【Infinite Dendrogram】名も無き<マスター>達の独白記   作:ナーバス

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砂国所属 【獣戦鬼】 Ⅵ:ガードナー・アームズ

      砂国所属 【獣戦鬼】 Ⅵ:ガードナー・アームズ

 

 最近、デンドロにログインすることが億劫に感じてきた。

 聞くところによると、私のようにデンドロから離れていく<マスター>は一定数いるそうで、いわゆる<ティアン>との間のリアル過ぎる人間関係に疲れてデンドロを去るのだそうだ。

 けれど、私がデンドロに億劫を感じている原因は、そういったものとは真逆と言えるだろう。

 どれくらい前になるだろうか。皇国所属でこのゲームを始めた私は、同じころにデンドロを始めた友人たちと長い間一緒にチームを組んでいた。まだデンドロの情報が完全に出回り切っていない状況だったこともあり、とても楽しかったのを覚えている。

 数えきれないほどの全滅を経験したし、メンバー全員が不可能だと思っていたクエストを奇跡的に達成したこともあった。メンバー全員が上級エンブリオに進化したときなんかは、リアルの夜が明けるまでお祝いもした。

 

 そしてしばらくが経ち、巷で超級職や<超級>の話が話題になってきたときのことだ、私たちは所属をカルディナに移し、そこを本拠地とすることにした。

 

 誰が言いだしたのか、今となってはわからない。ただ、カルディナという大陸の中心を本拠地にすることのメリットについてはみんな知っていたし、他の国からカルディナに所属を変えることが<マスター>の中でブームになっていたことも理由の一つであることは間違いなかった。同時に、当初の私たちに「カルディナで一旗上げて上位プレイヤーになる!」という目標があったことも事実だ。

 まあ、目標というにはあまりにもおざなりで、それこそ小学生の頃に書いた夏休みの計画表にも匹敵する出来のものだったのだが。

 現状を見る限りでは、小学生にも劣ると言った方が正しいのかもしれない。

 

 

 ベッドの横に無造作に置かれた端末から数年前に流行ったアーティストの曲が流れ、予定の時間を知らせた。

 

 億劫に感じながらも、染み込んだ習慣によって私はデンドロの世界にたやすく導かれる。

 つまり、私も同じ穴のムジナというわけだ。

 

 

 

 ログインポイントは、やはりクランハウスだった。

 私より先にクランハウスにいたのは6人。私の少し後に、残りの4人がログインしてきた。

 

 全員が集まったのを見計らい、クランマスターが今日の方針を告げる。

 

 「各自、強くなるための努力をするように。頑張っていこう!」

 

 軽い言葉をかけられて気を良くしたメンバーの数人が、やはり軽い調子で返事をした。

 

 これだ。ここ数か月、私たちのクランはこうやって無駄な時間ばかり過ごしている。

 クランマスターは、それっぽいことを言ってはいるが、ハッキリ言って自由行動と大差ない。そもそも、強くなるための努力なんて、誰だってやってることだ。わざわざ口に出すことじゃない。

 

 クランマスターと、その周囲の若いメンバーから目を背けていると、もっとも古い付き合いの一人であるメンバーが、窓際の椅子に座り込んで分厚い図鑑のような本を手に取っていた。

 職業診断カタログと呼ばれる、上位プレイヤーを目指すなら必要不可欠とされているアイテムだった。

 

 珍しいね。と声をかけると「ほかに出来ることなんてないから」とそっけなく返され、そこで会話が終了した。

 でも、私は知っている。彼がここ何日もその本を手に取っているが、少しもジョブを変えるつもりなんかないことを。

 

 

 人数のわりには、決して広くないクランハウスなのだが、私はどうもここにいると孤立感を得る。

 

 カルディナに来た当初は良かった。と思う。少なくとも今よりはずっと楽しかった。

 

 無茶なクエストを受けて全滅して、装備やジョブの最適化をクラン全員で協力して考えて、ときには方向性の違いで喧嘩もして。そして何より、あの頃は周囲に未知が溢れていた。

 

 

 何時からだろう。自分たちが特別な存在ではないと思うようになったのは。

 

 何時からだろう。自分たちより先に常に誰かがいるとわかったのは。

 

 何時からだろう。前へ踏み出す一歩に意味を見出し始めたのは。

 

   

 <セフィロト>をはじめとする大手クランや、その他のトッププレイヤーたちとの圧倒的な格差を見せつけられた私たちのクランに残ったのは、虚飾ばかりを張り付けた「飽くなき向上心」のみだった。

 

 もう何も残っていないに等しいクランにそれでもしがみついているのは、楽しかったあの頃の記憶を手放すことが出来ないからなのか、まだ期待している自分がいるからなのか。

 

 私の心の中には、未だにあの頃に掲げた幼き目標が残っていると信じているのだが、この気持ちも私の意志と関係なくあっけなく燃え尽き灰と化し、この全てを飲み込む砂の大地に消えていくのだろうか。

 

 

 それでも、この億劫な気持ちから解放されることは無いのだと、私は理解した。

 

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