【Infinite Dendrogram】名も無き<マスター>達の独白記 作:ナーバス
砂国所属 【高位従魔師】Ⅴ:アームズ・テリトリー
やらかした。ああ、やらかした。
こいつは随分と高い代償になった。だが、そんなやばい状況にも関わらず冷静に考えている俺がいる。
普段と同じように楽しんでいただけだった。だが、相手が悪かった。そうとしか言えねえ。
自慢じゃないが、俺は非常に道徳心溢れるプレイヤーだ。何事も良識のある範囲で楽しむことが俺の性分と言える。
だってそうだろう。人生は短い。デンドロがいくら現実の3倍の速度で進むと言っても、もう既に3年が過ぎてるんだ。一時の感情に任せて無謀なチャレンジをして時間を無駄にするなんてあっちゃならないことだ。
そう。3年だ。この3年で情勢はかなり変わった。
エンブリオが第7段階に進んだ奴だっているし、超級職を上手いこと勝ち取った奴だっている。まあ、どいつもこいつも人より少し運と才能に恵まれただけのクソ野郎どもだ。そいつらが悪いとかは微塵も思っちゃいねえ。羨ましくは思うが妬ましくは思わねえ。なんたって俺は道徳心溢れる良識のあるプレイヤーだからな。
この3年を象徴するのは、そういう上位組のことじゃねえ。
所属国を鞍替えしたマスターたち。
ハッキリ言ってこいつらが今のデンドロを回してると言っても過言じゃねえ。
俺は最初からカルディナを選択したマスターだ。だからわかっちまう。何がって?
よその国でカンストしたマスターが揃いも揃ってこの国に増えつつあるってことをだ。
全くなんだって言うんだ。
エンドコンテンツを求めるのにはちいと早すぎるんじゃねえか?
そんな面倒な世界になってるから、起きちまってるから、今の俺の状況が生まれちまったんだ。
いつも通りだ。そう、いつもやってることをしていただけだってのに。
MPKという言葉がある。
一言で言うと、モンスターを使って他のプレイヤーを倒すことだ。
一般的に知られてるのは大量に引き連れたモンスターのヘイトを相手に移し変えるモンスタートレインと呼ばれる方法だ。
俺の楽しみって言うのはそれだ。
自分で言うのもなんだが、欠片も戦闘力を持たない俺のエンブリオじゃあどうあがいたって他の戦闘職みたいには戦えねえ。
最初からアドバンテージを1つ失ってるみたいなもんだ。だから同じ土俵で戦うのはやらねえ。
その代わりの方法として思い付いたのが、このMPKだ。
【高位従魔師】のスキルでテイムしたモンスターを使ってそこら辺にウヨウヨいるワーム共を引き付け、他のプレイヤーにぶつける。
タイミングよく《送還》を使ってテイムモンスターを回収すれば、あとは楽しい大事故の出来上がりだ。
落ちたアイテムボックスの中身を回収するのは実に楽しい。
もし間違えてティアンを殺したとしても、別に俺がやった訳じゃねえ、今のところは、おとがめ無しだ。死人に口なし。それに証拠がないからな。
そう。おとがめ無しのはずだった。だったんだが……今はマジでヤバイ。
恐らく何かの超級職に付いてるようなやべえ奴がいる。
テイムモンスターは《送還》する前にやられちまった。逆に言えば相手には俺の存在が《看破》されちまってる可能性がある。いや、されている前提で動くべきだ。
引き連れたワーム共?瞬殺だよ。おれの低いAGIじゃ何が起きたのかすらわからなかった。
こいつはヤバイ、マジでヤバイ。
あんな化け物がいるなんて聞いてねえし、そんなことを念頭に置いたら何もできやしねえ。
こっちは持てる実力の範囲で楽しんでるだけなのに、なんでこうなっちまうかねえ。
仕方がない。ここは早いうちにログアウトをした方が良いだろう。俺の存在はバレてるだろうが、一度ログアウトしてセーブポイントでの再ログインをすれば最悪の展開だけは避けられる。
ログアウトには時間がかかるからな。さっそくログアウトを選択し、おい、なんでログアウト出来ねえ!?
接触?他のプレイヤーと?いやいや、そんな馬鹿な。<マスター>はおろか<モンスター>すら近くにいねえっていうのに何と接触してるっていうんだよ。
……まさか、テリトリー系列の範囲内か!
畜生。こいつは流石に詰んじまったかな。あーあ。楽しいゲームライフだったんだが、このままじゃあ次にログインした時は監獄かね。《真偽判定》にでもかけられたら一発で余罪バレだ。
ちっ。もうちょっと早くこのゲームに出会えてたら、せめてエンブリオが戦闘系だったら、俺も上位層の連中みたいに、真っ当にこのゲームを楽しめてたのかねえ。
まあ、こんな性根の野郎から生まれるエンブリオだ、どれだけやり直しても結果は知れてるよな。
よお。あんたもカルディナ新規参入組かい?全く、ゲーマーっていうのはエンドコンテンツを求めがちでいけねえ。そんなにすぐ所属国を鞍替えなんてして楽しいかい?効率を求めたらそこにあるのは灰色の作業ばかりだぜ?
まあ、そんなことどうでも良いんだろうな。俺が仕掛けて、あんたが防いだ。じゃあ後はお縄に付いて終わりってわけだ。
はいはい、さっさとその右手に持つ得物で俺の首でも跳ねてくれや。それでデスペナだ。
ちっ。こんなんで監獄行きとは、俺もついてねえな。