【Infinite Dendrogram】名も無き<マスター>達の独白記 作:ナーバス
無所属 【黒土術師】Ⅴ:ガードナー・チャリオッツ
正体のわからない焦燥に駆られ、逃げるように天を仰ぎますと、雲一つない鮮明な黄昏色に沈む空がありました。気の早い幾つかの星々があちこちに煌めいています。
もしも望んだ記憶を永遠に忘れることができるのなら、その行為はどれだけ罪深いことでしょうか。
夜空のカーテンが昼の世界を包み隠してしまうように、そっと記憶に包み隠せないものかと、子供染みた考えが浮かび上がります。
忘れたい記憶があります。誰にだってあるでしょうけど、私にとってのソレは形容し難くそして耐え難いものであり、楔のように私の心をあのときの感情から逃がしてくれません。
喉の奥にへばり付いた後悔は吸えど吐けどなびくことなし。息苦しさだけが訴えかけます。もう無理です。このままでは心が死んでしまいます。
あの惨劇を忘れたい。もう一度何も思うことなく純粋に世界を楽しみたいと、恥知らずな顔で膨れ上がる欲求の隣には、惨劇を思い出すたびに肥大化する腫瘍みたいな後悔があります。このままでは近いうちに窒息してしまうでしょう。
自らに許しを請うことのなんと愚かなことでしょうか。償う仕方すらわからない咎人の嘆きを聞き入れてくれる人はどこにもいません。
もう一度初めからなんて。やり直すことなど出来る道理すら存在しません。今も昔も、無力な私に出来ることなど、何一つ残されていないのです。
間違っていたのはきっと初めからです。ほんの息抜きのつもりで、遊びのつもりでこの世界に足を踏み入れたときから。そういう心積もりでいたこと自体が間違っていたのでしょう。
もう、今の私には何かを為すことなんて出来やしない。何かに関わることがもう恐ろしくて堪らない。かといって、全てから目をそらして逃げてしまうことも難しい。私は弱くて、底なしに愚かです。
陽が完全に沈み、ゆっくりと身体の熱が奪われていくのを感じます。
もうどうとでもよくなってきました。吹っ切れたというわけではありませんが、冷えて静かになった頭が出した結論は、まさしく欠片も熱を持たない答えでした。
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告白いたします。
私は大きな失敗をしました。弱小クランでしたけど、メンバー全員で挑んだ護衛クエストに失敗したというのは、それはそれはひどい傷となりました。すべて私の不徳の致すところでした。一人二人と去っていくメンバーを見届けた後、オーナーである私が国を出たので、あのクランはもう影も形も残っていないでしょう。
告白いたします。
あのときの私たちには何もかもが足りていませんでした。力も、覚悟も、心意気も。そして、今のこの身にもそれは宿っておりません。
あのときから一つも変わらない。進みもせず、戻りもせず。それでも居続けるのはただの私の自己満足です。
告白いたします。
痛む胸を押さえ、わずかな酸素を後生大事に生き続けるのはもはや限界になりました。
そして気づいたのです。私に出来ることは一つも残されていないとしても、選ぶ権利までは奪われていないのだと。
私は他の何者でもなく私のために、私が生き続けられるためだけに、それを選択しました。
告白いたします。
街から東に4000メテルいったところに古い砦がありました。
告白いたします。
名前も知らない人でしたが、古今東西あのような場所にいるのはよろしくないことをする人たちに決まっています。
告白いたします。
相手がティアンといえども、流石に一人で大勢を相手にするのは無理があり、半分ほど仕留めたところで私は死んでしまいました。
告白いたします。
すべては未来の私を救うためのことです。過去の私を殺した今の私が死ぬことで、未来の私を生かすのです。
告白いたしました。
もしも都合がつきましたのなら、砦の中の様子を確認してください。もう少しして心の整理が終われば私も行きますが、しばらく時間がかかりそうです。それでは、失礼いたします。