【Infinite Dendrogram】名も無き<マスター>達の独白記 作:ナーバス
皇国所属 【疾風槍士】Ⅵ:ワールド
恥の多い人生を送ってきました。
別段と言ってそれについて何か弁解の余地があるわけではありません。私はそれはもう愚かで矮小でけして人として誇れたようなことを何一つ為さずに今まで生きてきたのです。
恥の多い人生を送ってきました。
いまさらそれに気づいたところで何になるというのでしょうか。けれどもおかしなことに今の今まで私は自分が恥の多い人生を送ってきたことに何の違和感も持ってこなかったのです。そういう意味では私はようやく人と成れたのでしょうか。わかりかねます。
先の戦争から幾月日か経ちました。
破格の報酬に乗せられて、私は他の皇国所属のマスターたちと同じように数えきれないほどの王国の兵士たちを打ち倒しました。私のエンブリオはとても優秀でそれこそ赤子の手を捻るが如く容易に彼らの命を絶つことが出来たのです。
先の戦争から幾月日か経ちました。
いまだに私は自分のしでかしたことの重大性に気付けておりません。思案に暮れようとすると、どこからともなく誰の声とも知らぬ優しい声が「この世界はゲームなのだ」とつぶやくのです。私は何一つそれに違和感を持たずに今もこのゲームを続けています。
転機は秋の空模様よりも明解でした。
物資運搬のクエストで、戦争後に皇国が占拠している旧ルニングス領へ訪れたのです。
その地に一人の【死霊術師】がおりました。マスターではなくティアンというのが珍しいのですが、どうやら皇国側も多大な被害の出たこの領地を何の対策も立てずに占領をしているわけではないようでした。
寝静まっている間にアンデッドモンスターに襲撃されるなんて、想像するだけで嫌なものですから、この対策は皇国にしては珍しくとても気が利いていました。
その【死霊術師】は水晶のようなものを手に持っていました。曰くその水晶を使うことで死を浄化することが出来るというのです。魂や怨念という概念について事細やかに説明されましたが、私の理解の範疇を悠々と越えてしまい、私はただ、なるほどそうなのですねと人形のように相槌を打っておりました。
けれども、その【死霊術師】の話は遅効性の毒のように私の心を蝕み始めたのです。
旧ルニングス領から皇都に戻る道中、私はこの世界から離れたくなりました。
現実の世界に戻り、ヘッドギアを外すとどういうことか涙が流れていました。それから自分の心の整理がつくまで、私はデンドロにログインすることが出来ませんでした。きっと私は取り返しのつかないことをしてしまったのです。
たかがゲームに何をと言うかもしれませんが、マスターと違ってティアンは復活しません。つまり私はあの世界の可能性を一つ無くしてしまったのです。無限の可能性を提供するというのを売り文句にしているゲームの中で可能性を一つ潰してしまった。その矛盾を表現する術を持ち得ていない私はただ涙を流すことしか出来ませんでした。
しばらくの時間を空けて、私はデンドロの世界に戻ってきました。現実の世界にいたところで私は自分がしたことにしっかりと向き合うことが出来ないからです。
常人であれば既に出ているはずの答えを模索する旅に出るなんて、私はどれほど愚かなのでしょうか。けれでも、それでも私はそんな恥知らずな真似をしてでもこの恥の多い人生に向き合おうと思います。