メイド学校に通う佐天さん   作:ラーフィ

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全話のタイトル変えてみました


第十三話 私一人じゃ何も出来ない

「はぁ……」

 

寮に戻って初めに出た言葉がこれだった。

結局今日も彼はいなかった。まるで顔を合わせないように避けられており、何か嫌われるような行動をしたのかと振り返る日々。

考えても考えても分からず、あがいてもあがいても何も出来ない。もどかしい日々が続いている。

 

そんな姿を見ている同室の舞夏と、暇な時は大体この部屋にいる鞠亜は、佐天のことをひどく心配していた。

しかし彼女になんて言葉をかければよいかも分からないのも現状としてある。お世話をしている主人が突如姿を消し、ずっと会っていないことを二人は知っているからだ。

 

「ポルターガイストの事件もあるし、テストもあるし……ホント最悪」

「ポルターガイスト?」

 

佐天の言葉に反応したのは鞠亜だった。

 

「最近いろんなところで地震が発生してるでしょ?それがポルターガイストっていう能力の暴走みたいなものらしいんだけど」

「ほぅ」

「その犯人が私の友達じゃないかってなってて」

「げっ、マジなのか?」

「もちろん私は違うと思うんだけど、それを否定する材料が今のところ見つからなくて」

 

どうして毎度毎度そんな厄介な事件に巻き込まれるんだ君は、と思わずツッコミたくなった舞夏と鞠亜だったが、それはグッと堪えて佐天の話を聞く。

 

「具体的な情報を教えてくれないかね」

「……うん?」

「オイ何でそんなこと教えなくちゃいけないのみたいな顔でこっちを見んじゃねーよ」

 

思わずツッコミをしてしまった。

いやいや、これは鞠亜が悪いのではない。こちらの発言に対して素っ頓狂な顔を浮かべている佐天が悪いのだ。

 

まーた、自分で抱え込もうとしている。

佐天の悪い癖だ。自分が出来ない役に立っていない責任を、誰にも相談せず、誰にも打ち明けることなく一人で抱え込んで、一人で沈んでいく。

誰かに相談するという事をせず、誰かに手伝ってもらおうという概念が最初から欠如している。

 

人は初めから万能ではない。

それは佐天だけでなく、舞夏も鞠亜も。学園都市レベル5の第3位、御坂美琴だって例外ではない。

 

誰だって出来ないことの1つや2つはある。その時大切なのは出来ない自分を責めて一人で抱え込むことではなく、誰かに相談して一緒に乗りこえることが重要なのだ。

 

佐天はそれが出来ない。それは遺伝子がそうさせているのか、生まれた環境がそうさせたのかは分からないが。

でもそれで佐天は一度倒れて、病院に運ばれ、このまま眼を覚まさないかもしれない事態にまで発展した。

 

あの事件を経てもなお抱え込んでしまう原因が分からない。舞夏と鞠亜には理解できない。

 

それでも。

いいや、だからこそ。

 

「とにかく話してみてよ。私達も協力するからさ」

「そうだぞー。三人寄れば文殊の知恵と言うしなー」

 

無理にでもこちらのフィールドに引きずり込む。また佐天が間違いを犯さないように。

 

「……」

 

佐天は二人の発言に、言葉を詰まらせた。少し悩んでいるようだ。

二人はただ切に願うしか無い。二人にとって佐天は大切な友達。苦しんでいる姿なんて見たくないし、悩み苦しんでいるなら助けてあげたい。

 

もう部外者になるのはゴメンだ。

彼女が巻き込まれた事件を外から眺めるだけで終わるのはもう嫌だ。

 

幻想御手の事件の時、舞夏と鞠亜は何も出来なかった。

気づいたら佐天は幻想御手を使用しており、その副作用で倒れていて、そして回復を願っている間に彼女は眼を覚ました。

 

何も出来なかった。何もしてあげられなかった。

大切な友人が苦しんでいる時に、呑気に生活を送ることしかしていなかった。

 

そんな後悔が今でも二人の中に付きまとっている。

 

だからこそ手を差し伸べる。

彼女が手を取ってくれるのを待っている。

 

そして。

 

その二人の意志を感じ取ったのか、佐天は()()()手を伸ばした。

 

「じゃあ、お願いしてもいいかな?」

 

僅かに微笑んで、二人が差し出してくれた救いの手を、迷いながらも手を取ってくれた。

 

「ようしそれじゃあ聞こうじゃないか!まずはその友達とやらのことについてな!」

 

