

 

長い長い話を長い時間話し続けた出久。泣き疲れて眠ってしまうまで彼、尖水(とがみ)(しん)は根強く話を聞き続けた。結果今は自分の膝を出久に枕代わりとして貸してあげている。

 

出久は自分が何処をどう歩いたかわかってなかったらしかった。ずっと泣きながら歩き続けて、見知らぬ公園、つまりは尖水がいつもグースカ寝ている──勝己が色々なものに押しつぶされそうになった時に訪れる──公園に出久が入ってきてそのままずっと蹲って泣いていた。

 

さすがのちょい面倒くさがりの尖水も、目の前でメソメソ泣きながら、延々とブツブツブツと自分の思考を言い続けるこの少年が哀れに思えてきて。思わず手を差し伸べていた。

自分にできる事と言えば話を聞くことくらいだが、それでスッキリできればと、辛抱強く心して聞いていたのだ(勝己の時は半分頭からすっぽり抜け落ちる。大半が悪口か暴言だからだ)

 

出久は身に起き続けている出来事が相当なショックだったらしく、最初軽くパニクっていて何を話しているのか全くさっぱりわからなかったのだが。

段々と落ち着いてきたのが幸いして、彼はキチンと話すことができるまで回復していた。きっと色々我慢し続けて呑み込んできたために、言葉がありすぎて何をどう話せばいいのかすらわからなくなっていたのだろう。

 

フサフサな緑色の髪を撫でる

 

「“お兄さん”ねぇ…」

 

ぷっくく。とまだ静かに笑えてしまう。

 

「俺、お前と同い年なんだがなぁ」

 

まったく。悩みが絶えないな。お前も爆豪も。

 

「お兄さん…うん…悪くはないかもな」

 

ニマニマ笑いながら、ナデナデする手は止めずに

 

「なってやるか…?“お前ら”の兄に…」

 

言って自分ですぐ否定した。面白おかしく笑いながら。

 

「ぷっくく。なーに言ってんだか。ナイナイ…そんな事…」

 

ピタリと先ほどまで出久の頭を撫でていた手が止まる

 

「俺に、兄なんて…務まるワケねーよ…罪深い俺なんか…」

 

ふー…と息を出して。そして吸った。ブルリと出久がかすかに震えた。それを見計らって揺さぶって起こす。辺りはすでに星や月が出ていた。

 

「おーい。おっきろー」

「ん…」

「もうそろそろ家、帰らなきゃいけなくねぇ?」

「ん?」

 

ぼへーとなんとも面白い寝ぼけ顔を晒している出久。みるみるうちに何が起こったのか、把握したらしい。あわあわと顔を真っ赤にしながらお礼と謝罪を兼ねてお辞儀をしてきた。

 

「いーっていーって。気にすんな。俺は毎日ここにきてるし、よければ話でも愚痴でもいくらでも聞くぜ?」

「ほ、ホント?!」

「ホントホントー」

「で、でも…悪いですよ…」

「遠慮すんなってー。俺なんッもすることねーから」

「…それ、笑顔でいいます?」

「…あはは~。俺も暇をつぶせるし。お前はスッキリできる。お互いメリットあんじゃん?」

 

面倒そうに、しかしニッカと笑うその笑顔に。その優しさに。もっと、もっと甘えていたくなってしまって。

 

「じ、じゃあ…これからも、よろしくお願いします…」

「ウーイー。よっろしくなー」

 

出された手を、迷いながらも握った。

 

 

 

 

その日、夜遅いから途中まで送っていく尖水。出久を帰らせた後、もう片方の“弟分”の処へコッソリのぞき見していった。

 

「よいっ」

 

腰にいつも下げている、蓋をした試験管みたいな長細い銀色の瓶の蓋をとる。手を上にあげると中に入っていた物質は彼の身体を持ち上げた。相手には見えない角度で二階の勝己の部屋の窓から覗き見る。

 

「……バカ野郎…」

 

泣くほど辛いなら、最初からやんな。そう言いたくなるほどに、いつもの強気の勝己はいなかった。電気を消した部屋の隅っこに蹲って、何をするわけもなくジッと壁を見ながら泣いている。

静かに静かに、声を上げることもなく泣いていた。顔は感情が抜け落ちたかのような無表情。

 

「チッ…どいつもこいつも……」

 

だめだ。こいつらを一人にしちゃ駄目だ。

 

「結局オレかぁ…」

 

面倒くさそうに頭を掻いた尖水は、水銀を操って帰っていった。途中、水銀をもとの試験管のような中にしまった。改めて空を眺める。半月をボーっと見つめながら考えた。

 

「…うし。この作戦でいこう」

 

彼の頭の中で一瞬で構築された作戦。それを実行するのは明日。指をパキポキ鳴らす尖水は面倒そうに間延びしてから、首を鳴らした。

 

「あ~面倒くせぇなぁ」

 

しかしその声は怠そうでも、しっかりと目的を果たそうとしているような、力強い意志が籠っていた。

 

 

 

その瞳に映るのは───…

 

 

 

 

…───揺ぎ無い覚悟


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