メイド学校に通う佐天さん   作:ラーフィ

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第一章 幻想御手編
第一話 そんな出会いがあったんですよ


どうしてこの学校に来たのか。それは母親から提案された条件があったからだ。

 

『学園都市に行かせてあげる代わりに、どの中学校に通わせるかは私が決めるからね』

 

当時能力というものに憧れていた自分からすればその条件は自分にとってメリットしかなかった。だから彼女は迷わず頷き、学園都市へ行くことが決定した。

 

あの日から毎日のように夢見た能力。

 

どんな能力が宿るのか考えていたら興奮して眠れなかった前夜。

 

 

 

そして、才能がないと烙印を押された入学当初。

 

 

 

彼女は何度も失望したし、何度も夢じゃないかと思ったこともあった。だが現実はそう思うように動いてくれることもなく、彼女は学園都市の能力者の中の底辺、レベル0として生きていくことになった。

 

そんな彼女が通っている学校は繚乱家政女学校。第七学区にある中学校だ。

道路のガム剥がしから各国の首脳会議まで、 それこそあらゆる局面で主人を補佐することの出来るスペシャリスト育成を目指しているメイド養育施設。

土曜も日曜も無く夏休みも存在しないという学生にとっては過酷とも言える授業内容だった。

 

彼女はこの時初めて後悔した。あの時出された母親の条件を飲んだことを。

 

将来の夢など全くなかった彼女にとって、それは両親からの少なからずの配慮だったのだろう。何でもできるということはもし今進んでいる道を変えたくなってもそれに対応できるということ。両親は彼女がいつか夢が出来た時のためにどんな仕事でもこなせるように仕立て上げようとしていたのだ。

 

しかし彼女にとってそれは苦痛でしかなかった。毎日のように出される課題、ハヤブサのごとく進む授業。恐らく他の学校の何倍もの勉強量が平凡で才能のない彼女に重くのしかかってきたのだ。

 

何度引きこもろうと思ったか。

 

何度ここから逃げ出そうと思ったか。

 

だがそうした時、両親はなんというのだろうか。能力は開花せず、ハードすぎる学校から逃げ出してきた彼女に、一体どんな言葉をかけるだろうか。

それは学校の課題よりも授業の速さよりも恐れるものだった。

 

聞きたくない。

言ってほしくない。

そんな目で見ないでほしい。

 

逃げ道などどこにもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな彼女を救ったのは、とあるエリート少女だった。

 

「へー、貴女の学校ってもう中世ヨーロッパの話してるんだ」

 

それは気分転換で屋外に解放されているレストランでジュースを飲みながら世界史の教科書を読んでいるときだった。

その少女は自分の向かい側の椅子に座り、肘をつきながら流れるように言葉を紡いでいった。

 

それは丁度彼女が習っている内容そのものだった。しかもその説明は先生の授業よりもはるかに分かりやすかった。50分の授業内容を僅か10分で語り、尚且つ彼女の脳にに深く染み込んでいく。

 

驚き、尊敬し、嫉妬した。

 

同年代ぐらいのはずなのにどうしてこんなにも自分と違うのか。

 

それを聞くと、エリート少女は優しく微笑んで。

 

「私は単純に効率のいい覚え方をしてるだけ。これはどう覚えればいいかとか、どの時間帯に勉強すればいいかとかね」

 

それが出来れば苦労しないんだよ、と彼女は思わず叫びそうになったがそんな事言ったら親切にしてくれているエリート少女に失礼だ。

すると突然「あっ」と思いついたような仕草をしたと思えば、彼女は突然こんなことを言ってきた。

 

「そうだ!私が色々教えてあげよっか?毎週ここで!」

 

それは力を持つ強者が弱者を見下ろすような態度ではなく、友達を助けたいと言わんばかりの純粋無垢な眼差しだった。

 

 

正直な感想を述べるなら心底驚いた。なんせ彼女はあのお嬢様学校とも言われている常盤台中学の制服を身にまとっていたのだ。まだ五月だから冬服を着ていたためすぐに分かった。

 

お嬢様学校に通う生徒など威圧的な上から目線の態度を取るものだと思っていたし、今この瞬間もそう思っている。

 

同時に、どうしてエリート少女が自分にこんなに親切にしてくれるのか分からなかった。もしかしたら今後いつか今まで教えた分の貸しを返してもらうわよ、とか言われて悪事に手を染めることになるんじゃないかと懸念した時もあった。彼女が本当にお嬢様ならそうしてもおかしくない。

 

でも彼女にとってそれは一面砂漠の世界に現れたオアシスのようなものだった。たとえ上から目線の態度で来られようとも、この世界で生きていくには我慢するしかない。そう結論づけて、元気よく頷いて、彼女は頭を下げた。