鞠亜は喜ぶように言葉を発した。また舞夏も口には出していないが笑みを零して佐天を見つめていた。

 

ようやく。

本当の意味で、佐天の友達になれる。

 

なんとなく一緒にいるメンバーという扱いではなく。

雰囲気で集まった偽りの友情ではなく。

 

当たり前のように笑い合い、当たり前のように助け合える、そんな友達に。

 

 

――――

―――

――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()

 

これは私の問題。

 

私が解決しなければいけない問題。

 

 

 

 

私はメイド。

 

優秀なメイドにならなくてはならない。

 

 

あの人が逃げたのだって、あの人が発していた赤信号を感じ取れなかった私のせい。

 

勉強が出来ないのだって、私がもっとしっかり出来ていれば皆に手伝ってもらう必要なんてなかった。

 

今回の事件も、解決に必要なヒントはたくさんあったはずだ。それを察することが出来なかったから、関係ない人に迷惑をかけてしまっている。

 

 

 

ああ。

 

私って、何をするにしても、誰かに手伝ってもらわないと何も解決できない。

 

自分の仕事も。

勉強も。

友人のトラブルも。

 

()()()()()()()()()()

 

御坂美琴のように電撃を使った爆発的な力があるわけでもなく。

白井黒子のように瞬間移動で誰かを助ける力があるわけでもなく。

初春飾利のように情報処理に長けたサポートが出来るわけでもなく。

雲川鞠亜のように能力を組み合わせた武術が使えるわけでもなく。

土御門舞夏のように料理で万人の舌を満足させるわけでもなく。

 

ただただ平凡。

 

メイドを除けば至って普通の女子中学生。

 

能力はレベル0。

 

色んなスキルを持っているが飛び出ているモノはない。

 

 

 

ああ。

 

()()()()()()()()()()()()

 

 

――――

―――

――

 

 

 

「ふぅん。『特定波長下においては例外的にレベル以上の能力を発揮する場合がある』ねぇ」

 

先程全ての説明を終えて、現在春上衿衣という少女について調べている。

学園都市の総合データベースである『書庫』にはもちろん春上のことについても記載がされていた。

能力は精神感応のレベル2。普通のレベル2ならば大規模地震のようなポルターガイストを起こすことは不可能。だが能力の参考欄に書かれている最後の一文が春上を犯人でないと断言させてくれない。

 

「この特定波長下ってなんだろうなー?」

「んー分かんない。情報が少なすぎるなぁ」

「うーん……美琴さんなら何か知ってるかも」

「お、じゃあ電話して聞いてみてよ」

 

うん、と答えて佐天は電話帳を開く。御坂美琴と書かれている文字をタップすると、電話番号が表示された。

佐天はその電話番号を迷わずタップする。

 

『もしもし涙子?』

「夜分にすみません。今ちょっといいですか?」

『いいわよ。こっちも調べ物をしている最中だったし』

 

その調べ物とやらが春上衿衣という少女のことであると思うまで、そう時間は掛からなかった。

佐天は『書庫』に記載されている春上の情報を見ながら、御坂に自分たちの疑問を投げる。

 

「今春上さんのことについて調べているんですけど、参考欄に書かれている事がよく分からなくて……」

『うん。私もそこについて黒子と議論していたところよ。今回のポルターガイストとここにある特定波長には何らかの関係があるんじゃないかって』

「でも情報が少なすぎてこっちも手詰まりなんですよね。結局春上さんが犯人かもしれないという事ぐらいしか」

『……確かに、結局どんなに考えても推測の域を出ないけど、私達の今の考えを言っていい?』

 

少しトーンを落とした御坂の声に思わず息が詰まる。

まだ内容は分からないが、御坂と白井が考えていることはかなり深刻な事態かもしれない。

その心構えを持って、携帯電話をスピーカーにして二人にも聞こえるようにして、佐天は御坂の言葉に耳を傾けた。

 

『結論から言うと、ポルターガイストは無意識に春上さんが起こしたものだと思ってる』

 

残酷な宣告が御坂の口から告げられた。

いくら推測であるとは言え、皆の友達、特に初春ととても仲のいい春上を犯人だと言い切ったのだから。

 

『その理由なんだけど、そもそも精神感応(テレパス)ってどういう原理でやってるか知ってる?』

「いや、わかんないです」

 

もちろん佐天は精神感応自体がどのような能力なのかは知っている。

精神感応は自分の思考を相手に読ませる能力。自分の考えていることを言葉として発し、相手の鼓膜を通じて伝えるのではなく、脳に直接語りかけるようなもの。

しかし、それがどのような原理かまでは考えたことがない。

 

