【Infinite Dendrogram】名も無き<マスター>達の独白記   作:ナーバス

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皇国所属 【剛剣士】 Ⅵ:エルダーアームズ

      皇国所属 【剛剣士】 Ⅵ:エルダーアームズ

 

 

 ある朝、庭に一輪の花が咲いていた。真っ白な花で一点の汚れも見当たらないから、わたしなんかが見つめてしまえば汚れがついてしまうのではと心配するほど綺麗な花だ。

 同居人曰く、この家の元の主人には花を植える器量なんて無かったようなので、きっと鳥か何かが運んだ種が芽を出したのだろう。

 この世界で意味があるかわからないけど、辺りの雑草を抜いてあげることにした。少しでも立派に育ちますようにと。

 

 

 やがて、わたしの手が土で汚れきった頃、覚束無い足取りで階段を降りる音が家の中から聞こえてきた。

 もうそんな時間になってしまったのかと思い、わたしは朝食の準備をするために急いで家の中へと戻った。

 

 

 家に入ると、そこには寝間着姿の同居人がいた。

 いつものように寝ぐせは直されておらず、いつものように部屋の家具に片手を付けたまま、彼女は、わたしのいる方、いや、正確には扉の音がした方を見ている。

 

「おはようございます、おじさま」

 

「ああ、おはよう。今日も早起きだね」

 

「ええ、実は小鳥の声が聞こえたから何時もより早く起きてしまったのよ、でもいつもと違う時間にならないと動くのが怖くて、それで今降りてきたの」

 

 そう言う彼女の瞳には、やはりいつもと同じように光が映っていない。

 ただそれでも、エメラルドのように美しく、そしてすべてを見通すかのような神秘的で同時に、わたしにとってはこれ以上にない恐ろしい瞳であった。

 

 

 彼女は<マスター>ではない。彼女は王国のティアンである。わたしが長期的に滞在している、この王国の外れの村に父親と一緒に住んでいた……らしい。

 

 彼女が父親とどのような生活をしていたのかは、彼女の境遇を考えれば想像に難くない。

 生まれつき視力を持たない彼女でも、家の中であれば比較的器用に動き回ることが出来るがそれは裏を返せば家の外での行動はやはり難しいということになる。

 それでも彼女にとって幸運だったことは、彼女の父親が多大な愛を持っていたことだ。娘の不幸を不憫に思った父親は兵士をやめ、この村で【農家】として穏やかな日々を過ごしていた、らしい。

 

 

 わたしと彼女の関係は至極わかりやすい。

 

 

 わたしは、彼女の父親の仇である。

 

 

 どうして、兵士をやめた男が王国と皇国の戦争に参加したのか、わたしにはわからない。

 だが、彼女のために立ち上がったことは間違いないのだろうと、彼が息絶えるときに零れた、わたしにしか聞こえなかった一言から、そう察している。

 

 

「おじさま?」

 

 

 気付かないうちに随分と沈黙をしていたのだろう。慣れた様子でパンを手に取って食べていた彼女の美しい瞳がわたしを見つめていた。

 

「ああ、ごめんよ。一緒に食べようか」

 

 何事も無かったようにそう言いながらパンを手に取るわたしは、きっとひどい表情をしていただろう。

非道い奴かもしれないが、わたしは彼女の目が見えないことに心から感謝していた。

 

 

 わたしは臆病だから、きっと彼女の目が見えていたらこうして一緒に暮らすことなんてできなかっただろう。

 

 

 

 ときどき、いつまでこの生活を続けるのか自分に問いかけることがある。

 

 贖罪などという甘えた言葉を振りかざす気は無いのだが、端から見たらそうとしか見えないだろう。

 

 わたしがこうしたところで、無念の死を遂げた彼の魂が救われるはずもない。

 

 これは、ただの自己満足だ。

 

 

 

 

 ハッピーエンドを目指す資格を、この身は持ち得ないのだから。

 

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