【Infinite Dendrogram】名も無き<マスター>達の独白記 作:ナーバス
砂国所属 【司教】Ⅴ:テリトリー
炸裂音が鼓膜を揺らす。ファンタジーな世界観らしからぬ火薬由来の爆発が砂を巻き上げ、討伐リストの数字が一つ増える。
これで80か。一体いつになれば進化してくれるのだろうかと、左手に宿る相棒を見つめる。こんな雑魚狩りばかりじゃあエンブリオの成長要素としては認めてもらえないのだろうか。何かイベントに参加しなくてはと考えていると、宿を出るときに小耳に挟んだ話題を思い出した。
また、戦争が起こるらしい。
話していたマスターたちは俺と同時期にこの国に移り変わった面子だった。そういう意味では、ある意味信用ができる。俺もそうだが、おかしなことに国を移り変わった今の方が王国に情勢に詳しいというマスターは少なくない。
見捨てたというのは人聞きが悪いが、事実そうなのだろう。同郷のマスターたちは自分たちのことを卑下して自ら裏切り者と称する。
それはつまるところ贖罪の意思なのだろう。敗戦の故郷を見捨てたという後ろめたさが。情緒を吐き捨てて利益を優先した極度の利己性が。彼らに罪人の仮面を被らせているのだ。
それでもだ。俺にも俺なりの道理はある。王国は皇国と違って俺たちマスターのことを少しも考えてくれなかった。別に報酬がないから参加しなかったわけじゃない。俺はそこまで対人戦に向いてるエンブリオじゃなかったからむしろ皇国みたいなやり方だと逆に損を食うぐらいだ。ただ、消費したアイテムの補填や、デスペナ時のランダムドロップの保証ぐらいは面倒見るべきなんじゃないのかっていう。そういうプレイヤーとして真っ当な意見があっただけだ。
そういう考えの奴が多かったから、それに、超級の連中だって参加しなかったわけだし、いくら【大賢者】がいても敗戦の気が強かったし、そんな状況でわざわざ時間割いてまで参加するなんて馬鹿みたいじゃないか。
だから俺は、あの戦争に参加しなくてよかったと思ってるよ。
……わかってるそれが無理やりすぎる自己肯定だってことくらい。だけど、そうでもしないと、自分の選択ぐらい責任もたないと。仮面の内側の涙なんて、見せるわけにはいかないじゃないか。
ただ、次の戦争はどうだろうな。今も王国にいるマスターたちが皇国についてどう考えてるか。それはまぎれもない侵略者だ。
俺みたいな愛着もなんもない奴らは全員見切りをつけて出ちまった。だから、そういう意味で言えば今も王国にいるマスターたちは、強い。
それは別に実績だとかプレイヤースキルだとかの問題じゃあない。ようするに心の在り方だ。
俺たちとは比べ物にならないそういう強さが、あの国には残っている。
それはもう、どうあがいても手に入れることのできないもので、どうしようもなく眩しく映る。
もしも、あの時、くだらない理由を踏みつぶして戦争に参加していたら。賢しいふりをせずにあの国に残っていたら、俺もあの輝きの中に居られただろうか。
外し方を忘れた仮面から見るかつての故郷は嫌になるくらい眩しくて、その輝きに胸の内が燻ぶられた。