『精神感応は相手に直接言葉を伝える。その際大事なのは自身の思考を圧縮して相手に送り、それを相手が無意識的に、もしくは送る側が脳に触れた途端自動的にファイルを解凍するようにする。受信側はその思考を理解する』

「えっと……?」

『返信出来ないメールを送っていると言えばわかりやすいかしら?』

「あっとっても分かりやすいです」

『それを私達人間には感じられない波長で相手に送っている。これが精神感応の原理よ。ここまでは理解できた?』

「はい。理解できました」

 

これが御坂美琴のすごいところの一つであり、佐天も尊敬している部分だ。

人は説明する時に分かりやすく説明しようとしても上手くいかないもの。それを誰にでもわかるたとえで複雑な原理を一瞬で理解させるのは、やはりレベル5というのは伊達ではない。

 

『それを踏まえて春上さんの能力の特定波長下っていう言葉は、恐らく思考の送受信の際の波長に関することだと思うの』

 

メールを送る際に電波が必要なのと同じように、精神感応で人に思考を送るときも波長が必要となる。

 

『その波長がある一定の数値になった時に春上さんはレベル以上の能力を発揮することが出来る。つまり特定の誰かと交信した時に、起こるんだと思う』

「特定の、誰か……」

『恐らくその特定の誰かを明らかにすることがポルターガイスト事件の解決に一歩近づけると思うわ』

「そうですね。でも学園都市230万人もいますし、その中から一人を特定するのって難しくないですか……?」

『そうね……私達の力だけでは難しいかもしれないわね。テレスティーナさんにも協力を仰いでみるわ』

「テレスティーナさん?」

『今日のポルターガイストの際に初春さんと春上さんを助けてくれた人よ』

「そうなんですね」

『うん。そっちで何かわかったら連絡してね。こっちも何かわかったら連絡するから』

「了解です」

『それじゃあ、おやすみ』

「おやすみなさい」

 

そう言って佐天は電話を切った。

御坂の言葉を黙って聞いていた二人の方を向いて、佐天は話し始める。

 

「今の話、どう思う?」

 

御坂と白井は春上が犯人である可能性が高いと考えていた。

佐天は春上が犯人だとは思いたくないし、その可能性を否定するような材料を求めてはいるが、御坂の話を聞いて、正直心が揺らいでいる。

だからまず、二人の話を聞きたかった。

舞夏は。

 

「単純に考えれば、その春上って子が犯人だろうなー。しかも話を聞く限りその子は自分の意思とは関係なく起こしてるんだろー?厄介だよなー」

 

舞夏はいつもの口調でそう言った。まるでテレビを見ながらドラマのヘタレ主人公にボヤキを入れるような感じだった。

彼女がそう考えるのも無理はない。御坂の話は筋が通っているし、春上が犯人でない証拠がない以上、そう考えてしまうのが妥当だと言える。

対して鞠亜は、先程から考える仕草をして、ずっと黙り込んでいた。

 

「鞠亜は?」

「……んぁ?あ、さっきの御坂さん?の話ね。私はその人の意見に肯定よ。だって、そもそもポルターガイストが起こった震源に何回も居合わせてる当事者でしょ。それもポルターガイストが起こる時に限って様子がおかしくなるって話だったし、やっぱその友達が犯人なんじゃない?」

「でもさっきからずっと考え込んでるし、何か引っかかってるんじゃない?」

 

苦し紛れだとは思う。しかし、こうでもしないと初春も春上も悲しい結末を迎えることになってしまう。佐天はそれを避けたい。

でも、返ってきた言葉は、佐天の予想に反するものだった。

 

「いや、私が気になってるのはテレスティーナという人の方」

「え、そっち?」

「どっかで聞いたことあるのよね、この人……」

 

こんな特徴的な名前をそうそう忘れるとは思わないが、それは春上を無実を証明する手がかりでも何でもなかった。

 

この残酷な事実を初春に伝えるべきだろうか。

いいや、佐天が言わなくても白井が初春にこれを伝えるだろう。それを止めるのは佐天には出来ない。

 

彼女はこれを聞いて、真摯に受け止めることが出来るだろうか。

二人の……いや、四人の間に亀裂が走ったりしないだろうか。

 

そんな不安を抱えながら、佐天はベッドに身体をダイブさせた。

 

疲労とストレスもあってか、寝落ちするまでそう時間は掛からなかった。

 

 

 

 

 

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