 

「私は御坂美琴。あなたは?」

 

エリート少女が名を名乗ってきたので、彼女はゆっくりと顔を上げて、慣れ親しんだその名を口にする。

 

 

 

 

 

 

「……佐天、涙子です」

 

 

 

 

 

 

 

――――

―――

――

 

 

 

そんな出会いからもう一ヶ月の月日が経っていた。

 

「いやー御坂さんってやっぱり頭いいですよねー」

「そんなことないわよ。佐天さんだって頑張ってるじゃない」

「まーそうなんですけどね。でも中々うまくいかなくて……」

「そうなの?」

「はい。おかげさまで私だけ実施研修の補講が入りまして……」

 

今日も初めて出会ったこのレストランの屋外で、友人の御坂と勉強しながらの会話を楽しんでいた。

 

あの後御坂とは歯車が綺麗にハマったように驚くような速さで仲を深めていった。まだ一ヶ月しか経っていないものの、二人は親友とも呼べる仲にまで発展していて、頻繁に連絡も取り合っていた。

 

しかしいくら御坂が頭が良く教え方もうまいとはいえ一ヶ月程度では周りの皆に追いつくのは難しい。結局佐天は学年最下位を独走するはめになってしまった。

 

「でもこれからよ。佐天さんも頑張れば大丈夫だって!」

「だと良いんですけどね……っていうか御坂さん今日機嫌良いですね」

「そ、そう?」

「うーん?これは……まさかラヴの予感が!?」

「ないないない!!アイツは全く関係ないから!!」

「……アイツ?」

「あっ、えっと」

「フフフ、これは色々と聞かないといけないですね!!」

「ちょ!?」

 

両手の五本指を波打つようにメラメラと動かしながらじっくりと御坂へ近づいていく。

 

「……と言いたいところなんですが」

「へ?」

「明日の準備があるので早めに帰らないといけないんですよ」

「ああ、研修の?」

「はい」

 

ちょっと寂しそうな表情で別れを惜しむ佐天に御坂は出会った時のように優しく微笑んで、

 

「でも会えなくなるわけじゃないでしょ?」

「まあそうなんですけどね」

「なら大丈夫よ。佐天さんなら出来るから!」

「……ありがとうございます」

「今度は黒子や初春さんを連れてどっか遊びに行こ!」

「はい!楽しみにしてますね!」

 

いつもは二、三時間一緒にいるのだが一時間ほどで切り上げて佐天は自分の住む寮へと戻っていった。

 

 

 

――――

―――

――

 

 

寮に着いた佐天は、早速明日向かう住所や時間を確認した。

どうやら佐天が向かうのはとある人の寮の一部屋らしいのだが、この決定に対して還暦寸前の女の担任の先生は首を傾げていた。

 

『本来実施研修は極一部の優秀な生徒のみに与えられる科目なのよ。『上』の命令だから仕方ないけど……何を考えているのかしら』

 

これは今までの繚乱家政女学校の歴史にもなかった事だ。それも佐天は優秀とはかけ離れた成績を出している。先生たちも全く理解できていないようだ。

 

担任の先生は校長先生に話を聞きに行ったらしいのだがどうやらこれは『上』からの決定事項らしく、撤回は出来ないらしい。

 

その理由は校長先生でも知らないらしいが、上からの命令となれば逆らうことは出来ない。

 

佐天はどうしようもない不安に駆られながら夜を明かした。

 

 

 

 

――――

―――

――

 

 

 

次の日、佐天は言われた通り、朝六時にその人が住む寮の前に着いた。

 

普通こういった実施研修の始まりの時はその場所に行ったときに先導してくれる先生やその道のプロがいるはずなのだが、今回はレアなケースで一個人に対してのお手伝いなので、出迎えてくれる人などはいなかった。

 

佐天は改めて住所を確認する。何度も読み直し、待ち合わせの時刻もしっかりと確認した上で、その人物の名前とそこに貼られている顔写真を交互に見た。

 

年齢は自分より年上だと思うが能力者なのでそんなに年の差はないと推測。顔を見る限りでは男、その割には髪が肩にかかるぐらいに長い。何より印象に残るのがアルビノのような白髪赤眼、この目つきの悪さ。一体何をそんな苛ついたらこんな顔になるのかっていうぐらい酷い面をしている。

 

そして重要な名前。それはこれが本名なのか、本当に日本人なのかというぐらい異質な名前だった。

 

その人物の部屋のドアの前まで来て、その名を口にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アクセラレータさん、か……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この出会いが、彼女の人生を大きく変えることになる。

 

 

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