【Infinite Dendrogram】名も無き<マスター>達の独白記 作:ナーバス
王国所属 【聖騎士】Ⅴ:カリキュレーター
一仕事終えた後というのは、その仕事の大小にかかわらず爽やかなものだ。
ピンはねした報酬を受け渡した後、俺は人気の少ない路地裏から大手を振って大通りへと戻る。意識することは自然体だ。事実、何一つやましいことはしていないのだから変に怪しまれる行動をする必要はない。
デンドロの謳い文句に「オンリーワンを届ける」というものがある。けれど、なんだかんだって人間っていうのは「ナンバーワン」を欲しがるものだ。
裏付けがあるわけじゃあないんだが、俺はその「ナンバーワン」を持っている。
力?ノンノン。速さ?ノンノン。金?ノンノン。そんなちゃちなもんじゃあねえさ。
リアルでもこっちでも一番強い武器は何か、それは、情報と人脈さ。『フレンドリストの登録数』とくに、わけあってギルドでクエストを受けることが出来ないような奴らとの伝手の数に関して言えば、俺はデンドロで1番の自信がある。
<マスター>には大なり小なりエンブリオっていう唯一無二の力がある。だから、多くの<マスター>の情報を持っているっていうことはそれだけ問題に対する対応策を持っているに等しい。俺からすれば、一人一人が顧客であるとともに商売道具であるってわけだ。
今終えた仕事だって、いつも通りこのフレンドリストを非常に理想的に使いこなした結果だ。
【暗殺者】【騎士】【冒険家】etc……etc……。このゲームではギルドから発注されるクエストは、そのギルドに所属してなかったら受注することが難しい。
逆に言えば、ギルドにさえ所属していれば、ほとんどのクエストは受注出来るってことだ。ただ、一つ問題がある。それは本人の能力がそのクエストに向いているかどうかってことだ。
例えば「探し人」系のクエストは比較的に【騎士】ギルドで発注されることが多い。だが、実のところそういったクエストは【騎士】よりも【暗殺者】の方が上手く達成できるケースが多い。
かといって【暗殺者】が貴重なジョブ枠を割いてまで【騎士】を持っていることは少なく、結果として仕事に向いてない連中がひーこら言いながらクエストを達成することが多い。
俺はそういう無駄の多いことが嫌いなんだ。じゃあどうすれば良いかって?【騎士】がクエストを受けて、それを【暗殺者】に協力させればいい。
俺のしていることはそれの延長戦だ。
俺のジョブ構成は、廃人様方が見たら無駄にしか見えないような、そんな構成だが、個人で受けられるクエストの数で見た場合は限りなく限界に近い理想値を持っている。
その理想値の受注可能クエスト数をふんだんに使い、俺はフレンドリストの中からログインしているメンバーに合わせたクエストを片っ端から受け持つと、それを携えてそいつらのいるところに赴く。
あとは契約書を使ってそいつらが途中で投げ出さないようにした後でクエストを割り振れば、勝手にクエストが達成されるっていうわけだ。
もちろん、報酬の何割かは仲介料として俺が頂くことになってるが、これは正当な額に抑えて置く。
正直に言って、俺ほど善意に満ち溢れたマスターはいないと思うね。依頼主はクエストが達成される。ギルドは信用を得られる。そして働いた<マスター>は報酬と承認欲求の両方が満たされる。みんなを幸せにして食う飯は美味いか?美味いに決まってる。
まあ、たまーに契約書代が馬鹿にならないんじゃないのか?なんて鋭いことを言ってくる<マスター>もいるが、あくまでこれは俺の自己満足だから仕方がない。
嘘だ、契約書なんて高価なもん毎回毎回馬鹿みたいに使ってられるか。初回を除いて、あとは【詐欺師】のスキルとリアルで営業やってる能力を駆使して、ただの紙切れを契約書のように見せてるだけだよ。
実際、一般的な<マスター>は契約書なんて見たことも使ったことも少ないから気づくやつはいねえ。ていうか、気付いたところで約束を反故にするような奴は俺の手を借りたりしねえからな。
まあ、そんなわけで今日も俺の懐は温かい。こんなにうれしいことはねえな。
とくに自分で言うのもなんだけど、リアルと違ってマジで誰も損をしてないのが良い。
俺だって営業入りたての時は必要とされているところに売るのが仕事だと思ってたっていうのに、今じゃいかに相手を騙して売るかに躍起になっちまってる。
だから、ゲームとは言え、自分の能力を生かしたことが出来るのに気づいたときは本当に嬉しかった。
さーて、まだまだ無駄にしてる人材とエンブリオがあるはずだ!新規開拓は商売の基本ってね。今日は志向を変えてルーキー辺りにでも声をかけてみるとするか。